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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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33


 「確かにな。貴殿には新しい任もあることだしな。即応部隊の人事はリーデルにしておこう。」 
 何を言ってるんだこいつ?いきなりすぎるだろう。どこにいけと言うんだ?おかしいなブラック企業みたいなやり口やめてくれよ。転勤族ってレベルじゃないぞ!サイコロでなんか決めてないか?そうじゃなきゃそんな速度で決まらないだろ。海外の入国管理官がパスポートにスタンプを押すときくらいの速さだぞ。おかしいと思わないのか?何だこのスピード、官僚組織なのに手続きが早すぎるよ。

 「しかし、それは身支度していたあたり、この自体はわかっていたのだろう?ジシュカ、貴官の提言通りに物事は性急に進んでいる。それでだ、あの話のとおりになると思われる。従ってフランソワとの国境近くの師団の指揮してもらいたい。そこで奴ら、フランソワの主力を受け止めて、それを初撃で一網打尽にするわけだ。特に今回の任に当たって貴官は少将に昇格した。開戦と同時に中将になる手筈だ。つまり、総動員が済むまでの間を耐えきればいい。もう、民間会社、鉄道、果ては航空関連から海運関連にも決定は下った。ダキア、イルドアなどにも要請は済んでいる。開戦と同時に彼らも自動参戦だ。まぁ、フランソワが動くとは露にも思ってないだろうが、参戦させてしまえばこちらのものだ。一蓮托生だよ。この国で生まれたジンやシュナップスと同じだ。一度水で割ってしまえば再度蒸留しなければ離れられんさ。しかし、蒸留するほどの火力が本国に向けられた時に彼らは抵抗しないわけにいかないだろう?彼らはもはや兄弟だな。地獄に行くなら一緒に行ってくれるさ。ついてくるしかない。だから、今回は必ず帝国は再び‥‥。」
 そう言うとバークマンは酒を飲んでいた。それを見ると人為的にギリギリ気付けに使えて勝手に兵士が飲まないように不味く作られたシュナウズウイスキーだ。消毒液のような香りと人為的な甘さが残り、最後はアルコールの苦味が口の中を荒馬の如く駆けずり回ると噂される品だ。

 頭がいいのか悪いのか分からないが20%のみウイスキーで残りは蒸留酒と安い地中海ワインなどを混ぜて作ってあると言われているが定かではない。あんなものよく飲むよな、やはりバークマンはおかしいのではないか?

 「あぁ、これか?最近噂のシュナウズだよ。これを飲むとかつての敗北の味を思い出せる。あの苦い土と煙あの味だ。あの中で飲まされた気付け薬を思い出させる。大地の味だ。我々帝国は大地に根ざした陸軍国家であるのだ。この大地に力が集まり、土が人間を作り出したなら大地が作り出した帝国はもはや人である。その人が創り出す集団こそが国家なのだ。つまりところ、この世界でこの国と対等と言える存在はフランソワとルーシーだけだ。他の国は作りが海洋だ。海から生まれた国と大地から生まれた国。同じ様に見えるが海洋からできた国は拠点による一点突破を狙う。しかし、大地から生まれた国は違う。穴を埋めるためにただ泥臭く、愚直に愚直に穴を埋めるために多くの人間がそれをやるのだ。海の国は見れば格好がよく見えるだろう。そうだなやることが綺麗にまとまって見える。だがな‥‥。」
 なんで俺はバークマンの長話を聞いているんだろうか?バークマンの長話に付き合わされるのだ?当たり障りのない話ならともかく、我慢して聞かなければ俺がどこに飛ばされるか聞き出せない。おかしいよな全く。

 「大地に根ざすのが人間だ。泥をすすっても最後まで立っているのが勝者なのだ。綺麗さにかまけてそれを忘れてしまえば人は簡単に腐り果てる。だからだ、人間の住まう大地が今や足りない。もはや、腐り果てた納屋のようなルーシーなど言語道断だ。フランソワもだ。新しいもの、正しく聞こえるものにかまけて人間は地道な作業を忘れて綺麗で簡単で多く稼げる方法にしがみつこうとした。その軟弱さが国家を腐らせ個人のために家族や友人を売るようなことを起こすのだ。」
 そんなことを俺に言われても知らん、学会かなんかで発表したらいいんじゃないのか?俺は俺で今あることに必死なだけなんだよ。そんな一般人な俺を捕まえて訳のわからんことをベラベラと言われたところで困るよ。もっと偉い奴に言ってくれ。

 「このままでは人類が持たないかもしれない。富裕層に貧困層は食い散らかされ金が無い人間は人間ではなくなり、各国が貧民を輸出し、輸出された貧民を引き取り国内の貧民共々奴隷にするだろう。例えばプランテーションのように。それを直接統治してないからと言い訳して世界に広げるだろう。その展望もジシュカ、君は書いていただろう。私もそう思う。資本主義社会の暴走が世界に広まれば我々は加速的に死に行くしかない。まだ間に合うはずだ。全員が全員に敬意を払う社会!その姿を取り戻す。私はこの帝国を帝国民に取り戻すのだ!」
 はい、あっそうですか。お好きに‥‥俺は関係ないし、取り戻すとか言われても……具体的に言うと国際金融資本や国際企業とかと戦うとか言うんだろうか?信長が堺衆や一向宗に同じことしたが結局足元を掬われただろうに、一国が戦うべき相手ではないよな。戦えないだろうし、勝った先に何があるんだろうか?

