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実母のものとそっくりなので

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第一章

                実母のものとそっくりなので
 もう高校生の娘がいる桜木命と結婚してだった。
 杏美は家庭を持った、二十代の彼女と四十代の夫は歳が離れていたが。
 娘になった明星とは十歳しか離れていなかった、それでも急に親になったので何かと戸惑うことばかりだった。
「わかっていて結婚したけれど」
「打ち解けるには時間がかかるかな」
「そうかも知れないわ」
 こう夫に話した、夫は面長で皺が目立つ顔で黒髪を短くしている。小さい優しい感じの目と太い眉それに小さな口を持っている。背は一七五位で痩せている。杏美は丸めの顔で大きなはっきりとした二重の長い睫毛の目に細く奇麗な形の眉と大きい赤い唇と一五六程の背の見事なスタイルの身体を持っている。
「ついついよそよそしくなって」
「明星もね」
 夫も娘のことを話した。
「まだね」
「私がお家に入ってね」
「僕達の結婚は賛成してくれたけれど」
「血がつながっていなくてね」
「それで母親になったから」
 それでというのだ。
「戸惑っているね」
「そうね、けれど時間をかけて」
「それでだね」
「何とかね」
 夫に意を決している声と顔で答えた。
「距離を縮めていって」
「親子になっていくわ」
「そうなっていくわ」
 こう言って実際にだった。
 杏美は明星と務めて親しく付き合っていき何とか距離を縮めようとしていった、その努力は実ってだった。
 明星、黒髪をポニーテールにし一五五位の背で丸顔に明るくはっきりした顔立ちで発育がよく色白の彼女は杏美をお母さんと呼ぶ様になった。一年位で二人はすっかり仲のいい親子になった。夫もそんな二人を見てよかったと思った。
 だがある日だ、杏美は明星に着物を出して話した。
「この振袖だけれど」
「その振袖は」
 着物を見てだった、明星は顔を強張らせた、それを見てだった。
 杏美はすぐにだ、明星に尋ねた。
「何かあったの?」
「いえ、別に」
「そうなの、だったらいいけれど」
「ええ、それでその振袖どうするの?」
「明星ちゃんにあげたいけれど」 
 こう言うのだった。 
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