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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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意地VS意地

 それにしても箒さん、かっこいいですね。タイミング的にも台詞的にもこのまま小説の主人公になれそうな勢いですよ。

「カルラ、時間を稼いでくれて礼を言うぞ」

「別に倒しても構わなかったんですけどね。箒さんの出番がなくなりますから」

「ふ、そうか。では期待に答えるとしよう」

 私の冗談に箒さんが微笑んで巨大な剣を肩に担ぎました。セシリアさんと鈴さんは突然の乱入と見知らぬ武装に少し様子見をしているようです。
 さて、箒さんが来たということは作戦Cの開始ですね。

『な、なんですの……あの巨大な剣は……』

『は! 武器がでかくなったところで!』

 鈴さんが箒さんに突進をかける! 援護……!

『今更『打鉄』程度にビビるわけないってのよ!』

 両手の『双天牙月』を振り回しながら鈴さんが猛スピード迫ってくる! まずい、援護間に合わな……!

―『打鉄』よりデータ受信。座標データ認識、時間データ認識―

 来ましたね、こちらの切り札!
 迫っていた鈴さんと私たちの間に再びエネルギーが降り注いだ。

「さっきから何なのよもう! 鬱陶しいわね!」

「鈴さん離れて!」

 鈴さんが上昇すると共に四方から警告が上がります。『ブルー・ティアーズ』ですか。状況を見るに敏と言ったところですね。まあまだまだこちらの手札はつきませんけど。

 左手に『ミューレイ』をオープン、全弾連続発射!

ドドドドドドン!

 激しい反動、発射音と共にグレネード弾を二人の周りにばら撒き、時限信管が作動して爆発を起こします。
 むろん全て直撃弾ではなく、二人の行動範囲を限定するような。もちろん当たるか当たらないかのギリギリの距離です。

 二人が回避したところにまたもエネルギーの塊が降り注ぎました。

『もう! さっきからなんだってのよ!』

『一体どうなっていますの!?』

 混乱しているところに射程の長い『コジアスコ』をオープンして鈴さんに狙いをつけ、トリガーを引く。

『は! この程度、舐めないでよね!』

 『コジアスコ』の弾丸は鈴さんが『双天牙月』を連結し前面で回転させたことで弾き飛ばされて有効弾は無し。
 でも動きは止まりましたね。

『おおおりゃああああああああ!』

 『双天牙月』の回転が止まったところで箒さんが斬りかかる。鈴さんが迎撃のために『双天牙月』を構え、それを見た箒さんがニヤリと笑うのが見えた。
 鈴さんがその切っ先を受けて……弾き飛ばされた!

『嘘!?』

『お前も私を舐めていたのではないか?』

 鈴さんが驚きの声を上げる。

 どんなに奥の手を用意していても『打鉄』は『打鉄』。第二世代型ISである以上第三世代型ISにスペックでは勝てない上にパワーでは『甲龍』には遠く及びません。
 ではどうするかというと、拮抗できるのは純粋な技量、質量、勢い、そして意表をつくこと。
 そしてそれを実行するための2つの切り札。
 まずは今箒さんが振るっている3,5mを誇る巨大近接ブレード、大野太刀『雷斬』。

『鈴さん! な、またですの!?』

 セシリアさんが援護しようと『スターライトmkⅢ』を構えたところにまたもエネルギーの塊が降り注ぎます。
 先ほどから降り注ぐこのエネルギーの雨。
 これが切り札の二つ目、64式連装大弓『月穿』の曲射攻撃による時間差攻撃。

 そのために箒さんを後方に投げ飛ばし、ジャミングで発射時に悟られないようにして、今まで私一人でセシリアさんと鈴さんの二人を抑えてきた。ここで決めなければ私たちの負けが一気に濃厚になってしまう。

―次弾4時方向、距離80、着弾まで5秒―

 『コジアスコ』をクローズしつつ左腕を振るいながら『ユルルングル』を解除、セシリアさんを捉えるために振るう。

『同じ手は通じないと言ったでしょう!』

「同じ手なら、ですけど?」

 左は避けられましたか。でも……右腕も同時ですよ?
 避けた位置には既に右腕の『ユルルングル』を放っていてセシリアさんの左腕を絡め取る。

 文字通り違う手ですね。

『しまっ……!』

「ええい!」

 セシリアさんが言い切る前に4時方向距離80にセシリアさんを放り投げ、そこにぴったりのタイミングでエネルギーの塊が直撃して爆発した。

『きゃああああああ!』

『セシリア!?』

『余所見とは余裕だな、鈴!』

『ちぃ!』

 『雷斬』を自分の頭上で振り回していた箒さんがそれを振り下ろした。鈴さんはそれを『双天牙月』を交差させて防ごうとしたが、そのまま地面まで押し込まれる。足が地面にめり込んでから鈴さんがようやく『雷斬』の特徴に気づいたように叫んだ。

