非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第132話『忠告』
文化祭1日目。午前の部の仕事を終えた晴登と結月は、同じく午前の部での劇の公演を終えた優菜と刻と共に文化祭を堪能していた。
しかしその途中、思わぬ人物と遭遇した。
「アーサーさん!?」
「覚えててくれて嬉しいよ。晴登君」
「どうしてここに? というか、身体は大丈夫なんですか?!」
「はは、心配してくれてありがとう。僕の体質は少し特殊でね。傷の治りが早いんだ。だからもう平気だよ」
色んな意味でここにいるはずのない人物を前にして、晴登は驚きを隠せない。
眩い金髪に魅力的な顔立ち、そして魔術界隈で最強とも名高い"聖剣"ことアーサー。
魔導祭で知り合った彼だが、不幸なことに魔導祭最終日にてスサノオの襲撃によって大怪我を負わされてしまっていた。
あれから連絡も取っていなかったので心配だったが、彼の復活と久々の再会はとても喜ばしい。会話に花を咲かせたい気持ちもあるが、それでは一緒にいる優菜と刻を置き去りにしてしまう。
「あ、2人に紹介するよ。この人はアーサーさん。その……知り合いなんだ」
アーサーについて2人に紹介しようとしたところで、どう紹介するか迷った挙句、「知り合い」というふわふわした関係になってしまった。
「こんにちは、お嬢さんたち。僕はアーサー。ちなみに言っておくと本名ではなく、芸名みたいなものだ。よろしくね」
「わ、私は戸部 優菜と言います。よろしくお願いします」
「…………」
「天野さん?」
「……はっ、う、うちは天野 刻です。ごめんなさい、凄くイケメンでビックリしちゃいました、へへ。えっと、そんなに派手な見た目で芸名もあって部長さんの知り合いってことは、もしかしてマジシャンだったりします?」
優菜が自己紹介を返す横で、珍しく狼狽えている刻。彼女がそんな様子を見せるなんて、やはりアーサーのイケメンは筋金入りということか。
それにしても、彼女の勘は中々に鋭い。晴登とアーサーが同業者であることがすぐにバレてしまった。
しかしここで問題なのは、これに対してアーサーが何と答えるか。まさか正直に魔術師と名乗ることはないだろうが──
「マジシャンとは少し違うかな。僕は演劇を嗜んでいてね。小規模だが公演を開くこともある。晴登君とはそこで知り合ったんだ」
「そ、そうなんだよ」
だがさすがはアーサー。こういった公共の場において、誰もが納得しそうな機転の利いた答えを持っていた。最強の魔術師の名は伊達ではない。
「さて、僕がここにいる理由だったね。それは君だよ、晴登君」
「俺、ですか?」
「ああ。君に直接伝えたいことがあるんだが、今ちょっと時間いいかな?」
*
アーサーと話をするため、晴登は彼を屋上まで連れてきた。今日は既に一度、狐太郎についての大事な話をしに屋上に来たが、まさか二度目があるとは。
ちなみにここには晴登とアーサーの2人しかいない。本当は魔術部のメンバーであれば同席しても良いのだが、刻の扱いをどうするか迷った結果、結月と共に置いていくことにした。同席させたところで話がわからないだろうし、文化祭を楽しんでいるところに水を差す理由がない。こういった役割は率先して部長である晴登が引き受けるべきだろう。
「アーサーさん、さっきは誤魔化してくれてありがとうございました」
「構わないよ。それに演劇をやっていることは事実だからね」
「え、そうなんですか?」
先程、刻の鋭い質問にアーサーは機転の利いた回答をしたが、どうやらそれは嘘という訳ではなく、本当に俳優業をやっているらしい。俳優兼魔術師だなんて、なんかカッコよくて憧れるな。
「その話についてはまた今度。今回は君たち日城中魔術部に関わる大事な話があるんだ」
アーサーは再び晴登に向き直り、「大事な話」だと前置きをした。
「まず、時間が経ってしまったが……魔導祭最終日、スサノオが襲来して君たちを危険に巻き込んでしまったことについて。これは完全に僕たち魔術連盟の失態だ。本当に申し訳ない」
