Fate/WizarDragonknight
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誘拐されたまどか
「降ろして!」
ほむらの声に、ハルトはマシンウィンガーを停めた。
中央駅から少し離れたビジネス街。仕事始めの平日だが、やはり人の気配が多い。
行き来をやめないビジネスマンの群れに、ほむらは単身踏み込んでいく。
「え、ちょっとほむらちゃん!」
ハルトはバイクから降りて、彼女の後を追う。
「分かるの!? フェイカーの居場所!?」
「……」
ほむらは右耳を抑えながら答えない。
「ねえ!?」
答えない。
だが、ほむらは一切の戸惑いもなく、ビルの合間の裏通りへ入っていく。室外機が多い路地。およそ女子高生がすき好んで入らない場所だった。
「……キャスターと会話しているのか……」
ハルトは、頭上を見上げながらそう判断した。
真っ青な空のどこかに、黒一色の彼女の姿を探したが、無駄だった。
先にまどかを探そうと、ハルトが足を踏み入れ、ほむらの後を追いかけた。
「ほむらちゃん、どこだ!?」
だが、反応はない。
「まどかちゃん! いるの!?」
反応なし。
ほむらを見失い、ハルトは完全に狭い裏路地に取り残された。視界も利かない中、ハルトはキョロキョロと周囲を探す。
「くそ、一体どこに……」
迷宮と化した裏路地で、ハルトはさ迷い続ける。ほむらやまどかを見つけることは愚か、すでに外に出ることさえも困難に感じられた。
やがて。
「まどか!」
そんな声が、すぐ近くから聞こえてきた。
「あっちか!」
耳を頼りに、ハルトは行先を決める。
ゴミ箱を乗り越え、野良猫たちの喧騒を潜り抜け、やがて路地裏を抜けた。
「いた! ほむらちゃん!」
探していた黒髪は、路地を抜けた先。少し開けた広場にいた。
ビジネス街のオアシス。巨大な木を中心に、無数の椅子と机が設置されている。様々な人々がその場で休憩だったり、商談を行っている。
その中。まごうことなき最年少のピンク髪のツインテールの姿が、そこにはあった。
「まどかちゃん……」
鹿目まどか。ハルトが見滝原に来てから最初に出会った人物で、ラビットハウスを紹介してくれた少女。
ほむらとハルトの姿を見たまどかは、安心したような笑顔を浮かべた。
「あ、ほむらちゃん……それにハルトさん。よかった……」
まどかはほむらに駆け寄る。
ほむらは安堵の息を吐いて、まどかの肩に手を当てる。
「よかった……まどか、ケガはない?」
「うん……大丈夫だよ」
まどかがにっこりとほほ笑む。
「心配かけてごめんね。それに、ハルトさんも来てくれたんだ」
「まあ、襲われたって聞いたから」
ハルトは頷く。
「フェイカーは?」
群青色の仮面の姿を探すが、平穏な街の姿に、そんな非日常の姿はどこにもなかった。
まどかは「あの……」と前置きし、
「私でも信じられないんですけど、私が逃げ出したら、そのままいなくなっちゃったんです。諦めたのかな?」
「そっか……」
念のためにと、ハルトは指輪を使う。
『ガルーダ プリーズ』
ハルトが使ったのは、使い魔召喚の魔法。赤いプラスチックが組みあがり、鳥の姿となる。
「ガルーダ。悪いけど、青い仮面のサーヴァントが近くにいないかどうか探してくれ。二時間探していなかったら、ラビットハウスに戻ってきてくれ」
鳥に指輪を嵌めながら告げるハルト。すると、完成した使い魔、レッドガルーダは元気に返事をして、空の彼方へ見えなくなっていった。
「さてと。じゃあ、二人とも家まで送るよ」
「その必要はないわ」
ハルトの提案は、ほむらにばっさりと切り捨てられる。
「私がまどかを送っていくわ。……今日、私の足になったことは貸しにしてあげる」
「そりゃどうも。君が果たして俺に今日の貸しってことで見逃してくれる?」
「殺し合いの時以外なら、一度は言うことを聞いてあげるわ」
「賭けてもいいけど、ほむらちゃん。その時今日のこの貸し借りのこと、絶対に忘れそうだよね」
「ふん。行くわよ、まどか」
