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イベリス

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第三十八話 速水の占いはその十一

「やはり生きていないとです」
「何も出来ないですか」
「橋本左内さんは逸材でした」
 幕末に安政の大獄で処刑されたこの人物はまさにそうであった、越前藩で将来を渇望された程であった。
「ですが死んでしまっては」
「どうにもならないですか」
「シューベルトもです」
 音楽家である彼もというのだ。
「長く生きていれば」
「もっとですね」
「僅か三十一歳で亡くならずに」
「そうしていたらですか」
「もっと偉大な功績を残せました」
「死んだからですね」
「もうそれまでです、人間は死んではです」
 速水は悲しそうに述べた。
「少なくともその生は終わりです」
「もうその時点で」
「ですからことを為すにもです」
「まず生きてこそですね」
「そうです、徳川家康が天下人になれたことも」
 幕府を開いて征夷大将軍になったこともというのだ。
「生きていたからです」
「なれたんですね」
「やはりまず生きることで」
「伊藤博文さんは生きたからこそですね」
「功績を残せました」
「そうなるんですね」
「はい」
 まさにというのだ。
「人間はこの世では生きてこそです」
「何かが出来ますね」
「ですからまず生きることです」
「死なないことは何よりも大事ですか」
「間違っても自殺なぞしてはいけません」
 速水はこのことは咎める様に述べた。
「それだけはです」
「してはいけないですか」
「徳川家康も生きていてです」
「織田信長、豊臣秀吉と続いて」
「二人より長く生きられたので」
 その結果としてというのだ。
「天下人になっています」
「若し織田信長が本能寺の変で倒れないで生きていたら」
「そのまま天下人になっていたでしょう」
 彼こそというのだ。
「そのことを見ても明らかですね」
「まずは生きることなんですね」
「ですから小山さんも」
 咲もというのだ。
「まずはです」
「生きることなんですね」
「それが第一なのです」
「だから自殺もですね」
「どれだけ絶望しても」
 そうした状況に陥ってもというのだ。
「諦めないことです」
「それが大事なんですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「これは生きることもそうで他のことも」
「漫画を描くこともですか」
「小説でも何でもです、生きていればこそです」
「描けるんですね」
「そして書けますので」
「だからですか」
「最後の最後まで生きることです」
 そうしなければならないというのだ。 
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