『あんた! 何て重いもん使ってんのよ!?』

 『雷斬』は大きさもそうですが特筆するのはその重量。そもそも第二世代型でプラズマ刃を出すのにIS自身のエネルギーを使ってしまっては燃費が悪すぎます。
 その出力を維持する方法は簡単。刀自身の中にバッテリーを組み込んでしまえばいい。
 しかしその結果どうなるかというと刀の長大化重量化が目立ち、結局汎用性に劣ってしまったためにお蔵入りされた近接武装。それが『雷斬』。
 扱いが非常に難しい分、先ほどのような振り下ろし、更に遠心力を加え重力を味方につけた超重量によって現行ISで受け止めることは困難。たとえそれがパワータイプの『甲龍』だろうと結果は変わりません。
 でも驚くべきはその扱いの難しい武装を一週間足らずであそこまで使いこなせている箒さんです。
 正直最初は無茶かと思いましたけど、あれでIS適正Cって本当なんですかね?

 上から箒さんがブースター全開で押し込んでいるせいで鈴さんは動きが取れないでいる。両足がドンドン地面にめり込んで行きますが、5cmほど沈んだところでそれが止まりました。
 流石『甲龍』。面目躍如というところですね。
 鈴さんがこっちの番とばかりニヤリと笑う。

『でもあんたも忘れてるんじゃないの? アタシの武装!』

―空間の歪曲を確認!―

 ISのハイパーセンサーが『龍咆』の発射を捉える。でもその前に箒さんは離脱しました。
 何故ってそれは……

『う、嘘……』

 次の『月穿』の着弾位置がそこだったからに他なりません。
 鈴さんは箒さんがそのまま決めに来ると思っていたのか、ほとんど動けないでエネルギーの塊を受け、セシリアさんと同じように爆発を起こした。

 それを見る前に私は既に『ダラマラ』を展開。爆発の中にいるはずの二人に向かって作動させる。
 いつも通り甲高い高速回転の音と共に6つの銃身から弾丸の雨が吐き出される。
 出し惜しみ無しで全弾丸を叩き込む。当たってるかどうかなんて関係ない。あの二人相手に回転式機関銃を使う暇なんてこういう時しかないんですから。

 一分はずっと作動させっぱなしだったでしょうか。『ダラマラ』が弾切れを伝え、回転音だけになる。私は『ダラマラ』をクローズして『マリージュラ』に右手を、『ハディント』に左手をかける。手をかけるだけで抜かない。どんな状況でも対応出来るように気を張る。

 相手の反応が無いのを確認したのか、箒さんが私のいる位置まで上がってきて、今まで構えていた『雷斬』を初めて右肩に預けた。
 顔には私の比では無い程の大量の汗をかき、呼吸も荒いです。

 いくらISとは言え扱うのは操っている人に他なりません。ならその武器を扱うのも人です。重量や遠心力、武装の反動は全て操縦者に跳ね返ってきます。
 箒さんの場合、慣れない超重量武器に加えて格上とのIS戦闘で心身共に限界が近く見えます。

「大丈夫ですか?」

「はあ……はあ……すう……はあー……大丈夫だ。まだ行ける」

「分かりました」

 一回大きな深呼吸と共に箒さんが顔を上げました。本人が言ってるんです。箒さんの場合は明らかに無理をしていますが、ここで止めるわけにはいきません。
 それにまだ試合終了の合図も鳴っていません。相当削ったはずですがまだ落とすまでには至っていないということですね。

 その時、アリーナの4箇所に爆発が起こりました。『月穿』の残りのエネルギーが全弾着弾したのでしょう。これでかなり状況は不利になりましたね。

 そしてその爆発とほぼ同時に、先ほどの爆煙、『ダラマラ』の起こした砂埃を突き破ってセシリアさんと鈴さんが飛び出してきました。

『ああ、もう。やってくれるわね……痛てて』

『はあ、はあ……流石と言ったところかしら?』

 二人とも埃だらけの煤だらけ。しかもかなりボロボロです。

―状況確認、『ブルー・ティアーズ』BT兵器6基中3基破損。『甲龍』衝撃砲右肩部破損―

 爆発に巻き込まれた影響でしょうね。BT兵器は腰の誘導弾2つとレーザーの物が1つしかありません。
 と言ってもこれで互角、といったところでしょうか。私のシールドエネルギーも残り150を切ってる上に武装もほとんど残ってませんしね。


―現状確認、シールドエネルギー残量139、残存武装、『ハディント』残弾85発、『エスペランス』残弾8発、『ダラマラ』残弾0発、『ミューレイ』残弾0発、『コジアスコ』残弾5発、『マルゴル』残弾10発、『イェーガン』使用可能、『マリージュラ』展開残り時間43秒、『アドレード』脚部2本、『カイリー』展開残り時間1分―

