| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/WizarDragonknight

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

 荒野。
 ここも、かつては採掘場だったのだろうか。打ち捨てられた重機たちを眺めながら、ハルトは歩いていた。砂利を踏む音だけが、今のハルトの音だった。

「……まだ冷えるな……」

 春先でも、夜だからだろう。
 静かに腕を抱きながら、ハルトは息を吐く。

「見滝原からは出られない……もうラビットハウスにも戻れない……荷物は……全部、ラビットハウスか……せめてコネクトだけでも残っていたらな」

 とにかく、まずは荷物をまとめなければと考えたが、腰に手を伸ばしても、ホルダーには指輪が付けられていない。
 朝、何も持たずに飛び出したまま、見滝原の山に締め出されてしまったのだ。

「いっその事、これからは見滝原の山に伝わる伝説の怪物、って触れ込みで生きるのも悪くないかな」

 ハルトは自らのドラゴンの姿を思い起こしながらほほ笑んだ。
 先ほど川で捕った魚を考えれば、それなりに食料については問題ないだろう。あとは、見滝原に来る前までの旅でのノウハウを活かせば、山の中で生きるのも現実的になる。
 だが、そんな沈黙が長く続くはずがなかった。
 ハルトの足の先に、例の銀のオーロラが現れる。

『よお、ウィザード』

 オーロラから現れたのは、先ほど逃れてきた聖杯戦争の監督役。
 頭と胴体の等身比率が傾いているそれは、何度見ても不気味さを

「コエムシ……」
『昼ぶりだな、ウィザード』
「ウィザード……か……」

 その呼び名に、ハルトは自嘲気味にほほ笑んだ。

『あ? 何だよ』
「今の俺に……ウィザードって呼ばれる価値、ないでしょ」
『ケッ』

 吐き捨てたコエムシは、興味なさそうに続ける。

『別にテメエがウィザードだろうが松菜ハルトだろうが……はたまた化け物だろうが、オレ様にはどうでもいいんだよ』
「……」
『わざわざオレ様が来た理由は分かってんだろ?』

