FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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異色
前書き
100年クエストただの消化試合してるのかと思ったら五神竜と戦ってて驚きを隠せない上にシンプルに改編したことをちょっと後悔している件について。
シリルside
「酷いね、これは」
第一試合が終わり、俺たちは医務室へとやってきていた。そこでグランディーネに二人の治療をしてもらっているのだが、その傷の深さに普段の不機嫌そうな表情にますます拍車がかかっている。
「あばらが何本か折れてる上に外傷も激しい。しばらく動くこともできないだろうね」
「そうですか」
この部屋には今現在競技パートで負傷したナツさん、そして先程のバトルパートを戦ったラクサスさんとギルダーツさんの三人が眠っている。三人とも見た目通りの負傷具合らしく、頑丈な彼らでも当分は動くことも許されない状態らしい。
「当分ってどのくらいだよ」
「さぁね。あとはこの子たちの回復具合じゃないかい?」
ここにはAチームもBチームも全員が集まってきているが、全員の表情は暗い。しかし、そんな俺たちを見てポーリュシカさんは怒りの表情を見せた。
「わかったらとっとと失せな!!人間臭くて堪らないよ!!」
「わわ!!」
そう言って歯を剥き出して俺たちを追い払ってくるポーリュシカさん。一応治癒の魔法はかけたので俺たちは後のことは彼女に任せて待機場所へと戻ることにした。
「あの化け物二人が伸されるとはな」
「あぁ。正直、今でも理解が追い付いてないよ」
ガジルさんとカナさんの言う通り、あの二人がなす統べなくやられた上に戦線から離脱しなければならないほどの大ケガをするとは思っていなかった。これによる動揺は余りあるが、それよりも深刻な問題もあるようで・・・
「しかしやべぇぞ、あの三人が抜けるとなると・・・」
そう切り込んだのは氷の魔導士。彼が焦っている理由に数人は首をかしげていたが、彼の隣にいた緋色の剣士が頷きながら返したことで全員が理解する。
「あぁ。今回の大魔闘演武のルール上、三人も負傷退場するとこの後の競技に支障が出る」
今回の大魔闘演武は最初に登録された六人とリザーブ枠が一人だけなのだが、リザーブ枠は最初の四日間のうちは一度しか使用できない。加えて他の参加者も最大二度までの出場制限があるため、もしあの三人が出られないとなるとこの後の参加すら怪しくなってしまうのだ。
「その場合のルールって何かあるんでしたっけ?」
「棄権扱いにされて、自動的に最下位、もしくは敗戦扱いになるらしいです」
そんなこと起こり得ないだろうと思ってルールブックに目を通していなかったが、一応明記はされていたらしい。ただ、そうなるとますます戦況が不利になるだけに頭を悩まされる。
「あの三人ならすぐに回復しそうな気もするけど」
「でも、骨にまで異常があるのでは・・・」
ミラさんの言うこともわかる気がするけど、ジュビアさんの冷静な突っ込みに納得してしまう。外傷ならあの人たちならすぐにでも治りそうだけど、骨をくっ付けるなんてそんな早くできるわけが・・・いや、それすらもあの人たちならやりかねないか。
「あたしたちこっちだから」
「そうか。頑張れよ、次の試合」
「はい」
「ありがとね」
待機場所が別々なこともありここでエルザさんたちとは別れる。そのまま待機場所へ向かう俺たちは口数が少なくなっていた。
「く・・・空気が重たい・・・」
「仕方ないよ」
ピリついた雰囲気に耐えきれずウェンディにそんなことを話しかけるが、彼女も同じように考えていたようではあり、小声で返してくれる。
「あの人たちと明日以降も戦う可能性があると考えると、ちょっと怖いよね」
「う~ん・・・」
二人の攻撃力の高さによりカウンターが倍返しになってしまったことも要因の一つではあると思うけど、あれだけの力を持っている人間が複数いるとなるとその気持ちもわからないでもない。
(でも確かに・・・あいつと真っ向から戦うのは・・・ん?)
