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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth29偽神と共に夢想は墜ち、彼と彼女の別離が始まった~FinalE~

 
前書き
VS????戦イメージBGM
VALKYRIE PROFILE 2 - SILMERIA『How Wicked Ruler』
http://youtu.be/0warHwXkt4Q 

 
†††Sideオーディン†††

「これが・・・聖王女オリヴィエの・・・力・・・!」

サーチャーカメラとしての魔道・発見せよ(コード)汝の聖眼(イシュリエル)を通して私はオリヴィエ王女殿下とテウタの決闘を見ていた。エテメンアンキの内部の状況を確実に知るため、そして最強と謳われていたオリヴィエの“異界英雄エインヘリヤル”と武技・魔導を手に入れるために。
この事についてはオリヴィエに断わりを入れていない。私個人の一方的な目的の為だからだ。盗み見をし、あまつさえオリヴィエの能力をすべて盗み取ろうというのだ。言えるわけがない。

「どうかお許しを。少しでも思い出が――複製の数を増やしておきたいのです」

言い訳じみた独り言を漏らす。しかしそれにしても「はは・・ははは、すごい・・・!」体が震える。ベルカ人は魔力に恵まれていない種だと言う。だからこそカートリッジシステムなるモノが生まれたんだ。しかし中にはとんでもない魔力を有している者も居た。オリヴィエやテウタがその筆頭だ。
私は運が良い。伝説の聖王女の戦いを観れ、彼女の“力”を手に入れる事が出来た。直に“堕天使エグリゴリ”を全機救って消える事になるだろう私だが、少しの間でも有する事が出来るのは光栄だ。

「テウタが負けた。オリヴィエ王女殿下はエテメンアンキの放送を使って、戦争終結を伝えるだろう。そうすれば・・・・」

七美徳の天使アンゲルスとアースガルド艦隊の召喚を解き、イリュリア王都へ攻め込む。“エグリゴリ”を捜し出すため、ミュールやゼフォンを製造した施設を破壊するために。あと関係者に“エグリゴリ”との接点すべてを吐かせるために。どうやって知り合ったか、何故招き入れたか。

「とりあえず今は、各地の戦闘を中断させるか」

アースガルド艦隊に指示を出す。艦砲射撃を戦場に撃ち込み、戦闘を強制中断させる。イリュリア側と同盟側に分かれたところで、勢力間に砲撃を撃ち続ける。砲撃が治まるまでは誰も戦闘を続けられない。続けるには砲火の真っただ中を突っ走らなければならない。そこまでして戦おうとは思わないだろう。さぁオリヴィエ、終戦の放送を・・・

「なに・・っ!?」

イシュリエルを通して私は見た。エテメンアンキの最上階らしい階層に上ったオリヴィエと、彼女が担ぐテウタ。最上階に在ったのは背もたれの高い肘掛椅子。おそらく玉座。その玉座に腰掛けていたのは、「テウタ・・だと!?」オリヴィエが担いでいるテウタと瓜二つの少女だった。

†††Sideオーディン⇒オリヴィエ†††

「え・・・?」

女王たるテウタを打ち倒し、私たちの勝利をイリュリア全土で尚も戦闘を繰り広げている仲間たちに伝えるために最上階へ上がってきた。ですが私の目の前に「何故・・テウタが・・・!?」私が担いでいるテウタと同じ姿をした女性が居ました。すぐに実体を持つ分身体(確か夢影と言う・・・)を思い出し、魔力弾を1基創り出して投げ放つ。

――パンツァーシルト――

魔力弾がそのテウタの分身体に着弾する直前、銀色に光り輝くベルカ魔法陣の障壁が張られ防がれた。テウタと同じ魔力光ですね。ただ分身体と言うには表情が柔らかなもので・・・。

「ようこそ、旧世界ベルカが終わり、新世界レーベンヴェルトの始まりの起点である我が城へ」

玉座より立ち上ったそのテウタが、私が担いでいたテウタへと視線を送ってきました。私も横目で見、「・・・変身の魔導でしたか」担いでいたテウタの姿は変わって――正確には元に戻っていました。真紅の長髪、男装、テウタとは似ても似つかない女性。私はその女性をそっと床に横たえさせます。

「改めまして自己紹介を。私はテウタ・フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルト。貴女が倒したその娘の名はマラーク。私の融合騎で、フォルエンドゥングタイプと呼ばれるものです。貴女の戦闘能力を測るために、他者の人格と戦闘能力を複製する変身の能力を以って私に変身させて迎え撃たせましたが、結果は散々でしたね」

「・・・・また闘いますか? 言葉で止まらないと言うのであれば、力づくで止めます」

コロコロ笑うテウタに、私は敵意を剥き出して告げる。彼女は「まぁ怖い♪」と怯えたような演技を見せますが、やはり笑みを崩そうともしない。それがさらに私の神経を逆撫でしてくる。こちらは真剣なのに、彼女は遊んでいるかのよう。

「オリヴィエ王女殿下。マラークの話した事は全て私の言葉なんです。今回のこの戦が始まらずとも、いつかはこれと同じような規模の戦が起こる。それは必然。なら、この戦をベルカで起こる最後の戦にしませんか? ベルカは責任を持って私が統治しましょう」

「残念ですが承知できません。最後の戦というのには惹かれますが、イリュリアの支配だけは看過できません」

「・・・ふん、愚かな。黙ってレーベンヴェルトの再誕を祝せばいいものを」

テウタの様子が激変。敵意はもちろん殺気が凄まじいです。彼女は私の傍で横たわっている女性マラークに目をやり、「起きなさい」そう一言。すると「再起動します」マラークが機械的に言い、私が負わせた損害を無かったかのようにスッと立ち上りました。

