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色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
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第14話:妖精と侍

セツナperspective

荷物をまとめ建物を出る。
がちり。ドアの鍵を閉めジョナサンへと渡した。
「次はどこへ行くつもりだ」
「とりあえずグリジットだな。何かあればギルド経由で連絡するさ」
「何度も言うようだが他国で問題は起こすなよ。一応君はこの国で称号を授かった英雄なんだからな」
「分かってる」
ツキツバの指示もあってか、私はジョナサンに本当の事は言わない。本当の目的地はフェアリーの里だとは。
「また会おう」
「元気で」
ジョナサンと握手を交わす。
彼にはずいぶんと世話になった。
次もお互い元気な姿で言葉を交わしたいものである。
でも、私達は逃げるようにして街を出た。

王都を出た後、隣国のグリジットへと無事に入る。
グリジット国は比較的小さな国だ。
その大部分は森林に覆われ、伝説が数多く存在する神秘的な国でもある。
おまけにフェアリーが暮らしている事でも有名だ。
そして、この国には聖武具の神殿も存在していた。
「今日はフェアリーの隠れ里へ向かうのですよね?」
「そうするつもりだ。なんせフラウが来い来いって五月蠅いからな」
「ですが、これだけ頼まれてそれを無下にするのは如何なものかと」
ツキツバはどこかお人好しなところがある。
ま、ヒューマンに奴隷扱いされて者同士のよしみだしな。付き合ってやるか。

パチパチ。焚き火の中で枝がはぜる。
森に入って2日、私達はフェアリー族の隠れ里を目指して進み続けている。
「すぴー、すぴー」
ノノとフラウが一足先に寝ている。
とは言っても、長年の習慣で野営は眠れない事が多い、安全に眠れると解っていても結局起きてしまうのだ。
「たすけてください……を……」
酷い夢を見ているようだな。
もしかして奴隷商にいた頃を思い出したのだろうか?
私はすぐ傍まで近づいて頭を撫でてやる。
そんな私を観ていたツキツバが話しかけてきた。
「怒っておらぬのか?」
「……フラウの事か?」
「……ああ。この前の競売、あの場にセツナ殿を連れて往けば、セツナ殿は戦う意思の無い者達と合戦すると思い―――」
「だろうな。ノノの奴にも『あの時のセツナさんは本当に怖かった!』って言われたよ」
これもまた、ツキツバなりの気遣い……なのだろう。
多分ツキツバの美学も含まれているとも思うがね。
それに、順序や経緯はどうあれ、ツキツバがフラウを助け出した事は事実だしな。
「それより」
ん?
「フラウ殿の村が無事であれば良いのですが、フラウ殿があの競売場にいた時点で嫌な予感がするのです……某の杞憂であれば良いのですが……」
ツキツバ……アンタは本当にお人好しだな。
でも、気にはなる。
悪質な奴隷商にとってフェアリーは格好の商品だ。それを手に入れる為ならどんな手段を使って来るか……

