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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第2章】StrikerSの補完、および、後日譚。
  【第7節】新暦75年の11月と12月の出来事。



そして、新暦75年11月の上旬、リンディは昨年の7月に「三元老とお茶会」をして以来、また久しぶりに〈本局〉を訪れました。直接の上司らに会う前に、事前に少し話をつけておきたくて、先に親友であるレティ提督のオフィスに立ち寄ります。
 すると、約束の時間よりも少し早かったせいか、レティはまだ人事チェックの最中でした。
「ああ。もう少しだけ待っててくれる? この子で最後だから」

【以下、数行の会話文は、再び「StrikerSのコミックス第2巻からの抜粋」に少し変更を加えたものとなります。】

「ティアナ・ランスター二等陸士、16歳で執務官補佐の考査試験を満点合格か。……なるほどね。これは、なかなかいい人材に育ちそうだわ」
「レティ。随分と嬉しそうね」
「そりゃまあ、若くて働き者の執務官が増えてくれれば、人事部としても、局全体としても助かるからね」
(以下、略)

「ところで、リンディ。今日はどうしてわざわざ〈本局〉に?」
「実は、正式に『転属願』を出そうと思ってね」
「ようやく、あの管理外世界を離れて、〈本局〉へ戻って来る気になった?」
「いえ。むしろ『現地駐在員』になって、本格的に地球に居着こうかと思っているんだけど」
「えええええ?!」
 ちなみに、現地駐在員とは『何かしら問題のある「管理外世界」に駐在して、現地の住民の間に溶け込み、その世界の人々には正体を知られないようにしながら、その世界の監視と〈本局〉への報告を続ける』という「大切だけれど、とても地味な役職」です。
「ちょっと待って! アレって、確か……その世界で生まれ育った人物を採用するのが『大原則』だったんじゃないの?」
 レティは自分の記憶を確認するため、正面モニターで素早く「駐在員資格に関する局の規定」を検索します。

「うん。確かに、第一原則は、そのとおりなんだけどね。でも、それだけだと、『接触禁止世界には駐在員を置くことができない』という話になってしまうから、別の原則も幾つか認められているのよ」
「ああ、この条文ね。……第二原則:その世界に通算で5年以上、生活した実績があること」
「うん。私は今年でもう10年目。(ニッコリ)」
「いや。でも! ……ここには、『ただし、局の学芸員の資格が必要』とか書いてあるわよ?」
「うん。だから……今まで内緒にしていて悪かったけど……実は、私、その資格はもうこっそりと取ってあるのよ」
 レティは驚きながらも、モニターに「リンディ・ハラオウンの個人データ:取得資格一覧」を表示しました。
「ああっ! ホントだ。一体いつの間に?」
「年2回ある試験だから……四年前の春だったかしら?」
「四年前って……まだクロノ君の子供も生まれてない頃の話じゃないの。あなた、そんな頃から、こんなコト、考えてたの?」
「うん。さほどツブシの()く資格じゃないから、試験もさほど難しいものじゃないし。そのうちに、アルフにも同じ資格を取って正式に補佐についてもらうつもりよ」

 レティはひとつ深々と溜め息をついてから、(あきら)め顔でこう(こた)えました。
「解ったわ。あの管理外世界の、一体何があなたをそこまで()きつけているのかは、よく解らないけど、取りあえず、あなたの決意が固いことだけはよく解った」
(やっぱり、クライドさんの(かたき)が討てた時点で、何かが燃え尽きてしまったのかしら?)
 クライドが〈闇の書〉の犠牲になってから、リンディがどれほど真剣に生きて来たか、レティはよく知っています。だからこそ、そんな「誤解」をしてしまったのでしょう。
 リンディの心の奥には、今はまだ他人(ひと)には上手く言えない「ひとつの懸念」が深く根を()ろしていたのでした。(←重要)

 そして、同日、リンディは上司に「転属願」を提出し、上司からの慰留(いりゅう)の言葉をやんわりとした口調で(しかし、断固として)退け、その転属願を受理させてから地球に戻りました。
【そして、翌12月、リンディは辞令を受けて、正式に〈外97地球〉の「現地駐在員」となったのでした。】