「そんな、アーサーさんが謝る必要なんて……!」
「いや、これは大人の責任なんだよ。しかし、君たち【日城中魔術部】や【花鳥風月】といった、子供たちの勇気ある行動のおかげで奴らを退けることができた。心から感謝する」
まさかアーサーから頭を下げられるとは思わず、慌てて顔を上げさせる。
あの襲撃は事故のようなものだ。誰にも予測できなかったし、防ぎようもない。晴登たちはその状況下で最善だと思う行動を取ったまでだ。謝罪も礼も必要ない。
「では本題だ。魔導祭襲撃後、負傷したスサノオのメンバーが数名あの場に取り残された。よって彼らに尋問を行うことで、ある程度スサノオについて知ることができたんだ。彼らは特に訓練を受けた訳でもない、雨男に従っていただけのただの一般人だったし、割と簡単に吐いてくれたんだが、その内容には共通点があった」
「共通点?」
「言い分は様々だったが、共通するのは『スサノオの目的は夢を叶えるため』だということだ」
「夢を叶える……」
大事な話というのはやはりスサノオ絡みの話だったか。
雨男が言っていた、新魔術師云々の話が目的だと思っていたが、どうやら本当の目的が他にもあったらしい。
漠然としているが、もし本当に願いが叶うのであれば従う理由としては十分魅力的である。
「でもどうやってですか?」
「古来より、願いを叶える手段といえば神様に願うことだ。つまり奴らは神様を招く儀式、『神降ろし』をやるつもりだろう」
「神、降ろし……?」
「文献で読んだだけだから具体的にはわからないが、その儀式には莫大な魔力と『神力』が必要になるそうだ。奴らが優勝杖を奪ったのは、この魔力を補うためだろう」
「えっと、神力って……?」
「文字通り、神様の力のことさ。神様が御座す土地のことを『神有地』なんて呼んだりするが、その地域は神力によって魔力に溢れていて、魔術師にとって絶好の環境となる。だがその力を奪われてしまえば、たちまち土地は神の加護を失い、次第に土はやせ、草木は枯れ、生き物は住む場所を失ってその地を離れる。つまり、土地が死んでしまうんだ」
ここに来て、新出単語が2つも登場してきた。しかもどちらも『神』絡みである。宗教の話でもされているのかと思ったが、アーサーは至って真面目に説明してくれているので事実なのだろう。
「ここ2ヶ月の間に、スサノオによって神有地が襲撃され、神力が奪われる事件が全国で20件以上起こっている。そして今後も増え続けるだろう。早急に対策を練る必要がある」
「そんなに!? でもどうやって……?」
神力はその土地を支える神様の力。その力が奪われると土地は死ぬ。しかもその力を利用して神降ろしを行うことで、スサノオは願いを叶える。要するに……ヤバいということだろう。
しかし対策といっても、全国の神有地のどこが襲撃されるのか予想できない限り、防ぎようがないのではなかろうか。
「襲撃された神有地を並べてみると、奴らは基本的に神力の強い……いわゆる、レベルの高い神有地を狙う傾向があるようだ」
「つまり、まだ残っているレベルの高い神有地で待ち伏せするってことですか?」
「そういうことだ。だが各地で待ち構えて戦力を分散させてはスサノオには対処できない。だから守護する神有地は最小限に抑える。例えばここ、日城中学校とかね」
「え!? ここ神有地なんですか?!」
何とか噛み砕きながらアーサーの話を聞いていたが、唐突に知らない事実を叩きつけられて大声を出してしまう。人気のない屋上に来ていて正解だった。
「知らなかったのかい? 資料によると、日城中学校は国内でも最高レベルの神有地らしい。証拠は例えば……神様を祀った祠なんかは見たことないかい?」
「いえ……」
この学校は不思議なことがいっぱいあるから、それこそ神様がいたとしてもおかしくはない。
というか、神有地が魔術師にとって最高の環境なら、この学校が魔術師育成機構とやらに指定されているのも納得がいく。
「何にせよ、スサノオは日城中学校を必ず狙ってくる」
「そんな……!」
