| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

31

 あれから、もう少しは月日がたった。その実2週間、体感では3日ぐらいに感じるほどに、バタバタとしていてとてもではないが退官できる様子ではない。この2週間の間にもルメリアの崩壊により世界に生まれた余波が世界に走り回る津波のように押し寄せる中で、俺は事務作業ばかりだったので、この事変について考えを巡らせていた。こんなことのせいで忙しくなったからだ。なんで、こんなことになってしまったのか。俺が何をしたというのか?誰のせいだ?バークマンか?いや、これも俺が‥‥。

 脳裏に電流と光が走る。そうかそうだったのか現状、俺が記憶している限りの状況証拠しかないのだが、まだおそらくとしかつけれないが‥‥それでも結論としては俺が考えるに、このルメリア革命についての主犯は、やはりあのバークマンとその下の青年将校たちではないかと睨んでいる。

 それでは語弊があるかもしれない、より確実にはバークマンと青年将校たち、それらに対して何故できたのかで考えてみよう。資金を出したのはダキア開発とイルドアとの貿易で富を得た帝国企業、国民の麦の会、保守派貴族などが合わさったのかもしれない。特に国民の麦の会は何を考えているのか、国債を無制限買い取りをやってると言われている。国内で借金を抱えている限りは帝国はまだ大丈夫なんだろう。

 一部の理由ではあるがいろんな事変を経て帝国軍の政策は一気に変わり始めていた。大改革と言われるダキアからイスパニア事変で戦った部隊を中核に即応部隊の創設・拡充をしようとバークマンがむりやり参謀本部に捩じ込んで認めさせたと言う噂がある。

 これらの即応部隊はイスパニアの戦訓を取り入れた機動力と打撃力を合わせた部隊を官民一体で共に作り上げると、そこで陸海空近衛を合わせた4軍からそれぞれ1個連隊を抽出して、師団を形成し、その師団は予備戦力も2個連隊を確保すると言われている。そして、所属は皇帝直属という形で柔軟に戦地で対応すると噂されていた。つまりは、皇帝直属という対応でどんな戦線にも展開できてすぐにどこにでも投入でき転戦させられるという、最高の火消しをするための便利屋という扱いだろう。

 抽出されるのは精鋭だとされるが各軍の厄介者と志願者に高級な新兵器を与えて突っ込ませるだけではないかルーシー的運用と揶揄されていた。まだそれを認めるには参謀本部は実績や運用資料などが足りないとごねているとも聞いている。ならば、それを黙らせるために手頃なルメリアで試した可能性はないだろうか?話によるとカマル・エタータークは実はパシャであり、疲弊した祖国を取り戻すといった演説と陸軍大臣のエルディン・ベイルらと手を結んでいたと思われる。じゃなければエルディンが首相としていないだろう。

 話はそれたが、基本がルメリア革命に参加したと疑われる兵士の多く、その基盤になる各軍の出世の目があまりない平民出身の尉官や下士官の志願者達である。旧大陸では血統で決まるとされている。現に共和国の将校の大半以上が貴族階級であり、ルーシーの軍ですら元貴族階級などが多い。それに閉塞感を覚えている兵士たちがバークマンの誘いに乗ったのだろう。バークマンは扇動の天才だ。

 現実と閉塞感に反発するバネの様な平民軍人を基幹戦力として義勇軍に使っている。それだけでは義勇軍だけしか戦っていないことになるが、いちばん重要なのはルメリア内の革命戦力がなぜ戦えたのかということだ。

 イスパニア内戦やダキア騒動で鹵獲した兵器にダキアやイスパニアの旧式兵器が大量にある。それらの兵器を中心にまだまだ帝国には使い潰せる兵器は沢山にある。現実にまた帝国の旧式兵器、イルドアの旧式兵器があのイスパニアに流入していたこれらも賠償金代わりにバークマン帝国解放司令部は回収している。それに敵側にいたルーシーなどの義勇兵の鹵獲装備もある。まとめてこれらがカマルに供与されたのだろう。カマルはそれを持ってエルディンを説得したに違いはない。帝国の後ろ盾と武器、義勇軍と内戦になってもダキアや帝国が敵対しないという外交状況お膳立てが出来ている。

 それはそうとこれまで考えたのはバークマンやカマル側の話だが、じゃあ企業や青年将校がなぜルメリアに関心があるのかと考える。

 そこにあるのは彼らがダキアを帝国本国の一部としてみており、石炭と石油、ガス、岩塩にわずかながらも金銀を算出するこの地帯を守るべき資源地域、国防ライン、帝国本土に対する盾として認識している。そして、ダキア人の低い人件費からくる食肉や農作物は帝国の食料庫の一部を担っている。延長として本土を守る盾の地域の拡充。何より、ルメリアを抑えることで黒海東岸をバスタブにでき、海峡を抑える権利はバークマンじゃなくても帝国軍内では議論に何回も出るほどには、帝国が欲してならなかったものだ。バークマン自体は一番にルーシーを嫌っている。

