仮面ライダーAP
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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第7話
前書き
◆今話の登場ヒロイン
◆一光
アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の最高責任者。仮面ライダーオルバスをはじめとする72機のジャスティアタイプを開発した若き天才科学者であり、掴みどころのない飄々とした佇まいを見せるマッドサイエンティスト。非常に身体が弱い美少女であり、普段は専用の車椅子で移動している。当時の年齢は18歳。
※原案はX2愛好家先生。
◆亜灰縁
アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の研究員であり、ジャスティアタイプのテスト装着者も務めていた才媛。光とは公私共に深い付き合いがあり、彼女の方針に苦言を呈しながらも忠実に従っている。白衣を纏った怜悧な美女であり、物腰は落ち着いているが言葉のチョイスはかなり辛辣。当時の年齢は20歳。
※原案はX2愛好家先生。
「なぜだあぁあぁあッ!?」
真凛の行手を阻んでいた自動ドアが、謎の「誤作動」によって開かれた頃。ノバシェード・アマゾン支部の怪人研究所では、1人の男が怒号を響かせていた。研究員らしき白衣を纏っているその男は、シャドーフォートレス島の状況を映したモニターを感情任せに殴り付けている。
アマゾンの密林に隠されたこの施設に設けられている、薄暗い怪人研究室。その閉鎖的な空間を、モニターの怪しい光だけが照らしていた。その光はモニターを殴っている白衣の男だけでなく、彼の背後に並び立つ大型の培養カプセルも照らし出している。
『グ……ガ、ァ……』
カプセルの内部で培養されている怪人の実験体は、今にも動き出しそうな不気味さに満ちていた。そのカプセルの下には、「フィロキセラ・タイプγ」と記載されている。知性のない眼をギョロギョロと動かしていた実験体は、自分の生みの親である白衣の男の背中をジッと見つめていた。
「なぜだァッ!? 死に損ないのクズ兵士2人をあのドアの前に行かせて……さらにドア自体にもロックを掛けたはずなのにッ! なぜあのドアが開いたのだッ!? あそこのセキュリティシステムに異常など無かったはずだァッ……!」
この地からシャドーフォートレス島の施設運用に干渉していた白衣の男――斎藤空幻は、予期せぬ事態に激しく声を荒げていた。自分が仕掛けた罠を真凛に軽々と突破された挙句、ホークアイザーからも冷たく見放された彼は、意地でも真凛を排除してやろうと策を弄していたのだ。
ヘレンやオルバスを迎撃するために動こうとしていたクランツ曹長とミルド軍曹を呼び止め、自動ドアの前で見張りをするように仕向けていたのも彼だ。彼は2人に真凛を始末させるために、スナイパースパルタンの余剰部品から造った特殊強化服を与え、真凛の進行ルート上に配置していたのである。
「おかしい……絶対におかしい……! こんなこと、起こり得るはずがないのだ……! 私以上の頭脳を持つ別の何者かが、この島のセキュリティ権限を奪い取りでもしない限りはァッ……!」
しかし結局は、クランツ曹長もミルド軍曹も真凛によって倒されてしまった。その上、真凛からは絶対に解除出来ないようなロックを施していたはずの自動ドアは、何らかの「異常」によってあっさりと開かれてしまったのだ。自分の目論見が悉く破綻して行くこの事態に、斎藤は頭を抱えて唸り声を上げている。
「……!? ま、まさか……!」
その時。自分自身が口にした「あり得ないこと」を反芻した斎藤が、ハッと目を見開いて顔を上げる。自他共に認める天才である彼が、それでも「自分以上」と認めざるを得ないほどの頭脳を持った人物。それに対するただ一つの心当たりが、彼の脳裏に「正解」を与えたのだ。
◆
――同時刻。アメリカ合衆国のノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」。人里から遠く離れたその研究所で暮らす1人の美少女は、愉悦に満ちた笑みを浮かべて一つのモニターと向き合っていた。
「……ふふっ」