 資本は自然に逆らい、低いところから高いところに登るのだ。自然では水は高いところから低いところに貯まる。それと違い、資本は利率が低いところから高いところに貯まるのだ。2回も同じことを考えてしまうほど当たり前の話で、それをいったのは何を隠そうカール・マルクスである。当たり前のことを当たり前だと発表したから彼はその点においては優秀と言わざる得ない。つまりはそういうことなんだ。資本は自己増殖してるだけで、それらを武力でなんとかできたならば、核兵器を持った国々がたくさんいたG8は全部問題を解決できたはずだがそんなことはない。

 ヒト・モノ・カネすべての移動を規制せねばならず規制した先に何かがあるわけではない。大地、大空、大海何一つ管理もできない大自然の前では人間は無力なのだ。無力だからこそ、人はヒトを尊び、互いに敬意を払うことを忘れて、俺が私がと前に前にごねれば国家は滅ぶのだ。悲しいことに人類は人類を滅ぼすに足りる地上の太陽、叡智の太陽を得ても太陽の周りにへばりつくスペースデブリにしかなれなかった。人の手は手を取り合う事もできるだろうに……しかし、争う道を選んだ。己の理想や思想を押し付け殺し合うのは醜いが、互いに相手の理想や思想を違うと認識できるのに、考え方を変えろと互いに火を振るう愚かな愚かな選択肢を選んだのだ。

 それらをこのバークマンは解決はできないだろう。それが解決できるとすれば、明快に問題点を問題として定義をして、問題だと皆が認識することでしか解決はしない。差別や貧困などもそれを規制する法律を作ったところで人々の意識が認識が変わらなければ単なる文章でしかないのだ。全ては人の意思だ。そして、同時に大自然や星の法則や意思を理解できなければその理想も人の意志も無駄になる。思いだけでも力だけでも駄目なのだ。ヒトが人に成るためにはそれらが必要だろう。しかし、こんな事を考えたところで、文章などにこの考えをまとめても俺がわかることだからみんな分かってるよな。こんな話は多分いらないだろうな。

 「帝国を帝国民に取り戻せても、然りとて人は死にます。国が残っても、人がいなければ意味がない。小官はたとえば敗戦をしたとしても、帝国自体が無くなったとしても、泥水や靴を舐めたとしても人が生きている大地が必要だと思います。人が居なければ国家や地域は成立しない。重要で一番の要素にするのは人々です。国家ではない。人さえいれば国家はいずれは再建できます。我々は国破れて山河ありとはしないことでしょう。たとえ、一時の恥や虜囚の身になろうとも街を守ることが仕事でしょう。我らが必要とされるのはそういうことではありませんか?」
 それだけだ。勝てればいいが勝てなければ勝たなければいい。ただそれだけだ。理念や理想のために国民を犠牲にするのは本末転倒だ。人々はこの程度で滅びはしないさ。希望という星があればそれを目印に進むだろう。

 「たしかにそうかも知れん。だがもう遅い。緩やかだがフランソワに秘密裏に動員がかけられた。予備役の招集だ。フランソワだけではない、あのアルビオンもだよ。これは既定路線だ!大戦のラッパは鳴らされたのだ。あとは負けないようにするしかない。私も貴殿と同じ考えだよ。しかしだな、ジシュカ。人類を食わせて足りる大地が少ないのだ。叡智があろうとも志があろうとも腹をすかせた子供のためならば、私はどの様な汚名も何も受けよう。政治家が始めた事を我々が拭うしかないのだ。この世の歪の泥を。だから、貴殿はフランソワ戦線を受け止めるのだ。」
 いや、それを辞める選択肢はないのか?なんで人を激戦地に置きたがるんだよ。俺は何にもできないぞ。

 「それがうまくいくかはわかりませんよ。小官はもはや単なる一兵卒ですから。」
 よし、今だ。階級章と技能章、略綬も全部外して、バークマンの机の上に置いた。辞めるって言ってるよな。コレで辞めれるな。

 「そこまで覚悟してくれたか!小官も一兵卒として、貴殿を見送ろう!ヤン・ジュシカ!武運を祈る!この帝国が誇る軍人に幸あれ!そして、帝国よさらなる栄えよ!ワルキューレすら貴殿の前では躊躇するだろう!祖国を守るのだ!あの時に何も得られなかった私のようになるなよ。ヤン・ジュシカ、君には帝国の未来ではなく、国民の未来がかかっているのだ!」
 いや、誰も賛成するとか言ってないんですけどそんな勢いで押し切ろうとしないでくれますか?辞めるって暗に言ってるだろうが!

