機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第45話:シュミット3佐のタイマン指南
フォワード陣の訓練がセカンドモードを中心とした訓練に移行してから,
以前にもまして,俺が訓練に参加することが増えた。
個人技の訓練では刃物系のデバイスを使うという共通点からセカンドモードが
ダガー形態であるティアナとマンツーマンの訓練をしている。
訓練を初めて1週間もすると,ティアナはダガーモードの扱いにも慣れたのか
かなり強くなってきていた。
「よし,それじゃあ今朝の訓練の仕上げとして,模擬戦でもやるか」
「はい!お願いします」
ティアナはそう言うと,右手にダガーモード,左手にガンモードの
クロスミラージュを構え,俺から離れて行った。
俺とティアナの訓練は,最初にガジェット相手を想定した戦闘訓練をやり,
最後に1対1の模擬戦をやっている。
模擬戦では,ティアナの戦術構想力を鍛えるためにも,いろいろな
シチュエーションを設定してやっている。
今日は,ティアナが潜伏し,俺を迎撃するという設定だ。
俺は時計を確認して3分たったことを確認すると,もう姿の見えなくなった
ティアナの後を追った。
放棄都市区域を模擬した訓練スペースで,ビルに挟まれた通りを
抜けていくと,右側からティアナの射撃が飛んできた。
俺はシールドで防御すると,ティアナがいるであろう方向に向かって走った。
目を凝らすと,ビルの上を行くティアナの姿がちらっと見えた。
ティアナは移動しながら散発的な射撃を繰り返している。
(このままティアナの策に乗ってやることもないな・・・)
俺は足を止めてティアナのほうを向くと,右手をかざす。
「パンツァーシュレック」
かざした右手から俺の最大出力の砲撃が繰り出される。
ティアナのいたビルに当たった俺の砲撃はビルの一部を破壊して砂煙に変える。
俺は1ブロック分だけ迂回して砂煙に近づくと,レーベンを構えた。
砂煙が少しずつ晴れてくると,砂煙の中からいくつかの魔力弾が飛んできた。
俺は,魔力をまとわせたレーベンで魔力弾を切り落としていく。
(・・・威力が弱すぎないか?)
俺がティアナの射撃にしては弱すぎる威力に違和感を感じていると,
足元に俺のではない影が見えた。
「上か!」
俺が上を見ると,ダガーモードのクロスミラージュを構えたティアナが
落下のエネルギを利用して,俺に切りかかろうとしていた。
俺はレーベンでティアナの斬撃を受けた瞬間,ティアナの姿が掻き消えた。
同時に背後から何かをつきつけられた感触を感じた。
「やっと勝てましたね」
俺が背後を振り返ると,満面の笑顔をたたえたティアナが立っていた。
「・・・やられた。そっちが本体だったか」
「この1週間,ゲオルグさんに鍛えられましたから・・・って
気づいてたんですか?」
「まあね。ただ,どっちが幻影かは解らなかったから,
どっちかにヤマを張ることにしたんだよ」
「悔しいなあ。まだまだゲオルグさんの本気は引き出せないんですね」
「でも,たった1週間でこんなに力をつけるなんてね。
もうあんまり手抜きはできないね」
「いえ,まだまだです。私の目標は本気のゲオルグさんを倒すことなんで」
「・・・リミッター付きとはいえSランクだぞ?俺」
「目標は高いに越したことないですよね?」
「そりゃそうだね。じゃあ次からは,もうちょっと力出そうかね」
「お願いします!」
ティアナと並んで,訓練スペースの入り口に向かって歩きながら,
俺はティアナにさっきの模擬戦について話をすることにした。
「さっきの模擬戦なんだけどさ,ひょっとして俺が最初見つけたのって幻影?」
「そうですよ」
「ということは,幻影が射撃してるように見えるように誘導弾を
コントロールしてたのか」
「そうです。本体の私はビルの中に隠れてましたから」
「なるほどね,それで散発的にしか撃たなかったのか」
「はい。でも,ゲオルグさんが砲撃にシフトした時はちょっと意外でしたけど」
「まあ,この1週間はほとんど近接戦闘ばっかりだったからね。
俺の砲撃は連射もできないし,威力不足だから強い相手だと
使い物にならないんだけど,牽制くらいには使えるでしょ」
