機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第10話:若者は元気でいいですね
ヘリから降りた俺となのはは,ある廃ビルの一室に入った。
さっきから,なのはは試験の準備を進めている。
「リイン,遅くなってゴメンね。準備はどう?」
『もう,バッチリなのですよ。ターゲットも観測用のサーチャーも
設置は完了済みなのです』
「レイジングハート」
《All right》
「うん,こっちでも確認できたよ。じゃあ,準備はOKだね」
『はいです。あとは時間を待つばかりなのです』
「受験者は?」
『既にスタート地点にいるのです』
「了解。じゃあ,時間まで待機ね」
『はいです』
どうやら,準備が終わったらしくなのはが俺の方に歩いてきた。
「ゲオルグくん。何,難しい顔してるの?眉間のしわがすごいよ」
俺は先ほどまで読んでいた新人候補たちの身上調査資料の内容について
考えていたのだが,かなり険しい顔をしていたらしい。
「ん?ちょっと考え事をね。悪いな,準備手伝わなくて」
「いいよ。ゲオルグくんはあくまでオブザーバーだしね。
でも,試験の間はちゃんと見ててあげてね」
「へいへい。レーベン,サーチャーの映像とタクティカルディスプレイを表示」
《了解です。マスター》
すると,俺の周囲にいくつもの映像ウインドウが開いた。
『なのはさん,時間ですよ』
「うん,それじゃあはじめようか。よろしくね,リイン」
『はいです』
そして,ナカジマ二士とランスター二士の試験が開始された。
・・・30分後。
俺は,サーチャーの回収などを引き受けたために,
なのはに遅れて試験のゴール地点にたどり着いた。
俺が着地すると,ちょうど,リインがランスター二士の足の治療を
終えたところのようだった。
「リイン,彼女の足の具合は?」
「ただの捻挫ですから,もう特に問題はないのです。
・・・って,ゲオルグさん?」
「よ。そういえば,立派な試験官っぷりだったぞ」
「ありがとうございますです」
俺はなのはの方に向き直ると,サーチャーの回収を完了したことを告げた。
「ありがとう,ゲオルグくん。ごめんね,結局手伝ってもらっちゃって」
「気にすんな」
俺は,今回の受験者たちの方に目をやると,彼女たちは見知らぬ男の登場に
きょとんとしていた。
「あの,なのはさん。こちらの方は・・・」
「あ,うん。えっと,今回の試験のオブザーバーとして来てもらったんだ。
ゲオルグくん」
なのははそう言って俺に自己紹介するよう促してきた。
「あー,さっきも高町一尉から紹介があったように,今回君たちの試験を
オブザーバーとして観戦させてもらった。ゲオルグ・シュミット三佐だ。
よろしくな,スバル・ナカジマ二士にティアナ・ランスター二士」
「「あ,はい。よろしくお願いします」」
2人はそう言うと俺に敬礼した。
「あー,いいからそういうのは。どうせオブザーバーだし,
試験の合否にも関与しないから。あと俺のことはゲオルグでいいぞ」
「「はい!」」
2人は元気に返事を返してくれた。
「じゃあ,2人とも。移動しよっか」
そうして俺たちはここに来た時に乗ってきたヘリで訓練施設へ移動した。
訓練施設に着くと,はやてとフェイトが待っていて,スバルとティアナを
連れて行った。
俺は,なのはとリインが合否について協議する場にいるわけにもいかず,
施設の外でタバコを一本吸ってから,はやてたちのところへ向かった。
すると,既になのはとリインもその場に居た。
「えーと,遅れて申し訳ない。今の状況は?」
俺がそう聞くと,はやてが答えてくれた。
「私とフェイトちゃんで2人を6課に勧誘してたところに,
なのはちゃんが戻ってきて,合否を伝えたところや」
「あらら,じゃあ俺はもう出番なしか。で,結果は?」
「不合格。でも,本局の武装隊での訓練に参加してもらって,追試だよ」