 また、同11月上旬、ちょうどリンディが地球に戻った翌日のことです。
〈本局〉の医療部では、ちょっとした「事件」がありました。67年の「戦闘機人事件」以来、丸8年あまりに(わた)って昏睡を続けていたメガーヌ准尉が「全く偶然にも」意識を回復したのです。
 彼女は『戦闘機人事件で殉職したのではないか?』と疑われていたため、9月にミッド地上で、スカリエッティのアジトから身体的には無傷のまま(ただし、昏睡状態で)発見されただけでも、ゲンヤなど「昔の彼女を知る者たち」にとっては朗報でした。
 あの日、メガーヌと三名の男性陸士が昏睡状態のまま、クロノ提督の艦隊に護送された医療船で〈本局〉へと移送された後、医療部の面々はこの四人を目覚めさせるために、いろいろと手を尽くして来たのですが……実のところ、今回のメガーヌの覚醒はその尽力の結果と言うよりも、むしろ原因不明の「単なる偶然」です。
 医師たちにも「覚醒の原因」を特定することが全くできなかったため、残る三人の陸士たちは、なおも昏睡を続ける結果となりました。

メガーヌ・アルピーノ准尉(戸籍上、35歳)は、まずは一連の事情聴取を済ませた後、『自分が昏睡していた間に何があったのか』をひととおり聞かされました。『あれからすぐに夫や両親たちも殺されていた』というのは大変に悲しいことでしたが、当時まだ2歳だった娘が生きていてくれたことは、せめてもの幸いでした。
 また、夫セルジオが8年前に、自分の死亡通知に対して「不服申し立て」を行なってくれていたので、局の方でもメガーヌはまだ「生存と推定」されていました。そのおかげで、夫や両親たちの遺産はすべて彼女が単独で相続した形になっており、凍結を解除された自分の口座を確認してみると、そこにはすでに「自分一人だけなら一生(いっしょう)遊んで暮らせるほどの金額」がありました。
 さらには『リンカーコアが損壊しているため、もう魔法は全く使えない体になっている』という事実を知らされると、メガーヌは自主的に管理局を退役し、『第二の人生は娘とともに、もっぱら娘のために生きてゆこう』と決意を固めます。
(メガーヌは事前に、『娘が自分の覚醒をエサとして、悪党どもの悪事に協力させられていた』と聞いていたのですから、『自分は感謝と贖罪(しょくざい)の意識を持って娘を最大限に愛してゆくべきだ』と考えたのも当然のことでしょう。)

 一方、現在の管理局の技術では「ルーテシアのリンカーコアから、もう何年も前に融合を遂げたレリックを今さら分離すること」が全くできなかったので、ルーテシアは管理局の〈上層部〉から危険視され、「極めて厳重な保護観察」のために「魔力の厳重リミッター処置と辺境の無人世界への隔離」という処分になり、ミッドの海上隔離施設から〈無34マウクラン〉へと移送されることになりました。
 そして、メガーヌは自分のリハビリを続けながらも、みずからルーテシアの保護責任者となり、管理局からは「障害年金」も受け取りつつ、マウクランで母娘(おやこ)二人きりの「ごく(つま)しい生活」を始めることになります。
(なお、ルーテシアの法的後見人は八神はやて二佐であり、はやては同時に、他には行き場の無くなったアギトを八神家の一員として引き取りました。)

【当初、ルーテシアの隔離期間は「暫定的に10年」とされていましたが、実際には、ルーテシアが非常に模範的な態度を示し続けたため、わずか2年後には「ごく軽い保護観察処分」に切り替えられ、77年の11月に、ルーテシアは管理局の許可を得て、メガーヌとともに〈無2カルナージ〉へと転居しました。
 その時点で、ルーテシアは管理局の「嘱託魔導師」になりましたが、保護観察処分そのものは、さらに2年間、新暦79年の11月まで続くこととなります。
(カルナージに移った時期が「SSX」の設定とは、やや異なりますが、この作品では、この設定で行きます。)】

 一方、同11月に、戦闘機人姉妹の7人も正式に「拘留と厳重監視」の処分を受けて、セインとオットーとディードの三人は聖王教会本部へ、あとの四人はナカジマ家へと引き取られました。
 この段階で、チンク、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの四人は、法的には正式にゲンヤの養女となった訳ですが、まだ当面は「拘留施設のような」(りょう)での生活を命ぜられ、翌76年の11月まで丸一年間は『ナカジマ家に帰って良いのは、特別休暇を認められた時だけ』という扱いを受けることになりました。