「え? ちょっと、待ってほむらちゃん」
鼻を鳴らしたほむらは、まどかの手を引いてぐいぐいと来た道を戻っていく。
ほむらが、続いてまどかがハルトの目の前を通過したその時。
「……っ!」
ハルトの顔が歪む。
そしてハルトは、今感じた感覚に従った。
「待って」
そのまま去ろうとするまどかの腕を、ハルトは掴んだ。
「痛っ!」
力を込めて握る。それにより、まどかは悲鳴を上げながら腕を振り払った。
「何するんですか!?」
「松菜ハルト!」
今の行動により、ほむらがハルトに拳銃を向ける。
「何のつもり? 松菜ハルト」
「どいて」
ハルトはほむらを押しのけ、指輪をベルトにかざす。
『コネクト プリーズ』
発生した手頃なサイズの魔法陣に手を突っ込み、ウィザーソードガンを取り出す。
「松菜ハルト!」
ほむらが糾弾する声。
すでにまどかを守るように立った彼女とハルトは、互いの銃口をそれぞれに向けていた。
「どいて。ほむらちゃん」
「何のつもり?」
それぞれ、冷徹な目を相手に向けるハルトとほむら。
ハルトはほむらから目を離さず、まどかに問いかける。
「フェイカーに攫われたんでしょ?」
「ええそうよ!」
ハルトの問いに、まどかではなくほむらが怒鳴る。
「下校中に、まどかがフェイカーに襲われた。それを私とキャスターで抵抗した。でも敵わず、フェイカーに攫われた。でも、まどかは何とか抜け出せた! それでいいでしょ!」
「ただの人間が、サーヴァントから逃げたとでも?」
ハルトの言葉に、ほむらは固まった。
だが彼女は即座に首を振る。
「ない! ありえない! キャスター、もうフェイカーの反応はないのよね!?」
ほむらは頭に語り掛けている。おそらく、キャスターとは脳内で通信できるのだろう。
彼女は「ほら!」とハルトへ大声を向ける。
「まどかからも、フェイカーの気配はない! 彼はきっと、別のところにいるのよ!」
「違う……」
ハルトはきっとまどかを睨む。
「分かってるよ。まどかちゃんの中にいるんだろ? フェイカー」
「何ですって?」
ほむらが目を大きく開き、一瞬まどかへ振り替える。
だが、まどかはおどおどとした表情で、「な、何のことですか?」と聞き返した。
「とぼけないで。分かるんだよね。そういうの」
「止めなさい!」
ほむらが発砲する前に、ハルトはソードガンを振る。銀の銃身が彼女の拳銃を弾き、改めてその銃口がまどかに向けられる。
やがて、まどかは観念したかのように、ため息をついた。
「どうして分かった?」
まどかの目が赤く光る。
ほむらも驚愕の眼差しで、彼女を見つめていた。
まどかは続ける。
「魔力も全て隠してあったはずなんだけどなあ?」
「分かるんだよ……」
ハルトは、そう言いながら指輪を右手に差し替える。
『ドライバーオン プリーズ』
「絶望の気配がしたからな」
「絶望……ねえ」
まどかは顔を大きく歪ませる。
およそ中学生の少女には程遠い、にいっと口角を吊り上げる笑み。
「やれやれ。そんな感知能力が君にあるなんて、知らなかったよ」
まどかはそう言いながら、懐からそれを取り出す。
群青色の棒。上部に十字の拘束具が付けられたそれ。つけられたスイッチを押すことで、その拘束が解放、左右に展開し、ベネチアンマスクの形状になった。
「一日に二回同じ相手と戦うのは、あんまり趣味じゃないんだけどなあ?」
そういいながら、まどかはそのマスクを顔に付ける。すると、マスクの目になっている部分が、赤く光る。
やがて、まどかの体は、群青色の闇に包まれていった。
そして現れたのは。
青を基調とした、人間とは違う肉体を持つ人型の生命体。
フェイカー。
彼は変身と同時に、ハルトとほむらを殴り飛ばした。
「まどかを……まどかを返しなさい!」
転がったほむらが即座に変身、彼へ発砲。
その音に、人々はその場から逃げていくが、ほむらは構わずに発砲を続けた。
しかし、銃弾は全てフェイカーの差し出した指の前に止まってしまう。
「おいおい、今この体は、君の大事な大事な人なんだろう? もう少し丁寧に扱ってくれないかなあ?」