 コエムシはそう言って、その背後に銀のオーロラを出現させる。
 今日一日であのオーロラを見るのは二度目か、とハルトはどこか他人事のように感じていた。

「……やれよ。俺を殺しに来たんだろ」
『何だよ、張り合いがねえな』

 ハルトを見ながら、コエムシは詰まらなさそうに呟く。

『まあ、構わねえけどな……今度はしっかりと始末してやるぜ』

 やがて、オーロラから新たな人物が出現した。
 それは、白い初老の紳士だった。背の高く、白いスーツを見事に渋く着こなす彼は、周囲の採掘場を見渡しながら呟いた。

「……ここは?」
『おめでとう。お前は選ばれたんだ』
「選ばれた? お前……何者だ?」

 紳士は白い帽子を手で抑えながら問いかける。
 コエムシは体を左右に揺らしながら答えた。

『オレ様はコエムシ。お前を蘇らせた天使様だ』
「天使? とてもそうには見えないが?」
『天使様は天使の顔して現れねえもんさ』
「……」

 ハルトは、投げやりに立ち上がる。
 ふらふらとしながら、ハルトはようやく紳士の顔を見つめた。
 ハルトの知り合いを比べれば、おそらくタカヒロよりも年上だろう。

『じゃ、頼むぜ名探偵さんよ。しっかりと依頼をこなしてくれよな』

 スカルはコエムシとハルトを交互に見やる。
 そして、コエムシよりも前に歩み出て、ハルトを見つめた。

「何やらよくわからんが……どうやら俺は、お前と戦わなければならないらしい……」
「の、ようだね」

 どこか他人事のように、ハルトは吐き捨てる。
 スカルは静かにハルトを見つめたまま動かない。

「……何もしたくない、といった顔をしているな」
「色々あってね」

 ハルトはそう言って、再び手を広げる。

「ほら。抵抗しないから。煮るなり焼くなり好きにしてよ」
「……未来ある若者を傷付けるのは後ろめたいのだが……」
『ああ、安心しろ。アイツは人間ですらねえから』

 コエムシはそう言って、その無機質な目をハルトへ向けた。

『なあ? バケモン(・・・・)?』

 バケモン。
 それは、明らかにハルトを指した言葉だった。

「化け物……か」

 赤い眼となったハルトは自嘲する。

「そうだね……ご紹介の通り、俺は人間じゃないよ。だから、何も……遠慮する必要もないよ」

 ハルトは顔にファントムの紋様を浮かび上がらせる。
 赤い眼のみならず、変化の兆しを見せるその体。これを人間だと思う者はいないだろう。

「もう……どうでもいいんだ。これを知られてしまった以上、もう俺の居場所はどこにもない」
「……自分を憐れむな……」

 帽子のツバ、その切れ目から紳士はハルトを見つめる。やがて、彼は帽子に手を当て、ゆっくりと目深に下げた。

「___一つ、俺はいつも傍にいる仲間の心の闇を知らなかった。
 ___二つ。戦う決断が一瞬鈍った。
 ___三つ。そのせいで街を泣かせた」
「……?」

 突然の彼の独白に、ハルトは唖然とした。
 だが、紳士は続けた。

「これが俺の罪だ」
「罪……」

 彼はそのまま、黒い何かを取り出す。
 ほとんどが黒一色で出来た機械で、その中心から右側には赤い部品が取り付けられている。
 それは、紳士の腰に装着されると、その腰を一回りするベルトとなる。

「俺は自分の罪を数えたぜ……」

 追加で取り出したのは、USBメモリ。
 その中心部分には、大きくSという文字が描かれる。横向きの頭蓋骨なのに、それがSにも読めるのは素晴らしいデザインだと言えるだろう。
 彼がそのUSBの先端に取り付けられているスイッチを押すと、『スカル』と音声が流れた。

「変身」
『スカル』

 彼は帽子を脱ぎながら、そのメモリを腰のベルト___その名もロストドライバー___のスロットに差し込み、倒す。すると、黒い風とともに、紳士の顔に黒い紋様が浮かび上がる。ICチップのような形の紋様だが、その形を把握する前に、彼の顔が白い骸骨へと変わっていった。

「俺の名はスカル」

 そして、そのプロセスの最後。紳士の頭が骸骨の仮面になると同時に、その眉元から頭頂部にかけてS字型の傷が入った。
 そしてその傷を隠すように、彼___スカルは白い帽子を被りなおす。

「さあ、お前の罪を……数えろ」

 それはきっと、彼がそれまで数えきれないほど問いかけてきた言葉なのだろう。
 その右手に指され、ハルトはいつの間にか口が動いていた。

「俺の……罪……俺は……!」
「何だ?」

 スカルは一歩も動かない。ただ、ハルトの言葉を待っている。

「俺は……俺は……っ!」
「言いたくないか?」

 スカルはじっとハルトから目を離さない。
 風が吹き、彼の首元に巻き付くボロボロのマフラーが浮かび上がった。

「言いたくないのならば、それはお前の勝手だ。だが、男ならば。自らの過ちは認めるものであって、憐れむのではない」
「過ち……か」

 その単語を口に含みながら、ハルトは自嘲する。

「今更数えられないな……」
「……」
「俺が人間を食い破った怪物だってことを、皆に黙ってたんだ……まさか、すぐ隣に人間の敵がいるなんて思わないでしょ?」
「……」

 スカルは、少しだけ顔を傾けた。背後のコエムシを見やったのだろう。
 ハルトは続ける。

「皆に言わずに、騙して……それで俺は、笑顔って仮面を付け続けていたんだ!」
「……」
「俺は、もうみんなの元にはいられない……この罪を、俺は生きている限り背負い続けないといけない……だから、俺はみんなとは袂を分かったんだ!」
「……この世界に、完璧な者などいない。お前は、誰かに自分を完璧だと思わせたいんじゃないのか?」
「そんなんじゃない! 俺は……」
『おいおいおい! スカル! お前何やってんだ!』