「当初の計画通り、イリュリアに攻め入った貴女方には全員死んでもらいます。さすれば彼の神器王にも敗北の苦汁を飲ませる事が出来ましょう」

「神器王・・・? それは一体――っ!」

テウタとマラークが手を繋いだかと思えば、マラークの体がテウタの体に溶け込むかのように消えました。融合したのでしょう。テウタの灰色の髪が桃色と変わり、翠色の瞳は濃い緑色へと変化。衣服はドレスから「オーディン先生と同じ・・・!」色は黒ではなく白ですが、デザインが全く同じの長衣へ。背部からは、美しい羽が20枚と放射状に生み出され、テウタを床より少しばかり浮かせていました。

「エテメンアンキ。自立モードに移行」

テウタがそう告げると『了解』どこからともなく聞こえてくる返答。そしてまた放たれる砲撃カレドヴルフ。オーディン先生を信じ、私はひたすらにテウタを見据える。

「聖王家の王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。この戦の果てに再誕する新世界の神として、まずは貴女から罰してあげましょう!」


VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は新世界を呼び起こす創世神テウタ
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS


――神の覇道――

「はああああああッ!」

「っ!?」

超高速の突進。横っ飛びしてほぼ紙一重での回避。すぐさま転身。通り過ぎて行ったテウタへ向き直る。彼女は羽を翻しながら転身し、再度突進して来ました。高く跳躍してやり過ごしたのですが、いつの間にか宙には私の身長と同じくらいの火炎弾が10基と待機していた。

「さぁ行きますよぉッ」

――神の火弾――

全周囲に待機していた火炎弾が断続的に放たれて来ますが、四肢に魔力を纏わせて1発残らず拳打と蹴打で迎撃する。その間にテウタは銀色の魔力剣を携えて、床に降り立ったばかりの私へと突進して来ました。

「ふ・・・っ!」

――神の光剣――

薙ぎ払われる魔力剣を後転跳びで避け、着地したと同時に突進、テウタの顔面に拳打を一発打ち込む。彼女は「ぅぐ」と苦悶の声を漏らしました。打撃力強化しただけの拳打でも十分に通用するのですね。ですが、「休んでいる暇はありませんよぉ? 何故なら――」彼女が殴られた個所を手でなぞると、一瞬で腫れが消えてしまいました。

「すぐに再生しますからねぇッ!」

――神の雷嵐――

足元に銀の魔法陣が展開された事で、私は考える間もなくその場より離脱。直後に放電する竜巻が発生。こちらにまで伸びてくる雷撃をかわし、

「破ッ!」

――驚浪雷奔――

魔力衝撃波を放つ。彼女はくるくると踊るように回りながら射線上より離れ回避。再び魔力剣を携えた彼女は私に接近しながら、何を思ったのか魔力剣の長さでは届かない距離だと言うのに、「えいっ!」と振るってきました。
私の前方、2m先の空を切り、でも何も起きない。ただの空振り?かと思えば、振り戻された魔力剣が私を攻撃範囲に捉えるほど伸びていました。大きくしゃがみ込んで避け、

――電光石火――

短距離限定ですが高速移動が出来る魔導・電光石火でテウタの右隣へ移動。したと同時に、「せいっ!」跳び回し蹴りを繰り出す。蹴打は魔力剣で受け止められましたが、そのまま魔力剣の腹を蹴り上げて彼女の腕を大きく上に逸らさせる。私はすぐに両足を床に付けてしゃがみ込み、脚に力を集束させる。右手の平に魔力球1基を生み出し、

「砕ッ!」

――旭日昇天――

飛び上がると同時にテウタの腹部へ魔力球ごと掌底を打ち込む。魔力球は彼女の腹部へ着弾すると同時に炸裂。体表面に損害を与え、体内に損害を侵透させる追加の掌底。よほどの防御力が無ければ必倒です。

「がふっ・・・ふふ、まだまだ足りませんよぉッ!」

――神の威光――

テウタの全身より発せられる衝撃波に「っ・・づ・・!」大きく弾き飛ばされ、

――神の火柱――

着地した途端に足元より火柱が噴き上がる。咄嗟に後退する事で掠める程度で済んだのですが、後退した先も火柱が噴き上がり、横っ飛びで避けた後のその地点でも火柱が噴き上がり、また足元より火柱が噴き上がろうとしていたので前方へ跳び、

「少しばかり本気を出しましょう。さぁ受けてみてください!!」

――神の閃光――

回避する事で精いっぱいだったので気付かなかった。テウタの真正面へと誘われていた事に。私に向け差し向けられた彼女の人差し指が煌めいたかと思った瞬間、視界が銀に染まり、全身を貫く激痛と衝撃に、

「うぁぁあああぁぁあぁあああああああッ!」

生まれてからこれまでに上げたことのない悲鳴を上げてしまいました。吹き飛ばされる感覚を得、そして何かにぶつかった衝撃が私を襲い、「ぁが・・・ぅぐ、げほっげほっ・・!」激しく咽てしまう。

「ふふふ、ははは、はははは、ははははは、ははははははははははッ!」

視界が明滅する中で聞こえてくるのはテウタの狂ったかのような笑い声。自分が倒れ伏しているという事が判ってすぐに両手をつき、上半身を起こす。頭を振り、視界が正常に戻りつつある合間にも立ち上り、