「そっか。2人とも残念だったけどよかったな」
「「はい!」」
2人はまた,元気に返事を返してくれた。
「ところで,八神二佐。ゲオルグさんも機動6課の方なんでしょうか?」
ティアナがそう尋ねると,はやてはなぜか自慢げに胸を張った。
「そうや。ゲオルグくんは機動6課自慢の副部隊長さんやよ。
ゲオルグくんがいてくれるおかげで,私はだいぶ楽させてもらってる。
ちなみに,私やハラオウン執務官,高町教導官とは結構前からの知り合いや」
そんな風にはやてが俺を持ち上げるものだから,スバルとティアナの2人は,
妙に目をキラキラさせて俺を見ていた。
「で,ゲオルグくん。2人の試験の講評を聞かせてもらえるかな?」
なのはがそう言うので,俺は一度咳払いをすると,受験者の2人に向き直った。
「まず,全体的な話からな。2人とも技術面については既にBランククラスと
言っていいと思う。コンビネーションについても,スバルは近接攻撃での
大打撃力と速度を生かした前衛,ティアナは精度の高い射撃と幻影系の
魔法を生かした後衛と,はっきりとした役割分担もできていたし問題無い」
「「ありがとうございます」」
「ただし,ティアナが負傷した際の連絡不徹底はよくないぞ。
今回は2人きりだったから,たとえ実戦でも死ぬのはお前らだけだが,
より大きな単位での戦闘行動の場合,ちょっとした情報の行き違いで
部隊全員の命を危険にさらすことも,往々にしてある。十分反省するように」
「「はい・・・」」
「あと,最後の場面だが,後先考えずに突っ走る癖があるなら,
早めに直すことだな。この先命を賭けなきゃならない場面に遭遇することも
あるかもしれないが,今回の状況が重症を負う可能性もある行動に
走らなければならないほど切迫した状況だったかはよく考えることだ。
まぁ,どうしても合格したいという心情は理解するが,取り返しがつかない
ことでもないんだ。怪我は最悪の場合,2度と歩けなくなることだって
考えられるんだからな。この点も十分反省しろ」
「「・・・」」
「最後に付け加えるなら,ティアナの負傷にしろ,最後の暴走にしろ,
そうなる状況を作り出してしまった原因は,自分たちの戦術判断が
甘いことにある。このことを理解して,技術だけでなく戦術理論についても
十分勉強し,現場での戦術判断力の向上に努めることだ」
「「・・・」」
「ただ,2人とも才能はあるし,まだまだ伸びしろはありそうだからな。
追試での合格を期待してるよ」
「「はい,ありがとうございます!」」
俺が講評を終えると,なのはたちが驚いた表情をしていた。
「ゲオルグくんもこんな立派なこと言えるんだね。私,びっくりしたの」
「私も,ゲオルグがこんなにしっかり話すところなんて初めて見たかも」
「さっすが我が愛しの副部隊長ゲオルグくんやね,なぁリイン」
「はいです!」
なんだか一部非常に納得いかない評価もあったり,誤解を招く発言もあったが,
俺の講評は概ね好評だったようだ。
「まぁ2人は追試で頭がいっぱいやろうし,さっきの件の返事は
追試後でかまへんよ。ほんなら,みんなお疲れさまでした」
はやてのその言葉で本日は解散となった。
その夜,俺が寝ようとしていると,レーベンが話しかけてきた。
《マスター,例の身上調査の結果は,はやてさんにお話しなくていいのですか》
「あのなぁ,人にはそれぞれ他人に知られたくないことだってあるんだよ」
《しかし,危険要素とまでは言いませんが,厄介な問題であるのは
間違いありませんよね》
「確かに厄介だよ。でもお前の言うように危険要素とまでは言えない以上,
報告する義務はないよ」
《・・・マスターが一人で抱え込むんですか?》
「それで丸く収まるならそうするさ」
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