 コエムシが横からスカルを糾弾した。

『お前俺様の話分かってんのか? お前、生き返られるんだぞ? コイツを殺せば、娘に会えるんだぞ? お前の娘は、今旦那とキャッキャウフフなことで、孫までいるんだぜ? 会いてえんだろ?』
「黙れ」

 スカルは首を少しだけ動かしてコエムシに言った。すると、その圧でコエムシは口を閉じる。

「俺は今、自分がなすべきことをするだけだ」
『あ? ああ、何だ。ちゃんと分かってんだな? ならいいんだよ。さっさとアイツを殺せ』

 だが、スカルはコエムシを無視してハルトを凝視する。

「……お前。名前は?」
「松……いや」

 ハルトは首を振った。
 その顔にファントムの紋様を浮かび上がらせながら、ハルトはその名を告げた。

「ドラゴン」
「……その名を、お前は仲間に言ったのか?」
「言ってない」
「ならば、その名を言ってみろ。それを、お前の仲間たちにも伝えろ」
「……!」
「それで離れるのならば、それはお前の仲間ではない。そして、そんな者たちしか縋れないのならば、お前はここで、俺の命の糧となる。だが、」

 スカルは帽子を目深にかぶる。

「お前がそれを仲間だと言い、伝える覚悟があるのなら___そう、決断できるのなら___まずは俺の前で数えろ。お前の……罪は何だ?」

 罪。
 その言葉を胸で繰り返しながら、ハルトは逡巡する。
 だが、スカルは付け加える。

「ここには俺とお前しかいない。ここで何を言ったところで、何も問題はないだろう」
『おい、オレ様がいるだろうが!』
「黙れ」

 スカルはその一言で、コエムシを沈黙させる。
 いたたまれなくなったコエムシは、体を震わせながら、発生したオーロラにその姿を晦ました。

「俺は……」

 コエムシに目を配ることなく、ハルトは続ける。

「俺はずっと隠してきた……! 自分が人間じゃない、怪物だってことを……みんなから拒絶されるのが怖くて、言い出せなかった……!」
「……」
クトリちゃん(親しくなった女の子)が、実は怪物だったと知ったとき……心の底で、実は……ホッとしていた……! あの子を看取った時、悲しかったのはきっと……同類だったから……!」
「……」
「俺がいたから、さやかちゃん(ある女の子)は俺と同じ怪物になってしまった……! ファントムになるのは、近くにファントムがいた時にゲートが絶望した時……あの時、俺がいて止められなかったから、さやかちゃんはファントムになってしまったんだ!」
「……」
「今回も、俺は、みんなを巻き込んでしまった……可奈美ちゃんはケガまでして……俺は、どうすればいいのか分からない! どんな顔をしてみんなに会えばいいんだ!?」
「それはお前が自分で見つけるしかない。……小僧」

 スカルは、少しだけこちらに歩み寄る。風が吹き、スカルのマフラーがなびいた。

「もし、お前が仲間たちを信頼したいと思うのならば、それを俺にぶつけてみろ。ただの死人である俺程度を倒す覚悟を見せろ」
「……スカル」
「お前の罪は分かった。ならば、今度はその償いをしろ。その第一歩が、俺を超えることだ」

 風が吹く。
 それは、ハルトの手を引く。
 前へ。
 スカルの方へ。
 そして、スカルは告げた。

「男の仕事の八割は決断だ。そこから先はおまけみたいなもんだ」
「……そうだね」

 スカルの言葉にうなずき、ハルトは腕を交差させる。その顔には文様が浮かび上がり、肉体が変質していく。
 人ならざる翼。牙。爪。
 左右に雄々しく広げ、その鋭い部位を突き立てる。人間には出せない唸り声を空気に轟かせ、全身より赤い血潮を炎として迸らせる。
 ファントム、ドラゴンは、スカルへ叫んだ。

「行くぞ、スカル!」
「全力で来い」 
 

 
後書き
最初に決まった処刑人は、ダークカブトでもルパンでもなく、スカルだたりする 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