「貴女は運が良い! この私が新世界レーベンヴェルトの神になる前、人間としての最期の戦闘の相手をしているのですからッ!」

――神の火弾――

「っく・・・!」

高速で断続的に放たれて来る火炎弾を床を転がる事で回避。連続で床に着弾していく数発の火炎弾が起こす爆炎と爆風により、思ったよりテウタより距離を取ることが出来た。オーディン先生から頂いた腕輪の効果である治癒の魔導が働き、負っていた損害が回復されていく。蒼という見た目は冷たい色なのですが、包まれるとそれはとても優しく温かなもので。このままずっと抱かれていたい気持ちになってしまいますが、残念ながら今は決闘の最中。

「今度はこちらが打って出る番です!」

転がる最中に片手を床について跳ね起き、

「破ッ! せいッ!」

――驚浪雷奔――

連続で突き出した両拳から魔力衝撃波を打ち放つ。テウタは高速で横移動する事でどちらも避けますが、彼女の回避中に私は電光石火を用いて最接近。

――光芒一閃――

「斬ッ!」

右の五指の先端より発生する魔力の刃で彼女の右側の羽数枚を寸断、間髪入れずに後ろ回し蹴りを彼女の顔面に打ち込む。「ふぐ・・・っ」鼻を押さえて後退する彼女に追撃をしようとした時、僅かながらもエテメンアンキが揺れたのが感じ取れた。

『報告。本塔へと接近しつつある戦船7隻による艦砲攻撃を受けました。防御障壁システムに損害なし。カレドヴルフによる迎撃を行います・・・・』

「戦船? どこの国のモノです? せっかく燃えていたのに水を差すなんて。オリヴィエ王女殿下、しばしお待ちを。私たちの決闘を邪魔した者どもを滅して――」

「やめなさいッ!」

止めに入ろうとするもすでに手遅れで、カレドヴルフは無情にも放たれました。モニターという外の景色を映し出すモノに映し出されたのは、すでに夜となった暗い空、そしてこちらへ向かって飛行を続けながら艦砲攻撃を続ける戦船艦隊。
その形状からして、私は少しばかり混乱してしまう。どうして「ネウストリア所属の戦船が・・!?」と。5本のカレドヴルフは夜空を裂いて一直線に7隻の戦船へ向かって行き、そして「オーディン先生!」の御力――姿は見えませんが、アンゲルスという名の使い魔によって防がれました。

「ネウストリアを庇ったのですか? あくまでイリュリアだけに刃向うと言うのですね。仕方ありません。エテメンアンキ。神器王ともどもネウストリア艦隊は放っておきなさい。どうせ魔力攻撃ではこのエテメンアンキの障壁を突破する事など叶わないのですから」

テウタは怒りと呆れを含んだ声色でそう言い捨てました。それに神器王とはオーディン先生の事だったのですね。意味のほどは理解しかねますが、おそらくベルカに訪れる前の二つ名なのでしょう。オーディン先生が追い求める“エグリゴリ”から聴いたのかもしれませんね。魔神という忌み名より神器王という方が良い響きで、個人的に好きです。

「いつでも仕掛ける事が可能でありながら、本当にお待ちいただけるとは・・・」

「本心を言えば殴り飛ばそうかと思いましたが、私の矜持と誇りで抑えつけました」

「そうですか。・・・では、再開と参りましょうか」

「そうですね・・・!」

――神の吹雪――

――電光石火――

テウタの前面に展開されたベルカ魔法陣より放射された吹雪を、電光石火で回り込むように回避して彼女へ接近。ネウストリアの戦船艦隊の艦砲によって微弱ながらも揺れるエテメンアンキの玉座の間にて、私とテウタの決闘は続きます。
彼女の魔導を避けては攻撃を打ち込み、避けられては追い縋って打ち込み、避けられずに防御してはまた攻撃を。それひたすらに繰り返し、そして・・・・今までになかった振動が私を、いえエテメンアンキを襲いました。

「一体何が・・・!?」「これは何事ですか!?」

あまりに強い揺れに戦闘を中断せざるを得なくなり、お互いに距離を取る。テウタの怒声の返答として、エテメンアンキは耳を疑うような事を告げた。

『ネウストリア艦隊による間隙無き艦砲攻撃による障壁弱体化、その隙を突いての本塔への艦隊による特攻。防御障壁システム損害率91%。本塔損害率8%。艦隊が衝突した高度22km――第180階層にて火災が発生。消火作業を開始』

ネウストリア艦隊による特攻で、エテメンアンキが損壊したというものでした。テウタの表情が怒り一色へと変わっていき、「裏切ったのね・・・!」新たに展開したモニターに映る高度22km地点のエテメンアンキの外壁を確認。7隻の戦船すべてが外壁に突き刺さっており、そこより激しく火炎と黒煙を上げています。

「ネウストリアぁぁぁぁッ! 一体何をしているぅぅッ! 敵はイリュリアではないでしょうがぁぁぁッ!」

怒り狂うテウタへ「・・・当然ではないですか」と言うと、彼女は「何ですって」とギロリと睨み付けてきた。ええ、ネウストリアがイリュリアを裏切るのは当然の事です。何故なら、

「憶えていないのですか?」

――電光石火――

彼女の背後へと移動。

「最初に裏切ったのはあなたの方ではないですか・・ッ!」

――紫電一閃――

上段蹴りと上段回し蹴りをテウタの頭部両側面に一撃ずつ入れ、続けて後頭部、右脇、左脇、背中に一撃ずつ蹴打を、トドメに雷撃に変換した魔力を付加した踵落としを頭へと打ち下ろす。

「ぅぐ・・っは・・・!?」

後頭部から床に打ち付けられ、さらに打撃と雷撃による損害。紫電一閃は本来、対象の前面から打ち込む技。両脇は同じですが、顔面と鳩尾に入れるのが本来の型です。ですが威力からして前面からであろうと背面からであろうと大して変わりません。