ノノ・メイタperspective

「うりゃ!」
フラウさんがハンマーでゴブリンを弾き飛ばす。
そこから高速旋回してゴブリンの集団を蹴散らした。
木の枝に着地した彼女はドヤ顔でふんぞり返る。
「こう見えてそこそこ出来るのよ。主様もフラウを見直したでしょ」
悪い。本当はめちゃくちゃ見くびってた。
なにせレベル300のツキツバさんと一緒だったから、レベル30がどうしても低く見えてしまって……
それがどうだ、フラウさんは高速飛行でレベルの低さを余るほど補っていた。
素早さを自慢とするゴブリンライダーすらも手玉にとって勝利して見せたのだ。
「あれ、レベルが35になってる?」
「それは僕のスキルが原因です。パーティーに経験値倍加効果を付与するらしくて」
「ぬえぇぇえっ!?なにその反則スキル!」
「そう思いますよね?でも事実だからしょうがないんです」
これからフラウさんはレベルをどんどん上げて行くだろう……レベル上限3の僕を置き去りにしながら……(涙)
その時、茂みから小さな影が飛び出し、ツキツバさんが咄嗟に手甲で攻撃を弾いた。
「ヒューマンめ、このパパウの攻撃を防ぐとは」
空中にいたのはフラウよりも少し大きな中年の男性。
その背中にはフェアリーの証である羽があった。
彼の右手には、ギラリと光を反射する片手剣が握られていた。
「パパウでは駄目だったか、だったら一斉攻撃だ!」
「おおおおおおっ」
森の中から次々にフェアリーが飛び出す。中には女性の姿もあり、合わせて50人近くのフェアリーが空中を自由自在に飛び交った。
それを観たセツナさんが皮肉を言う。
「おいツキツバ、フェアリーの里は無事みたいだそ」
「その様ですなぁ」
セツナさんとツキツバさんは、フェアリーの里が無事なのを確認出来た事を喜ぶかの様に笑ってますが……
レベル3の僕にとってはこれだけでも致命傷なんですよぉーーーーー!
「よくもフラウがいない間に主様を」
「フラウ!?フラウなのか!!」
「そこにおわす方は偉大なる種族のツキツバ様よ!そして、フラウは主様の忠実な奴隷!あんた達がやった事はフェアリー族にあるまじき行為なの!」
フラウさん……それをもっと早くに言ってください!
でも……僕のレベル上限が低過ぎるのも改めて問題だよなぁ……
早く何とかしないと!
そうこうしてる間に、フェアリー達はは一斉に地面に下りて片膝を突いた。
「まさか我らが崇拝する偉大なる種族だったとは。大変なご無礼をお許しくだされ」
代表者らしき老年の男性が頭を垂れる……
……なんか……豪い事になってきたぞ!?

月鍔ギンコperspective

すすっ、真上から老年の男性が下りてくる。
「もう間もなく里に到着ですじゃ」
「案内してくれてありがとう」
「いえいえ、偉大なる御方を我が里へお招きできるなど光栄の極みですじゃ。ぜひフェアリーの楽園でごゆるりとお過ごしくだされ」
一団は急に停止する。
そこは巨石の並んだ場所だった。
石には見慣れない文字が刻まれている。
ま、この世界に来てからと言うもの、見慣れない物をうんざりするくらい見てきましたがね。
……違う!違和感がある!
なにがおかしいかは解りませぬが、この先は今まで通ってきた道とは明らかに違う!
よく視ると、某の周りにいたふぇありーの数が心なしか減ってる気が!?
「え!?おい、消えたぞ!?」
「あれは結界を越えたからですじゃ」
老年の男性も岩の先へと消える。
つまり、この石は風景に溶け込んだ幕の様な物か?
某達もその幕を越えてみる。
「おぉーーーーー!」
ノノ殿が驚くのも無理は無い。
一面の花畑に視界が埋め尽くされる。
風が吹き花びらが舞う。
振り返れば巨石を境に森が途切れていた。
彼らの住処はそれほど広いわけではなく、色とりどりの花畑の中央に村らしき建造物群が存在していた。
村へと続く道にはきちんと柵が設けられ、内側では牛が草を食んでいる。
至って某が見て来た他の村と変らない暮らしがここにはある様です。

