| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

『白式』

 あの後すぐにセシリアさんは応援席に戻っていきました。『いつまでもいて集中を乱してしまってはいけませんから』ということらしいです。
 セシリアさんは案外優しい人なんじゃないかって思います。ただ最初がきついだけだったというだけで。
 つまりは箒さんと一緒なんですね。身内には優しいんだと思います。多分ですけど……

 それにやっぱり友達が増えることは嬉しいです。その人の知らない一面を見れるのも友達の特権ですね。
 一応IS同士が映像を共有出来るコードは交換しておいたので一夏さんの行動を私の視点で見ることが出来ます。
 私だけ見れてセシリアさんだけ見れないのは不公平ですしね。

 次の試合は30分後。
 30分あれば疲れた体も使った集中力、精神力も何とかギリギリ回復することが出来るはず。
 
 シャワーを浴びるために控え室に一度戻ります。私は下着さえも乱暴に脱ぎ捨てて髪留めを外すとシャワー室に入ると勢いよくお湯を出す。
 ISを使った後のこれは一種の癖みたいなものです。親にもはしたないから直しなさいと散々言われたけどこればっかりは直る気がしないんですよね……

 10分ぐらいは浴びていたでしょうか。お湯を止めて体をタオルで包みます。脱ぎ散らかした下着とISスーツを一度回収します。
 この面倒な作業も私にとって必要な作業ですのでやっぱり直りませんね。

 髪を乾かしてISスーツを再び着込み、髪をいつも通り右側にサイドテールで結ぶと30分ピッタリに再びピットに戻ることが出来ました。

 再びIS『デザート・ホーク・カスタム』を起動させる。先ほどの傷は自動修復があるとはいえこんな短時間では治らないので所々ボロボロだけどしょうがありません
 それに本当は一夏さんと戦う理由が一切ない……いえ、ありましたね。企業の人から可能ならば男性ISパイロットのデータを取ってきてくれって言われていました。
 そんなので人と争うとかはしたくないんですけど……

「後一回……お願いね」

 私は身に纏っている相棒にそう声をかけてカタパルトに足を固定、押し出されてアリーナに飛び出します。先ほどと同じようにバレルロールを行いながらアリーナの中央に停止。今回は両腰の武器はいざというときのために温存することに決めて左手の盾を量子化し、両手持ちの25mm回転式機関銃『ダラマラ』をオープンします。実弾系統は総じて弾丸を再装填する必要があるため『ハディント』『エスペランス』共々マガジンの残弾が心もとないというのも理由のひとつです。セシリアさんとの試合でまさかあそこまで弾を使うと思っていなかったので予備のマガジンをあまり量子化していなかったんですよね。失敗しました。

 そんなことを考えていると反対側のピットから一夏さんが飛び出してきました。初めて纏う専用のISに少し戸惑いながらも私と同じ高さまで上がってきます。
 少し灰色がかった白色、それでいてスマートな見事な機体。太陽の光をあびたそれは更に白く見えます。

『げ! なんだそのガトリング! さっきは使ってなかったよな!?』

 開口一番、私の持っている『ダラマラ』を確認した一夏さんが叫びました。

「ええ、あれだけでは芸が少ないので、今回はこれでお相手します。ちなみにこれの正式名称はミニガンですよ?」

『どこがミニだどこがぁ!! そっちのほうが強そうだぞ!?』

「そうですね、制圧力はありますよ」

『そういえばさっきの最後、すごかったなあ。あんな戦い方もあるのかって感心しちまったよ』

 そこで尻込みするのではなくて感心するというのが一夏さんらしいですね。
 その時、高速でデータ検索をしていたハイパーセンサーが一夏さんの機体の情報を映し出してくれました。

