Fate/WizarDragonknight
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わしのために争わないで~
年明け最初の週末。
可奈美が朝のジョギングに出かけたのを自室から見送ったハルトは、大きな欠伸をしていた。
「えっと……今日の朝食当番は……俺か……」
カレンダーに書かれたマークにより、朝の業務があることを理解する。顔を洗ったのち、厨房に足を踏み入れると、そこにはすでに先客の姿があった。
「あれ? チノちゃん? ……と、モカさん」
「おはようございます。ハルトさん」
「おやおや? ハル君、お寝坊さんかな?」
二人ともエプロンと三角頭巾で身を包み、まさに厨房の主といった出で立ちだった。
ハルトは少し見とれて、そのあと「いや」と首を振る。
「俺今日の朝食当番なんですけど……というか、起きるの早くないですか?」
「ふふん。パン屋は朝が早いのだ」
得意げな顔でモカは語った。
「ここはパン屋じゃないですけど……」
「ココアのパン料理が一杯出されているんだから、同じよ? それに」
モカは傍のチノの頭を撫でる。
チノはのほほんとした顔(普段では絶対見られないような)で、モカになすがままにされていった。
「チノちゃん、すごい篭絡されてる……」
「ココアさんとは違って……モカさんの手は、すっごく安心します」
「ココアちゃんが聞いたら泣くよそれ」
ハルトはそう言いながら、作業台に近づく。
「俺これからみんなの分の朝食作ろうと思うんですけど、二人とも何かリクエストあります? チノちゃんはセロリ山盛りね」
「エ」
「そうだね……」
唖然とするチノ。一方何かをリクエストしようとしているモカ。
丁度時を同じく、厨房のドアの向こうより明るい声が聞こえてきた。
「今日は朝食作ってお姉ちゃんたちにいいところ見せるんだ」
ああ、俺が今日の朝食当番って誰も覚えていないなあ、とハルトが思った時、扉が開かれる。
「いっちばーん!」
そんな元気な声とともに、ココアが現れた。既にエプロンを纏った彼女は、やがてハルト、モカ、そしてチノの姿に凍り付く。
「おはようございます」
「おそようだぞ?」
「上手いですね」
順に、チノ、モカ、ハルト。
「ガアアアアアアッ!」
自身がラビットハウスで一番の遅起きだったことに青ざめ、崩れ落ちた。
「奪われる……妹も仕事も……プライドも……」
「ココアちゃんの構成要素全部だね」
「まだ寝ぼけてます」
「おやおや? 早起きも出来ないのに、チノちゃんの姉を名乗れるのかな?」
それはモカさん公認でいいのか、と思いながら、ハルトはしばらく厨房のコンロで眺めることにした。
「名乗れるもん!」
「本当?」
おもむろに指輪を取り出す。ルビーとサファイアに少し曇りがかかっていた。
少し磨こう。
「どっちがチノちゃん好みのパンを焼けるか勝負だよ!」
「ココアが作れる程度のもちもちパンで私に挑む気?」
コン、と木製の物がぶつかる音がする。
見れば、姉妹が麺棒でそれぞれに激突させていた。
背後に炎でも燃やせば、格闘戦のタイトルみたいだなと思いながら、ハルトはチノが慌てるのも眺めていた。
「わ……私のために二人が……」
「わしのために争わないで~!」
チノとは違う声まで聞こえてきた。
いつもチノと過ごしていると、常日頃彼女の上に乗るアンゴラウサギのティッピーが喋っているように思ってしまう。チノ曰く腹話術らしいのだが、大道芸としてある程度の腹話術を覚えているハルトは、それが本当に腹話術なのか常に疑っている。
さらに、姉妹の決闘内容が取り決められていく。
「三キロの小麦粉から自由にパンを作る。それでどう?」
「望むところだよ!」
「三キロ!?」
「ダメじゃ!」
「三キロって……!?」
ハルトは思わず顔を上げる。
「二人とも、三キロって意味分かってる?」
だが、彼女たちはもはやハルトの言葉など耳に入っていない。
三姉妹は、すでに無駄にドラマチックに、チノを巡っての戦いを始めていた。
どうやら材料から何を使うかから競っているようだった。
「姉より優れた妹がいるってことを証明して見せるよ!」
「出来るかな? ココアに、そんな大それたこと」
「……俺、今日の当番なんだけどなあ……」
開幕のゴングが鳴り、白熱してしまった状況に、ハルトはただ一人、置いて行かれたのだった。
「それで……」
可奈美は茫然としながら言った。
「食べきれなくなって、皆でピクニックなんだね」
一月という寒い時期、見滝原公園の芝生。動かなければ冷え込むような環境下で、ラビットハウスの面々はいた。
ピンクのレジャーシートを広げ、座るハルト、モカ、ココア、チノ。可奈美は靴を脱ぎながら、シートに上がった。
「うん。本当は千夜ちゃんとシャロちゃんも誘ったんだけど、二人とも今日は仕事で来れないって言われちゃって」
