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邪教、引き継ぎます

作者:どっぐす
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第二章
  19.キラーマシン

「フォル。なぜキラーマシンに頭を下げた」
「はい。右から二番目のキラーマシンさんに、昨日の雪かきでお世話になりましたので」
「一体一体の違いがわかるのか」
「はい。少し(たたず)まいに差があります」
「ふむ、そうか……」
「?」

「お前は知らないだろうが、キラーマシンたちは元々この世界のものではない」
「ベリアル様たちと同じ世界から呼ばれたのでしょうか」
「いや、また違う世界からだ」
「それでお姿が独特なのですね。ハーゴン様が呼び出されたのです?」
「召喚したのはハーゴン様ではない。はるか昔にこの世界を支配していたという大魔王、ゾーマという者だとされている」
「大魔王ゾーマ様、ですか。きっとものすごいおかただったのでしょうね」
「大きな力を持っていたのは間違いない。だが、彼は二つの点で失敗したと伝えられている」
「失敗?」

「そうだ。一つ目は、せっかく呼び出したのに、ゾーマとその部下たちには『動かし方がわからなかったこと』だ」
「え。皆さん動いていますが」
「今はな。結局ゾーマは動かし方がわからないまま、時の勇者によって倒され、キラーマシンたちは使われることなく埋もれていったという。それを発掘し、動かし、教団の戦力に加えたのは……(わし)だ」
「すごいではありませんか! ハゼリオ様が彼らをよみがえらせ、育てたなんて。まったく存じませんで失礼しました」
「まあ、それはよい。二つ目に行くぞ」
「はい」
「文献によると、このキラーマシンは元の世界ではどうやら“最も力なきもの”であり、ゾーマの二つ目の失敗は、異世界の『下っ端だけを大量に呼び出してしまったこと』だということだ」
「そうなのですか」
「このゾーマによるキラーマシン召喚の話、お前は何を思う」

「すみません。すぐには」
「そうか。まあ素直でよい。儂は今もこの件を調査・研究している。このキラーマシンが下っ端ということなら、上はとんでもない力を秘めたものがいるということになる。さらには召喚主の意図に反し下っ端だけが選択的に、かつ大量に召喚されたというのはあまりに不……ん?」
「あ。一つ、思いました」
「なんだ?」
「ハゼリオ様が育ての親ということは、キラーマシンの皆さんと私は、兄弟のようなものということですね。うれしいです!」
「……」
「?」



 - - -



「すみません、寝てしまっていました……」

 大灯台からの帰り。バピラスたちの安定した飛行がもたらす心地よい揺れにより、フォルの意識はいつのまにか飛んでいた。

「よいよい。おぬしには休息が必要じゃ。見張りなら上のバピラスたちがやってくれておる。安心して寝ておれ」

 同じ(かご)に乗っていた老アークデーモン・ヒースが笑う。

「だな。この怪しい人間の見張りはオレに任せて寝とけ」

 格好はボロボロだが体力はすっかり回復したバーサーカーの少女・シェーラも、フォルの隣に座る青年を胡乱げに見ながら、老アークデーモンに同調した。

「怪しい人間っておれのことか。ひどいなあ」

 大灯台の最上階で出会った謎の助っ人。名を聞かれタクトと名乗ったその青年は、彼女に指を差されて肩をすくめる。

「思いっきり怪しいだろ。空は飛んでたわキラーマシンは動かしてたわ……だいたい、元々信者でもなかった人間が今の時点でこっち側についてなんの得がある」

 ちなみに、彼が復活させたキラーマシンや最上階から取り外された望遠鏡、もう飛べないという台座のようなものについては、明らかに過積載であったため、同じ籠には乗っていない。大灯台の最上階で笛を吹いたら追加でバピラス三体の召集に成功したため、いまフォルたちの後ろでぶら下げられて運ばれている。
 ただし、あれだけ高く周囲に何もないところから笛を吹いて三体だけというのは、やはり相当に深刻な個体数の減少があるのではないか、というのが老アークデーモンの考察である。

「得がないからつくんだって。こういうのって不利なほうについたほうが絶対ワクワクして面白いんだから。だいたい、きみだって服がビリビリに切れてておへそ丸出しだし、もうちょっとでおっぱいも見えそうだし十分怪しいと思うよ」
「……バーサーカーは義理堅い種族だ。薬草の恩はどこかで返すが、返せ次第お前は斧でバラす」
「うわ、こわっ。じゃあここでもうちょっと恩を売っておこうかなあ」
「まだ何か持ってきてんのか」
「うん。今の話で思いついたというか。これはきみに着てもらうのがよさそうだ。背の高さもおれと同じくらいみたいだから合いそうだし。色も緑っぽいからちょうどいい」

 青年は道具袋に手を入れる。

「はい。こっちに来てからまだ一度も着てなくて清潔だから、安心して」
「なんだこれ、軽いな。少し小さくないか……って、伸びるのか。しかも妙にツルツルで薄いな」

 バーサーカーの少女に手渡されたそれは、緑色の服だった。上下には分かれていない。

「それ、おれたちの国での作業服なんだ。こっちでは戦闘服として十分使えるはず。動きやすくて、薄いけど頑丈で、自己修復機能もあるし、動いて熱くなった体を冷やす機能もあるから、戦うときの距離が近そうなきみには相性抜群だと思うよ。こうやってこのツマミを滑らせるように開けて、体を入れて、ツマミを戻していくと、スルスルッとすぐに着られるようになってるんだ。だまされたと思ってさっそく着てみて」
「フン。説明はまったくわからないが、早く着替えたかったから着てみる」