そこには斎藤が見ていたものと同じ、シャドーフォートレス島の状況を映した映像が流されている。白衣を羽織り、メカニカルな車椅子に腰掛けたその美少女は、悪戯が成功した子供のような微笑を零していた。薄暗い研究室の中で輝くモニターの発光が、掴みどころのない妖艶な美貌を映し出している。
「この手の『イタズラ』で遊んだのは久しぶりだねぇ……。斎藤空幻も今頃、私の干渉に気付いた頃かな?」
彼女の名は一光。この研究所の所長にして、全72機ものジャスティアドライバーを開発した若き天才科学者であった。彼女が斎藤のコンピュータを一時的に乗っ取り、シャドーフォートレス島のセキュリティシステムに干渉していたのだ。
自分の存在を追跡出来なくするプログラムを組んだ上でのハッキングだったが、斉藤ならば自分の干渉にも勘付いているだろう。そこまで看破した上で、光はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。それが分かったところで、この如何ともし難い実力の差はどうにもならないだろう? と言わんばかりに。
「それにしても、あの元捜査官……確か、真凛・S・スチュワートと言ったかな。なかなか見所があるじゃないか。どうやら、彼女に一泡吹かせたくて堪らなかったようだが……ふふっ、泡を吹いたのは自分の方だったようだねぇ。斎藤空幻」
そして光の興味は今、シャドーフォートレス島の最深部を目指す真凛に移っていた。ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、対策室から除名された後も独自にノバシェードを追い続けている女探偵。そんな酔狂な女傑の動向を、ハッキングした監視カメラの映像で観測している光は、目を細めて薄ら笑いを浮かべていた。
(……水場の多いシャドーフォートレス島の内部を、これほど澱みなく進んで行ける潜入技能。水陸両用の42番機を任せる適合者候補としては、理想的な人材かも知れないねぇ……)
機雷が大量に撒かれている島周辺の海中を、人魚の如く鮮やかに潜り抜け、単独で要塞内部の奥地にまで潜入するという卓越した身体能力。その技能は、光が開発したジャスティアタイプの一つ――「仮面ライダーウェペル」の適合者に相応しいものであった。しかし、そんな彼女の隣に立つ「側近」は、訝しげな面持ちで真凛の姿を観察している。
「……確かに、彼女の技能には利用価値があるかも知れません。が、度重なる命令違反によって対策室から追放された問題人物です。……正直言って、お勧めしませんよ」
「ふふっ、それくらいの方がどんな化学反応が起こるか楽しみじゃあないか。期待の適合者候補と、『私の仮面ライダー』が今まさに、凶悪な鉄人から世界を救おうとしている……。実に興味深いヒーローショーだと思わないか?」
光の隣から苦言を呈している、白衣を纏った知的な美女――亜灰縁は、光の奔放な振る舞いに深くため息を吐いていた。横顔を一瞥するだけで、光の思惑を容易く見抜くほどの「深い付き合い」があるようだが、彼女の性格にはいつも手を焼いているのだろう。
「いつもながら、貴女の感性には呆れるばかりですね。そう遠くないうちに地獄に堕ちるのではないかと」
「おやおや、これは手厳しい。……だが、地獄に堕ちるべきなのは私だけではないさ」
呆れ果てたと言わんばかりにため息を吐く縁の反応を前にしても、光は笑みを崩すことなくモニターを見つめている。ジャスティアライダー達の中でも彼女が特に気に掛けている、「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットは今まさに、ミサイルスパルタンの要塞形態と雌雄を決しようとしていた。
「……ふゥン?」
ハッキングした監視カメラの映像から、オルバスとミサイルスパルタンの死闘を「観戦」している光。彼女は口元こそ愉悦の笑みを見せているのだが――戦いの行方を見つめる鋭い双眸は、全く笑っていない。
(……2009年に凍結・抹消されていた、人類初の仮面ライダー量産計画。そんな「スパルタン計画」から生まれた最後の鉄人……ミサイルスパルタン、か……)
約11年前の2009年。この北欧某国の英雄――ジークフリート・マルコシアン大佐が率いていた「マルコシアン隊」によって運用されていたという、スパルタンシリーズ。あまりにも誕生が早過ぎた、その鋼鉄の鎧は全て、旧シェードとの戦いで跡形も無く消え去ったのだという。