ただの学校……ではないが、一般人もたくさんいるこの土地がスサノオに襲撃されてはたまったもんじゃない。被害は魔導祭の時と比にならないだろう。
「そのために僕たち、魔術連盟がいるんだ。実はもう、日城中学校には監視役を派遣している。これからスサノオが動きを見せれば、僕たちがすぐに駆けつけられるようにね」
「なら安心……なんですかね?」
「いいや、絶対安全とは言い切れない。日城中学校は魔術連盟の管轄下だが、僕らの監視はとある理由で外部からしかできない。内部からの監視は生徒である君たちの力を借りる必要がある。この文化祭みたいな人混みの多いイベントならなおさらね」
監視が付いたからといって晴登たちは何もしなくていいという訳にはいかない。確かに、文化祭などの大イベントにはトラブルは付き物だ。それがスサノオによるものだとしたら、真っ先に対処に動くべきなのは魔術師である晴登たちとなる。
守られてばかりというのはもう飽き飽きしていたところなので、それくらいの役目は買ってでも引き受けたいところだ。
「他にも、もう既に学校にスパイが紛れ込んでいる可能性もある。こちらで尾行などはできるが、学校内での行動を全て把握することはできない」
「なるほど……」
考えたくはないが、当然その可能性も捨て切れない。今この瞬間に何者かの手引きでスサノオの襲撃が始まったとしても、何ら不思議ではないということだ。あの鉛の雨がまた降ってくると考えると頭が痛くなる。
「とにかく、少しでも怪しい人物がいるなら、この連絡先から僕に伝えて欲しい。僕から監視役に伝えておくよ」
「わかりました……」
「周りの人を疑うような真似をさせて本当に申し訳ない。だが、これは魔術界隈だけの問題じゃないんだ。奴らの望みはわからないが、神降ろしが行われればこの世界の均衡が崩れかねない。それだけはあってはならないんだ」
世界が懸かっていると言われると、裏世界でのことを思い出す。
魔術連盟としても、日城中は最後の砦といっても過言ではないだろう。絶対にスサノオを倒すのだと、アーサーの言葉からその気概が伝わってくる。
「これは忠告だよ、三浦 晴登君。君はもう争いの渦中にいる。今後、君と君の周りの人に危険が及ぶかもしれない。彼らを守りたければ、君は戦わなければならないんだ」
「……っ」
晴登のことを真っ直ぐ見据えて、アーサーはそう告げた。他人事ではない、お前は当事者なのだと。力を持っている以上、力のない者を守らなければならないのだと。この一連の騒動が終わらない限り、日常は帰ってこないのだ。
「話は以上だよ。時間を取ってすまなかったね。一緒にいた彼女たちにも謝っておいて欲しい。じゃあ僕はこれで」
「もう帰っちゃうんですか?」
「僕の使命は伝令役だけだからね。それに、ここの魔力は僕にとって少し異質だから、あまり長居はしたくないかな」
「そうですか……」
恐らくそれが『とある理由』というものだろう。晴登には神有地ごとの魔力の違いなんて全然わからないが、アーサーのような実力者には影響があるのかもしれない。
最後にアーサーは手を振ると、なんとフェンスを飛び越えて屋上から飛び降りてしまった。慌てて下を見てみるが、もうアーサーの姿は見当たらない。
「……俺が、皆を守るんだ」
そう決意を新たにし、晴登はアーサーに対して深くお辞儀をするのだった。
一方その頃、アーサーは大衆の視線を浴びながら颯爽と正門を抜けていた。その瞬間、さっきまで続いていた肌をチクチク刺すような刺激感がすっと消える。
「この異質な魔力が及ぶ範囲はちょうど学校の敷地と同じくらい、か。この学校の生徒であれば害はないが、外部の魔術師にとっては過酷な環境になる。ここの神様は余程この学校に執着しているみたいだね」
そう言い残し、アーサーは日城中を後にした。
*
アーサーとの話を終え、結月たちと合流してからも特に何事もなく文化祭を回り、1日目の日程は終了した。この後は一度自分たちの教室に集まり、1日目の片付けや2日目の準備を行う。
ただ、アーサーから聞いた話のインパクトが強すぎて、後半はあまり文化祭に集中できなかった。
