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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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35


 渋々であるが降りてきた将校を見る。遠目ではわからなかったが古さやサイズのちぐはぐさを感じる。これはまるで古着屋で揃えた誂えという形だ。最近になってから帝国は軍服統一などに力を入れて大量生産、大量保存をしている。支給品としての軍服を確立させたのはやはりではあるが、麦の会である。

 麦の会は地方行政に入り込んで隣組の創設や回覧板、防空壕の建設、愛国郷土防衛部隊“オルドヌング・ゲミュートリッヒ”なるものまで作り、帝国は世界から狙われているのだから、帝国人は手を取り合い団結し、結束し国難を乗り越えようという話まで耳に入ってきている。彼らは挙国一致こそが社会を救うというが国内意見を統一したところで外にはなんの影響をもたらさないのだから、悲しいだけだと思うけど。

 「小官は!」
 みなまで言わさずに俺は眼の前の青年に思い切り障壁をまとわせたパンチで沈めると建物の陰に飛び込む。デモ隊たちも路地に逃げると中尉たちは近くの建物の中に飛び込んだ。戦いの始まりだ。捕まえている兵士の持ち物を確認するとわかったのはコイツらは純帝国軍人だ。

 そして、彼らは“平和に備えよ!汝平和を欲さば、戦への備えをせよ”と書かれた紙だった。跳ね返りの青年将校であるのは間違いはない。しかし、コレほどの装備を数揃えるのは並大抵のことでない。後ろになにがいるかは問題ではない。問題は帝都で問題が起こったという事実。これを名分にバークマンが帝都掌握をやりかねない時期だ。合法的クーデター、バークマンが首相と団結し、皇帝に話を通せば非常事態宣言からの超法規的措置の乱打でバークマンがかの議会と帝都を手中に収めるのもゆめゆめありえない話ではない。バークマンには実働隊が帝都にいるだけでも6000人以上はいる。それに、皇帝に政治を返還し国賊の議会を誅伐すると言い始めれば連戦連勝で蘇ったベリサリウス呼ばわりされて人気があるバークマンに国民が信任を与えるのは当然の行動かもしれないがバークマンが政権を握るとまず戦時国債や軍票による景気刺激策で少しは良くなるかもしれないがあとが大変だろうな。

 俺は関係ないが、ある程度初戦を緩やかにすれば俺は退官できるというわけだ。俺は所詮部外者、あとはターニャ・デグレチャフに任せるのが筋というものだろう。俺は俺、ターニャはターニャ俺は俺、あとは帝国、流れに任せよだ。
 
 奴らは少数なのだろう。じゃなければこの様な奇襲よりも首班を建ててもう少し堂々と重要地点に強襲をかけるはずだ。孫子曰く『先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ』である。まぁ、それが出来ても呉起も韓信も殺されたけど。『驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。』ともある。同時にこの叛徒らはクーデター軍ですらない跳ねっ返りにすぎないと勘が告げている。本当の意味で帝国という国家の枠組みでクーデター軍になり得るのはバーグマンとゼートゥーアの二択だろう。

 それにしても、この跳ねっ返り達は何をしに来たのだろうか?俺の暗殺か?俺を暗殺してどうするんだ?あの彼岸島並の良識や常識がモブ吸血鬼並のヒトガタしかいない頭紅茶漬けの金融街の統治権を取り戻せやしない蛮族紳士物価高で発狂植民地貴族に突き上げ食らい海に紅茶やアヘンを投げれるのに至上の喜びを感じる皮肉が性癖でアーサー王が蘇ったならば、異民族として皆殺しにされるだろうにアーサー王は自分たちの味方だと思いこんでいる帝国の親戚が統治していることになっている野菜が高級品であり、霧かスモッグかわからないような将来が灰色過ぎてお先真っ暗の潰れたじゃがいもみたいな形をしたテロリズムとゲリラ活動がされる西側の劣等生なのに、元覇権国家だから一等星だと思い込んでいないと精神が保てない失業者ばかりの金融以外ほぼ更地になって公営の工廠すら破綻する生きるも地獄、死ぬのも地獄の修羅の地、何でもプティングかパイにして食べて一番マトモなのはパイとプティングしかない造船すらも廃れ気味の他国の依頼した船で実験しまくって自国の船は保守的に作るのにとち狂って海戦で一発沈没するギャグ国家の島国が関係しているのだろうか?