「・・・威力不足って・・・ビル吹っ飛ばしてましたよね」
「一部でしょ。なのはだったらあれくらいのビルは消し飛ぶよ」
「ビルが・・・消し飛ぶ・・・」
俺の言葉にティアナは少し顔を青くしていた。
「前に,俺とティアナ達4人で模擬戦やったときにさ,
俺がビルに隠れたでしょ?」
「ええ」
「あのとき,ティアナとスバルは俺の隠れているビルにあたりをつけて
突入したけど,なのはだったらたぶんそんな面倒なことはせずに,
俺のいたビルを丸ごと消し飛ばす選択をしたと思うんだよ」
俺がそう言うと,ティアナは青いを通り越して蒼白な顔をしていた。
「私,もう2度となのはさんを怒らせないようにします」
「それがいいよ。なのはの全力全開の砲撃はトラウマものらしいから」
「トラウマですか?」
「うん。ずいぶん前になのはと逃亡したテロリストの追跡任務に出たことが
あってさ,テロリストが隠れてる建物を見つけたら,さっき言ったような
感じに砲撃で建物ごとドカンとやったのよ」
「・・・さぞ恐ろしい経験だったでしょうね」
「そうだったんだろうね。そいつの尋問は俺がやったんだけど,
たまたまペンを忘れてさ,なのはからピンク色のペンを借りたんだけど,
そのペンを見るとテロリストがガタガタ震えだしてね」
「何でですか?」
「ほら,なのはの魔力光ってピンク色でしょ。でピンク色の物に対して
無条件で恐怖を覚えるようになったみたい。ま,おかげで尋問は
楽だったけどね」
「というと?」
「しゃべらないとまたあの砲撃くらわすぞって言ったら,聞いてないことまで
ペラペラとしゃべってくれたよ」
俺がそう言うと,ティアナは大笑いしだした。
「ゲオルグさん」
訓練スペースの入り口が近づいてくると,ティアナが少し真剣な面持ちで
俺を見ていた。
「私,この1週間ゲオルグさんに色々教わって,自分でも感じるくらいに
強くなれたと思ってます。本当にありがとうございます」
ティアナはそう言って俺に向かって頭を下げた。
「別に俺のおかげじゃないでしょ。ティアナが強くなったのはティアナの
努力のたまものだよ。俺はちょっとお手伝いしただけ。
ま,あとはなのはが基礎からみっちり鍛えてくれたからかな。
今までは成長を実感できなかったかもしれないけど,
この1週間の成長はなのはの基礎訓練があってのものだから
それを忘れないようにね」
ティアナは顔を上げると,大きく頷いた。
「あ,あと」
「なんですか?」
「さっきの話を俺から聞いたってなのはには絶対言っちゃだめだよ」
ティアナはものすごい勢いで,ぶんぶんと首を縦に振った。
訓練スペースの入り口の近くで,隊舎へと戻るフォワード4人を
俺はなのは・フェイト・ヴィータの3人と一緒に見送った。
ここ最近は,フェイトがエリオとキャロの,ヴィータがスバルの,
俺がティアナの面倒を見ている。
「あの子たちはどう?」
「スバルはまあまあだな。セカンドモードも基本は今までと変わらねーから。
ただ,相変わらず行動が短絡的というか視野が狭いというか,
言葉は悪いけど脳筋なんだよなー,スバルは」
「エリオとキャロもまずまずいい感じだよ。エリオはセカンドモードの
扱いにだいぶ慣れてきたし,キャロはセカンドモードって
言っても実際はリミッタ解除に近いから,今まで通りだしね」
「ティアナはかなり成長したぞ。最初はダガーの扱い方が解ってないみたい
だったから,ただ振りまわしてるだけって感じだったけど,剣とダガーの
取り回しの違いをちょっと教えてやったら,あっという間にモノにしたよ。
おかげで,戦術面を鍛える余裕もできたからそっちも向上してるな。
あとは俺がいなくても勝手に強くなるよ,個人戦ではね」
なのはの問いかけに対して,俺達3人がそれぞれに答えると,
なのはは満足そうに笑った。
「そっか。じゃあ,セカンドモードも使ったコンビネーションの訓練に
進んでも大丈夫かな?」
「いいと思う」
「いーぞ」
「問題ないな」
「じゃあ,明日からはまた4人揃っての訓練だね。みんな今日はお疲れ様」
なのはがそう言うと,俺達4人は隊舎に向かって歩き出した。
「そういえば,ヴィヴィオはどうだ?」
「どうって,特に問題ないよ。今はフェイトちゃんと私の部屋にいるんだけど,