内容を整理してから、折を見て各部員に伝えようと思う。刻と狐太郎はまだスサノオについても知らないので、どうやって説明するかはこれから考えよう。
「お疲れ〜」
「晴登〜!!」
「うわ、何だよ大地。その格好で抱きついてくんな!」
教室に戻って来て早々、メイド姿の大地が胸に飛び込んでくる。何とか受け止めたが、大地がこういうスキンシップをしてくるのは珍しい。
「何かあったのか?」
「このカフェ、結構話題になってたみたいで、午後になってからも客入りが凄くてよぉ、人手が足りなくて大変だったんだよぉ。何で助けに来てくれないんだよぉ」
「いや俺シフトじゃねぇし。でもそこまで人が来るのは予想外だったな。明日は少し制限した方が良いかもしれない」
「ダメダメ! それじゃ売上が下がっちゃう! 私たちが頑張れば良いのよ!」
「うぇ〜ん、勘弁してくれよ莉奈ちゃ〜ん!」
あんなに息巻いてた大地がここまで弱るなんて。実は女装の影響が出ているのかもしれない。莉奈はいつも通りだけど。
「お、いたいた晴登」
「ただいま! 晴登君!」
「おかえり二人共。一緒にいたの?」
「いや、帰ってくる途中で会っただけだ」
大地を引き剥がしながら、教室に戻ってきた伸太郎と狐太郎に声をかける。2人は晴登と共に午前シフトだったので、午後が自由行動だ。
狐太郎は両親に会ってくるとは言っていたが、まさか伸太郎は1人で文化祭を回っていたのだろうか。それなら誘えば良かった……って、そういえばあの時は不機嫌だったから誘いにくかったのだった。
「でも今なら良いよね。聞いてよ伸太郎、狐太郎君がさ──」
「魔術部に入ったんだろ?」
「あれ……?」
時は来たと、もったいぶって衝撃の事実を伸太郎に突きつけようとしたところ、逆にしてやられて呆気に取られてしまう。
狐太郎を見ると、「あっ、言っちゃいけなかった?」と言わんばかりに両手を口に当てていたので、どこから情報が漏れたのかは察した。
「ご、ごめん晴登君。さっき会った時に言っちゃって……」
「いやいいよ。伸太郎を驚かせられなかったのは残念だけど……」
「いや、十分驚いたけどよ。薄々気づいてはいたが、やっぱり魔術のせいだったんだな」
「そうなんだよ……って、え? 気づいてたの?」
「そりゃ普通に考えておかしいだろ」
「普通に、考えて……そうだけど……」
サプライズに失敗し、がっくりと肩を落としていると、伸太郎からの追い討ちの一言を喰らい、さらに項垂れる。
いつも思うのだが、重要なことに晴登だけ気づいてないパターンが多すぎやしないだろうか? 自分の勘の悪さが嫌になってくる。
「それで? 何でそんな話になったんだ?」
「あ、それはね、かくかくしかじかで──」
傍から見れば、晴登と狐太郎は急に喧嘩を始めた挙句、仕事を放棄して教室を出て行ったのに、帰ってきたら仲直りどころかさらに親しげにしていたのだから、疑問符が浮かぶのは当然である。
なので、晴登と狐太郎が最初から順を追って説明した。
「……おぉ、結構ヘビーな話してたんだな。悪かったな、何も知らずに怒っちまって」
「気にしないで。元はと言えば僕が蒔いた種だった訳だし」
「そこまで自分を悪く言う必要ないって。そういえば、あの後両親には会えたの?」
「うん! 久しぶりで緊張したけど、やっぱり僕はお父さんとお母さんが好きみたい。もう迷惑かけないように頑張るよ」
「それは良かった」
狐太郎と彼の両親の間にあったわだかまりはもう完全に解消したようだ。身勝手だったが、結果的には世話を焼いて良かったと思う。
狐太郎は自分の役割に戻り、同様に伸太郎も持ち場に戻ろうとしたところで、
「待って。他にも伸太郎に相談したいことがあるんだけど」
「まだ何かあるのか?」
結月や刻にはまだ話せないが、難しい話をする上で信頼できるのが伸太郎だ。さっきアーサーから聞いた話を伸太郎にだけは先に共有しようと思う。
「場所を変えようか」
「……わかった」
教室で話すには内容が内容なので、場所を移そうと提案すると、その晴登の意図を察して伸太郎はついてきてくれた。そしてそのまま教室を出て、人気の少ない場所までやってくる。