「ラビットハウスが今日お休みでよかったね。ハルトさんから公園から動かないでって言われたときは何事かと思ったけど、そういうことなんだね」
可奈美は腰を下ろしながら、スマホを見せた。
朝のジョギングの最中、ハルトから送られたメッセージに『今まだ見滝原公園にいる? 悪いけど、そのままそこにいて』と書かれていた。
可奈美は、ココアが持ってきた籠、その中に所せましと敷き詰められているパンを見下ろす。
「それにしてもよくここまで作ったね」
「ココアちゃんとモカさんがね」
ハルトが苦笑しながら説明した。
「どっちのパンがチノちゃんにとって美味しいかなってことで、競うように作っててさ。もう、本当にすごい量だよ」
「でも、これは流石に私でも食べきれないよ」
そう言いながら、可奈美は手頃なパンを一つ口にした。柔らかい歯応えと、太陽のような温かい香りで、咀嚼が捗る。
「あ、でもこれおいしい……!」
「まあ、たった五人の量じゃないからね。ココアちゃんの友達は駄目だったみたいだけど、俺もとりあえず、援軍も呼んでおいた」
「援軍?」
可奈美の疑問、その答えは十分とかからずに帰ってきた。
二人の見知った顔が、こちらに走ってきていたのだ。
「可奈美ちゃん! あけおめ!」
そう言いながら可奈美に抱きつく少女。
赤毛のポニーテールが特徴で、可奈美に負けず劣らずの鍛えられた体の持ち主。聖杯戦争における可奈美のサーヴァント、セイヴァー。結城友奈がにっこりと笑顔で可奈美を見上げる。
「友奈ちゃん!」
可奈美は抱き留めた友奈の頭を撫でながら、彼女の後ろから「よお」と声をかける青年にも目を配った。
水色のダウンジャケットを羽織った青年。長いウェーブがかった茶髪の彼は、軽そうな外見とは裏腹に人懐っこい笑顔を浮かべていた。
「ハルト、来たぜ」
「待ってたよ真司」
ハルトと挨拶を交わす彼こそ、ハルトのサーヴァント。可奈美にとって友奈が令呪で繋がっているように、彼もまたハルトと令呪で繋がっている。ライダーのサーヴァント、城戸真司。
「いきなり呼びつけてごめんね。ちょっと、パンを作りすぎちゃってさ」
ハルトがそう言いながらパンの籠を指している。
その膨大な量に驚きながら、その籠を持っているモカに真司は「どうも」と頭を下げた。
「あれ? よく見たら……ココアちゃん……? なんか、雰囲気変わった?」
「ふふ、妹がお世話になってます。姉のモカです」
モカは柔らかい物腰で真司に対応した。
すると、友奈もまた可奈美から離れ、真司に並ぶ。
「ココアちゃんのお姉さん!? 確かにそっくり」
「よろしくね。えっと……」
「あ、私結城友奈です! それでこっちが……」
「は、初めまして! 城戸しんじぇぶ!」
真司が名乗りの最中に舌を噛んだ。
「うわーっ! 真司さん噛み噛みだ!」
「だだだ、だってよ友奈ちゃん! こんな……こんな、美人なお姉さん、俺会ったことないからさあ」
これ以上ないくらいに鼻の下を伸ばしている。
真司の姿に微笑みながら、ハルトはスマホを見下ろす。
「後二人……」
そんな彼の姿に可奈美は首を傾げた。
「後二人ってことは、響ちゃんたち?」
「なんだけどね。今忙しいみたい」
ハルトはそう言いながら、可奈美にスマホを渡す。受け取った液晶画面には、多田コウスケからのメッセージが表示されていた。
『今それ言うなよ! 俺今日大学あ
響行きます!』
「うわー、口調がいきなり変わってる」
「察するに、響ちゃんにスマホ盗られたんだろうね」
「つまり響ちゃんは来るんだね」
ハルトにスマホを返し、可奈美はモカへ視線を投げた。
年が近いのもあるのか、真司はモカに対してデレデレになっていた。そんな彼を見て、友奈が真司の腰を肘で小突いている。
「コホン……俺、城戸真司です。ジャーナリスト目指してます」
真司がわざとらしい咳払いをして、改めて自己紹介をする。
だが、最初の噛み噛みだった時の印象が強烈だったのか、モカが苦笑した。
「はい。よろしくね。真司さん」
「は、はい……!」
「真司、声上擦ってるぞ。……さてと」
ハルトが立ち上がる。
「ちょっと飲み物でも買ってくるよ。流石にこの量、飲み物なしだと辛いだろうし」
「あ、だったら私も」
「大丈夫だよ。コネクトがあるから、買ったものすぐに可奈美ちゃんのところに置いておくよ。リクエストとか聞かなくていいよね?」
ハルトの言葉に、可奈美はモカたちを見渡す。
真司はまだモカに照れており、真司から離れた友奈は、チノの隣に座っている。
「うん、大丈夫だと思う」
「それじゃあ、またあとで」
そういって、ハルトは芝生から去っていった。
彼を見送ったのち、可奈美は友奈の隣に来る。
「あ! 可奈美ちゃん! 天気もいいし、今日は絶好のピクニック日和だね!」
「うん! こんな日は、みんなでピクニックに限るよ!」