「アウストラシア騎士団共々ネウストリア騎士団をキメラの自爆で壊滅させた。これを裏切りと言わず何と言いますか?」

床に倒れたままの彼女へ言い放つ。少し沈黙が続いた後、

『警告! 警告! 警告! ノイヴェート丘陵より強大な魔力が接近! 防御不可! 防御不可! 防御不可! 塔内に居る者は耐衝撃姿勢を取ってください!』

淡々としていた声ではなく切羽詰まった声でのエテメンアンキからの報告。ノイヴェート丘陵。オーディン先生の居る地域。モニターに映し出されている光景は、ネウストリア艦隊の突き刺さる場所へと一直線に飛来する蒼の閃光。

――真技・神断福音(グロリアス・エヴァンジェル)――

それがエテメンアンキに着弾した瞬間、今までにない大きな振動がエテメンアンキを襲いました。その揺れに立っていられず転びながらも私は見た。そのたった一撃で、艦隊もろともその階層を根こそぎ消し飛ばした、その信じられない光景を。

「ちょっ、あの、待ってください、これは・・・!」

1つの階層が丸ごと消えたとなれば、上部と下部の間に隙間が出来ますよね? 下部は大地と繋がっていますが、上部は浮いている状態で・・・となれば、このままでは落下しますよね? そうなれば、空を飛べない私は一体どうなるのでしょうか? それに、これだけの質量がこの高度から地上に落下するとなれば、王都は確実に消滅するでしょう。

「(まさかオーディン先生は、イリュリアごと滅ぼすおつもりなのですか・・・!?)っう?」

浮遊感がこの身を襲い、全身が総毛立つ。私たちの居る上部が落下を始めたからでしょう。僅かながらに体が宙に浮く。そこでようやく「神の城が、墜ちるというのか・・・」テウタがポツリと漏らした。エテメンアンキの脅威がなくなるのは大歓迎ですが、このままでは死んでしまいます。と思ったところで、ネウストリアの意図を1つ解釈できた。私とテウタとエテメンアンキを一緒に消すのも、おそらく特攻の目的なのではないでしょうか・・・?

『オリヴィエ王女殿下!』

「え・・!?(あ、思念通話!)」

いきなり頭の中に響いた大声にビクりとしてしまいますが、すぐに思念通話だと理解。お声の主がオーディン先生という事もありますが。

『オーディン先生! あの、このままでは私やテウタ、イリュリア王都が滅んで――』

『その事でお話がありますっ。よく聴いてください!』

オーディン先生から告げられた、今からあの御方が行われる行為を理解したとき、私は少しばかり恐怖を抱いた。ですがあの御方が言うように今この時こそが、この戦争を終わらせる最後の起点。その起点を終点へと繋げる鍵を担うのが私と言うのであれば・・・

「(私に出来る事は何でもしましょう)立ってください、テウタ。決着をつけましょう」

「決着? あぁそうですね。このまま何もせずにいれば、空を飛べる私とは違い、貴女はこのエテメンアンキと共に死ぬ事になる。瓦礫に潰されて死ぬ前に、宿敵である私と決着をつけたいと思うのは道理。いいでしょう、決めましょう、最強をッ!!」

互いに臨戦態勢を取る。その周囲に浮かぶ画が乱れたモニターには、エテメンアンキの現状が流され続けます。損壊した階層より地上へと落下を始める無数の瓦礫。それがある一定の高度に達すると、オーディン先生の戦船艦隊の艦砲によって粉砕されます。
地上に被害を出さないための処置です。ですからオーディン先生は、エテメンアンキの破壊に乗り出せました。モニターにまた飛来する幾条もの砲撃が映し出される。それらはこの床下の階層をすべてを撃ち砕き、いくつもの瓦礫へと変えた。

「神器王!? オリヴィエ王女殿下が居るというのに何故!?」

「(まずはここより脱出しなければ・・・!)はあああああああああああッ!!」

――狂瀾怒濤――

魔力を集束させた踏込みの二連打によって床を粉砕する。驚愕に目を見開くテウタへ「ではお先に失礼します」と一言断りを入れてから、開けたばかりの穴から飛び降りる。頭上から「飛べない貴女が一体何を!?」と心底理解できないと言った風な当惑の声が降って来ました。

「そこに居ては巻き込まれてしまいますよ?」

宙へと投げ出した私の体を護って下さるように蒼い魔力の膜が生まれ、私の体の線にピッタリと張り付くように包み込んでくれました。先に撃ち壊された瓦礫に着地し、こちらを見下ろすテウタを仰ぎ見る。

――O salutaris Hostia Quae coeli pandis ostium. Bella premunt hostilia; Da robur, fer auxilium/ああ救霊の生贄、天つ御国の門を開き給う御者よ、我らの敵は戦いを挑むが故に、我らに力と助けを与え給え――

直後、アウストラシア方面より黄金の砲撃が12本と飛来し、先ほどまで居た玉座の間を彼女もろとも破壊しました。

(この程度では死なないのでしょうね)

さらに続けて飛来する12本の砲撃はカレドヴルフの砲門すべてを崩壊させました。大小さまざまな瓦礫となり、私ともども地上へと落下を始める。そこに、

「エテメンアンキを失ったのなら、この手で直接ベルカの歴史を終わらせてくれるッ!」

――神の覇道――

瓦礫と粉塵の中より急降下してくる彼女はそう叫び、私の立っていた瓦礫の足場へ突進、瓦礫を粉砕した。私は直前に別の瓦礫へと跳び移っていた事で巻き込まれず、すぐさま「えいっ!」複数の魔力弾を連続で投げ放つ砲煙弾雨を彼女へ投射。
やはり向こうは空を飛んでいるため、容易く回避されてしまう。対してこちらは落下している周囲の瓦礫を足場として跳び回るしかありません。機動力では圧倒的に不利。となれば、確実に一撃必倒の出来る武技か魔導を打ち込むしかありませんね。

