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境界線上の転生者達

作者:小狗丸
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第三話

「何やってんの、は俺の台詞だよトーリ。朝から授業をサボって何をやっていたんだ? 総長兼生徒会長?」

「あ? 北斗マジで俺の収穫物に興味あんのかよ! 俺参ったなあ!」

 トーリは体をくねくねさせながら近づいてくると、手に持っていた紙袋から表面に美少女のイラストが描かれた箱を取り出した。

「見えるか北斗? 今日発売のR元服のエロゲ『ぬるはち』! それも初回特典盤! 俺、これ買うために朝から店に並んでたんだ! なんでもこれチョー泣かせるらしくて、俺帰ったらこれで涙ポロポロ流しながらチョーエロいことをするん……」

「呪相・炎天!」

 ボゥ!

「だああああああっ!?」

 キャスターの手から放たれた炎がトーリの持つエロゲを一瞬で灰にし、トーリがこの世の終わりのような表情で叫ぶ。

「マスターにいやらしい物を見せるんじゃないですよこの変態総長! マスターを誘惑しようとする不届きな女は、たとえ二次元であっても見つけ次第即滅却です!」

「お、俺の、俺のぬるはちがぁ~!」

 灰となったエロゲの前で膝をつくトーリを指さし物騒なことを口にするキャスター。そんな彼女を梅組の皆が戦慄の表情で見る。

「ウ、ウッキー殿。見たで御座るか? あの燃焼狐、買ったばかりでまだ取り扱い説明書すら読んでいないエロゲを、それも初回特典盤を何のためらいもなく焼き捨てたで御座るぞ? あんな非道、うちのカーちゃんですらしないで御座るぞ?」

「あの異教狐には人の血は流れておらぬのか?」

「ていうかエロい姿を見せただけの二次元の女であれじゃ、実際に北斗に三次元の女が近づいたらどうなるんだ?」

「その場合は北斗になんとか頑張ってもらわないと死人が出るな……」

 クラスメイト達が小声で話すなか、トーリはエロゲだった灰の前で膝をついたまま固まったままだった。そんなトーリにオリオトライ先生が近づいていく。

「あー、トーリ? 授業をサボってまで買いに行ったエロゲを燃やされたことには個人的にザマミロなんだけど、まだ授業中だからさっさと立ち直りなさ……」

「先生! 俺、エロゲを燃やされてマジ傷ついているんだ! たから先生のオッパイを揉ませて慰めてくれよぉ!」

 何がだからなのかは分からないが、トーリが突然立ち上がってオリオトライ先生の胸に手を当てる。いきなりの出来事にオリオトライ先生は固まり、俺を初めとする梅組の全員が顔を青くして一歩引いた。

「あれ? これって攻撃が当たったことに……」

「なると思うか?」

『…………』

 首を傾げながら言うハイディの言葉に俺がツッコミを入れると全員が無言で首を横にふった。だよなぁ……。

「……よし。先生のオッパイ揉んで元気出たわ。でさ…皆、ちょっと聞いてくれよ。前々から話してたと思うんだけど……」

 固まったまま動かないオリオトライ先生を置いておいて、トーリは俺達の前に立つと、一息吸って言った。

「明日俺、コクろうと思うわ」

『…………………………』

 トーリの言葉に全員が動きを止める。沈黙に耐えかねた弓を持った巫女の浅間智が「え、ええと……これ笑うところ……ですかね?」と言うが、トーリを表情を変えない。

 ……本気、てことか。

「フフフ愚弟。いきなり出てきてコクり予告とは、エロゲを持ってきて燃やされる人間の台詞じゃないわね!」

 そんなことを考えてるとトーリの姉の葵喜美が相変わらずのハイテンションで話しかける。

「それで愚弟にコクられる哀れな犠牲者は誰? 賢姉にゲロしてみなさい、さあ!」

「……ホライゾンだよ」

 ………………………………………………っ!

 俺を初めとする梅組全員が絶句した。

 ホライゾン。

 その名前は知っている。ホライゾンはトーリの幼馴染みで、トーリが彼女のことが好きだったことも知っている。だけど、彼女は……。

「……馬鹿ね。あの子は十年前に亡くなったのに。アンタの嫌いな後悔通りで。……墓碑だって父さん達が作ったじゃない」

 そう。喜美の言う通りだ。ホライゾンは十年前に死んだのだ。

「……分かってるよ。ただその事からもう逃げねぇって決めたんだ」

 皆がトーリを辛そうに見るが、トーリだけは相変わらず笑って言う。

「明日で十年目なんだ。ホライゾンがいなくなってから。だから明日、コクってくる」

 トーリが笑いながら言う。迷いのない、どこか吹っ切れた笑みで。

 それを見て梅組の皆が表情を柔らかくして笑みを浮かべる。俺とキャスターも笑っていた。その中で一番嬉しそうな雰囲気を纏っていたのが喜美だった。

「……そう。それじゃあ今夜は告白前夜祭といったところかしらね?」

 喜美の言葉にトーリが笑って頷く。……と、ここで今まで固まっていたオリオトライ先生がゆらりとした足取りでトーリに近づいていく。

「って先生聞いていたかよ? 今の俺の恥ずかしい話!」

「…………知ってる? 人間って怒りが頂点に達すると周りの音が聞こえなくなるのよね……」

 オリオトライ先生が底冷えのする声音が漏れる。あー、これはかなり怒っているな。でもトーリはそれに気づくことなく……

「おいおい、仕方ねえな! じゃあもう一回だけ言うぞ? 俺……今日が終わって無事明日になったらコクりに行く……ぶっ」

「よっしゃ! 死亡フラグゲットォーッ!」

 ドゴォ!

 言った次の瞬間、トーリはオリオトライ先生に蹴り飛ばされてヤクザ事務所に突っ込んでいった。 
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