銀河を漂うタンザナイト
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第7次イゼルローン要塞攻防戦②
前書き
イゼルローン攻防戦2話目です。
割と今回は戦闘描写を良くかけたと思います。
数時間後、ダゴン星系に到着した要塞駐留艦隊だが、その索敵は困難を極めていた。帝国艦隊は無数の小惑星や異常重力帯の間を縫うようにして移動しながら敵を探し求めていた。
「まだ見つからんのか?」
ゼークトは焦れた表情でそう言ったが、すぐにこの星系の特性を思い返して苦い顔をする。
(確かこの宙域には無数の小惑星と、それにまぎれて隠れられる質量のある物体が存在している。我が艦隊の索敵能力をもってしても発見が困難になるだろう……)
ゼークトがそう考えたとき、索敵オペレーターの一人が報告の声を上げた。
「敵部隊と思われる熱源反応あり!!前方11時の方向、距離2光秒の小惑星帯に敵集団確認!!数およそ2000」
「よし、射程距離に入り次第攻撃開始!!」
「了解!!」
「敵艦隊、すでに射程圏内です」
「よし、ファイエル!!」
報告と同時に命令が下され、帝国軍の砲撃が開始される。帝国艦隊からビームが放たれた直後に、小惑星帯側からすれ違いにいくつものビームが帝国軍に襲いかかった。
「敵艦隊発砲!」
「ひるむな、このまま前進して一挙に押し潰すのだ‼」
次々と砲撃を行う帝国軍の攻勢は勢いを増していくかに見えた。が・・・、
「何をしている!?数の上では此方が有利なのだぞ!!」
「お言葉ですが閣下、敵艦隊は小惑星帯を盾にしており、なかなか有効打を与えられません」
副官の訴えを聞きながら、ゼークトは舌打ちしたい気分だった。
(これでは砲撃が通らずに此方が一方的に撃たれる。このままではまずい……)
「閣下、ここはいったん後退しましょう。数で劣る敵も深追いはしないはずです」
「くそ、やむをえん。一度態勢を立て直す、各艦後退!!」
ゼークトは戦術スクリーンに映る敵艦隊の光点を見つめながら命令を下した。そして、全艦に撤退命令を通達するよう副官に命じた。その直後、突然前方で爆発が起こる。
「何事か!?」
「な、これは熱反応式機雷です、わ、我が艦隊は敵の機雷原に入り込んだ模様!!」
「馬鹿な、なぜもっと早く気づかなかったのだ!?」
「申し訳ありません、どうやら先ほどの戦闘で損傷した艦艇が気づかずに接近していたらしく…」
「ええい、言い訳など聞きたくない。とにかく一度後退するのだ!!」
「はっ、直ちに」
こうして駐留艦隊は機雷原から抜け出すべく後退を試みたが
「敵艦隊が囮に引っ掛かりました!!」
「敵艦隊機雷原を察知した模様、後退を開始しました」
「司令官閣下、敵艦隊が後退を開始しました」
「そうか…。よし、この機を逃すな、全艦砲撃開始」
そこに突如として、帝国軍駐留艦隊の後背下側から自由惑星同盟軍第四艦隊の砲火が駐留艦隊の艦艇の下腹を、自らの中性子ビームで突き上げる。
「バカな、後方からだと!?」
「はい、敵艦隊はすでにわが軍の後方に進出していた模様です」
「前方の敵集団はデコイとそれより数が遥かに少数の艦艇だけです!」
「しまった、まんまとはめられたのか…」
ゼークトは歯噛みしたがもはや後の祭りであった。
「えぇい、敵主力に応戦する。全艦180度回頭せよ!!」
「お待ちください閣下、今この状況で回頭してもt「黙っていろ!」
相変わらず陰気な参謀の言葉を遮るとゼークトは声を荒げた。
「回頭だ、全艦180度回頭!!」
かくして歴史は繰り返された。ただし、今度はアスターテ会戦時の第六艦隊と違い帝国軍要塞駐留艦隊が無残にも撃ち減らされる番となった。一方、帝国軍の後背で待ち伏せていた同盟軍第四艦隊は帝国軍駐留艦隊の真後ろまで上昇した段階で艦隊による一斉射を再開した。
「全砲門開け!目標前方の帝国軍!」
「敵艦隊射程距離に入ります」
「撃て!!」
同盟軍の第四艦隊旗艦、戦艦オケアノス艦長ブリス・ドルビニー中佐の号令の下、同盟軍の全艦艇が一斉に主砲を撃ち放った。帝国軍駐留艦隊は、密集隊形を組んでいたために、各艦は六に反撃できずに次々と沈められていった。そして、帝国軍の艦艇が反撃しようと回頭するが、同盟軍の攻撃によって、回頭中に横腹目掛けて砲弾やビームを叩きこまれ、次々と撃沈された。そして、帝国軍が総崩れになったところで、第四艦隊は駐留艦隊右側に回り込み、帝国軍の航行不能宙域と機雷原に挟まれて薄く長くなった陣形を衝いた。帝国軍の艦艇は慌てて反転しようとするが、その前に第四艦隊の集中攻撃を受け、多くの艦が爆散した。更にゼークトが下した回頭命令もまた混乱を広げる一因となっており、機雷原と第四艦隊と航行不能宙域と小惑星帯に挟まれた位置にいる艦艇だけではなく、全艦が文字通り回答した結果、味方同士の衝突による自滅も増えていた。
「報告、敵艦隊今だ回頭しつつあり‼」
「なに、回頭だと?」
自由惑星同盟軍第四艦隊総司令官アラン・クロパチェク少将は部下からの報告に対してオウム返しで返した。
「…奴らバカか?」