「王都へ落下する瓦礫は全て神器王とその下僕たちによって破壊されるというわけですかぁッ! それに関しては感謝の念しかありませんねぇッ! 避難させているとはいえ、国民の家を壊すのは気が引けますからぁッ!」

――神の火弾――

彼女の周囲に発生した火炎弾13基。それらが断続的に放たれて来ました。いま私が立つ足場の瓦礫は狭いため、また別の瓦礫へと跳び移る。

「避けてばかりでは私に勝てませんよぉッ! それとも一方的に嬲ってほしいですかぁッ?」

――神の閃光――

差し向けられた人差し指より放たれる銀の砲撃。アレは防御に回ってはいけない。ですが「近場に足場が・・・!」考えが及ばなかった。周りに跳び移れる瓦礫は無く。ここは意を決し、瓦礫より飛び降りる。景色が下から上へと流れて行き、「助かった・・・!」数mほど落下した先に、それなりの広さのある瓦礫に着地する事が出来た。

「安堵している暇があるとでもぉ?」

――神の光剣――

降下してきたテウタの振るう魔力剣を半身ズラして避け、こちらも魔力斬撃の魔導・光芒一閃を発動。揃えた五指より伸びる魔力刃で、気付けば再生していた彼女の右側の羽3枚をまた切断する。それが何ともないと言うように彼女は斬り返しの一閃を払い、それを魔力刃で受け止める。

「この不安定な足場で良くここまで闘えますねぇ。さすがは最強と謳われる御方です」

「そういうあなたは、融合騎と融合していながら逆に弱体化していますね」

「その分、すべての魔導の攻撃力は、聖王の鎧を突破できるほどに強化されていますよぉ。自己治癒力もまた強化されていますしねぇ。この私を討つのは、相当骨が折れますねぇ」

私の魔力刃にのみヒビが入る。砕ける前に彼女の魔力剣を上方へと逸らして、空いている左の掌底を腹部へ打ち込む。苦悶の声を小さく洩らした彼女は僅かに後退しますが、「これは堪えるかもしれませんねぇッ!」すぐに私の両肩を鷲掴み、「な・・っ!?」私ともども宙へと飛び出した。

「さぁ行きますよぉッ!」

「っ!? 離しなさい!」

私を下にして急速に降下するテウタ。彼女の顔面や腕、胸や腹を殴りはしますがそれでも離さず・・・かなりの高さを落とされた後、「ぁが・・・は・・・っ?」瓦礫の1つに叩き付けられた。息が詰まる。その衝撃に意識が落ちかけましたが、ここで意識不明となれば待っているのはテウタの手による確実な死。
私を置いて上昇していくテウタを睨み付け、「さようなら」と彼女が笑みを浮かべて手を振っているのに気付いた。ゾクッと寒気が。背中から――正しくは私が倒れている瓦礫のずっと下から爆発音が。

「??・・・あっ、しまっ・・・!」

ある高度に達した瓦礫はオーディン先生とその使い魔や戦船の魔導で粉砕されます。いま私が居るその高度が、瓦礫を粉砕する高度であるなら瓦礫ごと砲撃で消し飛ばされてしまう。痛む体に鞭を打って起き上がり、両脚に魔力を集束、跳躍力を強化して上空の瓦礫へと跳び上がる。

「あのまま眠っていれば苦しまずに死ねたものを。そして神器王は、自らの手で貴女を討ったと知り、絶望の果てに壊れるでしょうねぇ。そうなれば私の心に溜まった鬱憤が晴れるというもの」

「そうは、いきません・・! 私はあなたに勝ち、そして仲間のところへ帰ります!」

オーディン先生の治癒によって体はすぐに回復してくれます。テウタの居る高度に向かうために瓦礫を何度も跳び移り、

「破ッ!」

――驚浪雷奔――

上空へと拳打を突き出し、魔力衝撃波を放つ。彼女は羽を翻して避け、「では、これならでどうですかぁっ!」人差し指を私ではなく他の瓦礫へと向け、

――神の閃光――

砲撃で撃ち砕きました。まさか上へ上がるための瓦礫を全て粉砕するつもりですか!? そうなれば逃げ場はなく、私は瓦礫もろとも砲撃で・・・。そうなる前に出来るだけ高度動を保たないと。テウタへの攻撃に使う魔力を全て移動へと費やす。上へ上がるための瓦礫を何度も蹴り、その最中にも彼女は砲撃で瓦礫を撃ち壊してくる。

「さぁ逃げ惑え! そして知れッ、貴女の命はもうすでに我が手の中に在ると言うことをッ!」

――神の天罰――

テウタの周囲に発生した7つの月・・・ではなく巨大な魔力球。それらが一斉に落ち、激しい閃光を撒き散らして周辺の瓦礫を根こそぎ消し飛ばした。頭上にたった1つだけ瓦礫が残りましたが、明らかに誘っているとしか思えないですね。ですが罠であろうがそこに跳び移らなければ、私は砲撃で撃たれてしまう。

(仕方ありませんね・・・!)