「それで? 相談って何だよ」
「実はさっきアーサーさんに会ったんだけどさ」
「は? 文化祭に来てたのか?」
「うん。目的は魔術連盟からの伝令なんだけど──」
晴登はさっきアーサーから聞いたことを自分なりに整理しながら、伸太郎に説明する。
スサノオの目的と手段、魔術連盟の対策、晴登たちの役目。こうして説明していると、自分でも内容を把握できてきた。
説明を終えたところで、伸太郎が額に手を当てる。
「……話が飛躍しすぎて全然ついていけないんだが、本当にそう言ったのか?」
「俺だって信じられないよ。でも、事態は結構深刻みたいなんだ」
伸太郎の反応も晴登同様、半信半疑といった様子だ。しかし、アーサーが言うのだから紛れもない事実である。納得できなくても、そういうものだと受け入れる必要があった。
「わかった。俺も気をつけておく。結月たちには伝えたのか?」
「文化祭の間は伝えないでおこうかなって思ってるけど、それは悠長かな?」
「……いや、良いと思う。それよりも、2年生や3年生の先輩たちに伝える方が優先だな。多方面から警戒できた方が良い」
「はっ、確かに。明日探してみようかな」
やはり、伸太郎に意見を仰いだのは正解だった。こんな問題、一人で抱え込むには限界がある。
早くても明日、2年生の先輩や終夜たちを探して情報を共有しておこう。引退したとはいえ、終夜たちなら協力してくれるだろう。
「じゃ、俺は会計の件で職員室に用事あるからこのまま行くわ」
「あ、うん。ありがとね」
「別に。仕事だしな」
教室を出たついでに自分の仕事をしようとする伸太郎に、晴登は部長としても学級委員としてもお礼を言う。すると彼はこちらを振り返ることなく、ひらひらと手を振って応えた。
「……ふぅ」
伸太郎に話して、胸のつかえが取れた気分だ。
現状を嘆いてもしょうがない。ここはいずれ戦場になる。しかし仲間と協力すれば、スサノオだろうとどんな相手だろうと立ち向かえる。今までそうして日城中魔術部はやってきたのだ。
「まずは文化祭を成功させなきゃな」
その最初の足がかりとして、この文化祭は必ず成功させる。そう決めた。明日も頑張るぞ!
*
「俺の知らないところで話が進みすぎてないか? 神様とか、スケールがデカすぎるっつーの」
晴登と別れてから職員室に立ち寄った後。ぶつくさとボヤきながら、伸太郎は教室へと戻っていた。
決して仲間外れにされたようで寂しいとかではないが、どうせならその場に居合わせたかった。話で聞くだけだとどうにも当事者である実感が湧かない。
とはいえ、要は周囲への警戒を怠るなという忠告である。スパイの可能性もあるなんて、魔術連盟は余程慎重を期しているらしい。心当たりがない訳ではないが──
「……が……なんて、……たね」
推理をしていると、何やら話し声のような音が耳に入った。
声の主は……目の前の階段の踊り場だろうか。ここは人通りのない所だし、秘密の話でもしているのだろうか。それならあまり関わらない方が身のためだが、
「……は……より……かも」
「あれは……天野か? 誰と喋ってんだ……?」
スルーしようと思っていたが、通り過ぎる時に横目でちらりと確認するとそこにいたのは刻だった。誰かに話しかけているようだが、伸太郎からは死角になっているので対面に誰がいるかは見えない。
関わらないに越したことはないが、それが刻であれば話は別だ。皆には悪いが、伸太郎がスパイの可能性で真っ先に思い浮かべたのが転校生である刻なのだから。
ここからじゃ誰と何を話しているのかわからない。彼女の正体を探るためにも、バレないようにもう少し近づいて──
「あ、伸くんお疲れ様です〜」
「うぉっ!? き、気づいてたのか」
「さっきからチラチラ見てましたよね? 気づいてますよ〜」
ぐりんと首を動かして、笑顔で伸太郎に挨拶する刻。まさかこんなすぐに気づかれるとは思わず、思わず変な声を出してしまった。
見つかってしまったのならしょうがない。正面から探りを入れよう。
「な、何やってんだ? こんな所で」
