機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第31話:教導官と副部隊長の対立
俺とはやてが情報部に協力を要請してから数日間,
特に何事もなく過ぎていった。
ヴァイスによれば,やはりティアナは無茶な自主トレを続けているらしく
スバルまでがそれに協力しているとのことだった。
俺は当直明けの眠気を覚まそうと,朝食後に屋上に向かった。
屋上では,フェイト・シグナム・ヴィータ・エリオ・キャロの5人が並んで
訓練スペースの方を見ていた。
俺はフェイトに話しかけることにした。
「おはよう。フェイト」
「あ,ゲオルグおはよう。当直お疲れ様」
「お気遣いどうも。しかし眠ぃー」
俺が生あくびをしながらそう言うと,ヴィータが呆れたような目を向けてきた。
「なんだよゲオルグ。朝から眠そうな声出してんじゃねーよ。だらしねーな」
「しょうがないでしょ,当直明けなんだから」
「ビシッとしろ。エリオやキャロの前だぞ。副部隊長自ら規律を乱すな」
俺がヴィータにだらしなく抗弁していると,シグナムも俺を注意してきた。
「何度も言わせんなよ。当直明けなんだから仕方ないでしょ」
「でもさ,当直の後って午前中は休みだよね。ゲオルグは寝ないの?」
俺がシグナムにあくびをしながらそう言うと,
フェイトが心配そうに尋ねてきた。
「事務が滞らないならそうするんだけどね。
はやてが昼間は外回りでほとんどいないから,
夕方までにやっとかないとはやてが困るでしょ」
「そっか。でもゲオルグ,あんまり無理しちゃダメだよ」
俺が手すりにぐてーっとたれかかりながら答えると,
フェイトは苦笑いしながらそう言った。
「へいへい。ところで,みんなこんなところで何やってんの?」
「模擬戦の見学です。今はスターズの番なんですよ」
エリオの言葉に釣られて訓練スペースの方を見ると,スバル・ティアナが
なのはと向かい合っていた。
「ふーん。なのはもタフだなぁ,毎日毎日大変だろうに」
「そうだよね。だから,スターズの模擬戦も私が相手しようと思ったんだけど」
フェイトが心配そうになのはの方を見ながらそう言った。
「あいつらの分隊長はなのはだからってのもあるんでしょ。
それにフェイトだって,捜査関係の仕事もあるんだし」
「まぁそうなんだけど。でも最近のなのははちょっと
無理してるんじゃないかなって思うんだ」
「なのはがすぐ無理するのは今更って感じだけどね。
ま,あいつも一度痛い目見てるんだし,そのへんはうまく調整してるでしょ」
「だといいんだけど・・・」
そうこうしているうちに模擬戦が始まったようだった、
「おー,クロスシフトだな」
スバルがウィングロードで空中のなのはに向かっていくのと同時に
ティアナは射撃でなのはを牽制する。
「あれ?ティアナの射撃,キレがねーな」
「そうだね。狙いはいいみたいだけど・・・」
ヴィータとフェイトの会話を聞きながら俺は小さく舌打ちをした。
(何が訓練に影響はないだよ・・・)
なのはの正面に回ったスバルがなのはに肉薄していく。
なのはは砲撃を加えるが,スバルはシールドで防ぎながら
なのはに攻撃を加える。
「なぁ,あの二人のクロスシフトってこんなのあったっけ?」
「いえ,初めて見るコンビネーションですね」
俺の問いに対して,エリオは意外そうな口調で返してきた。
「それにしてもあぶねー機動しやがって。何やってんだスバルは」
「そうだね。エリオもキャロも安全には気を使わないとだめだよ」
「「はい」」
「ところで,ティアナはどこに行ったのだ?」
シグナムの言葉で,全員がティアナの姿を探した。
すると,なのはの顔に狙撃ポインターが見えた。