―データ検索完了、機体該当データ無し。unknownと認定―

 unknown? ということはこの場が初のお披露目ということですか。光栄ですね。

「ありがとうございます。でも、手加減はしませんよ?」

『へ、当たり前だ!』

 その言葉を最後にアリーナを静寂が包みました。


『それでは始めてください!』


 アリーナに試合開始を告げる声が響き渡りました。

「行きます!」

 私はその声と同時に構えていた『ダラマラ』を素早く作動させる。甲高い機械音と共に6つある銃身が高速回転を始め、たちまち『ハディント』よりも激しい弾幕を形成した。

『ちょ、ちょっと待てええええええええ!?』

 一夏さんが叫びながらも機体を不規則に動かしながら回避を開始します。正しい回避方法ですね。重機関銃のような取り回しの悪い大型の射撃武器相手は常に移動することで狙いをつけさせない。教えた基礎をしっかりと生かしています。
 それでも時々当たっているのはまだあの機体に慣れていないからでしょうか。それにしても……

「速い……!」

 これだけ弾丸をばら撒いているのに当たっているのは10発に1発程、しかも掠っている程度のためほとんどシールドエネルギーを削れていません。
 いくら『ハディント』に比べて命中力に劣るとはいえ面での制圧力は『ダラマラ』の方が上のはずなのに!

 『ハディント』と『エスペランス』を使いすぎたのはやっぱり失敗だったみたいですね。でもセシリアさんは手加減できる相手ではありませんでしたし仕方ありません。今ある武装で対応するのも戦闘というものですしね!

 いざというときのために『ダラマラ』を量子化して戻し、60mmグレネードランチャー付22mmアサルトライフル『グリニデ』をオープンします。
 中遠距離用の武装ですけど今は無駄に弾丸を使うより狙撃スコープのついているこっちのほうが命中率は高いでしょう。
 スコープで狙いをつけながらトリガーを引く。一夏さんが一瞬だけ回避が遅れたせいで左肩の装甲に直撃し剥ぎ取りました。その衝撃で体勢を崩したところを更にトリガーを引いて弾を撃ち込みます。
 でもあれでは装甲を弾き飛ばしただけでシールドエネルギーは大して削れていないはずです。

 しかしここまで何も撃ってこないということは近接用武装しかないんでしょうか? それとも気を伺っている? どちらにしろ今は攻撃のチャンスですね。スコープを覗きながらトリガーを引き続ける。

 それでもたまに反応しきれないで当たったり掠ったりしていますし、これならこのまま削りきることも……

『素手でやるよりはいいか!』

 一夏さんが吹っ切れたように初めて武器をオープンしました。
 あれは……実体剣?

―データ検索、武装該当データ無し―

 予想していましたけど怖いですね。どんな装備か全く分からないというのは。
 あれがあの機体の初めて見る装備。あれだけなら相当な容量を残しているはず……それとも他は使えないのでしょうか?
 何にせよ接近を許すわけには行かないですね。

『うおりゃああああああああ!』

「やっぱり……速い!」

 一夏さんが『グリニデ』の射撃を掻い潜ってあっという間に接近してきます。振り下ろされた剣を回避してトリガーを引きますが、ダメージをものともせずに接近してくるのは最早勇気というより無謀に近い。

 しかし……この突進力は予想以上に!?

「くっ!」

 『オーガスタス』のオープンが間に合わない!
 咄嗟の判断で『グリニデ』を盾代わりに使ってしまい、剣の勢いに私の手から『グリニデ』が弾き飛ばされる。

「もらった!」

「させません!」

 ここがチャンスとばかりに一夏さんが再度剣を振りかざしてきましたが、ここまで時間が稼げれば大丈夫。
 間に合っていなかった『オーガスタス』が左手に展開され、一夏さんの腕の来る方向に合わせて振りかざす。

ガァン!

