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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第22話:反省は大事ですよ


午後になって,俺は緊急事態対処訓練の反省会の1つめに
参加していた。
こちらは,非戦闘員の退避についての内容が中心である。

最初に,グリフィスから今回の訓練の結果について報告があった。

「今回の訓練では,退避命令発令から非戦闘員全員の退避完了まで
 12分。退避できなかったものはなし。負傷者は3名です」

「負傷者の負傷原因は?」

「3名とも転倒です。いずれも複数の退避経路が合流する地点で
 発生しています」

「では,敵側の攻撃による負傷者は0か」

「そうなりますね」

「結果だけを見れば上出来だね」

「はい」

「じゃあ,今回の訓練で気づいたことがあれば自由に発言を」

俺がそう言うと,全員の手が上がった。

「おっ,いいねぇ。ならシャーリーから順に時計回りで発言を」

俺がそう言うと,シャーリーが立ち上がった。

「今回の退避完了までの時間は12分だったみたいなんですけど
 デバイスルームから退避している感じでは,もっと短縮できる
 と感じました」

「理由は?」

「途中までは走って退避できたんですけど,バックヤード関係の皆さんと
 退避経路が合流するところで,詰まっちゃったんです」

「つまり,退避経路の見直しによって退避時間の短縮を見込めると」

「そうですね」

シャーリーが座ったので俺はグリフィスに目を向けた。

「では,映像での退避行動の分析を行う際に,
 退避経路の改善案についても検討するようにしましょうか,ゲオルグさん」

「そうだな」



その後も,いくつか今後の検討を要する意見が出て,
最後にグリフィスの番が来た。

「それでは最後に私の方から,迎撃の指揮をとったゲオルグさんに
 質問なのですが,今回の退避時間で十分なのでしょうか?」

「結論から言えば十分じゃないと俺は考えてる。
 というのも,今回はフォワード連中を迎撃戦力として使えたために,
 隊舎内部への侵入を防ぐことができた。
 また,敵の接近を感知してから攻撃を受ける形になったために,
 最初の砲撃からある程度迎撃することができて,
 隊舎そのものの損害を最小限にすることができた。
 最後に通信・索敵系統を戦闘終了まで維持できた。
 要は,迎撃戦力も整ってたし初動がうまくいったために
 理想的な迎撃ができた。
 それ自体はいいことなんだが,実際に攻撃を受けたときには
 より絶望的な状況も想定できる。
 それを考えると,退避時間は短ければ短いほどいいと俺は考えてる。
 なんで,退避時間短縮の検討は非常に重要だ」

「分かりました。ありがとうございます」

「他になければ今日のところは終了としたいがいいかな?」

俺が室内を見回すと,全員が頷いていた。

「よし。じゃあ今日は解散。みんなお疲れさん」

会議に参加したメンバーが次々と立ち上がっていくなか
俺は隣に座っているシャーリーに声をかけた。

「シャーリー。ちょっといいか」

「はい,なんですか?」

「素朴な疑問なんだけどさ,ガジェットってあのサイズでAMFを展開できる
 魔導機械じゃない。で,防衛用の機器として隊舎に
 AMF発生装置みたいなものを設置できないか?」
 
「可能ですよ。AMF自体は昔からある魔法ですし,魔導機械も既に
 実用化されて久しい技術ですから。
 隊舎に設置ということであればエネルギも外部からの供給でまかなえますから
 完全に魔力結合を阻害する強度のAMFを展開させようと思えば可能です」

「そうか,じゃあ次回の訓練では訓練スペースの擬似AMFを使ってみるか。
 導入するにしても効果は確認しておきたいしね」

俺がそう言うとシャーリーは頷いた。

「もう1つ聞きたいんだけどさ,AMFが昔からある魔法なのと同じでさ
 AMFを無効化する魔法としてAMFCってのも結構昔から知られてるだろ。
 で,AMF下での戦闘用としてさ携帯用のAMFC発生装置って作れないか?」
 