出処の方を見ると,砲撃をしようとしているティアナの姿が見えた。
「砲撃!?ティアさんが?」
キャロが驚いた口調でそう言った。
その間にも,スバルはさっきと同じようになのはに肉薄し,
また,攻撃を加えていたが,なのはのシールドに阻まれている。
その時,砲撃しようとしていたティアナの姿が掻き消えた。
「あっちのティアナは幻影?じゃあ本物は・・・」
そのとき俺はなのはの後方でウィングロードの上を走るティアナの姿を
発見した。右手のクロスミラージュには魔力刃が生成されている。
(ふーん。発想は悪くないけど,それじゃあ・・・)
ティアナがなのはの上方からクロスミラージュで切りかかると
ふいに爆煙がなのは達3人を包んだ。
俺は不測の事態に備えてレーベンをセットアップすると,
手すりを乗り越え,爆煙の方に向かって飛んだ。
「ゲオルグ!?」
後ろからフェイトの驚いた声が聞こえるが無視して
3人のいるであろう方向に飛んだ。
爆煙が晴れてくると,なのはの側でスバルがピンク色のバインドに縛られ,
ティアナとなのはがお互いを砲撃しようとしていた。
しかし,なのはの方が一瞬早く砲撃を放ち,ティアナはダメージで
意識が朦朧としているようだった。
(・・・やれやれ。なのはも大人げない攻撃しやがって)
俺がほっと息を着くと,なのはがほとんど意識のないティアナを
さらに砲撃しようとしているのが見えた。
(・・・!?あいつ,どういうつもりだよ!)
「レーベン!スピードブーストダブル!!」
《はい,マスター》
俺はなのはとティアナの間に割り込むと,なのはが放った砲撃を
シールドで防御した。
俺より少し下にいるなのはは,俺を睨みつけていた。
「・・・なんで邪魔するのかな,ゲオルグくん」
「なんのつもりだよ,なのは」
「・・・教導の邪魔しないでくれるかな?ゲオルグくん」
「教導?ふざけんなよ。ボロボロの奴に追い討ちかけて墜とすのが教導か?」
「・・・何度も言わせないで欲しいな,ゲオルグくん」
俺は聞く耳を持たないなのはにいい加減腹が立ってきた。
「模擬戦は終了だ。ここから出て行け,高町一尉」
「それは命令なのかな。ゲオルグくん」
「当然だ。機動6課副部隊長として命ずる。
高町一尉は別命あるまで自室で待機。異議は認めん」
「・・・了解」
なのはは力なくそう言うと,隊舎の方へ行こうとする。
「なのは。右手はシャマルに治療してもらえよ」
俺はなのはの右手から滴り落ちる血を見て,なのはの背中に向かって
そう言ったが,なのははそのまま飛び去った。
「それから,ナカジマ二士」
俺がそう言うとスバルは肩を震わせた。
「貴様はランスター二士を医務室へ搬送。以後は別命あるまで自室で待機」
「・・・」
「復唱はどうした」
「・・・ランスター二士を医務室へ搬送後,自室にて待機します」
スバルはうつむいてそう言うと,ティアナを連れて隊舎に向かった。
隊舎の方を見ると,ヴィータがこちらに向かってきた。
「ゲオルグ!なんでなのはの教導を邪魔した!」
ヴィータが食って掛かってきたので,俺はヴィータの襟を掴み上げ
頬を張った。
「言葉に気をつけろ。ヴィータ三尉」
「うるせー。あたしはなんでなのはの邪魔をしたか聞いてんだ」
「部隊運営を預かる者として,部下への行き過ぎた体罰は認められんからだ。
わかったか,ヴィータ三尉」
俺はそう言うとヴィータの襟を掴んでいる手を離すと,隊舎へと戻った。
屋上ではシグナムからすれ違いざまに一言だけ言われた。
「・・・不器用な奴め」
「ほっとけ」
俺は,屋上を出ると副部隊長室にこもった。
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