正直俺でも戦いたくないと思ってしまうところもあるけど、突然ある名案が脳裏に浮かぶ。
「ふっふっふっ」
「え?シリル?」
完璧な作戦を思い付いたことで笑っていた俺だったけど、その笑いが突然だったこともあり前を歩いていた皆さんも足を止めてこちらを見ている。でも、全員の視線が向いているならそれはまた都合がいい。
「明日以降狩猟豹の頭と戦う機会があったら、俺が行かせてもらいます」
そう宣言した俺を見て彼女たちは顔を見合わせる。それは困惑に近いものに俺の目からも見えた。
「大丈夫ですか?シリル」
「はい。秘策を思い付いたので」
「秘策?」
その秘策の内容は伝えることはできないが、自信ありげな俺の表情を見てみんなも理解してくれたらしく、顔を見合わせて頷いていた。
「わかったわ」
「期待してるよ」
「まぁ、当たらないのが一番良さそうだけどね」
「さらっと言いますね」
そのおかげかはわからないけどさっきまでの暗い雰囲気が和らいだような気がする。俺たちはまだ試合も残しているし、重苦しい雰囲気のまま試合に望むのは良くなかったのでこれはよかっただろう。
「あとはうまくあいつらとやれれば・・・ん?」
待機場所に戻ってきた俺たちは闘技場の方へと視線を落とす。そこでは第三試合であるはずの青い天馬と四つ首の猟犬の試合が行われていたのだが・・・
「あれ?ラミアとセイバーの試合は?」
第二試合は蛇姫の鱗と剣咬の虎の試合だったはず。しかし、それとは異なる試合が行われていることに困惑しながら魔水晶ビジョンへと視線を向けると、どうやらすでに試合が決していたらしく剣咬の虎の方に10ポイントが加算されていた。
「ずいぶん早く決まったみたいだね」
「待機場所にトビーさんとユウカさんがいないってことはあの二人が出たってことかな?」
蛇姫の鱗の待機場所にトビーさんとユウカさんの姿がない。あの二人が出たのかと思ってそちらを見ていると、レオンとシェリアと視線が合ったのだが、レオンが肩を竦めてみせたことでどうやら完敗を喫したことが容易に想像できた。
「相当早く終わったみたいだね」
「その分早く進行してるってことか」
後で聞いた話だと、最初はユウカさんとオルガさんがそれぞれ出てきたらしく、ユウカさんの魔法でオルガさんの魔法を無効化しつつ有利に展開していたらしいけど、その後に放出されたのが剣咬の虎のルーファスさんだったらしい。彼の記憶造形の効果により逆にユウカさんの波動が無効化されてしまい気絶。一人欠いた状態でトビーさんが戦うことになったらしく結果的には惨敗してしまったらしい。ただ、狙いはよかったと思う。トビーさんが先に出てたら彼の攻撃でオルガさんを倒してって狙いだったんだろうし。
「ハァッ!!」
「ワイルドぉ!!」
すると第三試合もまもなく決着が着くのではという状況になっている。先に出ていたのはレンさんとノバーリさんだったが、次の放出になる前にノバーリさんをレンさんが圧倒し気絶。その後ルールに乗っ取り即座に四つ首の猟犬のイェーガーさんが放出され、五分五分の戦いをしていたものの、最後の一人であるヒビキさんが合流したことで戦況は一転。青い天馬の二人の猛攻が続いていた。
「決まったわね」
「やっぱり二人になると一気に有利になるわね」
この変則バトルはやっぱり五分五分の展開には持ち込めない。先に二人になったチームが有利になるのは目に見えている。まぁ、うちはそれでも負けちゃったからなんとも言えないんだけど。
『勝負あり!!勝者!!青い天馬!!』
そのままレンさんとヒビキさんは一部の隙も見せることなくイェーガーさんを押し込み試合終了。これにより残る試合は一つだけとなる。そしてその一つの試合を前に観客たちは盛り上がり始めていた。
「運営の策略を感じるのは気のせいですか?」
「まぁ、見所も作らないとってことなんじゃないかな?」
俺の言葉にミラさんが反応を見せる。同じことをルーシィさんとウェンディも考えていたのか、苦笑いを浮かべていた。
『それでもこれより本日のバトルパート最終試合!!フェアリーガールズvs人魚の踵の試合を行います!!』
観客たちが盛り上がっている理由。それはうちと人魚の踵による対決だから。ここまでバトルパートの参加者は全員男。競技パートでもこの二チーム以外は男しか出ていなかったこともあり、参加者全員が女性であることをほぼ確定されているこの試合を待ち望んでいた人は多いのかもしれない。たぶんほぼおっさんなんだろうけど。
「俺・・・やっぱり参加しなくてよかった・・・」
「シリルは心配いらないんじゃない?」
「どういう意味?」
この期待の中俺が出ていたら暴動が置きかねなかったと思いホッと一安心。隣からウェンディが何か言っているけど、ここはあえて掘り下げないで行こう。うん、そうしよう。
『フェアリーガールズからはジュビア・ロクサー&カナ・アルベローナ!!人魚の踵からはカグラ・ミカヅチ&ミリアーナ!!』
グレイside
両チームの参加者がアナウンスされたことでさらに沸き上がるドムス・フラウ。しかし、俺たちは違和感のあるコンビに顔を見合わせた。
「ジュビアとカナだと?」