 前言撤回、案外残ってますね。と言ってもこの二人相手にどこまで行けるか……

『どうやらそちらの切り札は終わったみたいですし? 今度はまたこちらの番ということでよろしいのかしら?』

「面白い冗談だな」

「箒さん?」

 箒さんもさすがに辛くなったのか『雷斬』を量子化して新しい武装を展開します。左上の内側に展開されたそれは『月穿』よりも幾分小さい取り回しを考えられた便利な射撃用の短弓。

「『重籐』……」

「どの道負けられん戦いだ! ここで負けてしまっては意味がない! 出し惜しみなぞせん!」

『あら、奇遇じゃない。アタシも負けらんない理由があるのよね』

『結局皆さん負けたくないのは一緒のご様子。なら最後まで付き合うのが務めですわね』

 全員がそれぞれの武装を構えたのを見て、私も腕を交差させて両肩の『カイリー』を掴みます。

「行くぞ!」

『今度こそ!』

『レクイエムを聞かせて差し上げますわ!』

『『「一夏と付き合うのは(アタシ)(わたくし)だ(よ)(ですわ)!」』』

 『カイリー』を投擲すると同時に私以外の全員が叫びました。
 欲望丸出しじゃないですか……

『どりゃあ!』

 鈴さんが『カイリー』を叩き落し、そのまま突撃してくる。私は『イェーガン』を展開してそれを思いっきり突き出します。
 左手の青竜刀で受け流しながら一気に接近してくるので、左足の『アドレード』を展開してがら空きの鈴さんの顔面に蹴りを放……

「な……!」

 その『アドレード』の刃の部分だけがレーザーで折られました。いつの間に近づかせたのかビットの一基が私の近くに浮いていて、それが撃ったのでしょう。

「もらったぁ!」

「ぐ……!」

 動きの止まった一瞬の隙に鈴さんが再度青竜刀を振り下ろし、私は思わず左腕の手甲で受け止めてしまう。
 手甲がその威力に耐え切れず破壊されて中の『マルゴル』の火薬に引火した!

「きゃ!」

「うわ!」

 至近距離での爆発は流石に鈴さんも避けられなかったようで一緒に逆方向に吹っ飛び、地面に叩きつけられます。

―シールドエネルギー残量87―

 まずい! このまま落ちたら箒さん一人になってしまう。せめて相打ちに!

「箒さん! 作戦D!」

『な、何!?』

「信じます!」

『ま、任せろ!』

 箒さんに作戦最終段階を伝えてから『イェーガン』を左手に持ち替えて右手の『ユルルングル』を鈴さんに向けて射出する。
 態勢を立て直したところだったので鈴さんの左腕を絡め取ることに成功。

『は! チェーンデスマッチでもしようてっの!?』

「残念ですが…」

 『ユルルングル』を収納しながら『イェーガン』を地面に突き立て、残った右足の『アドレード』をスパイク代わりに地面に向けて展開する。この状態で収納することでパワータイプの『甲龍』でも確実にこちらに引っ張ることが可能です。

『武器を捨てた? 何しようとしてるかは知らないけど先に落とす!』

―『イェーガン』内温度急速上昇、危険区域に到達―

 鈴さんが『ユルルングル』で引っ張られる勢いを利用して急加速、一気に突っ込んでくる。
 ところで、今更言うまでも無いですが『イェーガン』はヒートランス。つまり内部に熱量発生装置を仕込んでいます。
 通常外向きのそれを意図的に中向きに変えればどうなるか、分かりますか?

―臨界点到達、爆発まで0,3秒―

「な……」

「一緒に退場と行きましょう!」

「何よそれぇ!?」

 私と鈴さんのほぼ零距離で巨大な熱量を含んだ『イェーガン』が爆発。その爆風と破片が一気に私と鈴さんのISに襲い掛かり、シールドエネルギーを根こそぎ奪います。

―シールドエネルギーempty、行動不能。『甲龍』シールドエネルギーempty―

「あ、あんた相変わらず無茶苦茶するわね……」

 煙を吹いている『甲龍』から鈴さんがこちらを睨みつけてきました。
 勘弁してください……

「ああしないと負けなので」

「だからって一緒に自爆する奴がいる? 全く……」

「ここにいますけど?」

「ああそう」

 溜息つかれてしまいましたね。分からなくは無いですけど。
 ふ、っと上を見上げて箒さんの確認をしようとした途端、空中で爆発が起こりました。
 そしてその爆煙の中からはじき出されてきたのは……箒さんの『打鉄』……

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット、凰 鈴音ペア!』

 負け……ですね。少し残念です。 
 

 
後書き
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