寒さなど感じないように、可奈美は友奈と頷きあった。そこに、
「それじゃあ、パン大食い大会はっじめるよ~!」
「雰囲気が台無しだよ!」
ココアが元気な声で籠を持ち上げている。可奈美が悲鳴を上げたところで、、「実は」とモカがスコーンを取り出した。
「あれ? モカさん、スコーンも作ってきたの?」
「ええ。実はね……」
「こんにちわーッ!」
モカが何かを言おうとしたところに、元気な声が飛び込んできた。
見れば、元気な笑顔の少女がこちらに向かって走ってきていた。
活発な顔と、引き締まった体つき。女々しさなど感じさせない強い彼女こそ、さきほどスマホでハルトが連絡していた少女、立花響。
「立花響、到着しました!」
元気な敬礼を見せる響。彼女は籠のパンを見ると、顔を輝かせた。
「うわあああ! すごいすごい! こんなに沢山!?」
「響ちゃん、久しぶり!」
「うん! あけおめあけおめ!」
可奈美と響は互いに新年の挨拶を交わす。
「あ、あれから剣の鍛錬は積んでる?」
パンにありつこうとする響の肩を掴み、可奈美は尋ねた。
響の目に映る可奈美の眼は、キラキラと輝いているが、当人にとってはそんなことを気付く術はない。
「え? う、うん……」
「じゃあさじゃあさ! やろうよ! 立ち合い!」
「ふええええ!?」
「この前の響ちゃんの雷のアレ、本当に凄かった! 私も、あれと戦ってみたい! あの剣を受けて見たい! ねえねえ、色々メニューとか鍛錬のやり方とか教えたでしょ?」
「落ち着いて落ち着いて!」
響が声を上げる。
「その……あれから、私ベルセルクに変身出来なくなっちゃって……オーパーツはガングニールが取り込んでるから、多分変身そのものはできるはずなんだけどなあ……」
「そっかあ……」
可奈美はがっくりと肩を落とす。
先月起こった古代大陸の復活。その事件の際、渦中にいた響は、最終的にそのキーアイテムであるベルセルク、シノビ、ダイナソーのオーパーツをその身に取り込んだ。絶対的な力を手にしたが、その代償として、体をオーパーツに乗っ取られそうにもなったのだ。
「貴女も、ココアのお友達?」
と、真司との挨拶を終えたモカが響に話しかける。
響が自己紹介をすると、モカがにっこりとほほ笑んだ。
「ココアの姉のモカです。これ、お近づきの印にどうぞ」
「わああい! スコーン! いただきまーす!」
響が満面の笑顔でスコーンを食す。
そんな彼女を横目に、「実は」とモカが切り出した。
「ちなみにちなみにスコーン、一つだけマスタード入りがありま~す」
「マスタード入り!?」
チノが青い顔をすると同時に、響の口が黄色い悲鳴を上げる。
「響ちゃんが当たった!」
「へいき……へっちゃら……!」
響はダウンしながらもサムズアップをした。
これから、この人のサプライズには注意しなければならない。
可奈美は全身でそう感じたのだった。
後書き
ハルト『とりあえず、響ちゃんには場所伝えたから。お前も、来れそうだったら来てね』
コウスケ「あの野郎! こちとら土曜日なのに大学なんだよ! 土曜授業だってあるんだよ大学生には!」
???「よお、コウスケ。何騒いでんだ」
コウスケ「ああ? あ、何だ伊織かよ。いや、お誘いだよ。今日今開いていれば」
伊織「ほーん……ざまあみろ」
コウスケ「いきなり酷くねえかお前!」
伊織「うるせえ! こちとら、毎日毎日サークルの野郎どもに付き合わされて、全裸で酒バカスカ飲みまくらされてんだよ!」
コウスケ「この前見に行った時、お前結構楽しそうだったじゃねえか」
伊織「言うじゃねえかこの野郎……この前てめえが侍らせていたあの女の子連れて来いや!」
コウスケ「響か? アイツはそういう関係じゃ……」
伊織「うるせえ! こちとらサークルに女子三人しかいねえ上に野郎どもは異常に多い環境なんじゃーー! テントでJKとドキッ二人っきりの共同生活なんて送ってるラッキー野郎と違って、癒しが欲しいんじゃあああああああ!」
コウスケ「だああああ皆まで言うなうるせえ!」
___熱くなれ my friends 太陽と派手に 青い空 飛び込め全部 夏に任せて___
コウスケ、伊織「ぐらんぶる!」顔突き合わせながら
コウスケ「2018年の7月から9月な……?」
伊織「ご説明どうも……概要は上の通りだから、もう解説いらねえよな……?」
コウスケ「お前はそれでいいのかよ……? ダイビングサークルの話だろうが……!」
伊織「この時期に行かねえよどこにも! あるのは毎日の飲み会だこんちくしょう! 俺も全裸にいることにだんだん抵抗なくなってんだよ! JKに会わせろ!」
コウスケ「その発言で響に会わせる決断をする奴がいんなら顔見せろやゴラァ!」
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