 金属同士がぶつかる音がして一夏さんに一気に押されます。が、こちらもブースターを吹かしてなんとか持ちこたえた。

「くそ! 防がれた!」

「私も、そう簡単にはやられませんよ!」

 私が銃を持っていないため一夏さんが一度距離を取る。『グリニデ』は弾き飛ばされてしまったため他の銃を使うしかありません。
 でもこの距離では銃を使うわけにはいきません。使う前に懐に入られてしまいます。『ユルルングル』も同じ理由で除外。『マリージュラ』での剣の戦いでは一夏さんが有利でしょう。
 となると……

「では、私も接近戦でお相手しましょう!」

 『オーガスタス』を量子化して戻しつつ右手を掲げて4mほどの棒状の武装、槍をオープンします。何度か頭の上で振り回すと一夏さんに向けて構える。それと同時に槍の先端から白いエネルギーのようなものが放出された。

「なんだ? 槍も使えるのか?」

「当然です!」

 言ってブースターを一気に吹かす。そもそもこのIS『デザート・ホーク・カスタム』はマルチロールな機体。一夏さんの機体ほどではないけど接近戦もこなせる機動性は十分にあります。

 右手を伸ばすように槍を一気に突き出して間合いの距離を稼ぐ。

 剣とは違う圧倒的な間合い。これぞ槍の特性。更にブースターとの突進力を加えて相手への一撃離脱を目的としたこの方法は槍とは最も相性がいい戦法です。
 そしてこの槍、ヒートランス『イェーガン』は槍の先端から強烈な熱量を噴射することにより融解による貫通能力を持っています。絶対防御機能によりその溶解能力は人体への影響はないも同然だけどその熱量はなくなってはいません。

「熱っ! なんだこれ!?」

 剣で反らしたせいで体のすぐそばを槍が通過した一夏さんが驚きの声を上げました。

「ヒートランスです! 上手く避けないと火傷しますよ!」

 もちろん嘘ですがこういう脅しも素人の一夏さんだからこそ有効なときもあります。明らかに大きく避けるようになって隙が大きくなった一夏さんに柄の部分を使って鍔迫り合いに持ち込みました。

「くう!」

「ですから言ったでしょう? 貴方に不利にならなくても、私は貴方の機動をあらかじめ見ることが出来たおかげで、機体性能が違ってもある程度の行動予想が出来るんです!」

「それは俺が言い出したことだ! 俺はカルラに教えてもらって良かったと思ってる!」

「っ! ……一夏さんって良くお人好しって言われませんか?」

「言われるよ!」

「ですよ、ね!」

 私の両手首につけられた手甲が火を噴きました。
 10mm2連装ショットガン『マルゴル』。『デザート・ホーク・カスタム』の隠し武器の一つ。こういう鍔迫り合いの時くらいしか使えないほど射程は短いが意表をつくのには十分です。

「なにぃ!?」

 案の定怯んだ一夏さんの空いた腹部をヒートランスの石突の部分で思い切り弾き飛ばします。一夏さんは受け流しきれずに地面に激突して砂埃を巻き上げました。
 その瞬間に私は『イェーガン』を量子化して戻した後に『ダラマラ』を展開して構える。

「これで……!」

 再び甲高い回転音と共に『ダラマラ』から弾丸が吐き出された。回避する間もないほどの弾丸の雨が一夏さんに襲い掛かります
 あっという間に外れた弾丸で砂煙の煙幕が出来上がりあたり一面を覆っていきます。

 手加減など出来ません。一夏さんはそれほどに強い。
 ……機体もそうですが一夏さん自身のISの操縦が相当なもの。初心者とは全く思えません。下手なIS操縦者よりよほどの実力です。
 なにより思い切りの良さが半端ではありません。普通初めての実戦なら怯んだり萎縮したりするのだけれどそれが全くないというのはどういうことですか。
 正直一番やりにくいタイプです。

 ガチンガチンガチンガチン!

 『ダラマラ』が弾切れを起こしこれ以上は無理と伝えてくるまでトリガーは引きっぱなしでした。
 『ダラマラ』を量子化して再び『イェーガン』を展開して……構える。
 一夏さんのいた部分は弾幕が起こした砂埃で全く見えません。
 
 煙が晴れていく。槍の柄を握りなおして一夏さんが出てくるのを待ちます。まだシールドエネルギーは残っているはず。でなければ試合終了の合図が出ていますから。
 油断は即負けにつながります。
 煙が完全に晴れる。と……そこには先ほどのISとは形の違うISが立っていました。