「もしかして聞かれてました? いや〜お恥ずかしい。うち、マジシャンという職業柄、独り言が癖になってしまってまして〜へへ」
「その割には会話みたいに聴こえたんだが?」
「そりゃ観客と会話しないとショーは成り立ちませんからね。空想の観客を相手に何度もマジックを練習したりしてますよ。……別に友達がいないとかじゃないですからね!?」
てっきり誰かと話していると思っていたので、その対面に誰もいないのは驚きだった。
しかし、その場にいない誰かと会話してたのなら「電話をしていた」とでも言い訳することもできただろう。それなのに「独り言」だという理由を使うのはなぜだろうか。熱心にマジックに取り込む彼女のことだから、本当か嘘かは正直判別できない。愚直さを考慮すれば本当寄りか。
「どうせ俺よりは友達多いだろ。聞き耳立てて悪かったな。虚空に話しかける変な奴かと思っちまった」
「確かにそうですけど〜。練習してるとこ見られるの恥ずかしいんで、オフレコでお願いします!」
「はいはい、見なかったことにするよ。じゃあな」
「はい、また明日〜」
すぐに取り繕ってその場を離れる伸太郎。刻は笑顔を見せて、手を振って見送ってくれた。
疑いが確信に変わることはなかったが、逆に彼女の容疑が晴れることもない。今後も様子見といったところか。
「……びっくりした〜。ここには人来ないと思ったのに、よりによって伸くんに見つかっちゃうなんて。もしかしてうちって警戒されてる?」
伸太郎が去った後、何事もなかったことに安堵する刻。
わざわざ人目につかない所を探したのに、人に見つかってしまうのでは意味がない。何せあまり人に聞かれたくはない『会話』をしていたのだから。
それに、晴登や結月とは仲良くなれたつもりだが、伸太郎には一線を引かれているようで、どうにも上手くいかない。警戒しているのか、はたまた人付き合いが苦手なだけなのか。どちらにせよ、打ち解けるにはもう少し時間が必要だ。
『────。──?』
「ダメダメ。焦る気持ちはわかるけど、今は大人しくしておかないと。騒ぎを起こしても余計に疑われるだけでしょ。マジシャンたる者、常に冷静に観客の様子を観察しないと」
刻とは違う声が代案を提示してくる。しかし、そんな野蛮な案は許可できない。魔術部の部員に見られたのは誤算だったが、まだいくらでもフォローはできる。
「今必要なのはミスディレクション。うちに向いた注目をどう利用するか」
『────?』
「そうだね。種が明かされる前に手を打っておこうか」
謎の声と2人だけの会話を済ませて、刻はこれからの方針を決める。まるで、これから盛大なマジックショーでも巻き起こすつもりかのような、楽しそうな表情を浮かべながら。
「──全てはうちらの夢の舞台のために」
後書き
お久しぶりです……って毎回言ってる気もするけど、お久しぶりです、波羅月です。今年ももう4分の1が過ぎました。早くね?
時の流れは早いもので、前回の更新から色々なことがありました。小説はいつの間にか累計15万PVを達成していたようでとても嬉しいですし、リアルではインフルエンザに蝕まれながらも卒論を書き終えて無事大学を卒業できて晴れ晴れとした気分です。とはいえ、まだ引き続き学生をやっていくので、やっぱり憂鬱です……。
さて、今回のお話ですが「読む小説間違えた?」レベルで混沌とした内容になっていたかと思います。僕自身、混乱しすぎて内容を途中で大幅に書き変えたぐらいですからね。ですが、これが真実です。今後はこういう路線です(路線とか言うな)。頑張ってついてきてください。
更新ペースが滞っていますが、今後もこんな調子になる予感がします。完結まであと少しというところまで来ているのですが、道は険しく一歩一歩が重いです。更新を気長にお待ちください。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では!
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