俺がそう聞くと,シャーリーは少し考え込んでから口を開いた。

「理論上は可能なんですけど,どういうシステムにするかも
 考えないといけないですね。魔力エネルギー調達方法とか。
 一度私の方で案を作りましょうか?」

「頼めるか?できれば複数案あるとありがたい」

「わかりました。1週間くらいで素案を持っていきますね」



シャーリーとの会話が終わっても俺は会議室から動かなかった。
というのもこれから迎撃チームの方の反省会が行われるからだ。

前線メンバーとシャマル・ザフィーラが揃ったところで
俺は,反省会を始めることにした。

「みんな今日はお疲れ様。疲れてるところで申し訳ないけど
 鉄は熱いうちに打てって言葉もあるし,今日のうちに反省できるところは
 反省しておこうか。じゃあまずは,今日の訓練での戦闘を
 映像で振り返ろう」

俺はそう言うと,今日の訓練での戦闘を戦域ごとに順番に見せた。

「じゃあ,ここからは自由討論で行こうと思うんだけど,
 まずは指揮官として一つ聞いておきたいことがある。
 ティアナにキャロ。俺が最初に出した命令は覚えてる?」

俺が2人にそう聞くと,ティアナが口を開いた。

「確か,現場指揮は私とキャロにそれぞれ任せる。だったかと」

「それじゃダメだね。俺は逐次状況を報告せよって言ったはずだよ」

俺がそう言うと,シャマルが頷いた。

「でも,俺は一度も2人からの状況報告を聞いてないし,通信記録を見ても
 シャマル宛の状況報告もなし。間違いないよね,シャマル」

「ええ。一度も2人からの状況報告は受けてないわね」

「で,結果として俺は敵と交戦中っていう1秒が惜しい状況にも関わらず,
 応援要請が可能かどうかの状況確認のために,
 シャマルに状況確認の依頼をせざるを得なかった。
 さて,2人とも。弁解があるなら聞こうか」

俺がそう言って2人を見ると,まずティアナが口を開いた。

「状況報告ができなかったのは申し訳ないと思ってます。
 でも,私もスバルもヴィータ副隊長の攻勢を支えるので精一杯で
 そんなことを考える余裕はありませんでした」

「あの,私も同じです。」

ティアナに続いて,キャロが発言した。

「・・・2人とも認識が甘すぎるな。
 前線指揮官への状況報告を”そんなこと”だって?
 お前ら戦場なめてんのか?あ?」

俺が少し声を荒げてそう言うと,フォワード4人はビクっと肩を震わせた。

「それから,スターズ・ライトニング両隊長」

「「はい」」

「部下に戦闘中の命令遵守を徹底をさせておくように」

「「了解しました」」



その後は,各戦域での戦闘について細かい戦技面での議論が続き
反省会は終了した。俺は,部屋に戻ろうとするフォワード4人に
声をかけた。

「なぁお前らさ。ちょっと面白いもん見せてやるから,
 ちょっと俺の部屋においで」

俺がそう言うと,4人はお互いに顔を見合わせてから,俺に向かって頷いた。



副部隊長室に入ると,フォワード4人以外に隊長・副隊長達も入ってきた。

「なんでお前らもいるんだよ」

「ゲオルグが面白いもん見してくれるって言うからな。
 あたしらも見てーと思ったんだよ」

俺がそう聞くと,ヴィータがニヤニヤしながら言った。

「ま,いいけどな。んじゃちょっと待ってな」

俺はモニターにある戦闘の記録を映し出した。

「これは,8年前に行われたある戦闘の記録を図にしたもんだ。
 この戦闘の目的は,洞窟内部にあるテロリストの拠点壊滅だ。
 で,魔導師隊が2個分隊投入された。
 この拠点は事前偵察で2つの坑道でつながっていることがわかっていたんで
 その両方を1個分隊ずつで抑えようって計画だな。ま,ありがちな作戦だ」

俺はそこまで話すと,少し映像を動かした。

「洞窟内部に突入した2つの分隊のうち1つは進んでいくうちに,
 事前の情報には無かった分岐を発見する。だが,その分隊の分隊長は
 指揮官への報告をせずに予定通り,拠点への突入地点へ向かった」