【これも、「SSX」の設定とはやや食い違っており、「SSX」では78年6月の段階でも、ナカジマ家の四人組はまだ基本的には「海上保護施設」の方で生活しているようなのですが……それだと、『ノーヴェは一体いつからヴィヴィオにストライクアーツを教え始めたのか?』という話になってしまうので、取りあえず、この作品では上記のような設定で行きます。】


 そして、同年の12月上旬、三元老は「9月19日の非常事態宣言」以来、それぞれに多忙な日々を送って来ましたが、今日は久しぶりにゆっくりと三人だけで「仕事以外の話」をする時間を持つことができました。
 リナルドはすでに「局史編纂室」に引き(こも)っているので、新たに専属の「御世話役」となったメイド姿の女性たちが、三人の着席したテーブルに「茶菓子とグラス入りのお茶」を出して、三人の指示どおりに退室します。
「それでは、まず『前時代の遺物』を正しく排除できたことに、乾杯!」
 ミゼットがグラスを目線の高さまで持ち上げてそう言うと、ラルゴとレオーネもそれに合わせました。もちろん、ここで言う「前時代の遺物」とは、「三脳髄」と〈ゆりかご〉のことです。
「いや。それにしても、『思ったことをそのまま口にできる』というのは、本当に素晴らしいことぢゃなあ」
 ラルゴは、実にしみじみとした口調で胸の内を吐き出しました。これには、ミゼットとレオーネも大きくうなずきます。

「欲を言えば、乾杯する時ぐらいは、酒を出してほしいものぢゃが」
 ラルゴはつい調子に乗ってそう続けましたが、今度は二人とも同意してはくれませんでした。
「あなた、もう何十年も前に、お酒は禁止されたはずよね?(呆れ顔)」
「酒は体のキレを鈍らせるからな。あんなものは、できるなら『生涯、一滴も飲まずに済ませる』に越したことは無いのだ」
 (もと)格闘系魔導師は、さすがに言うことが違います。
「お前は、本当につまらん男ぢゃなあ」
 ラルゴはわざとらしく、大きな溜め息をついてみせました。
「まあ……立場上、健康に気を(つか)わねばならんのは、確かぢゃが……」
 三人ともすでに九十代で、実のところ、それぞれに何かしら健康上の問題を(かか)えていました。それでも、少なくとも管理局が全体として「非常事態宣言」を続けている間は、最高責任者としてまだ倒れる訳にはいきません。

 レオーネ「正直なところ、私たちも、もう長くは()たないのだろうな」
 ミゼット「ええ。あと一年ぐらいのうちに、全部、ケリをつけましょう」
 レオーネ(溜め息まじりに)「もう少し、時間に余裕があればなあ」
 ラルゴ「では、いっそのこと、我々も脳髄だけの姿になって……。冗談ぢゃよ」
 レオーネ「お(ぬし)の冗談は笑えんわ!(怒)」

 そこで、ミゼットは不意に、グラスをまた目線の高さに(かか)げてこう言いました。
「心は水、体は(うつわ)のようなモノだと、私は思うの。このお茶が今、円筒の形をしているのは、円筒形のグラスの中に入っているから」
「それは、つまり、我々は『人間らしい体』を失えば、いずれは当然に『人間らしい心』をも失うことになる、という意味(こと)か?」
「あくまでも、『私はそう思う』というだけの話よ」
「しかし、こればかりは、『仮説を検証するために実験をしてみる』という訳にも行かんなあ」
「ところで、あの三人は一体どこで実験をしたんぢゃ? あの時代の技術力を考えれば、自分たち自身にあんなヤバい処置を『ぶっつけ本番で』施したとは、とても思えんのぢゃが……調べてみても、ミッド地上には、あの種の実験をした痕跡がまるで見当たらん」
「では、どこか別の世界で、ということかしら?」

「それに、もし本当にミゼットの言うとおりぢゃとすると、三脳髄どもの『記憶転写クローン』という構想には元々無理があった、ということにはならんか?」
「だからこそ、〈プロジェクトF〉への資金投入は早期に打ち切られた、と?」
「うむ。そもそも、『小児(こども)肉体(からだ)』に『大人(おとな)意識(こころ)』を収めるというのは、『技術的に』と言う以前に、果たして『原理的に』可能なのか? より小さな器の中により大きな中身を詰め込んだら……普通は、中身が(あふ)れ出してしまうか、器が壊れてしまうかの、どちらかぢゃろう?」
「単なるデータであれば、圧縮することもできるんでしょうけどねえ」