「ずいぶん珍しい組み合わせだな」
それはうちの女性陣チームから出てきた二人。普段見ない組み合わせに俺たちも応援席にいるギルドのみんなも驚きを隠せない様子だった。
「てっきりシリルとウェンディが出てくると思ったけどな」
タッグバトルならシリルとウェンディのコンビネーションを越えられる者はそういない。次のタッグバトルがどのタイミングなのか、そもそもこの大会中にそれがあるのかもわからないなら先に出してくるかと思っていたが・・・
「あの二人なら最適なんだろうが、今回はルールがルールだからな」
「そっか。二人揃う保証がないのか」
エルザの言う通りなのかもしれない。タッグを考えればこの二人以外にもいい組み合わせはある。シリルにウェンディ、シリルとジュビア、ルーシィとカナ、カナとウェンディ、シリルとミラちゃん・・・タッグバトルに不向きな人員が揃っているこちらとは違い、あちらはバリエーションに富んだ組み合わせがいくつもできる。だが、どれも二人揃わなければ意味を成さない。それは理屈としては合ってるんだけど・・・
「けど、あの二人じゃ揃っても大して意味がなくないか?」
もし先に二人が揃う状況になった時、ジュビアとカナが優れたコンビネーションを発揮できるとは思えない。せっかくのメリットを生かせなくては元も子もない。
「しかもマーメイドはあの二人だからな。惜しげもなく戦力を送り込んでいるわけだ」
ガジルの目に映っているカグラとミリアーナは人魚の踵でも上位に入る強さがある。特にカグラは一人でも二人を相手取れると考えての選出だろう。
「あのメンバーならシリルとミラちゃんがそれに該当するけど・・・」
「ミラはすでに競技パートに出てるからな。最後の一回はそう易々と使えないんだろう」
明日以降も考えると実力者であるミラちゃんが出れないのは痛手すぎる。それを踏まえてなんだろうけど、この組み合わせの意図はなんだ。
「何にせよ、見物だな。カグラとミリアーナもどれだけ成長しているんだろうか」
関わりの深い人魚の踵の二人にも注目しているエルザ。俺たちはどのような戦いをするのかを見届けることにした。
第三者side
「うわっ!!やっぱりソフィア出たかったなぁ!!」
ジト目で隣にいるリズリーへと視線を送っているソフィア。そんな彼女に対し、待機場所で共に待っている三人はわざとらしくタメ息をついてみせる。
「何度も言わせないの。ソフィアはあと一回しか参加できないんだから」
「そうそう」
「大事なところまで待っててもらわないとね」
「む~」
人魚の踵内で実力者とされるソフィア。彼女は競技パートですでに出場していることもあり、無駄な消費を避けたいと考えた彼女たちは温存することを選んだのだ。
「でもカグラさんとミリアーナさん行かせたら温存の意味なくない?」
「それだけ大事な試合だと考えたんじゃないの?」
「なんたって妖精の尻尾が相手だからね」
二つのチームに別れているとはいえ、実力者揃いである対戦者たちを無視することはできない。ましてや変則ルールなため迂闊な人選はできないと考えた結果、この二人を同時に参加させることになったのだ。
「それにここで勝てば・・・」
「一日目を一位で終われるからね」
競技パートにおいてソフィアが一位を獲得したこともありこのバトルパートにおける意味合いは彼女たちの中では大きい。そのため今出せる実力者二人を早々に出すことを決めたのだ。
「あ~あ・・・もうこんなに女の子揃う試合はないだろうなぁ」
ガッカリと項垂れているソフィア。しかし、彼女はここで出場権を温存したことに後々感謝することになるとは微塵も考えてはいなかった。
『それではただいまより、一日目最終試合妖精の尻尾vs人魚の踵の試合を行います!!』
そのコールを受けて全員がそれぞれの持ち場に着く。それを見て、エルザたちは目を細めていた。
「最初はジュビアとミリアーナか」
「カナとカグラが待機組・・・か」
それぞれが最初の参加者として決めたのは水の魔導士と猫耳姿の女性。どのような戦略を練った上での戦いなのかと各ギルドの魔導士たちが視線を送っている。
『それではバトル!!スタートです!!』
「先手必勝!!」
銅鑼が鳴ったとほぼ同時、ミリアーナがジュビアへと飛びかかった。
「ネ拘束チューブ!!」
『ミリアーナ選手!!いきなりの攻撃だぁ!!』
彼女の得意魔法であるチューブによる拘束。それは見事にジュビアのことを捉えた・・・かに思えた、
「ミャア!?」
しかしそれは、ジュビアの水の身体を捉えることができず空振りとなってしまった。
「ジュビアの身体は水でできています。シンシンと」
真剣な表情で敵を見据えるジュビア。予想外の状況に困惑の色を隠せないミリアーナは呆然としていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
他ギルドの試合は今回は流させてもらいますm(_ _)m重要なキャラの登場もないので。
次は最終試合の決着までいけるかなぁって感じですかね。
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