 あのネジ曲がった島国根性がキマって島国根性を形成しているような呪われてそうな土地にそんな余力があるのだろうか?前回のイスパニア内戦のときも捕虜からさんざんルーシーと連合王国から命令されて来ましたという証言や公演を合州国と秋津島で行って、アカと王党派は仲良しで上位貴族はアカの団体を使って企業から上前を奪う搾取者とか帝国外交部は始まって以来のやり返せるチャンスにプロパガンダに体を震わせながらやっていると聞く。

 その仕返しなのか?それにしては杜撰も杜撰。あの紅茶を静脈注射している連中がこんな杜撰で安っぽい展開を望むわけはない。となるとやはり、資金提供は何者からかは受けているが単独犯か。

 「裏がいないのなら簡単だな。そうだ。」
 叩きのめせばいい。アイツらは目立つことが出来ないから空の上という絶対的な有利地を手放した。つまるところ、この住宅街の道幅が狭い場所は各個撃破にうってつけだ。それに俺の勘は囁いて告げている。イスパニア内戦のときの経験が役に立つのはここだと。地獄のような市街戦。街に潜んだ姿の見えないゲリラ、彼らには全て経験していないだろう。どんなに空から攻撃しても地表に立ち、地下を探しその土地そのものを制圧しなければ勝ちはない。それはこういう戦いなのだ。モグラたたきをしながら椅子取りゲームをしつつ、違う部隊に伝言ゲームをして外から見られた時には健全であると振る舞わなくてはいけない。故に占領には神経を使う。

 気絶させた一人を縛り上げ武器を取るとこちらを覗いてきた兵士にぶん投げる。そして、腰にサーベルをつける。
 「お仲間を返すぞ!」
 そして、ぶつかった拍子に後ろに居た二人を吹き飛ばしたようで魔力によるスローイングを喰らえば4人共に気絶をしていると簡単に考えられる。

 向こうで光が見える。あの中尉がやったのだろう。となると残りは15人程度か?なんだ、大したことはない数じゃないか。奴を投げる前に武装解除して手に入れた拳銃を見る。

 「RGK C16か。」
 見た目は完全なモーゼル拳銃であるコイツは古いだけあってかなりの流通量を誇り、安い。ストックをつければ自動カービンの代用になることからも重宝されていた。現に今もこの反乱分子が使っているし、イスパニア内戦でもストックをつけて更には35発弾倉をつけた上にマシンピストル化したトンプソンモドキまでいた。こいつらのは弾倉の着脱は出来るが弾倉の大きさ的に10発だな。無いよりはマシだがルガーの方がまだいい。

 「見えた!」
 背筋に走る悪寒に近くにあった桶を後ろに思い切り飛ばして、後ろに踵から飛び空中で回転して体当りしてみればまた一人を撃退するのに成功した。そして、コイツが持っているのも……。

 「RGK C16か。そして、同じモデル。」
 二丁拳銃なんてする気もないがやらねばならないのならやるしかあるまい。ストックがあればいくらでも何度でもするがこの銃、なかなかに衝撃が強い。輸出用のモデルなのだろうか?それとも初期生産ロットか?それにしても弾倉を2つずつしか持ってないのを見ると資金も想像よりは少ないのかもしれない。ほぼモーゼルだし。

 大通りに転がり出ると空の上にまだいる奴らに銃弾を浴びせる。片方で避ける場所にもう一方は誘い込むように。何回も撃ち込む。反撃をあまりしてこないのは近くに伸びているさっき投げた奴らを巻き込みかねないからだろう。魔力を吹かす。宝珠が輝き飛び上がる。空へ。浮遊のもたらす感覚とバレルロールと回避起動を入れた衝撃が合わさる。飛び立つ時が一番危険だが、だからこそ意味がある。相手の攻撃を一気に受ける。脳に響く感覚で回りながらもただ避ける。そして、回避しながらもマズルフラッシュで位置を覚えて銃弾を見ずに叩きこむ。また一人、また一人といなくなる敵。一般人の俺には荷が勝ちすぎているが仕方がないのもまた一つ。銃弾は点と点の攻撃で線や面ではない。だからこそ避けれる上に銃弾が防殻に当たる寸前に回転もすれば弾を滑らせるのも一般人の俺にすらできる簡単な事なのだ。数が減るのを見て恐れたのか魔導刃での斬りつけに変えてきたのは評価するがもう十分に距離を詰めた。相手のサーベルを蹴って軌道をずらしてから、手持ち無沙汰なもう一方の足で蹴る。サマーソルトキック、そして……。蹴りが決まったのをそのままに胴体に急加速して遠心力を使って背中を取ると首に足をかけてそのままフランケンシュタイナーを決める。防殻では防ぎ切れない衝撃をお見舞いする。その晒された腹に空になった弾倉を投げて動けなくさせると終わりだ。