 「私はただの一兵卒ですので指揮も何も出来ません。一市民ですから。」
 ここまで言ってもわからない訳がないだろう。ほら、嫌だって言ってるぞ。

 「そうだな。わかりきった話だったな。軍人ではなく、我々は一帝国民として当たるべきだな。指揮ではない。貴殿が立てたプランの通りに進んでいるからな。すべては国民を守るために国民の意思で選ばれるしかないな。国民の麦が国政第三政党にもなったわけだからな。」 
 いきなり未確認情報をサラッと言うな!何も知らないけどどうなってんだよそれ!えぇ……あんなスポーツ新聞並みのゴシップと意味不明な乱文ばかりを作ってる場所が国政政党になるとかおかしいだろうが。

 「もう終わったからジュシカ、帰ってよろしい。補給などは心配するな。民間企業統合本部が後ろ盾についている。陸軍統制局は確実なる戦争経済への移行と君の論文を元に作られた背が低い作物たちは我々の継続力を高めていくだろう。民間も肥料工場の設置を拡大してきた。当然、君の理論による敵対国家から資源を大量に買付け備蓄し、国内の資源の保護もやった。飛躍的に石炭などの戦略物資も備蓄している。帝国は従来の戦争なら100年は戦えるだろうが、君の理論の世界大戦だともってせいぜい10年くらいだろう。しかし、案ずることはない。大陸から敵を追い出せば必然的に状況は変わるさ。悲観的に始めて、楽観的に終われば良い。我々の祖国のために!」
 バークマンが立ち上がると国歌を歌いだした。俺はそれで反論できずに渋々帰る羽目になったがシュナウズで変な酔い方をしていたんじゃないだろうな?バークマン。

 どちらにせよ飲む工業アルコールと言われるものを飲んでいるんだから仕方がないのかもしれない。やれと言われたものはしょうがない。それに小休止の時に退役してしまえば良い。車に乗り込んでからも考える。俺は戦争犯罪とは少しだけ遠い西部戦線だ。橋が遠すぎるなんてことにはならなければいいが。

 初期だけならフランソワとの決戦後に辞めれば良い。ある程度先は見えているがこちらの被害もフランソワの被害も少なく帝国の被害も少なく勝つ方法は‥‥‥あるな。装備さえあれば‥‥‥このヨーロッパみたいな世界は道が完備されている。“道”がだ。中将という階級になってしまうかもしれないがそれだけ辞めやすいだろう。

 近衛の管轄から出ると軍の検問があった。なにやら、議会が事件を起こして田舎から来た市民が騒いでるらしい。ちょうど季節はサマーシーズンがやって来る前の6月で、これから7月になる前のバケーション需要でなんでも高く売れるし、労働力を集める時期だ。特に出稼ぎと行商が増える季節。失業者はイスパニアとダキアにやっている紐付き援助で減ったとは言え、まだ予断を許さない程度にはいると言われている。失業率が二桁とも言われており、農業の機械化と化学肥料による大規模農業化の波、国民の麦と秋津島が開発した背が低い穀物苗による効率化、水路の舗装化などが推し進められ農村で劇的な変化が生まれたとも言われている。

 それに対して都市部では彼らを安い賃金の工員として雇ったり、日雇い労働者としていたり、そもそも雇えなかったりと都会にでたはいいもののという風刺紙芝居が流行ってるとも聞いた。若い将校はそれに胸を痛めてるそう。よくわからないが。

 そういえば、今の検問の軍人も訛っていた気がするが首都防備隊は色んな地域から集められて、結託を無くして首都の叛徒も撃てるように差配されてるとも聞いたような。まぁ、いいか。

 フランソワと帝国の戦死者を減らしてしまえば良いのさ。そうと決まれば家に帰ったら国民の麦に連絡しよう。彼らなら調達できるだろう。

 「あれは?」
 帰りの車の窓から見えるデモ隊の群れを見た。デモ隊の看板は車のライトに照らされて一瞬だが読み取れた。
 “議会は恥を知れ!皇帝陛下の名のもとに平等を!”
 “皇帝制社会主義への転換へ”
 “皇帝陛下の慈悲が盗まれている”
 そんな文句が並んでいた。長い列だ。大蛇が首をもたげるような。

 このまま行けば宮殿に向かうのだろうか?
 俺は無視をして寝ようとするが乾いた音が響いて、後ろが明るくなり俺は車を止めさせた。まだまだ俺のいちばん長い日は終わりそうになかった。なんで俺ばかりなんだよ!運転手に安全なところに逃げろと伝えると腰に差したサーベルと銃を確認する。宝珠もある。

 しまった!階級章とかをバークマンのところにおいてきた!取りに行く時間はない! 
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