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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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黒い技術

 私は今どこかの建物内の無機質な灰色の廊下、十字路の中心に立っています。

 これは……夢……かな……?

 人はたまに自分が夢にいると分かることがある。今の私はそんな状態。これは………
 辺りを見回す。一目で分かった。ここは……

(ジャクソン社の本社)

 オーストラリアのIS国営企業。IS学園に来る前には嫌になるほどこの廊下を行き来した。この廊下は忘れたくても忘れられない。
 そして目の前の廊下から誰かが曲がってきた。それは……

(え……)

 私……だ。両手には大きな本を山積みにしてフラフラと危なっかしく歩いています。
 そしてそのまま私を……すり抜けた。当然ですね。これは夢なんだから私がこれに干渉できるわけがありません。

 そのまま私の後ろにあった扉に入っていきました。
 そしてその扉に書かれている文字を見て気づいた。『これ』は自分の過去を見ていると。

(『資料室』!)

 この夢……ううん、記憶は半年前……『あれ』を見た時の記憶!

 急いで後を追うように資料室に向かう。思ったとおり私の体は壁をすり抜けて資料室に入り込みます。
 正面には資料を持って奥へと進む以前の私の姿がある。

(ダメ)

 それ以上進んだら『あれ』を見つけてしまう!
 この時の記憶は今までぼんやりとしか思い出せなかったのに今は昨日の……ついさっきのことのように思い出せる!

(いけない! やめて! これ以上行っちゃダメ!)

 必死の叫びも虚しく過去の私は記憶にあるとおりに資料を元の位置に戻していく。

 最後の一冊を戻したとき、一つの映像デバイスが棚の上から過去の私の足元に落ちた。

 『それ』は管理者が戻し忘れたのか、それとも誰かが故意に置いたのか、そんなことはどうでもいい。『それ』のロックが落ちた拍子に外れてしまうのは誰が予測できたのでしょうか……

 空中にそのデバイスから映像が再生され始めて……それに私は気づいてしまう。


(ダメ……それは……見たら……)


「『VTシステムに関する資料』? VTシステムって確か……」

 好奇心から過去の私はその場に座って映像デバイスを見始める。
 そこに映し出されたのはとあるIS用アリーナ。その中には1機のISとそれを取り囲むように武装を構える4機のIS。

 突如、中央のISが変化を始める。黒い液体のようなものに飲まれたそのISは体自体を作り変えて黒いISのように変化する。

 その形作りが終わってから4機のISが一斉に攻撃を開始する。

 銃弾の嵐をいとも簡単に避けた黒いISが手に持った刀型の近接ブレードを振るう。一閃……それだけで二機のISが吹き飛ばされる。
 残りの二機の銃弾も全て避けきり、またも一閃。先ほどと同じように一機のISが弾き飛ばされた。

 20分はその映像が続いたでしょうか。最後に立っていたのはほぼ無傷な黒のIS一機だけだった。
 それは戦闘と呼べないただの蹂躙劇でした。

「すごい……」

 過去の私がそう呟く。そう、すごかった。ここまではそれだけで済んだ!
 黒いISが再度球体に戻る。そして姿が元のISに戻ろうと再度形を作り始める。

(胸が…………苦…しい……)

 その黒い球体が完全に元通りのISになった時………画面が赤に染まった。

『あああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 資料室を貫くほどの悲鳴とまるでスプリンクラーと見間違うほど飛び散る赤い液体。
 瞬間……私の意識が遠のくのを感じた。記憶の中の私も気を失う。
 再び私の意識は闇に閉ざされた。


――――――――――――――――――――――――――――――


「あああああああ!!!!」

 何で……あの頃の記憶……今更……

「はあ……はあ……はあ……」

 呼吸が荒い……苦しい……
 何度か深呼吸して…よし、落ち着いた。でも何で今更あの時の記憶なんて……

「ここは……?」

 辺りを見回して夢から覚めていることを確認する。見覚えのあるIS学園の保健室です。
 あの後は確か気絶しているところを探しに来た父さんに見つけられてこっぴどく怒られたんだよね。

 何でも機密レベルSSの物だったらしくて、本当は閲覧禁止の棚にあるものらしい。
 その後そこに置いた他の開発室の人を父さんは思いっきり殴って、その後は殺さんばかりの勢いだったから止めるのにすごい苦労したんだっけ。

 『VTシステム』、正式名称『ヴァルキリートレースシステム』は過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムのこと。
 それだけ言えば聞こえはいいけど、発動時に使用者の生命力を著しく損耗し、場合によっては操縦者を衰弱死に至らしめる危険もあると判断された禁断の技術。そのためアラスカ条約でどの国家・組織・企業においても研究、開発、使用全てが禁止されています。
 そして、私が見たあの映像は中止となった一番の理由。操縦者の運動能力を無視した超反応と規格外の力の行使による全身の毛細血管の破裂、筋肉の断裂、神経切断を引き起こし、あの人は一命は取り留めたが二度と動けない体になってしまったらしい。

 窓からは夕暮れの太陽が地面へと姿を隠そうとしているのが見えます………って夕方!?

「一夏さんたちの試合は!?」

「病室で騒ぐな馬鹿者」

 バシーン!