瓦礫を蹴って、その瓦礫へと跳び移る。その直後、「跪いて謝れば許しますよぉ?」とテウタは言い、

――神の聖槍――

銀の魔力槍を投擲して来た。瞬時に両手の平を前面に突き出し、

――金城鉄壁――

聖王の鎧とは別に、魔導としての魔力障壁を一点集中で展開。魔力槍が障壁に着弾した瞬間に腕を横に逸らして魔力槍を往なす。障壁を消し、間髪入れずに突進して来ていたテウタの顔面――正確には急所の1つである人中に向かって、「砕ッ!」掌底一閃。大きく反り返る彼女の首に回し蹴りを繰り出し、「ぐげぇっ!?」苦悶を声を漏らした彼女をそのまま瓦礫へと叩き付ける。

「はぁはぁはぁ・・・・」

「まだまだぁッ! この程度では私は墜ちませんよぉッ!?」

急所を打ち抜いてもそれだけの損害ですか。自己治癒力の強化というのは本当に恐ろしいものです。時間制限の在る中で、これ以上苦戦を強いられるのは得策ではありませんね。後々の負担を思えばあまり使いたくはありませんが、そうも言っていられないのも事実。

「・・・・あなたは言った。最強を決めましょう、と。ならこちらも本気・・そして全力を出すのが当然」

――臥薪嘗胆(がしんしょうたん)――

魔力核の制限を解き放ち、私の扱える魔力を全て解放。頭痛を振り払い、「はぁぁぁぁぁ・・・!」熱を持った息を吐いてテウタを見据える。今まで以上に驚愕を露わにする彼女は「素晴らしいぃッ! それが、聖王女としての真の姿なのですねぇッ?」狂喜乱舞。

「その余裕は、すぐに後悔に変わりますよ。私を慕ってくれる友人たちと共に編み出した奥義です。いざ――」

魔力を両脚に籠め脚力を強化。

「疾きごと風の如く・・・!」

――其疾如風――

電光石火の速度をさらに上げての高速移動。その速度を利用しての膝蹴りテウタの鳩尾に打ち込む。

「徐かなること林の如く・・・!」

――其徐如林――

彼女の首に手刀を一閃。衝撃を脳髄に叩き込み、全ての感覚を遮断させる。

「侵掠すること火の如く・・・!」

――侵掠如火――

魔力を炎熱に変換し、火炎を纏う昇打を顎に打ち込んで彼女を大きく仰け反らせ、同じように火炎を纏う中段蹴りを鳩尾に打ち込む。

「動かざること山の如く」

――不動如山――

魔力を練り上げ、身体能力を極限にまで引き上げる。

「知り難きこと陰の如く・・・!」

――難知如陰――

瓦礫を蹴って跳躍、一瞬でテウタの頭上へと移動。

「動くこと・・・・雷霆の如しッ!」

――動如雷霆――

魔力を雷撃に変換。魔法陣を頭上に展開、それを足場として蹴って真下に居るテウタへと、

「これで終わりですッ!」

魔力を纏っての突進・天衣無縫、その雷撃版の天衣無縫――動如雷霆を行う。背中から倒れそうになっているテウタへと雷撃を纏っての体当たり。足場となっていた瓦礫を砕き、そのままの勢いで降下して2つ目の瓦礫に激突、砕いては降下、3つ目の瓦礫に激突して勢いがなくなった。

「はぁはぁはぁはぁ・・・なんとか間に合いましたか・・?」

夜空を裂いて飛来する蒼や金色の砲撃群が地上へ落下しようとしている瓦礫を確実に砕いている一定の高度。いま私とテウタの居る高度は、その砲撃群による瓦礫粉砕高度のすぐ上。

「テウタを抱えて跳び上がれるでしょうか・・・?」

白目を剥いている彼女を見下ろし、そしてそれなりの高さの上に在る瓦礫を見上げる。いえ、出来る出来ないかではありません。テウタへと近寄り・・・・

「これで勝ったとお思いですかぁ?」

――神の光剣――

キッと目に光を取り戻した彼女は勢いよく立ち上がり、魔力剣を両手に携えました。どうしましょうか。本音を言えばもう立っているのも辛いのですが。

(全力の風林火山で討ち取れなかったのは痛いですね・・・)

軋む体を癒していただけるオーディン先生の魔導に感謝しつつ、残り時間の少ないこの決闘をどうやって終わらせるかを必死で考える。瓦礫が砲撃によって粉砕される轟音をこの耳に聞きながら、私は・・・・

「ああああああああああああああああッ!!!」

テウタへと突撃。両拳に魔力を集束させ、「破ッ」純粋な格闘戦での撃破を狙います。ですが彼女は右へ左へと横移動を繰り返して避け、「楽しいではないですかぁッ!」と魔力剣での反撃を行ってくる。共に決定打を与える事が出来ず、そして・・・「時間切れですねぇ」彼女は背筋の凍る笑みを浮かべた。すぐ足元より聞こえてきた爆発音、それと振動。もう限界高度にまで落ちてきてしまった!?

「急いで上に――って、きゃぁぁっ!?」

――旅の鏡――

いきなり肩を掴まれて後ろに引っ張り込まれた。目の前に居たテウタも茫然としていて、私の視界から消えるまで呆けた表情をしていた。視界が一瞬遮られ、次に開けた時、そこはもうエテメンアンキの瓦礫の上ではなく地上でした。鬱蒼と生い茂る森の中。夜という事もあり、どこの森なのかも判りませんが・・・。

(ですが、どうしてこのような場所に・・・?)

