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人徳?いいえモフ徳です。

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七十匹目

「なぁ、本当に大丈夫かおまえ達?」

今は庭で新しいゴーレムを試している。

錬金術や魔法の練習をするときはメイドが同伴しないとダメと言われている。

今日後ろに控えているのは、双子のロリメイド。

名前はメアとイゼルで、ルイスが率いていた群れの中で動ける最年少の二人だ。

これより下に三人いるがもう少しで言葉が話せるかどうかってくらいの子だ。

二人とも長髪をポニテでまとめていて顔立ちも似ているので一見見分けがつかないし、二人ともそれで遊んでる。

でも慣れれば見分けるのは簡単で首筋にほくろがあるのがメアだ。

ロリメイドじゃ僕がやらかしても止めれなくない?と思うが、ロリメイドの前で危ない実験はしたくないのでその目論見も正しいのだろう。

「「だいじょうぶでしゅシラヌイしゃま…」」

いやどう見ても大丈夫じゃない。

尻尾はだらんと垂れているし耳もへにょっている。

息は荒いし、頬は赤く視線もおぼろげだ。

うん。熱中症だろうな。もう一時間は炎天下で錬金してるし。

だからガゼボで待っていろと言ったのに。

セルフチェックを行うと僕の魔力も半分を切っている。

無意識の魔法障壁でかなり消費していたようだ。

吸血鬼そのものではないとはいえ、炎天下ではそれなりに消耗するようだ。

今日はその点の検証も兼ねていたので収穫としてはそこそこだろう。

(ティア、二人を中に入れて冷やせ。魔力はどれだけ使ってもいい)

自分の中に呼びかけて、スライムコアを二つ出す。

空気中の水を集めて大人バージョンティア二人分用意し、コアを突っ込む。

僕の魔力が浸透していた水は即座にティアの体になった。

二人のティアがメアとイゼルを抱きかかえる。

「「ひゃっ⁉」」

練成していたガラスの等身大ゴーレムをアイテムボックスに突っ込みながらガゼボへ向かうと、後ろからティアがついてくる。

「し、シラヌイ様⁉」

「いいから、黙ってろ」

ティアに抱きかかえられた二人を黙らせる。

日陰に入ると、ティアがスライム型になり、二人を包み込む。

中でティアが硬化部分を作っているらしく、双子はリクライニングシートに腰掛けるような姿勢だ。

アイテムボックスからコップ、塩、砂糖、秤を取り出す。

「いいか、よく聞け。お前たちはまだ子供だ。体温を保つ機能がまだ未成熟だ。だから長い間炎天下にいるとそうやって体調を崩してしまう
だからこれからは僕の言うことは聞くように」

二人が少し悲しそうな顔をする。

「でもお仕事でしゅ」

「シラヌイ様といたいでしゅ」

二人は僕によくなついてくれている。

それはとてもうれしい事だ。

「うん、ありがとう二人とも。でも僕はそれでお前たちが倒れる方が心配だし、もしもの事があれば悲しい。
この世界にはエリクシルがあるとはいえ、必ず間に合うとも限らない。
この世界よりもはるかに発展した科学世紀でも車に取り残された子供が熱中症で死ぬなんて毎年の事だった」

エリクシルは万能の薬だ。

でもそれに頼るのはよくない。

結局のところ個人の健康は個人で守るしかない。

秤で塩と砂糖を量り、コップに入れる。

後は水を魔法で注げば簡易的なスポーツ飲料ができる。

「これ、飲んで。拒否権は無いよ」

二人にコップを差し出す。

コップの容量は科学世紀の単位で300㎖くらい。
おなかが冷えないように常温より少し低めの温度だ。

「全部ですか?」

「ぜんぶ?」

「少しずつでいいよ。でもそれ全部飲んでね」

二人が大きなコップを両手でもってあおる。

うん。かわいね。

二人がコップを口から放してふぅと息をつく。

さて…少し休んだら部屋に戻ろう。

今日はもうゴーレムの練習はやめて別の物を作ろう。

今まで作ろうと思いつつも必要性が無くてやらなかった物だ。

しかし今は必要性が出てきている。

ただ使う物がちょっと危ない。

部屋で硫酸使うのは危ないか…?

いや、気を付ければ大丈夫か。

幸いポーションはいくらでもあるし。












二人を部屋へ押し込んで、代わりのメイドを呼んで部屋に戻る。

連れてきたのはメイド長のエリザだ。

うん。なんでメイド長が来るの? そういうのって普通部下にやらせるんじゃないの?

僕がちょっと危ない錬金するって言ったせいか?