 レオーネ「ああ。そう言えば、思い出したよ。あれは、確か……新暦14年のことだったかな。当時の管理局総代は第4代ノザルディン・ヴィスタクードで、ミッド人としては(はつ)の総代だったのだが、彼が地元のアンクレス地方で何かのパーティーを主催した時に、私はその頃、彼の直属の部下だったので、それに付き合わされたのだ。
 その席には、確か、ゼブレニオやグロッセウス卿の姿もあったと思うのだが……ともあれ、私はその席で『古代ベルカの王族の末裔で、祖先の「記憶」を継承している』という若者に会って少し話をしたことがある。確か……名前はニコラス・ストラトス。当時、23歳だと言っていたから、私よりちょうど10歳年下だな」
 ラルゴ「記憶継承者! 噂には聞いたことがあったが、今も実在しておったのか?」
 レオーネ「うむ。その人物が言うには、彼が継承した記憶の本来の持ち主は『聖王戦争の時代に30歳で戦死した王』だったのだが、彼が12歳になって初めてその記憶を継承した時には、その王の『晩年の記憶』は、まだ上手く思い出すことができなかったのだそうだ。
 確か、『死の直前まできちんと思い出せるようになったのは、つい最近のこと。二十歳(はたち)を過ぎてからのことだった』と、彼は妙に悲しげな表情で語っていたよ」

 ミゼット「12歳なら、脳の重量それ自体は、もう大人(おとな)と変わらないはずだけど……。やっぱり、『単なる脳の容量の問題では無い』ということなのかしら?」
 ラルゴ「容量ではなく機能に関して言えば、脳が完成するのは25歳前後だという話もあるぞ」
 レオーネ「そう考えると、小児(こども)のうちは無意識領域に圧縮して保存しておいたデータを、大人になってからようやく展開できるようになった、ということなのかも知れんな」

 ミゼット「ところで、その人物は何をしている人だったの? と言うか、どういう身分でそのパーティーに出席していたの? 管理局員としては、あまり聞いたことが無い名前のような気がするのだけれど?」
 レオーネ「彼自身は『本業は格闘家です』などと言っていたが、おそらく、実際には護衛業者の(たぐい)だったのだろうね。あの時も、確か……マルデルとかいう名前の、まだ二十代と(おぼ)しき美女を護衛していたよ」
 ラルゴ「それで? そのニコラスとかいう男は、今は何処(どこ)で何をしておるんぢゃ?」
 レオーネ「四年前に、例の空港火災事件に巻き込まれて傷を負い、その後、しばらくしてから死んだと聞いている」
 ラルゴ「それは残念ぢゃな。今も生きておれば、『自分の中に他人の記憶がある』というのは、一体どういう感じなのか、一度は訊いてみたいものだと思うておったのぢゃが」

 そうして、いろいろな事柄をひとしきり話し合った後、ミゼットはまた不意に新たな話題を振りました。
「ところで、来年の話なんだけど……」
 新暦76年は、ミッド旧暦465年(前75年)に初めて〈時空管理局〉が創設されてから、ちょうど150年になります。
 そのため、以前にも「管理局創設150周年記念祭」を実施しようという意見はあったのですが、シミュレーションでは費用対効果があまり良くなかったので、以来、『特に実施しなくても良いのでは?』という方向に話が進んでいました。
 しかし、三人はここでよく話し合った結果、これまでの流れを変えて、やはり「記念祭」を実施することにしました。『皆々の気分が沈んでいる時にこそ、「祝祭」が必要だ』と考えたのです。
 そこで、急遽(きゅうきょ)、特別予算が編成され、以後、多くの管理局員らが『待ってました!』とばかりに急ピッチでその準備を進めていったのでした。


 一方、機動六課の仮設の隊舎では、同年12月の下旬に、地球で言う「忘年会」のような「年末のパーティー」が催されたのですが……。
 その席で、ザフィーラは、唐突に皆々の目の前で(用意された御馳走を食べるために?)人間の姿に変身しました。