 彼女は立ち上がると、全員に反対側を向かせ、着替えた。

「……なるほど。これはよさそうだ」

 立ち上がったまま、腕や脚を動かして着心地を。自分で体を叩いて強度を確かめている。
 緑と濃紺が基調になっているその服は、首から下のほぼ全身を覆っていた。
 やはり薄そうではあるが、肩や膝などの関節部分や、首の後ろから背中の上部にかけては、何やら金属で覆われているようだ。

「でしょ。体にピタッと密着するから何も着てないのと勘違いするくらい動きやすい。あ、けど、頑丈であっても無敵というわけではないのと、たまに日差しに当てないと機能が落ちるので注意して」
「日差しが好きな服か。それはいいな。日が当たるところで堂々と暮らすのがオレたちバーサーカーの悲願だ。ありがたくもらうぞ。お前を斧でバラすのはこの恩も返してからにする」
「結局おれは斧で解体されるのか、やべえな」
「タクトよ。それ、たくさん作れたりはせんのかのお?」

 ここで質問してきたのは老アークデーモンである。
 そんなによい服なら量産して他のバーサーカーにも着させては、という提案だった。

「んー、残念ながらおれは作れないから無理なんだよね。この一着だけ」
「おいおい。一つしかないのにオレに渡していいのかよ。まあもう返す気ないけどな」
「全然かまわないよ。おれ戦いの経験はないんで、ここじゃおれが持っててももったいないだけ。それに……」

 青年は、やはりボロボロになっていたフォルの魔術師のローブを、指差した。

「それがめちゃくちゃ着てみたくてさ。部下になるんだから、おれの分も用意してくれるんだよね?」
「もちろんです。裁縫道具も無事に見つかってますので、帰ったらすぐにお作りしますよ」
「やったー。かっこいいよね、その信者服と仮面」
「ありがとうございます! そう言ってくださると、きっとハーゴン様もハゼリオ様もお喜びになると思います」
「……いや、かっこいいか? それ」

 バーサーカーの少女は、若干呆れ顔だった。

「そうだ。ロンダルキアでも停止してるキラーマシンがけっこうあるんだよね?」
「はい。残念ながら全員やられてしまいまして。魂が抜けてしまったキラーマシンさんがたくさんいらっしゃいます」
「よーし。ロンダルキアに着いたら片っ端から動かせるか試してみるよ」
「ありがたいです。有事にもぜひキラーマシンさんたちの指揮をとってくださるとうれしいです」
「おー、いいねそういうの。引き受けた! おれがキラーマシン隊の隊長! 面白そう」
「いや、お前本当に何者だよ」
「何者でもないよ。おれはただの人。でもキラーマシンはおれらのご先祖様たちが作ったものだからね。だから動かしかたと指示のしかたを知ってるだけ」

 サラッと言われた重大な事実。他の三人は体がビクンとなった。

「ふふふ。驚いてる驚いてる」

 一同、『当たり前だ』である。

「じゃあ代表フォルくん、おれに聞きたいことがあったら質問どうぞ。答えるよー」

 その空気を楽しむように、謎の青年が明るく問いかける

「すみません。いっぱいありすぎて何から聞いたらよいかわかりません……」
「ふふふ。じゃあとりあえず、フォル君の頭の中で一番はじめに浮かんだ質問だけどうぞ」
「そうですね。タクトさんはどこから来たのか、です」
「おれは、あっちから来た」

 彼が指で指し示したのは、真っ青な空だった。

「空から、ですか?」
「空の向こう、かな」
「やっぱり神様か精霊様なのですか」
「それが違うんだよなあ。残念」
「そうですか……。でもキラーマシンさんを作ってくださるようなところであれば、きっと素敵なところだったのでしょうね」
「あー、昔は知らないけど、今はクソみたいなところだ。だからおれはこっちに来たのさ」

 突然少し声が低くなったので、フォルは驚き、彼の表情をあらためて見た。

「細かい事情は話すとちょっと長くなるから、みんなひどくお疲れのときに話すもんでもないかな? いつか話すよ」

 表情までは変わっていないようだった。飄々(ひょうひょう)とした笑顔。
 ただ、どうやら故郷のことをよくは思っていないようであった。

「はい。タクトさんの気が向いたときでかまいません」
「うんうん。おれはもう君の部下。ワクワクさせてくれるうちはどこにも逃げないからね」
「ってことはワクワクしなくなったら逃げるってことか。いい度胸だな」
「うわー、こわ」

 斧に反射した日差しで顔を直射された青年が、ブルっと震えた。

「まあまあ。めでたく全員生還したわけじゃし、仲良く凱旋といこうかの」

 老アークデーモンが笑いながらなだめる。
 やるべきことは依然として山のように積まれている。だが束の間の安息を、一同空の上で楽しんだ。 
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