 逸話として聞いたのは、バークマンはルーシー内戦終結後すぐにルーシー亡命者からなるルーシー義勇軍の補佐に回ったがそこで負けたのを未だに引き摺っているらしい。あのときにバークマンは一度死んだらしい。魂はルーシーに置いて来たと言って憚らなかったようだ。 

 帝国サイドに入る帝国、ダキア、イスパニア連邦、秋津島、イルドアの国々は共通工業規格と共通軍事規格を共有を始めていた。不穏な話がある。それはイスパニア内戦に対して、援助する為の秋津島の歩兵銃が帝国に10万も到着していたが形式主義的官僚制度に足止めを食らって余っていたのも知っている。一説には秋津島の旧大陸への影響力を抑えるために帝国議会が妨害したとも言われている。それらの余っていた兵器も秋津島との親善名目で皇室予算から買い取りが行われた。その歩兵銃の山は准将になった俺にすら消息不明だ。なにか大きな力が働いてるのだろう。

 大事はイルドアのベルート・ロッソネミコがイスパニア戦勝利の恩赦で解放されるとイルドア議会は焦って勝利を盾に議会解散をし、ベルートの挙国一致イルドア党に大敗を喫し、イルドア議会の9割がべルートの政党に議席をとられた。勝利の凱旋と言われるローマン帝国の歩兵の格好をした党員たちが首都を闊歩し、同時にべルートのパスタ、パン、じゃがいもの値下げが行われ市民から歓声が起きたと。

 このルメリアの混乱の渦が世界で回る中で、べルートが指名したバルブはイルドアの南方大陸に展開していた軍を再編を完了させて、イルドア内で準動員が続く中で紅海に面するイーストリアに対して、商船拿捕やイルドア人保護を訴えて戦闘を開始、そのまま旧大陸がルメリアの話題で揉めているのが終わらない内にイーストリアの首都を占拠に成功した。わずか12日で終わった戦闘のため、世の中は引き続き話題の内容がルメリアがどうなるかのままで揺れ動いている。ついでにイルドアは領土交渉を行い、旧大陸側でも領土を拡張した。

 ダキア国民は帝国が発展するとダキアも発展するのを理解した。それに多少周辺国に無茶を言っても帝国の後ろ盾で押し切れるので我が世の春とルメリアの一部を割譲させ、更にはルーシーに割譲要求で取られていた地域の一部を外交で取り戻し大ダキア主義と言われる時代に突入した。その多くの政策が帝国企業によるダキアの工業化と帝国の兵器輸入による近代化による国力増強案であり、ダキアの対外借金は帝国だけで伸び上がり、帝国軍や帝国官僚をかなり受け入れた形で国家運営を加速させている。 

 ダキアメディアの大半が流すプロパガンダにより、ダキア人は口々にダキアと帝国は兄弟であり、親子であり、家族であり、同盟であり、常にダキアを守る責任がある。そして、同盟であり肉親であるならばダキアと帝国は運命共同体、一蓮托生、何者かが力によって我々を切り裂かない限りはゴルディアスの結び目で我々は繋がっている。強固にしてルーシー人にすら介入できない強い繋がりだと言っている。それに対して帝国人は他国人から慕われることを知らなかった為に優越感と自尊心を擽られて、帝国側のダキアへの好感度も上がっていた。

 他方で帝国内では、帝国の名前を出して割譲や条約改正を要求し、何回も成功させているのを良く見ていない。結果的に帝国が恨まれるからだ。再三、苦言を呈しているがダキア王と帝国の皇帝は仲が良い様で「兄上。」とダキア王に言われれば、皇帝は「まぁ、良いのではないか?」と許してしまう姿勢に議会と軍部は不満を持ち始めている。がしかし、経済が上手く回っていて特段、戦後ではあるのに景気は悪くはなっていない。むしろ、その屈強な軍事力を誇示した事で通貨が強くなり、帝国国民は戦争は勝って当たり前で勝ったならば景気が良くなる程度しか考えていない。