俺はさらに映像を動かす。

「だが,いざ突入を開始すると予想よりも敵の攻勢が強く,
 突破は不可能と判断した分隊長は,洞窟入口までの撤退を開始する。
 だがここでもこの分隊長は指揮官への報告はしてない。
 敵の攻勢が強く,自分自身が戦闘で手一杯だったからだと記録されてる」

俺はフォワード一同を一瞥すると先を続けた。

「撤退した分隊は無事洞窟外に脱出し,撤退を成功させた。
 だがな,もう一つの分隊は突入地点で戦闘を継続してたんだよ。
 もう一つの分隊がとっくに撤退したとも知らずにな。
 さらに悪いことに,撤退した側の分隊が最初に発見した
 事前情報に無かった分岐が,戦闘を継続している分隊の後背につながってた」
 
俺は映像を最後まで動かした。

「結局,戦闘を継続した側の分隊は予想していなかった挟撃により全滅。
 撤退した側の分隊は辛くも逃げ帰ったが,作戦は失敗。
 ちなみに犠牲者は10名。いずれも優秀な魔導師だ。
 あと,指揮官は責任を問われて減俸処分を受けた」

俺はそこまで話すと室内を見回した。
フォワード陣も隊長陣も息を飲んでいた。

「どうだ?これが作戦中の連絡をキチンとしていればどうなった?
 最初に情報にない分岐を発見したことを報告していれば,
 指揮官は偵察のやり直しと作戦の変更を考えただろうし,
 撤退するときに連絡していれば,もう一方も同時に撤退して
 犠牲になることは無かっただろうな」

俺が,もう一度一同を見回すと,ティアナとキャロがうなだれていた。

「これで俺の言ったことの意味がわかったよな?」

フォワード陣は大きく頷いた。

「よし。じゃあもういいぞ。時間を取らせて悪かったな」



フォワード陣が出ていったあとも,隊長陣は残っていた。

「ゲオルグ。一つ聞いていいか」

シグナムが聞いてきた。

「この撤退した側の分隊長はその後どうなったのだ?」

「コイツは士官学校出のエリートでね。特に処分はされなかったらしい。
 今でも局員をやってるよ。ちなみに,お前らもよく知ってる奴だよ」

「誰だ?」

「ゲオルグ・シュミット。現在3等陸佐。
 本局遺失物管理部機動6課の副部隊長をやってるらしいぞ」

「そうだったのか・・・。すまない」

「何が?俺はこの経験があったからこそここまでやって来れたと思ってるぜ。
 ま,犠牲になった10人には悪いけどな」

「お前はなぜそう偽悪的なことを言う?」

「別に,偽悪的とは思ってないけどね。今更過去の失敗を悔いても
 しょうがないしな。ただ,俺のせいで死ぬことになった連中のことは
 死ぬまで忘れないし,奴らの犠牲を無駄にしないためにも,
 俺だけじゃなく,できるだけ多くの後輩に俺と同じ失敗を
 実戦で犯させないようにしたいと思ってるだけさ」
 
「そうか。やはり強いな,お前は・・・」

「そうでもないよ」

そうして,その場は解散することになった。



《マスター》

寮の自室に戻ると,レーベンが話しかけてきた。

「なんだよ」

《どうしてあんな嘘をついたのですか》

「俺は嘘は言ってないぞ」

《嘘です。マスターは今でもあの時のことを後悔してるじゃありませんか》

「だってカッコ悪いだろ?時々あの時の夢を見てはうなされて
 夜中に目が覚めるなんて」

《・・・本当にあなたという人は。アホですね》

「アホで結構。んじゃお休み」

《マスター。私はあなたのデバイスに生まれたことを誇りに思ってますよ》

「うるせぇ。俺はもう寝るっつってるだろ!」



俺は部屋の明かりを消したあとに,レーベンに話しかけた。

「ありがとうな。相棒」

《どういたしまして,マスター》

 
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