「お怪我はありませんか? オリヴィエ王女殿下」

「っ!?」

とても優しいお声が掛けられ、振り向いて見ますとそこには「シャマル・・さん・・?」がいらっしゃいました。事情を窺えば、私をここに転移させたのはシャマル先生の魔導によるものだということ。それがオーディン先生のご指示であるという事でした。

(オーディン先生・・・)

テウタを撃破し捕縛する事を頼まれていたのですが、結局私は果たせませんでした・・・。それが私を憂鬱にさせる。多大な恩のあるオーディン先生との約束を破ってしまったから。落ち込んでいる最中にもシャマルさんはお話ししてくださいます。

「エテメンアンキの崩落による被害はありません。ご覧のとおり、すべてオーディンさんや戦船艦隊、アンゲルスによって破砕されました」

シャマルさんの視線の先には、エテメンアンキの土台と思しき跡が在りました。ここはコースフェルドなのですね。私はフラフラと覚束ない足取りでエテメンアンキの方へと向かう。

「オリヴィエ王女殿下!? どちらへ!」

「テウタの行方を捜します。オーディン先生との約束なのです。私たちだけ助けてもらってばかりで・・・このままでは恩を仇で返すばかり」

「・・・オーディンさんと同じで頑固なんですね・・・」

シャマルさんが何か言ったようなので振り返って「なんでしょう?」訊き返してみましたが、「お供いたします」とやんわり話を逸らされました。道中、エテメンアンキの外で起きていた状況を聞きました。エテメンアンキ崩落まで戦は続いていたとのことですが、崩落開始と同時にイリュリア全騎士団の敗走が始まったと。そのおかげで壊滅寸前でいた同盟側の戦力が助かった事や、

「よかったです・・・。リサやシグナムさん達もご無事なのですね。それにズィルバーン・ローゼや騎士団の皆さんも・・・」

モニターで観た限りでは敗色濃厚でしたズィルバーン・ローゼやアウストラシア騎士団でしたが、オーディン先生の艦砲によって救われたそうです。また多大な恩が出来ました。この恩をすべて返すのにはとても時間が掛かってしまいそうです。

「・・・・エテメンアンキ、本当に打ち倒す事が出来たのですね・・・」

瓦礫の山を築いているエテメンアンキ跡にようやく辿り着き、私はその周囲を歩く。月明かりに照らされている瓦礫を見て回っていると、「オリヴィエ様っ!」声を掛けらた。この声、別れてから数時間としか経っていないと言うのに随分と懐かしい気がしてならない。

「リサ!」

「オリヴィエ様っ。御無事で・・・!」

ズィルバーン・ローゼの生き残りと共に姿を現したリサは、勢いよく私に抱きついてきた。そういう私もリサに駆け寄って抱きしめ返すのですけどね。お互いの無事を喜び合える事が出来て、泣いてしまいそうです。リサ達と共にいらっしゃったシグナムさんとアギトさんに一礼。そして皆さんと一緒にテウタを捜し始めたのですが・・・・。

「マイスターの戦船艦隊やアンゲルス達の砲撃で吹き飛んじゃったんじゃ・・・?」

アギトさんがポツリと漏らしました。その可能性は捨てきれないのも事実。シャマルさんの魔導で転移させられる時、その時にはもう決着をつけてテウタを捕縛していなければならなかったのに。それが出来ず、こうして皆さんを巻き込んでまで捜す羽目になったと思うと辛い。手分けして捜索する事になり、私はズィルバーン・ローゼの将リサ、副将エレス、そしてアンジェリカとセリカの5人で捜索をする。

「テウタの遺体なり何なりを確認できれば、イリュリア戦争の終結を宣言できるのですが・・・」

「いまシュトゥラの王子たちが王城に入って、バルデュリス王子を捜索しているそうです」

「女王が亡くなっていれば、王子に敗戦宣言を出して頂かないといけません」

「その王子も亡くなっていれば、レーベンヴェルト王族は事実上の滅亡だわ」

私の前後左右に居るリサ達が言うようにイリュリア戦争は終わりを迎えましたが、敗戦宣言が行われないことには本当の終結ではありません。

「・・・・ん? 誰だッ!?」

リサが怒声を上げると同時に全員が私を護るために前に躍り出る。私たちの視線の先、そこには小高い瓦礫の山が在り、その上に1人の男性が月明かりに照らされて立ってた。ですが何故でしょう。その男性を見た瞬間、「オーディン先生?」と思えてしまったのは。共通点はただ1つ。銀の髪。それだけなのに、何故かオーディン先生のお姿が重なったのです。

「ゼフォンはいいとして、ミュールやマラークには期待していたんだけどな・・・」

ゼフォン、ミュール。その名は“エグリゴリ”の複製品のものでしたね。マラークはテウタの融合騎の名前。となれば「イリュリア技術部の関係者ですか・・?」という事になるでしょう。

「・・・・そうだな、虹彩異色のお前が好い。お前に、神器王への言伝を頼もうか」

「オリヴィエ王女殿下に向かってなんと無礼な!」

「名を名乗れッ!」

「そして土下座で謝りなさい」

全員がいつでも飛び掛かれるように身構えたのを見、私は「落ち着いてください!」と制止する。対してその男性は「生憎とこの世界の存在じゃないんだ。だから王族に敬意は払わないんだ」と肩を竦めるのみ。
その言葉で、私はあの男性がオーディン先生が追い求める者――「エグリゴリ!」なのだと気付いた。オーディン先生の事情を知るリサも「お前が、オーディンさんのご家族を殺めた兵器・・!」と殺気を漲らせる。

「ガーデンベルグ・ブリュンヒルデ・エグリゴリ。それが俺の名前だ。名乗ったからには、こちらの言伝を聞いてもらう。必ず神器王に伝えろ」

ガーデンベルグと名乗った者は一度間を置き、その言伝なるモノを語った。

「最初のゲームは、イリュリアを破った貴方の勝ちだ。次は俺たちエグリゴリが直接あなたの元へ参じ、その命を刈り取りに行く。俺たちが再び姿を現すそれまでの間、のんびりと余生を楽しく過ごすことだ、と」

