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実母のものとそっくりなので

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第二章

「駄目かしら」
「御免なさい」
 明星は義母にこう返した。
「私それ着られないわ」
「えっ、どうしてなの?」
「それはちょっと」 
 義母にバツの悪い顔で答えた。
「言えないけれど」
「言えないって」
「兎に角もらえないから」
 その振袖はというのだ。
「本当に」
「そうなの」
 杏美も明星があまりに強く断るのでだった。
 それ以上は言えなかった、それでその振袖を残念に思いながらしまおうとしたがそれを見てだった。
 夫は彼女にだ、こう言った。
「それ奥さんの着物かな」
「ええ、そうだけれど」
 杏美はその通りだと答えた。
「この着物はね」
「それ明星が持っているものとそっくりだな」
「そうなの」
「ああ、色も模様もな」
 そのどちらもというのだ。
「明星の振袖とそっくりだ」
「そうだったの」
「実はその振袖は形見なんだ」
 夫は妻にこのことも話した。
「実は」
「形見なの」
「前の妻の」
「明星ちゃんの実のお母さんの」
「妻が亡くなる直前に」
 その時にというのだ。
「最後の贈りものとしてなんだ」
「明星ちゃんにあげたの」
「そうだったんだ」
「そうだったのね」
「本当にそっくりだよ」
 杏美が持っている振袖はというのだ。
「同じものかと思った位だよ」
「そうなのね、だから明星ちゃんももらえないって言ったのね」
「そうだな、それはな」
「そうした事情があったのね」
 しみじみとした口調で述べた。
「じゃあこの振袖はあげられないわね」
「そうだね」
「けれどどうしようかしら」
 ここでだ、杏美は考えつつ言った。
「振袖は」
「ううん、ここはね」
 夫は妻に考える顔になって話した。
「奥さんがね」
「振袖着るの」
「どうかな、お揃いでね」
「結婚しているけれど」
 他ならぬ夫にこう返した。
「いいかしら」
「いや、それはね」
「いいの」
「あえて無視して」
 そしてというのだ。
「一緒にね」
「親子で」
「着ればいいよ」
「そうなのね」
「お正月にでも一緒に着てね」 
 そうもしてというのだ。
「初詣行ってきたらどうかな」
「あなたがそう言うなら」
「それじゃあね」
 夫の言葉に頷いた、そして正月に実際にだった。
 杏美はその振袖を着た、そのうえで。 
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