「綺麗……」

 場違いにも私はそう呟いていました。
 機体は先ほどよりも鮮やかな白を基調とし、まるで西洋の騎士の鎧をイメージしたようなデザイン。いや、あれはそもそもあれが完成形態なのでしょう。今までがまだ未完成だったんですね。

『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』

 開放通信を通じて一夏さんの声が聞こえてきた。

「最適化……終わってなかったんですね?」

『いやあ……着いたのが結構ギリギリだったからな』

「はあ、分かりました。ここからが本気ということですね」

『ああ! 行くぞ!』

 距離があるため『イェーガン』を左手に持ち替え、右腰から『ハディント』を右手に構えて再び乱射。
 完全に使い切るつもりで一夏さんに撃ち込む、ですけど先ほどとはスピードの桁が違う!?

 二番目の面制圧力を誇る『ハディント』でも掠る気さえしないっていうのはどれほどの機動性を誇っているんですか!?

 あっという間に『ハディント』が弾切れとなったため右腰に戻し、『ミューレイ』を展開。
 先ほどの実体剣がいつの間にか二つに別れ、間からエネルギー刃を形成しています。おそらくあの武器もあれが本来の形なんですね。

―近接信管稼動。全弾連続発射―

 ISのハイパーセンサーが素早く私の思考を読み取り『ミューレイ』の設定を書き換える。
 『ミューレイ』の回転弾倉が一気に回転し、残弾5発を一斉に吐き出しました。

『弾丸が……見える!』

 一夏さんが言ったとおり弾丸の隙間を掻い潜り、その瞬間更に一夏さんのスピードが……上がった!?
 最早グレネードの近接信管が追いついておらず、一夏さんが通り過ぎた後に爆発を起こしています。
 『ミューレイ』は弾を撃ちつくした瞬間に量子化。左手の『イェーガン』を再び右手で構えて迎撃の準備を整えます。

「はあ!」

 気合の声と共に右手で突き出した槍の先端が空を切る。いつの間にか懐に入り込んでいた一夏さんが剣を振り被っています。

「この距離なら槍は不利だな!」

「槍だけなら……ですけど!」

「げ! やば!」

 左手には槍を突き出した瞬間引き抜いた左手の『エスペランス』。あれを避けて懐に入られるくらいは想定済み!
 この距離なら散弾に外れはない!

バァン!

 眩しい発砲炎と共に『エスペランス』が火を噴いた……けど一夏さんが……いない!?

「まさか……あの距離で避け……!?」

「うおおおおおおおおおおおお!」

 声に反応して上を見上げると既に一夏さんが剣を上段に振りかぶっています。ここまで来ていると槍を引き戻しても喰らうことは間違いない。
 こうなったら一度受けることを覚悟して返す刀で一夏さんに攻撃するしかありません。
 実際私のシールドエネルギーはほとんど減っていないのだしそれが一番効率がいい!
 そう考えて少しでも避けようと体に力を入れた瞬間……


ビーーーーーーーーーーーーーーーー


『試合終了。勝者、カルラ・カスト』

「え!?」「はい?」

 私と一夏さんは二人揃って疑問の声を上げてしまいました。


――――――――――――――――――――――――――――――


「俺……なんで負けたんだ?」

「ですね。あの剣のせいだとは思いますけど」

 未だに私も一夏さんも意味が分からず、よほど混乱していたのか私は同じ方のピットへ戻ってきてしまいました。
 気づいた時にはISも解除してしまったし今更反対側に戻るわけにもいきません
 ISを解除し終わったと同時に織斑先生がピットに入ってきました。その後ろから山田先生と箒さんも続いて姿を現します。

