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ネクタイでも駄目

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第一章

                ネクタイでも駄目
 ノーネクタイでないと来客禁止という店があると聞いた、それでだった。
 大学生の中福嗣一八五を超える長身でアフロヘアに眼鏡をかけた太った身体を持つ彼は所属している大学の落語研究会のサークルで言った。
「ノーネクタイだと入られないお店あるけれど」
「ああ、あるね」
「格のあるお店だよね」
「高級レストランとか」
「本当にノーネクタイなら入られないらしいけれど」
 中は部室の中で笑いながら話した。
「逆に言うとネクタイしてたらね」
「ああ、いいんだね」
「ネクタイさえ締めてたら」
「誰でも入られるね」
「そうだよね、じゃあ行ってみようか」
 そうした店にとだ、友人達に提案した。
「僕達も」
「ああ、そうするか」
「お金は皆バイトしてるからあるし」
「そうしたお店も一回なら行けるし」
「行ってみるか」
「そうしよう、ネクタイしているなら」
 入られる、中は笑って言ってだった。
 友人達と計画を話した、そのうえで。
 県内でも有名な高級レストラン調べるとノーネクタイのお客様お断りの店だったのでそこにそれぞれアルバイトで貯めた金を持って行ったが。
 店の入り口でだ、店員は中達に引いた顔で答えた。
「お帰り下さい」
「えっ、ネクタイしてますよ」
「それでも駄目ですか?」
「お店の決まり守ってますが」
「それでもですか」
「ネクタイをしていてもです」
 中達に言うのだった。
「その恰好では駄目です」
「何でですか?」
「ほら、ちゃんとネクタイしてますよね」
「このお店ネクタイ着けてるならいいんですよね」
「ノーネクタイなら駄目で」
「幾ら何でもナチスの親衛隊の恰好は駄目です」
 見れば中達の今の恰好はそうだった、黒いそれでありブーツまで履いていて帽子もそうである。しかも短剣まである。
「問題外です」
「ネクタイ着用でもですか」
「そうです、常識で考えて下さい」
 店員は中に話した。
「流石に」
「じゃあですか」
「ネクタイをされていても」
「普通の恰好ですか」
「そうです」
 まさにと言うのだった。
「スーツです」
「そうでないと駄目ですか」
「以前上はスーツ下はジャージなんて人も来られましたが」
「国会議員で?」
「国会議員でもです」
 その立場の者でもというのだ。 
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