光もそれらの存在は、僅かな記録……の残滓でしか知らない。そもそもスパルタンシリーズ自体、その戦いの後に軍部の公式記録からもほとんど抹消されている、幻の存在なのだ。分かっていることと言えば、当時生産された試作機のほとんどが、現代の新世代ライダーやジャスティアライダーのスペックには遠く及ばないものだったということくらいだ。
その未熟な鎧で戦火に身を投じ、愛する国や人々のため、勝ち目のない戦いに飛び込んで行った当時の装着者達が、どんな思いで死地に赴いていたのか。そんなこと、知る由もない。それに、今さら知ったところで意味はない。だが、想像することくらいは出来る。
例え歴史に記録されずとも、仮面ライダーとして認められずとも。スパルタンシリーズの鎧を纏って旧シェードに立ち向かった戦士達は、己の命を燃やし尽くし、見事に使命を完遂した。すでに役割を終えた彼らも、彼らの鎧も、静かに眠るべきなのだろう。
しかしアイアンザックは己の野望のためだけに、眠っていたはずのスパルタン計画を墓から掘り起こし。死んで行った部下達の思いを踏み躙るかのように、ノバシェードという悪魔以下の畜生共に魂さえ売り渡した。
(……それだけのことをしてまで、造り上げたのがこの木偶の坊? つまらないねぇ。実につまらない)
戦火に散ったマルコシアン隊の英霊達に対して、これ以上の冒涜はないだろう。とはいえ、ジャスティアドライバーの適合者を探すためなら如何なる手段も問わない光自身も、決して清廉であるとは言えない身だ。アイアンザックの姿勢そのものに文句を付ける気はない。
力を求めて悪魔に魂を売る。それも1人の狂気を厭わぬ科学の探求者としては、共感出来る部分であった。だが、そんな光としても。アイアンザックと、彼が生み出したミサイルスパルタンは単純に「気に食わない」のだ。
(……気に食わないねぇ。あぁ、実に気に食わない)
悪魔に魂を売るのは結構。しかしそこまでするからには、相応の成果物を完成させなければ「費用対効果」が得られない。売った魂の割に合わない。未熟なオルバス1人に手こずっているミサイルスパルタンに、そこまでの「値打ち」があるとは到底思えない。
しかし当のアイアンザックは、自分の理想が実現したと言わんばかりの高笑いを響かせている。悪魔に魂を売ってまで完成させた巨人がこの程度であり、当の本人はそのレベルの低さに気付いてもいない。そんなアイアンザックの姿は、光をこれ以上ないほどにまで「不愉快」にさせていたのだ。
(……私は特に好かないのだよ。こういう白ける真似をする輩が、ね)
彼女が斎藤のコンピュータをハッキングして真凛を助けたのは、ミサイルスパルタンと戦っている忠義を救うためだけではない。アレクサンダー・アイアンザックという男の「程度の低さ」が、同じ科学者として、ただひたすらに気に食わなかったのである。
(そういうわけだから……さっさとそいつを黙らせてくれたまえよ、私の仮面ライダー)
それが彼女なりの正義感によるものなのか。あるいは、単なるいつもの「気まぐれ」なのか。それは、彼女自身にしか分からない。専用車椅子の肘掛けに体重を預けた瞬間、光の乳房がぷるんと僅かに揺れる。
その気怠げな姿勢のまま、彼女は冷ややかな眼差しでアイアンザックの「末路」を見届けようとしていた。オルバスの鎧を纏う忠義に対しては、「期待」の熱を帯びた視線を注いでいた彼女だが――ミサイルスパルタンの方には、焼却炉に送られた生ゴミを見るかのような眼を向けている。
『マルコシアン隊が旧シェードに完勝さえしていれば、私のスパルタン計画は大々的に認知され、賞賛され、歴史に記録されていたのだ! だのにスパルタンシリーズを開発した私の功績は抹消され、試験装着者に過ぎなかったマルコシアン隊の下らん自己犠牲ばかりが称賛されている……! ジークフリート・マルコシアン! あの無能な愚図の木偶の坊が私の人生を狂わせたのだッ! 無駄な犬死にで私の名誉を貶めた、奴の部下共も纏めて同罪だァッ!』
『……ッ! あぁハイハイ、そうかよ分かったよ分かった分かりました! あんたの良心にほんのちょっとでも期待した俺がバカだったぜ! いちいち他人のせいにしてなきゃ自我すら保てねぇってんなら、頭冷えるまで失神してろッ!』
そして、光と縁が人知れず見守る中。アイアンザックの身勝手さに怒る仮面ライダーオルバスが、最大稼働スキル「FIFTYΦブレイク」を発動させようとしていた――。
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