イベリス
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第三十八話 速水の占いはその十二
「このことは絶対に守って下さい」
「生きることですか」
「諦めないで」
「そうすれば幸せにもなれますか?」
「はい」
速水の返事は澄んだものだった。
「その通りです」
「生きていればですか」
「例えどん底を味わっても」
「それでもですか」
「生きていればです」
「幸せにもなれますか」
「人生は山あり谷ありですね」
速水はこの言葉も出した。
「浮き沈みもあり絶望もです」
「経験しますか」
「目の前が真っ暗になる時もあります」
「絶望して」
「そうです」
そうなるというのだ。
「そうした時もあります」
「そうですか、ですが」
「はい、それでもです」
「生きていればですか」
「その絶望からも解放されます」
「絶対にそうなりますか」
「辛い時苦しい時はあります」
人生においてというのだ。
「誰もが経験します、ですが絶対に終わります」
「辛い時苦しい時は」
「そうです、どうにもならない時は逃げてもいいですし」
「逃げちゃ駄目じゃないんですね」
「そうした時もありますが家庭内暴力なぞは」
そうしたことはというと。
「逃げないと駄目です」
「自分でどうしようもないと」
「さもないと殴られ蹴られて罵られて」
「傷付くだけですか」
「そうなるだけなのですから」
それ故にというのだ。
「逃げるべきです」
「そうですか」
「逃げて生きることです」
「そこでも生きることですか」
「人間圧倒的な暴力の前には無抵抗無気力になりますが」
「もう殴られ過ぎて」
「怯え切って何も出来なく考えられなくなり」
そうなってしまってというのだ。
「そうなりますが」
「それでもですか」
「そうした相手からは逃げて」
「生きることですか」
「兎に角生きることです」
このことが最も大事だというのだ。
「伊藤博文さんも然りです」
「あの人もですね」
「生きたからこそ」
「あそこまでのことが出来たんですね」
「暗殺はされましたが」
それでもというのだ。
「その時まで必死に出来たので」
「沢山の功績を残せたんですね」
「多くの面白い逸話も残してくれました」
「そうですか」
「はい、ですから」
「人間生きることですね」
「そのことが第一です、では生きて漫画の方も」
そちらもというのだ。
「描かれて下さい」
「そうさせてもらいます」
「宜しくお願いします」
速水は笑顔で応えた、そうしてだった。
咲は彼と話し仕事に励みそれが終わってから家に帰ると伊藤博文について調べた。そして面白い逸話の一つを漫画にすることを決めたのだった。
第三十八話 完
2021・11・8
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