 なんで、俺ばかり厄介事に巻き込まれているんだろうか?俺は悪くないはずだ。しかし、だが始まってしまった。だからこそ終わらせねばならない。始まりがあれば終りがある。終りがあるから始まりがある。プロローグはエピローグなのだ。

 最後の一人に近付く、見た目も士官だ。もしかすると彼だけは現役の士官なのかもしれない。

 「なぜこんな事をした?」
 単なる興味、終わりだと相手も気付いているだろう。反乱に時間はかけてはいけないのだ。ダキアもイスパニアも反乱開始だけは早かった。反乱はどれだけ早く官僚や首班になる人材の確保と声明文をラジオと新聞社を占拠して流すかなのだ。

 「それは簡単なことです。小官はずっと誰かになりたかったのであります。誰かになれない雑踏に紛れる存在から、貴官…フリードリヒ・デニーキン・ジシュカという靴を履いて世界の大舞台に立ちたかった。誰かに尊敬されたかった。誰かに必要とされたかった。誰にもなれない小官は誰にも必要とされなかった。だから、貴官になりたかった。この国を変える手助けをしたかった。この国は貴官の論文のように一度建て直さなくてはならない。そのために皆が集まった……そのために。この国の首脳部を変えなくては前線からの話ではもうすぐ戦争が始まる。戦争に耐えきれない、戦争で死ぬのは貴族などではなく農村部の人間や都市部の労働者だ。支配階級は負けても中立国に逃げれば良いが逃げれない国民はどうなる?小官は誰かになると決めた。貴官の靴を履いて舞台に立つことを決めた。これは逃げられない舞台だった。今変えなくては今は変わらない。この先にあるのは辛い明日でしかない。その痛みを少しでも変えたい。今の1000人より明日の10万人なのです。庶民を大事にしないこの帝国という歪みや連合王国という歪みはやがて合州国に負けて殖民地にされてしまう。まだ力が有るうちに変えようとするのは罪ですか?正攻法では何も変わらないこの国の惨状は誰かを必要としている。その誰かに小官はなりたかった。誰かに聞かれた時に小官は小官であると答えるために。ただ小官は誰かに必要とされたかった。誰かに尊敬されたかった。誰かの真似事でもいいからこの世の中を変えたかった。そのために貴官を真似して変わった。世界が変わった、自分に合った靴ではないから重たかった。靴に合わせて小官が変わるしかなかった。変わりたいから変わったのか、変わったから変わりたいと思ったのか、しかし、小官は変わってしまったのだから変わり続けて前に進むしかないのであります。失敗だと今もわかってる。が、協力してくれた人々のためにその業を背負って報いる為に前に進まねば無作法過ぎる。小官は誰かになれなかったかもしれないが恥知らずではないのです!負けるとわかっていようが進まねば誰のために誰かになりたくて、誰が小官なのかわからないのだから!!この国の国民こそが小官、いや私だ!」
 えっと、知らないけど長々と俺は何を聞かされたんだんだろうか?確かに誰かになりたいとか自分は誰なんだとかわからなくもないが思春期かな?そんなことどうだっていいだろ。頭イカれてるのを帝国のせいに責任転嫁するなよ自分のやったことは全て自分の責任なんだよ。お前、簡単に蝶に騙されそうだよなエアリーとかオベロンとかあぁいった蝶に。世界的に殺虫剤が売れそう。

 こいつ、おかしくなってる。俺は現実がおかしくなってる。なんでこんな奴らばっかり俺の周りに集まるんだよ!


 
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