幻の月は空に輝く
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暗闇の中の出来事・2
風に紛れながら私は音をたてずにイタチとサスケのいる場所へと向かう。当然気配もしているけど、音をたててしまえば風に隠れた意味がなくなってしまう。
痛い程の沈黙の中、二人を見つけるのは簡単だった。
ここで、熱を発しながら動いているのは二人。
たった二人。
あれだけ居たはずのうちはの人たちは全て、血溜り中に転がってた。まるで人形のように。
「(駄目だ。拒絶してる)」
初めて意識して触れた人の命が消えそうな瞬間に。
自分の件も覚えてはいるんだけど、あー、スプラッタだなぁ、なんて自分の事だから軽く言えてた。
けど、数時間前。数分前までは生きて動いていた人たちのこういう状況は、正直見たくないと心が拒絶しているような気がする。
生前は老衰か病死かそのぐらいしか縁がないしね。それなりに平和な日本だから当たり前かもしれないけど。
ただ、吐かないのは何でだろう。
「(染まりだしてるのかな)」
命のやり取りが当たり前のこの世界に。
心が麻痺したわけじゃないし拒絶もしているのに、何故かこの現状を受け止めてる自分もいる事に、正直私自身が一番驚く。
あぁ、でも混乱しているだけかもしれない。
対峙しているサスケとイタチを見て、こんな事を考えてるのはちょっと……現実逃避だよね。
「な…んで。どうして……」
目の前の現実を直視出来ないまま言葉を吐き出すサスケに、イタチは冷たい眼差しを向ける。
本当は泣いているはずのイタチが、それらを全て押し殺したまま、溜息を吐き出した。
「何で、か。お前は本当に愚かだな」
呆れ果てたと言わんばかりの態度と口調。そしてキツイ眼差し。
「愚か?」
優しくて大好きだった兄の突然の言葉に、サスケの目は瞬く事を忘れたかのように開かれ、その瞳にイタチだけを映す。
イタチの両手はうちはの人たちの血に濡れ、重力に従いポタリ、と雫が地面へと滴り落ちる。
ポタリ、ポタリと普段なら聞こえない程小さな音が、その場に響き渡る。サスケの眼差しが両親からイタチの両腕へとぎこちなく動くと、その表情から完全に色を失わせた。
「まさか……兄さんが…父さんと母さんを……?」
イタチからの否定の言葉を望んでいるサスケに、相変わらずイタチは冷めた眼差しを向け続ける。
「だから、お前は愚かだと言っている」
「……ッ」
サスケの息を呑む音が響くが、イタチは構わずに腕を振り上げた。
「――ッ!」
驚愕に見開かれるサスケの瞳。
命の危険を感じ取っているのか、震えたままその場から動く事も出来ずにイタチを見続けている。
知ってる。
見ていた。
イタチが、サスケの命を奪う気なんてないという事を。
すっかりと場の雰囲気に飲み込まれ、動く事が出来ずにただ見ていただけだった私の背を、テンが押してくれた。
〈ラン〉
「――…あぁ」
すぅ。
はぁ。
軽く深呼吸。うん。息は出来る。
「行ってくる」
〈うむ〉
握り締めた手の平には爪の痕。
その手の平と額には汗が滲み出てた。
緊張してたと自覚すれば、心臓の音がおかしい事に漸く気付く。
予想以上に余裕がない事に苦々しい表情を浮かべそうになるけど、今はそんな事をして足を止めてる場合じゃないね。
「そこまでにしてくれないか」
纏っていた風の衣を一枚ずつはがしながら、私は足を踏み出す。多分だけど、二人には突然私がそこに現れたように見えるはず。
案の定予想していなかった私の登場に、イタチさんは冷徹な忍としての表情を崩しそうになる。が、すぐさま持ち直した。
それだけで、イタチの覚悟がどれほどのものだったのかが伝わってくる気がする。
「な……んで…ランがここに……?」
イタチとは違い、闖入者である私の存在を流せなかったサスケの口からは疑問が漏れる。
「止めに来た」
サスケの疑問は尤もだけど、その疑問にはあっさりと返事を返しながらイタチから視線を外さないようにしておく。
予定外の私の存在。
ひょっとしたら、話をする前に殺されそうになるかもしれない。それに、イタチが本気なら私なんか瞬殺されるしね。
でも、とりあえずは瞬殺する気はないみたいで、イタチは立っている場所から動こうとはしてない、ように見えた。
自信は……あんまりないけどね。
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