「ささ、粗茶ですが」
「かたじけない」
老年の男性にお茶を出され一口啜る。
強い花の香りがして冷たくて美味しい。抹茶とは違う独特の風味があった。
「喜んでもらえたようですな」
聞けば彼はこの里の長らしい。そして、フラウ殿の祖父なのだとか。
そんな事より、
「遠慮無く訊きたいのですが?」
「何でしょうか?」
「先程の風変わりな幕さえあれば、そう易々と捕まるとは思えないのですが、何故フラウ殿だけこの前の競売場にいたのですかな?」
その途端、長の表情がみるみる暗くなり申した。
「わが里は現在、危機的状況にありまする。里の者ではどうにも出来ず、やむを得ず外に助けを求める事にしましたのじゃ」
「でもヒューマンは嫌いなんだろ?」
「その通りですじゃ。そこで我々は比較的交流のあるエルフに声をかけたのですが、彼らは『アレは古代種でなければ止められない』などという始末で」
ん?古代種?
「で、フラウが偉大なる種族を探しに外へ出たの。1年以上探し回ったわ。もう見つからないかもって思い始めていたところで、運悪くヒューマンに捕まって売り飛ばされたの。それがまさか幸運だったなんてほんと驚いた」
そういった経緯があったのか。
某があの日あの場所へ行かなかったら出会いはなかった。
結局、ロアーヌ殿がお勧めしていた出品物は分からなかったが、彼が背中を押してくれなければフラウ殿はここにはいなかったのだ。
「それでフラウ殿がこの村の外に出されたのですな?」
「フラウは偉大なる種族に祈りを届ける事が出来る巫女なのですじゃ。祈りの声が聞こえると言う事は、すなわちその者は龍人。孫であるフラウ以外に適任はおりませんでした」
あの懇願は巫女とやらの特殊な能力でしたか。
しかし、引っかかる点が一つある。
「なぜ某なのですか?何か理由が?」
某の質問に皆が首を傾げる。
え?……某って、変な事を言った?
ただ、セツナ殿だけはある仮説を申しました。
「恐らく、お前さんをこの世界に飛ばしたホトケ様に関係が有るんじゃないのか?」
「仏様が?」
で、某のせいで広がってしまった変な静寂を打ち破ろうと、ノノ殿が話を急かしました。
「で、その危機的状況とは?」
「直接その目で見ていただければ話は早いかと」
長は某達を連れて外へ出る。

セツナperspective

不快な金属のきしむ音が響く。
時折、ミシミシと複数の大木から不穏な音も聞こえた。
「あれがこの里を滅ぼそうとしているものですじゃ」
長が指し示す先には、くすんだ色の金属製の人形があった。
身の丈はおよそ5メートル、各部位はブロックを組み合わせたような感じで、印象としては威圧的で堅牢な金属人形である。
「ゴーレムじゃないか」
「ヒューマンが作るようなただのゴーレムではありませぬぞ。これは偉大なる種族が残された、オリジナルゴーレム、力も防御力も桁外れの怪物ですじゃ」
オリジナルゴーレムは、太いツタで手足を何重にも縛られ周囲の大木に繋がれている。
奴が藻掻く度に木々がミシミシと悲鳴をあげる。
通常、錬金術師が作り出したゴーレムは命令に忠実だ。
人に危害を加えないし、自己判断で命令を書き換える事も無い。
このゴーレムはどのような命令を受けて動いているのだろう。
「どこから来たんだこいつは?」
「今までは近くの遺跡で眠っておったのです。それが突然目覚めて、里の者達を襲い始めたのですじゃ。なんとかここに縛り付けたはいいもの、頑丈過ぎて壊す事もできないのが現状でして」
ゴーレムに近づいて視る。
赤く染まった目はツキツバを見るなり青くなった。
だが、すぐに赤に変化する。
ゴーレムはギギギギ、と音を響かせ微細に震えた。
壊れているらしい。
なんとなくそんな感じがする。
「どうでしょうか偉大なるツキツバ様」
「ギンコで構いませぬ」
「とんでもない!我らが崇める偉大なる種族のツキツバ様を呼び捨てなどと!むしろ我ら全員がフラウのように奴隷となり『主様』とお呼びしたいほど!」
「申し訳ありませぬが、お断りいたします」
ツキツバが困惑しながらすっと隣に立つ。
「どうする気だ?」
すると、ツキツバがゴーレムに話しかける。
「天晴です。満身創痍でなお合戦を望むその気概。しかし、長くはもたぬ。苦しみも尋常ではない筈」
ツキツバが聖剣を抜く。
「『介錯』仕る」
いけるだろうか?
相手は聖剣と同じ神代の物。もしかしたら斬れないかもしれない。
が、そんな不安は邪推と言わんばかりに聖剣を振り上げるツキツバ。すると、刃はトマトを切る様に抵抗もなく通り抜け、オリジナルゴーレムは真っ二つとなって地面に倒れる。
うん……ツキツバはレベル300でしたね。 
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