 ティアナ「ええ……。あれ、ザフィーラだったの……。(ガックリ)」
 ザフィーラ「済まんな、ティアナ。お前があの時の『ティーダの妹』だということは、一目見て解ってはいたんだが……何と言うか、話を切り出すタイミングを(のが)してしまった」
 スバル(何故か、とても嬉しそうな表情で)「ティアナは訓練校時代に『出す当ての無い手紙』とかも、いっぱい書いていたんだよ」
 ティアナ「そういうことは、ペラペラ(しゃべ)らなくていいのよ!(怒)」
 キャロ「あ……。そう言えば、私、ザフィーラをモフりながら、独り言のつもりで、いろいろと恥ずかしいコトまで喋っちゃったような気がするんだけど……」
 スバル「え? ちょっと待って! それ、私も……」
 ザフィーラ「二人とも、安心しろ。あれらは、すべて忘れた、ということにしておいてやる」
 キャロ「それって、ホントは忘れてない、って意味だよね!?」
 エリオ「(小声で)良かった~。ボクは、独り言の相手がフリードで」
 スバルとキャロ(声を合わせて)「「この裏切り者~!」」
 エリオ「ええ……。いや。突然そんなコト言われても……」
 ティアナ(何故この子は馬鹿正直に声に出して言ってしまうのだろう? そんなの、黙っていれば、二人とも気づかないのに……。)


 さて、思い起こせば、この年の9月には、〈最高評議会〉の三人組という〈(かげ)の支配者たち〉が唐突に「姿を消して」しまった結果、管理局の内部では相当な混乱が起きていました。
 その日、ミッド地上本部では「総指令官」だったレジアス・ゲイズ中将が「謎の急死」を遂げ、〈本局〉でもやはり「管理局総代」だったイストラ・ペルゼスカ上級大将が「謎の自殺」を遂げています。心臓の発作とか、心神の耗弱(こうじゃく)といった「一応の説明」はありましたが、どちらもあまり説得力のある説明には聞こえません。
『大きな事件の(かげ)で、自分たちの(あずか)り知らぬトコロで、何かはよく解らないけど、「何か重大なコト」が起きている!』
 当時、多くの局員がそんな「根拠のない感覚」に襲われましたが、当然ながら、局の〈上層部〉からは何の追加説明もありません。
 それで、機動六課やクロノ提督らの活躍によって〈ゆりかご〉の脅威が去り、一般市民の生活は平穏を取り戻したにもかかわらず、管理局の内部では「何か得体の知れない不安」が蔓延(まんえん)してしまっていました。

 そんな中で、長らく「ただのお飾り」と化していた「伝説の三提督」が、唐突に昔ながらの指導力を発揮しました。
 今にして思えば、彼等はもうずっと以前から、『いつの日か、もしも、あの三脳髄がいなくなったら、その時には、こういった制度改革をしよう』という腹案を(こころ)(ひそ)かに(かか)え続けていたのでしょう。
 そう考えなければ説明がつかないほどの素早さで、彼等は(本当に秘密にすべき事柄に関しては、巧妙にそれを隠しながら)状況を的確に説明して人心の混乱を鎮め、とうの昔に(表向きは)「形だけの存在」と化していた〈最高評議会制度〉を正式に廃止し、新たに〈中央評議会制度〉を立ち上げて、一連の法改正をも速やかに断行しました。

【中央評議会とは、時空管理局の新たな「最高意思決定機関」であり、実体としては、「総代」を議長として中将以上の将官によってのみ構成された「三十人議会」です。
「総代」の引退に際しては、大将たちの中から次代の「上級大将」を選出する権限を持ちますが、無論、「中将以上の将官」の全員が「評議員」になれる訳ではありません。】

 ミゼットたち〈三元老〉は「形式的に」認められていた自分たちの権限を最大限に活用して精力的にさまざまな「表向きの」制度改革を進める一方で、その裏では『最高評議会の三人が三脳髄と化して、実はつい最近まで生きていた』という事実を徹底的に隠蔽(いんぺい)し、その事実の痕跡を完璧なまでに抹消していきました。
 三脳髄が(ひそ)んでいた、パドマーレ郊外にある「極秘の施設」を丸ごと取り壊した後、不透明な資金の流れを追って、彼等の息がかかった秘密の研究施設などを漏れなく特定し、それらもすべて組織ごと解体し、それらの施設で研究されていた内容も一旦はすべて封印し、『自分たちの研究が何に利用されているのか』など全く知らないままに働いていた研究員たちを、それぞれバラバラに別の部署へと転属させたのです。
【新暦75年の〈JS事件〉の後に、局の内部でさまざまな改革が進んだことに関しては、「リリカルなのはStrikerS サウンドステージ04」や「SSX」を御参照ください。】

 こうして、ミゼットたちは予定どおり、76年のうちに大半の問題にケリをつけたのでした。


 
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