「バリア無効化攻撃を使ったからな。自分の武器の特性を考えずに戦うからそうなるんだ馬鹿者が」

「「バリア無効?」」

 あわわ、一夏さんと声が被ってしまいました……こういうのって結構恥ずかしいですよね。
 それでも織斑先生が説明してくれているのでそれに聞き入ります。

「ああ。相手のバリアを切り裂いて、本体に直接ダメージを与える。雪片弐型の特殊能力だ」

 雪片弐型?……ああ、あの剣の名前ですね。そう納得する私を置いて織斑先生の説明は更に続きます。

「これは、自分のシールドエネルギーを攻撃に転化する機能だ。一撃で相手のシールドエネルギーを大きく削れる分リスクも大きい」

「なるほど、それで私を攻撃する前にシールドエネルギーが0になったんですね」

「その通りだ」

「諸刃の剣ってやつか」

「IS同士の戦いはシールドエネルギーが0になったほうが負けになります。白式の攻撃は自分のシールドエネルギーを犠牲に相手にダメージを与える、織斑君の言うとおり諸刃の剣、というわけですね」

「つまり、お前の機体は攻撃特化の近接型というわけだ。よく訓練して使えるようにする必要がある。しっかり修練しておけよ」

「はあ……」

 一夏さんがため息混じりに肩を落とした。まあ勝ったと思った瞬間負けてしまったのですから分からなくはないですけどね。

「ISは今待機状態ですけど、呼び出せばすぐに展開できます。ただ、ちゃんと規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね」

 山田先生がそう言ってIS教則の本を一夏さんに手渡した。それを見て一夏さんはますます肩を落としてしまいました。

「それでも、あの動きはすごかったです。あれで実戦が初めてなんて、誰も信じられませんよ?」

「いや、カルラと箒との特訓のお陰だ。やっぱり二人の助けがあったからだよ」

「そ、そうですか」

「そうかそうか、私との稽古が役に立ったか。うん」

 ですからその笑顔は正直反則的なのですけど……
 箒さんも表には出しませんが内心嬉しそうです。

「行くぞ一夏! 今からまた特訓だ!」

「あ、ああ! ほらカルラも!」

「ええ!? 私もなんですか!?」

「ああ、お礼もしてないからな」

「分かりました! 分かりましたから手を引っ張るのはやめてください!」

 箒さんに引っ張られる一夏さん、一夏さんに引っ張られる私といった奇妙な隊列が出来上がります。
 騒がしいのは苦手なんですけど。でも……こういうのも良いかもしれませんね。


 あ……そういえば私勝っちゃったんですけど……後でもう一回織斑先生に聞きに行きましょうか。無理だと思いますけどね。


――――――――――――――――――――――――――――――


 月曜日、朝のSHRの席で山田先生がクラス代表の発表を行っていました。

「と、いうわけで! クラス代表は織斑一夏くんに決まりました」

「……は?」

 一夏さんがまったく意味が分からないという風に首を傾げています。

「はい、先生。質問です」

「はい、織斑君」

「何で負けた俺がクラス代表になっているのでしょう?」

「それはカストが辞退したからだ」

 織斑先生が山田先生に代わって答えました。その瞬間一夏さんがものすごいスピードでこちらを振り向きました。
 その顔にはなんで? と書いてあります。
 とりあえず笑顔で手を振っておきましょう。

「なん……だと……!?」

「ホームルーム中は前を向かんか馬鹿者が」

 その瞬間、一夏さんの頭にトール・ハンマーが炸裂しました。

「い、いや千冬姉! 何で俺が!!」

 再び出席簿が一夏さんの頭に落ち、その痛みに一夏さんが悶え苦しんでいます。
 えっと……理由説明したほうがいいのでしょうか?

「敗者は勝者に従うのが常だ。世の中は常に弱肉強食。そんなに嫌ならお前が勝った上で辞退すればよかったんだ。昨日までの時点でお前はそれを怠った。つまりお前に決定だ。反論はないな。あっても受け付けないが」

 説明する必要は無かったようですが……すごい理論ですね。道理で随分あっさりと辞退できたと思いました。

「よし、反論がないところでクラス代表は織斑一夏だ。全員異論はないな」
『はい!』

 一夏さん以外の全員が一丸となって返事をしました。申し訳ないですけど私もクラス全体の意向を無視するわけにもいかないので一夏さん、諦めてください。
 人間諦めが肝心です。
 
 

 
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