 帝国の新聞はというと、どの新聞も国境にいるレガドニア協商連合を倒し、懲罰的な賠償金と領土割譲をさせろと書かれている。なぜか、戦いになれば俺がなんとでもするから大丈夫だと意味不明な結論があった。俺は何でもできるわけじゃない、一般人に何をしろと?大戦前にこんな訳の分からない国民を扇動するんじゃない!俺が何でもできる様に思われるだろ。一人じゃ何もできない情けない奴なのさ俺は。だからこそ、戦いから逃げようとしているのに何ぞそんな希望があるだの楽観視をするんだ?国力差はイスパニア、ダキア、イルドア、ルメリアがこちらに入っても埋まりはしない。なぜならば合州国という化け物があちらにいるからだ。

 合州国は選挙前に合州国政府が貸し出した共同体側への武器の支払いや資金、買ってしまった戦時国債の問題で議会が空転してるらしく、現政府のイスパニアは支払いを拒否しており、共同体の幹部が逃げて亡命政権があると見られているルーシーに請求しろと断ったりでてんやわんやらしい。

 「何だこの状況‥‥。俺は無事にここから離れられるのか?あと1ヶ月半しかないぞ。」
 そういえばと思い、国民の麦の会に電話をかける。

 「済まない、ただ電話をかけようと思ってね。このままだと1ヶ月半後に北で何かがおきそうだ。その時に民間人を頼む。」
 占領地帯の人間は可愛そうだからな。これで退避させられるだろう。

 『わかりました。あの時からずっと準備してますから。それにいろんなデータが得られていますからね。計画どおりに。会長の深い考えは理解できています。』
 いつもと違ってべらべら話すやつだなと思いつつ、「ならば任せた。」とだけ告げて終わりにした。

 このままどうなるのだろうか?まさか、大戦も俺が出ることになるのか?でも、まぁ准将だから最前線には出ないだろう。が、俺の命令で人が死ぬのならば俺は最前線に立ち続けて倒れるまで前に行くしかない。それが死者への礼儀だろう。俺はこの世界の人間ではないのだから、この世界の人間ではない俺が命を張らなくてはただ傍観者を気取って人の死をコンテンツとして消費するクソ野郎に成り下る。それだけは俺は御免被りたかった。なぜならば、神や世界の、星の瞬きよりも人間が人間らしく生きることこそが何よりも人間を人間が足らしめて、人間を作り出すのだから。

 俺はただの人間でいい。英雄や名将なんて言葉はいらない。ただの人間で十分だ。それ以上に、いやそれ以外には何がいるというのだろうか?人間が人間らしく生きれる世界、誰もが求め何処にもない。そうなのだから、多分高望みなんだろう。だが、夢は願えばいつかは叶い、手を伸ばせばいつかは掴めるだろう。人は空を見上げて星に手を伸ばした。人類はいつしか月に降り立った。ならば、誰ができないというのだろうか?できないのではなく、諦めたらそこで終わりなのだ。月光のもとに星を求めた人類の、人類の歩みを否定は誰もできない。そうなのだ。だから、だからこそ、だからこそに俺は人間が人間らしく生きれる世界を求めるんだ。じゃなければ犠牲になった人々はどこに帰れるというのだ?自分で引き金を引いたならばそれぐらいの義務と責任は果たしてやるさ。

 だが、必ず大戦に参加する訳がないのだから大丈夫なはずだ。しかし、そうなってしまったらと考えが行くのも仕方ないことなのだ。戦いはあと一ヶ月半あまり、帝国軍は編成をより実践的なものに変えて、戦訓によりイスパニア事変に出した戦車である試作三号を主力から補助に変えて高速自走砲化と駆逐戦車化、より強力な戦車四号を主力に変更をし、敵重戦車との対戦経験から帝国重戦車開発が決定した。

 特に主力はもう1世代先の高いが性能があまりあるとされた国民の麦の会が設計した五号が有力視されていたが、数を揃えられないと却下された。より安価で強く量産が出来て整備性が良い早い兵器を求められる中で、帝国は安い戦車と高い戦車のミックスによるハイロー戦略を取り、航空機などもそれに続いた。

 国民の麦の会は、先行量産として五号を作り始めており、バークマンに無理やりねじ込んで、バークマンが無理やり軍にねじ込ませたという恐ろしさだ。設計自体は何年も前から済んでおり、規格や構想などは俺が書いた怪文書を元に作っているらしく、こないだのイスパニアでの装甲車はデータ取りだったようだ。圧倒的な長75mm砲を四号とともに装備しており、四号と五号に、三号は歯が立たなかった為にパンツァーショックと言われるものを起こし、また安価で歩兵が戦車を倒せる装備開発に勤しんだらしい。

 対装甲兵器と対歩兵用決戦兵器として、ロケット砲の制式採用が決まり、軍隊の機械化も着々と進む中で、また2週間経ったときに俺は、バークマンに呼び出された。非常に嫌な予感がする。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