ガーデンベルグはそれだけを言って、背よりオーディン先生と同じ剣の翼を展開、空へと飛び去って行った。追いかけようにも向こうは空。諦めて見送る事しか出来なかった。

「待てっ!・・・こ、これは・・・オリヴィエ様っ!」

ガーデンベルグが先程まで居た地点にまで駆けて行ったリサに呼ばれ、リサの元まで行くと・・・

「っ!・・・・マラーク・・・!」

下半身を瓦礫に押し潰され失って上半身だけとなってしまっていたマラークが倒れていたた。それからその一帯でテウタの遺体を捜してみましたが、結局見つけることは叶いませんでした。

◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦

イリュリアの王都スコドラの中央にそびえ立つ王城、そのとある煉瓦造りの廊下に彼女は居た。壁にもたれかかりながらヨタヨタと歩く、煤汚れた灰色の髪、力の無い翠色の双眸、所々に擦傷や出血の有る白い肌を持つ女性、名をテウタ。松明の灯りに照らされている顔に張り付いているのは絶望の表情のみ。

「はぁはぁはぁはぁ・・・っ、足音・・・追手・・・?」

テウタはいま王城へと進行してきたシュトゥラの王子クラウスと、彼の率いるシュトゥラ騎士団数十人、それに信念の騎士団グラオベン・オルデンのヴィータ・アイリ、ザフィーラとシュリエルリートに追われていた。
エテメンアンキでのオリヴィエとの決闘の果て、オリヴィエには逃げられ、彼女だけがアースガルド艦隊と七美徳の天使アンゲルスの砲撃群を受けた。彼女の治癒能力を以ってしても瀕死とならざるを得なくなったが、そのダメージを融合騎マラークがすべて負担した。その結果、マラークのプログラムは全損、最終的に瓦礫に押し潰されて息絶えた。

「こんな・・・こんな、事になるなんて・・・」

マラークの犠牲によって辛くも生き永らえ、そして王城にまで逃げてきたテウタ。だがそこでクラウスらに追われる羽目になった。まともに動く事も難しい今の彼女にとって戦闘行動を取る事など夢のまた夢。

「テウタ」

「っ・・・!?」

気配もなくいきなり声を掛けられた事でテウタはビクッと体を震わせ、自分の名を呼んだ者のいる方へと振り向いた。そこに居たのは1人の青年。テウタと同じ灰色の髪に翠色の瞳。テウタは激しく動揺しつつ、その青年の名を口にした。

「バルデュリス・・・お兄様・・・!?」

テウタの実の兄、バルデュリスだった。実父にして先王ゲンティウスを殺害して女王となったその日、テウタは実兄バルデュリスを投獄した。自らの義務、レーベンヴェルト再誕の邪魔になる者だとして。そんなバルデュリスが、実妹のテウタの前に姿を現した。

「臣下に出してもらったんだよ、牢獄から。・・・・父を殺害し、ミナレットならびにエテメンアンキを目醒めさせ、その力でベルカに災厄をもたらし、挙げ句イリュリアを敗戦させた」

「お、お兄、様・・・?」

俯きながらテウタへと徐々に歩み寄って行くバルデュリス。テウタはその言い知れない雰囲気に呑まれ、壁に体を預けながら後退していく。

「その罪は、当然の如くこの戦争を起こした女王たるお前にある、解るなテウタ?」

「そ、それは・・・!」

「故に償わなければならない。多くの臣下を戦場に送り出して殺したのはお前だ。無駄に他国の人命を両兵器で殺したのはお前だ」

バルデュリスが刀を携える。そして放つのは殺意だ。テウタは自分が殺されるのだと察し、「いや、いや・・・死にたくない・・」とうわ言のように繰り返し、フラつきながら廊下を全力で走る。

「妹でも、容赦は出来ない。解ってくれ、テウタ」

涙を流すバルデュリスは刀を上段に構え、勢いよく振り下ろした。刀身より放たれるのは魔力の含まれた剣圧一閃。テウタが辛うじて横に跳ぶ事で回避。

「え・・・あ・・っ?」

「さらばだ、テウタ・・・」

テウタの心臓付近より生える血の付着した刀身。バルデュリスがテウタを背後から貫いたのだ。刀身を抜かれたテウタはフラフラと前進し、そしてドサッと倒れ伏した。彼女から流れ広がっていく血溜まり。後々の次元世界の歴史に、古代ベルカの殺戮王として語り継がれていく事になるテウタは、実兄の手によりその生涯に幕を下ろした。

「終わりましたか? 陛下」

「ああ。・・・イリュリアの敗戦宣言は、次期イリュリア王の私が行おう」

バルデュリスは背後に現れた臣下たちにそう応じ、彼らはテウタの遺体に背を向けてその場を歩き去って行った。
この1時間後、イリュリアの王となったバルデュリスによって、イリュリアの敗北で終結した事がイリュリア全土に宣言された、こうしてベルカ半球を巻き込んだイリュリア戦争は終結した。



 
 

 
後書き
ギュナイドゥン、メル・ハバ、イイ・アクシャムラル。

「・・・・終わっっっっったぁぁあああああああッ!」

30話近くまで使ってようやくイリュリア戦争を終わらすことが出来ました。
まさかここまで長くなるとは私自身を思いもしなかったですよ。
さて、エピソード・ゼロも残りあと僅か。これまで以上に頑張って行きまっしょい!
 
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