フェイトちゃんにもちゃんと懐いてるし」
「そっか。じゃあ昼間はどうしてるんだ?」
「昼はザフィーラにそばにいてもらうようにしてるし,
寮母のアイナさんが仕事の合間にちょくちょく様子を見てくれてるよ」
「なら安心だな。で,今後はどうすんの?」
俺がそう聞くとなのはは首を傾げた。
「今後って?」
「今後もなのはとフェイトが面倒を見続けるのか?」
俺がそう言うと,なのはは少し考え込んだ。
「当面は私が保護責任者って感じかな。でも,里親は探すつもりだよ。
で,いい人が見つかってヴィヴィオが納得してくれれば・・・」
「そっか。なのははそれでいいのか?」
「いいも何も,私の仕事を考えるとこの先ずっとヴィヴィオを預かるのは
ちょっと難しいと思うの」
「ふーん。ま,なのはがそれでいいならそうすればいいんじゃない」
俺がそう言うと,なのはは少し考え込んでいるようだった。
朝食を食べた後,副部隊長室に戻った俺は,相変わらず減ることのない
書類仕事を片づけ始めた。
半分ほど山が減ったところで,一枚の報告書にたどりついた。
俺はその報告書を見た瞬間,副部隊長室を飛び出した。
副部隊長室から共用のオフィススペースまで全力疾走した俺は,
なのはと談笑しているスバルを見つけると,ドカドカとそちらに向かって
歩いて行った。
「スバル!」
俺は大声でスバルを呼ぶと,その声につられて俺の方を振り向いたスバルの
鼻先に手に持った報告書を突きだした。
「何だこれは!」
俺がそう言うとスバルは自分の鼻先に突きだされた報告書を手に取り,
まじまじと見つめた。
「えーっと,この前の戦闘の戦闘詳報ですけど」
スバルがきょとんとした顔でそう言う。
「これが戦闘詳報?舐めてんのかお前。これじゃあ単なる感想文だろうが!
戦闘詳報っていうのはこうやって書くんだよ!」
俺はそう言うと,ティアナ・エリオ・キャロの戦闘詳報を机の上に叩きつけた。
「戦闘詳報ってのはな,戦闘に至った状況・時間的推移・結果・反省点を
簡潔かつ論理立てて書くもんなんだよ。
ところが,お前の戦闘詳報はどうだ?
”敵はとても強いと感じた”ってガキの読書感想文じゃねえかよ!
エリオやキャロですらきちんと書いてるのに,お前は何やってんだ!?」
俺が大声でまくし立てると,なのはがスバルの戦闘詳報を手に取った。
「まあまあゲオルグくん。報告書の不備くらいでそんなに怒らなくても・・・」
スバルの戦闘詳報を眺めていたなのはの言葉がそこで途切れる。
「・・・これは・・・ひどいね・・・スバル,真面目に書いたの?」
「えっと,一応真面目に書いたつもりです・・・」
あまりの剣幕にシュンとなったスバルを見た俺は,怒りのボルテージがすっかり
下がってしまった。
「なのは。今まで教導官としての仕事も忙しいと思ってたから,
この類の報告書については,点検しなくていいって言ってきたけど,
スバルの報告書に関してはなのはが分隊長の責任で点検した上で,
俺に提出してくれ。頼む。」
「了解。ごめんね,今まで気がつかなくて・・・」
「いや,今まではそれなりにちゃんとした体裁で出てたから,
俺も気がつかなかったんだけど,たぶんティアナが代筆してたんだな」
俺がそう言ってちらりとスバルの方を見ると,肩をびくっと震わせていた。
「スバル。一言言っておくけど,お前らの書いた戦闘詳報は俺や
はやてが書く戦闘報告書の付属文書として本局上層部の目にも入るんだぞ。
その辺をよく考えてこういうスキルも身につけておけよ。
ただの戦闘バカじゃこの先困るのはお前だからな」
俺がそう言うと,スバルは報告書を書きなおし始めた。
「ところで,他の連中は?」
「ティアナははやてちゃんに連れられて本局に行ったよ。
ライトニングはフェイトちゃんと現場調査。
シグナムさんとヴィータちゃんはオフシフトだよ」
「じゃあ,前線メンバーはお前らだけか。何もないことを祈るよ」
「ゲオルグくんがいるじゃん」
「俺を前線メンバーに数えるなよ。一応副部隊長だぞ」
「そんなこと言いつつ,毎回出撃してるけどね」
「ほっとけ」
俺はそう言って,副部隊長室に戻った。
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