「黙りなさい!」
有無を言わさず、ほむらは武器をコンバットナイフに持ち替える。
そのまま驚くべき速度で、彼女はフェイカーへナイフを突き刺そうとした。
しかし、フェイカーが手を掲げると、またしてもコンバットナイフはその動きを止める。
「変身!」
『フレイム プリーズ』
その間に、ハルトも火のウィザードへ変身。ソードガンを駆使して、フェイカーに挑む。
「いやだなあ? そんなに鬼気迫らないでくれよ。この体は、きちんと丁寧に扱うつもりなんだからさあ?」
「ふざけないで!」
ほむらの声に、ウィザードは思わずそちらを向く。
近距離の相手へロケットランチャーを取り出した彼女へ、ウィザードは思わず「それここで使うの!?」と叫ぶ。
発射されたロケット弾。
しかし、それもフェイカーの手から発せられる念動力により、威力を殺される。そのままそれは軌道をそれ、背後の大樹を爆発させた。
「この体はなかなか興味深くてね。普通の人間にしては、様々な因果が絡み合っている。心当たりはないかな?」
「黙れって、言ってるのよ!」
ほむらは右手についた盾を回転させる。すると、彼女の動きに変化が生じる。
ウィザードの目にも止まらぬ高速移動。
しかし、彼女の動きは、どうやらフェイカーには見切れているようだった。
両手を背中で組むフェイカー。彼は、上半身を反らすだけで、高速で動くほむらの攻撃___それが銃弾であろうと、斬撃であろうと___を全て回避していた。
「おいおい、もう少し頑張ってくれよ」
やがて、フェイカーは虚空を掴む。
すると、その場に首を掴まれたほむらの姿が現れる。高速で動く彼女を見事に捕らえたということを脳が理解するまで、少し時間がかかった。
「があっ!」
「ほむらちゃん!」
ウィザードはソードガンをソードモードにして挑みかかる。だが、フェイカーはほむらの首を掴んだまま、それを避け続ける。
「危ないなあ」
フェイカーはそう言いながら、蹴りでソードガンを防ぎ、左手の手刀でウィザードを迎撃。紫の軌跡を描くそれは、ウィザードに的確にダメージを与え、地面を転がす。
「さて、次は君だ」
フェイカーはほむらの体を高く持ち上げていく。左手には黒い雷が迸り、その殺意が伺えた。
「耐えられるかな? 君に」
彼は顔の近くで、その雷を纏った左手を翳す。
ほむらが歯を食いしばったと同時に。
フェイカーの左手の雷が、無造作にほむらを貫く。
それはほむらだけではない。フェイカーの手に持った黒い雷は、周囲のアスファルト、建物を次々と破壊していく。
その中、フェイカーと至近距離のほむらは、雷鳴の奥で声なき悲鳴を上げていた。
「ほむらちゃん!」
巻き込まれ、多少のダメージを受けながらも、ウィザードはほむらを助けようと急ぐ。
だが、それを見たフェイカーは鼻を鳴らした。
「ほら、返してあげるよ」
フェイカーはそう言いながら、ウィザードへほむらを投げつける。
スラッシュストライクを放とうとしたウィザードは、慌ててプロセスを中断、ほむらの体を全身で受け止める。
「大丈夫? ほむらちゃん?」
だが、虫の息のほむらに反応はない。ほとんどゼロ距離で雷を浴びたほむらは、呻き声だけで、立ち上がることさえ出来ずにいた。
同時にそれは、フェイカーにとって、攻撃のチャンスでもあった。
両手に膨大な黒い雷を宿らせながら、彼の双眸が輝く。
放たれた雷撃。ウィザードは思わず、ほむらの盾になるようにフェイカーへ背を向ける。
だが、雷撃の音とは裏腹に、いつまでたっても痛みはなかった。
「ライダーのマスター!」
その声に、ウィザードは顔をあげる。
ウィザードを守るように立ち塞ぐ、黒。その上にかぶさる銀の髪は、見る者の息を奪う美しさがあった。
「へえ……また君か……キャスター」
フェイカーが言った、その人物。
最強のサーヴァント、キャスターが、漆黒の魔法陣で雷を防いでいたのだった。
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