ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
追想編
破壊の蛇、笑う死神
前書き
こんにちは!
今度の日曜日あたりにフェアリー・ダンス編を開始できそうです。
オリジナルのラスト二話、どうぞ!
薄暗い洞窟の中には30数人ものプレイヤー達が集まっていた。
一同の表情は険しく、口を開く者は居なかった。
「……ともかく、フロアボス攻略規模の人員を用いても歯がたたなかった《ジオクロウラー》にはこれまでとは違った戦法が必要だということになります」
中央に大きなフィールドマップを展開し、大人数に向かって話しているのはKob副団長《閃光》のアスナだ。
(違った戦法ねぇ……)
2時間に及ぶ56層フィールドボス攻略会議に飽きてきた俺は、周りの空気はお構いなしに大あくびをかましていた。
56層フィールドボスの地形破壊モンスター《ジオクロウラー》はSAO史上最も面倒なボスだった。簡潔に言えば、
山壊すわ、地面を陥没させるわ、速いわ、でかいわ、終いには地中を泳いで攻撃してくるわ……。
取り合えずやること成すことが全部自然災害なモンスターだったのだ。ちなみに形はヘビ。
2000年に日本に初上陸した某魔法学校ファンタジーの二巻に出てくる、バジリ○クだってそんなチートじゃ無かったぞ、見たら石になるが……。
「そこで、ボスが出るエリアの一番近くにある村、あそこのNPCを囮にします」
(なるかぁぁぁぁぁあ!?)
突っ込みたいのは山々だが、やってみなきゃわからんだろうなんて話しになったら面倒だ。
「ちょっと待ってくれ」
前に出てきたのは毎度お馴染み黒髪のブラッキーさんだ。
「何か?」
「そんなことしたら村がメチャクチャにならないか?住んでる人達はどうするんだ!」
「何を言ってるんですか、命の無いNPCが何人死んだってまた蘇るのだから関係ありません」
ちなみにこいつら物凄く仲が悪い。あーあ、最初はあんなに息ぴったりだったのに……。
「NPCだって生きてる!あんたはそれを見殺しにするつもりか!」
瞬間、どっと笑いが湧いた。ギルドの面々だけだが、な。
ブラッキーことキリトにそんな自覚は無いだろうが、やつは自然とソロプレイヤー達の中心となっていた。多くはやつに前線で命を救われたり、何らかの恩を受けたり返したりしている内に自然とやつと同じ志を持ち始めたのだ。ま、かくいう俺もだが。
そのソロプレイヤー達は今だにばか笑いを続けるギルドの面々を冷ややかに睨んでいる。
さて、治め時かな?……ていうか俺ってこういう役回り多くね?
「五月蝿い黙れ。耳がイライラする」
そして例外なく悪くなる口がギルドのやつらに嫌われる一因だったりする。
「ああいうスピードタイプの敵はそもそも集団で攻略するべきやつじゃない。だからお前らギルドのパーティープレイは勝てないタイプだ」
「な、何だと!?」
いきり立つ脳筋は無視し、続ける。
「今回は俺達ソロプレイヤーに任せてくれないか?個人の機動力が高い俺達の方が適任だ。ドロップしたものは俺が責任を持って分配する。……どうだ?」
「論外です。ボスモンスターの経験値ボーナスはギルドがソロに並べる唯一の機会です。バランス面を考えてそれは見過ごせません」
「じゃあ、その御大層な理論を掲げて死人をどさどさ出してろ」
そう言うと、俺は踵を返して洞窟から出ていく。
あれだけ言えばすぐに糾弾が始まる。
実はこういう状況は初めてではない。対立が生じる度にそれをかき回し、うやむやにする。
治まればしめたもの、白ければ結果は上々だ。
「はあ……」
とは言え、いまいち発言力が無いのが怨めしい。
名はそこそこ通ってるが、やはり『Kobの何とか』などという感じではないと、効果はいまいちだ。
(……ここらでいっちょやらかしとくかな?)
目立つのは本望ではないが、ここいらで派手なことをやっておくのが今後のためだ。
俺は準備のために一度、村に戻った。
決行は今夜だ。
________________________________________
深夜、俺は夜型のプレイヤーがちらほらといるフィールドを歩いていた。
向かうのは迷宮区の手前にいるフィールドボスのもと。
俺は今夜、1人でこいつを倒す。
(……ちょっと楽しみかな?)
死ぬかもしれない戦いに行くのは慣れている。強大な敵に1人で立ち向かうのはこの世界に来てから初めてだ。
だから、普段は出てこない獰猛な感情が湧き出てきて気分が高ぶってくる。
最後の岩山を抜け、そこへやって来た。
「シューー……」
来た。こいつが《ジオクロウラー》
巨体に目を合わせると名前が出てくる。
《The Geocrawler》―地を這うもの
なるほど、だから地を泳いだりするのか。
無意識に頬がつり上がってにやっとする。
「これだ……」
これが俺が長らく忘れていた戦い、闘争だ。ここならまた戦える……ここが俺の、求めていた居場所だ!!