「いたっ!」

「全く倒れたからと聞いて様子を見に来てみれば……随分元気そうだな」

「お、織斑先生」

 聞き覚えのある声に振り向くと予想通り、そこには出席簿を持った織斑先生が立っていました。

「す、すいません。ご迷惑を……」

「その言葉は篠ノ之に言ってやれ。客席で倒れたお前を運んだのはあいつだ」

「そうですか……」

 後でお礼言わないといけませんね。

「あ、先生。試合……いえ、ボーデヴィッヒさんは!」

「その様子だと『VTシステム』の詳細については知っているようだな」

「あ……はい」

「それが機密レベルSSと知っていてか?」

「あう……」

 機密レベルSS。それはつまり最重要機密事項を意味します。国家代表者ならともかく代表候補生レベルではまだ見ることの出来ない内容。それを知っていると答えてしまいました。

 織斑先生がやれやれ、と首を振ってベッドの空いている部分に腰掛けました。話してくれるみたいです。

「今回の件は全て機密事項だ。が、まあクラスメイトの安否ぐらいはよかろう。ボーデヴィッヒは全身に筋肉疲労と打撲があるが命に別状は無い。しばらくは動けんだろうがすぐによくなる」

「そうですか……良かった」

「お前はよく分からんな。この間まであいつとは険悪な仲だと思っていたが?」

「そうかもしれませんけど……でも同じクラスの人を心配するのは普通じゃありませんか?」

「普通か……そうかもしれんな」

 そう言うと織斑先生は立ち上がって……

『ぬがああああああああ!』

『だ、だから待ってくださいってば~!』

 な、なんですか!? 急に廊下から大声が!

『うおおおおおおお! カルラーーーーーー! 離せ! 離さんかあ!』

『いくら親御さんでもIS学園にいる内は会わせるわけにはいきません~!』

 この声ってもしかして……っていうかもしかしなくても……

 織斑先生がヤレヤレと言いながら右手を頭に置きました。

「忘れていたな。お前の父親と名乗るものが面会を求めている」

 やっぱりこの声は父さんですか……もう……
 来てたんですね。恐らく今回のトーナメントを見に来ていたのでしょう。

「だが知っての通りIS学園は国際規約で学園外の者は学園の関係者に対して一切の干渉が許されていない。残念だが……」

『きゃーーーーーーーー!』

『カルラーーーーーーー!』


 ドーーーン!


 またドアが吹き飛ばされましたよ……しかもここ保健室ですよね。こんな短期間に二回も吹き飛ばされるなんて……

 姿を現したのは2m近い身長の巨漢と、目を回しながらもその巨漢の腰にしがみついて止めようとしている山田先生。
 巨漢の方は鮮やかな赤い短髪に無精髭。筋骨隆々という言葉がピッタシの体にスーツという格好です。

「カルラーーー! おお、そこにいたかぁ!」

「父さん……」

 そう言ってこちらに歩いてくる巨漢の男性は何を隠そう私の父、ゼヴィア・カスト。

「はにゃああ……すいません織斑先生……止められませんでした~」

 山田先生が父さんの腰にしがみついたまま織斑先生に謝りました。いえ、山田先生のせいではないと……

「申し訳ありませんがお引取り願えませんか」

 織斑先生が私を守るように父さんとの間に入りました。

「む、そういう貴方はどちら様かな?」

「織斑千冬と申します。若輩ながら娘さんの担任を勤めさせていただいております」

「おお! 貴方が件のブリュンヒルデですか! これはこれは、娘がお世話になって!」

 そう言って父さんが織斑先生の右手を取って固く握手しました。

「挨拶は結構です。IS学園に関する国際規約はご存知ですね? 学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されていません」

「うむ! 重々承知している!」

 承知してるんですか! そこは嘘でも知らないって通すべきじゃないんですか!?

「だが大切な娘が倒れたと聞いてじっとしてられる親がいますかな?」

「そこに関しては否定はしませんが条約上親御さんも例外ではありません。ご息女の無事も確認できたのならお引取り願います」

「しかしですなぁ……」

「父さん」

「む……」

 父さんは親バカという言葉がぴったりの性格です。私が言わない限り引いてくれないでしょう。

「私は大丈夫。父さんの気持ちは凄く嬉しいけどこれ以上私のことで国の人や父さんに迷惑をかけたくないから……ね?」

「ぐ……むう……まあカルラがそう言うのだったら大丈夫か。いやお二人ともご迷惑をおかけしましたな。娘も無事のようですし私はこれで退散しましょう」

「で、出口まで送ります~……」

 山田先生、まだ目を回していたんですね。そのままフラフラと廊下へと出て行きます。
 それを危なっかしく思ったのか織斑先生がその後に続きました。

「申し訳ありませんが学園出口までは監視として私も付きます。よろしいですね?」

「ああ、お願いする。カルラ、体に気をつけろよ。たまには連絡寄越すようにな」

「う、うん。あ! 母さんにも私は大丈夫だって言っておいてね」

「おう! ではまたな!」

 そう言うと父さんは山田先生の後に続いて織斑先生と共に保健室から出て行きます。
 久しぶりに会ったけど父さん変わらず元気そうだったな。あの調子なら母さんも元気だと思います。

「そうだ。カスト」

「は、ひゃい!」

 いきなり織斑先生が戻ってきました! 一体なんでしょう?

「一回戦で負けたお前たちには関係ないがこの騒ぎでトーナメントは全て中止だ。良かったな(・・・・・)」

「へ?」

 良かったってどういうことなんでしょう?

 それを聞く前に織斑先生は出て行ってしまって聞けませんでした。

 あ、箒さんが良かったって意味なのかな? ていうことは織斑先生もあの噂を聞いてたってコト?
 それで私に良かったって言う理由…………


 あの~、もしかしてもしかします? 
 

 
後書き
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