(十中八九それしかないと思いますが)

自分の中からティアの肯定が返ってくる。

なおさっきのティアの子機二人はメアとイゼルを看ている。

「シラヌイ様、何を御作りになるのですか?」

「ん。風を起こし続ける絡繰を作る予定だよ。その動力源に硫酸と鉛を使う」

つまりはロリメイドのために扇風機と鉛蓄電池を作ろうと考えたわけだ。

気を付けるべきは硫酸に触れないこと、感電しないこと。

とはいえ魔導書に練成式と完成図を特殊インクで書けば形はその通りになるので早々事故は起こらないはずだ。

つまるところ、今からやるのは図面を引くのと練成式を組み立てる作業である。

危ないのは実際に練成する最後だけだ。

「多分見てても面白くないよ?」

「大丈夫です。貴方を見ているだけで私は楽しいですから」

図面を引いて、必要な物を書き出していく。

電槽の内側は石英ガラスでコーティングするような構造になっている。

石英ガラスは科学世紀では比較的高価な部材だがこのフローティアでは魔法を使えば簡単に手に入る。

耐薬性耐熱衝撃性が高く薬品の保存に適する。

しかもふつうのガラスのようにアモルファス結晶ではなく一様に構造結晶でできているので錬金術の観点から見ると製作難易度が低い。

石英ガラスは傷があると強度が下がるがこれは一発練成することで限りなく平滑にできる。

一発練成の利点は他にもあり、電極を科学世紀のバッテリ並みに薄くできる。

錬金術万歳。

ほんの一時間程度で『バッテリーを錬金する魔導書』が出来上がった。

この魔導書用の紙とインクもそこそこ高価だがこれはお婆様にねだって商人を呼んでもらい直接買った。

シュリッセルネーム万歳。

あとはモーターだ。

これはバッテリーほど難しくない。

素材は鉄や銅などの金属と純四酸化三鉄、つまり磁石。

危険な液体は一切使わない。

回転させるために必要なベアリング球も魔導書に球の定義や素材を書き込めばいい。

四酸化三鉄、磁鉄鉱と呼ばれる鉱石は採掘される低純度の物は磁力が弱いが、錬金術で純粋なものを錬成すれば工業的実用に十分な磁力を得られる。

モーターの構造はミニ四駆とかに入ってるものなどと同様。

これは前世で触ったことがあるのでよく覚えている。

単純な構造と言うのは耐久性に関係する。

AK47とかその最たる例だろう。

一発練成するとオーバーホールしにくいが、そこはアイテムボックスの応用なりなんなりでどうにかすればいい。

とりあえず今はバッテリー、モーター、ファン、外装があればいい。

効率無視で動きさえすればいいのだ。

どうせ身内以外では使わないし使わせない。

製品化もしない。

外装とファンも練成するための魔導書を書き上げ、いよいよ練成だ。

砂利や鉛、プラスチック用の木などをタライに突っ込む。

魔導書を手に持ち、錬金術を発動する。

それだけでバッテリーが完成した。

これに希硫酸を注げば完成。

それと同じようにして、モーター等も練成していく。

箱型の外装を錬成し、希硫酸を注いだバッテリとファンをつけたモーターをはめ込んで導線でつなぐ。

はめ込むと言ってもかなりデッドスペースがある。

2段式カラーボックスの上段にモーター、下段にバッテリーを置いて固定しただけだ。

スイッチは接触式でオンオフだけの簡単な物だ。

出力調整はできない。

やり方をしらない。

最後にファンの部分に金属メッシュのカバーを被せて事故防止。

高さ80センチ、縦横40センチの箱型。

どうせ据え置きだしこのサイズでも構わないだろう。

「できた」

「おめでとうございますシラヌイ様」

「じゃぁこれメアとイゼルの部屋にもっていこうか」

扇風機試作1号をアイテムボックスに入れて二人の部屋へ向かう。

部屋に入ると二人は寝ていた。

部屋に置かれた二人のベッド。

そこで気づく。

首振り機能がねぇ、と。

仕方ないので外装に追加する形でファンの前にセパレータをつける。

スイッチオン。

スイッチを入れるとモーターが回り始める。

ファンが回り、風が起こる。

ファンの角度はまったく計算してないが、まぁ、機能してるしいいだろう。

「エリザ、どう思う? 食堂とか客間とかにも置けそうじゃない?」

「素晴らしいと思います。ですが…」

とエリザが懸念事項を話す。

「魔石も無しにこれほどの装置を動かす技術は非常に危険かと」

「どうせこの屋敷以外で使わないし問題ないでしょ」

魔石は魔力をため込む鉱物で、時計や魔力灯や魔力コンロなどに使われている。

要は魔力電池。

これを砕いたりして急速に魔力を回復させることもできるらしい。

だが僕としては魔石にそこまでの利点を見いだせていない。

僕自身魔力が人より多いので急速回復しようとすれば大量に魔石を必要とする。

魔力を使った絡繰りは今のところアイデア無し。

電池は錬金すればいい。

ぱっと思いつくのは爆弾だが必要性が無い。

「じゃぁ客間に置くのは無しかな」

「そこらへんはタマモ様に聞いてみるのがいいかと」

「だよねー」

二人の部屋を後にして、自室に戻る。

「とりあえず5個ぐらい作っとくか…」

パパッと5つ扇風機を練成してアイテムボックスにつっこむ。

…すごい容量食うなこれ。

それもそうか。

アイテムボックスって容積だもんな。

余裕はまだまだあるが、扇風機は小型化した方がいいかもな。

「これアルフレッド王に献上したら幾らもらえると思う?」

「王族に在庫を押し付けるのはどうかと」

「アルフレッドさんなら喜びそうな気もするけどね」

結局扇風機はシュリッセル家と王城の一部の部屋に置かれることとなる。

それもプライベートスペースに限ってのことで、多くの目に触れるような場所には置かないという確約の元でだ。






ツェツィーリア様には怒られたけどね。 
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