「行くぞ……」
月夜に栄える紅蓮の大太刀を抜き放ち、下に垂れる。
「シャアアアア!!」
高速で突っ込んでくる巨体。それを俺は宙に跳んでかわす。
相手が体勢を立て直す前に連撃を叩き込む。
長い体を使って俺を潰そうと這い回るジオクロウラーだが、個人の機動力にはまったく敵わない。
「はぁ!!」
「ガァァァァ!?」
一方的に攻められて遂に最後のHPバーに割り込んだ。
ここからの大暴れがこの敵の厄介にされている理由だ。
「シャァァァァ!!」
絶叫と共に地面にクレーターを穿ちつつ、こちらに突進してくる。
「ぬ……」
横へ回避するが、インパクトダメージでHPの2割りを持っていかれる。
「出し惜しみしてる場合じゃない、か……」
全力ダッシュしながらアイテムウインドウを操作し、新たな武器を取り出す。
短めの刀、小太刀という武器だ。
エクストラスキル《二刀流》の原型となった、この世界で彼だけが使える禁断のシステム外スキル。
江戸時代初期の剣客、宮本武蔵が創始した兵法、『二天一流』の奥義の1つにして、彼の養子達に伝承されし秘伝の技。
「おい、蛇野郎。光栄に思え、お前はこの世界で俺と本気の戦いをした最初で最後の存在だ」
左右の剣を地面に垂らし、構えない構えをする。
――《水の型、無形の構え》
1つ空に咆哮をあげると、ジオクロウラーは地面に体を半ば埋めながら突進してくる。
かわさなければ致命的なダメージを食らうのは明らかだったが、先程とは違い、レイの表情には余裕の笑みがあった。
常闇に弾ける二条の剣閃、辺りがしんと静まり返り、やがて巨体が小さく粉々になって闇に消えていった―――
その場に残っていたのは1つの人影。
やがてそれも街の方へ消えていった。
________________________________________________
「―――とまあ、そんな感じでジオクロウラーはボコっといたから、迷宮区のマッピングはよろ」
「「…………」」
最近、オープンしたエギルの雑貨屋でお茶を啜りながら、店主とキリトにことの顛末を話した。
「……ついにやりやがったな、お前……」
「で、そのドロップ品をまとめてうちで売りさばいて、いきなり倒産させる気か?」
「うんにゃ、総額10k位ならお安いもんだろ」
「「はぁ!?」」
驚くのも当然だ。ボスドロップにはユニーク品、つまりそこでしか手に入らない強力な物がある。
「んだよ。もっと安くか?」
「いや……お前がそれでいいってんならいいが……。後で返せなんて言うなよ?」
「要るもんはもう抜いてあるよ。そいつらは不用品だ」
まあ、これでエギルの商売も軌道に乗るだろう。
結果的にはそれで俺達はさらなるサポートが期待できるんだからここでの投資は決して損ではない。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ。レイはどうする?」
「ほとぼりが冷めるまで下層に身を潜めてる。ボス戦になったら呼んでくれ」
「了解」
キリトが店から出ていってから10分程後に俺も出ていく。
雑多なアルゲートの大通りを進みながら、やれやれと苦笑いする。
今朝の新聞の見出しにはこうあった。
『56層フィールドボス、突如として姿を消す』
本文は
『攻略組が苦戦していた56層のフィールドボス《ジオクロウラー》が突然、消えた。昨日に引き続き挑みに行った攻略隊が見たのはボスの能力によって破壊し尽くされた湧出エリアだった。攻略責任者の血盟騎士団のアスナさんは記者の質問を華麗にスルーなさったので、聖竜連合の幹部に話を聞くと、どうやら昨日の攻略会議で方針を巡ってギルドとソロプレイヤーで対立、仲裁が入ったが、結局はギルド側の作戦が通ったらしい。』
記事はこう続く、
『仲裁に入ったのは通称、『紅き死神』と呼ばれる『レイ』というプレイヤーで、ボスが消えてからの消息が掴めていない(生存は確認)ため、ギルドが追っている。情報提供は血盟騎士団まで』
「……って、俺お尋ね者かよ」
まあ、いいか。と、転移門まで歩いて行くと身を隠すため下層に逃げて行った。
(※アスナとフレンド登録していたせいで、どこへ逃げても追っ手(主に本人)がやって来たのは言うまでもない)
後書き
というわけで、原作とThe day before で出てきた《ジオクロウラー》さんを想像で書いてみました。
調べたら、Geoが『土地』、crawlが『(手足のない、または短いものが)這う』だったので、蛇かなぁ~、と思いました。
原作で出てきてぜんぜん違っても叩かないでね。これでも中身省いて極力矛盾が出ないようにしたんだから……。
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