思わずそんな言葉が彼の口をついて出た。確かに帝国軍の兵力は圧倒的である。だが、それでも要塞駐留艦隊は一万隻以上存在するのだ。それが一度にこのような狭く、意思疎通が困難な宙域で一斉回頭すればその動きは鈍重なものとなる上に、被弾面積が増えて各艦が混乱する。そのようなことは素人でも分かることだ。
「まあいい、チャンスであることに変わりはない。この機会を逃さず畳みかけるぞ」
「了解!!」
こうして帝国駐留艦隊の背後で待ち構えていた同盟軍第四艦隊は全力をもって攻撃を開始する。
「敵艦隊、なおも反転します」
「構わん、そのまま攻撃を続行しろ」
「はっ」
そして帝国軍駐留艦隊が回頭を完了した時、その正面には同盟軍の第四艦隊が迫っていた。
「ばかな……こんなことが……」
ゼークトの口から呆然とした呟きが漏れた。彼は帝国軍の誇る強大な戦力によって同盟軍を粉砕できると信じていた。だが、現実は彼の予想をはるかに上回る結果となっていた。帝国軍の目の前には同盟第四艦隊の無数の艦艇が存在していた。帝国軍の艦艇はどれも損傷を受けており、すでに満身創痍と言っていい状態だった。
「閣下、ここは撤退すべきです。このままでは全滅してしまいます」
「バカなことを言うな、我が艦隊が負けるなどあるわけがない」
ゼークトはそう言うと艦隊に転進完了次第前進するように命じた。だが、それはあまりに遅すぎた。すでに帝国軍の背後から右側に回り込んだ同盟軍第四艦隊は帝国軍に向けて容赦ない攻撃を加えている。帝国軍艦艇は同盟軍の攻撃に耐えられず、次々と撃破されていく。そして帝国軍は帝国軍で必死に反撃を試みるのだが、同盟軍は巧みに位置取りを変えて、距離を取りつつ帝国艦隊からの攻撃を受け流すと、前進し逆に帝国軍に致命的な損害を与えていく。帝国軍イゼルローン要塞駐留艦隊は、既に艦隊の四割近い損害を受けていた。
帝国軍の司令官ゼークト大将はこの戦況を見て焦りを覚え始めていた。
(このままではまずい。何とかせねば……)
そこへオペレーターが報告してきた。
「閣下、要塞より緊急通信です!!」
「何だ!?」
「そ、それが…。兵士の叛乱が発生したため救援を要請すると先程から繰り返しております」
「なんだと!?」
ゼークトは驚愕の声を上げた。
「馬鹿な、どういうことなのだ!?」
「分かりません。ですが、要塞内部で反乱が発生しているのは事実のようです」
「いったい何が起こっているというのだ!?」
「分かりません」
ゼークトは苦々しげな表情を浮かべた。
「仕方があるまい、全艦後退せよ」
「しかし、それでは敵に背中を見せることになります」
「かまわん、とにかく今は後退して態勢を立て直すのだ」
そして、帝国軍は後退を開始した。それは自由惑星同盟軍も確認していた。
「帝国艦隊、後退を開始しました」
「よし、こちらも一度後退して態勢を立て直すぞ」
「閣下、追撃しなくてよろしいのですか?」
ビューフォートの質問にクロパチェクはニヤリとした笑みで答えた。
「なに、我々の目的はあくまで要塞駐留艦隊を第十三艦隊の要塞制圧作戦終了まで引き付けておくことだ。帝国軍が後退したところでまた食らいつけばいいだけだ」
「なるほど、それもそうですな」
「それに、どちらにせよ帝国軍はもう帰る場所もないのだしな…」
クロパチェクの言葉通り、帝国軍は既に退くべき本拠地を失っており、この時点で彼らの敗北はほぼ確定的であった。イゼルローン要塞内部は既に自由惑星同盟軍第十三艦隊が制圧・占領しており、もはや彼らを救うものはいなかった。
一方何も知らないゼークト大将麾下の駐留艦隊は、出撃前よりやや数を減らしていたがそれでも1万隻以上の数を保っており、ダゴン星系から撤退を開始し、要塞へと急行しつつあった。
そして帝国軍が撤退していくのを見た同盟軍の将兵の間に歓声が上がったが、そんな中でクロパチェクは、シガレットを咥えながら冷静に状況を分析していた。
(どうやら勝ったようだな。だが、まだ終わったわけではないな…)
「第十三艦隊より入電。『要塞攻略ニ成功セリ』との事です」
「うむ、ご苦労だったな。要塞の方は?」
「はい、要塞内及び要塞周辺の敵部隊は完全に沈黙しました。ただ、要塞内部の施設はまだ復旧作業中とのことですが……」
「よし、我々も要塞に向かう。敵艦隊との間に8光秒の差を保ちつつ追跡せよ」
「はっ!!」
こうして自由惑星同盟軍第四艦隊は、第十三艦隊による要塞制圧まで帝国駐留艦隊を引き付けることに成功した。その戦果は第四艦隊の行動不能な艦艇はわずか162隻で、他の艦艇はすべて健在であり、帝国軍の艦艇に至っては4000隻以上を戦闘不能に追い込むという大戦果となったのである。
一方ダゴン星系から一直線にイゼルローン要塞へと何とか帰還しようとした帝国軍駐留艦隊だが、肝心の要塞は既に帝国軍の所有するものではなかったのだった…。
後書き
やっぱりところどころ自分で読んでても変なところあり。
航行不能宙域と機雷原に挟まれて云々は、第6次イゼルローン攻防戦で同盟軍がトールハンマーの射界と回廊の航行不能宙域の間に狭い紡錘陣形でしか展開できなかったのと、同じような状況になっているという設定です。
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