ロックマンX~Vermilion Warrior~
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Mission:3 セントラルタワー
エックス達がギガンティスに来てから数日が過ぎていた。
「くっ…」
メンテナンスベッドに横たわっていたゼロは痛みに顔を顰めながらも起き上がろうとするが、それを制する者がいた。
「待つんだゼロ」
聞き慣れない声にゼロは咄嗟に身構えたが、自分の隣に立つレプリロイドから殺気は感じられなかった。
「…何者だ?」
「私はリベリオンに抵抗しているレジスタンスの一員だ。」
「レジスタンス…」
リベリオンに抵抗していると言うのなら少なくとも敵ではないだろうと判断したゼロだが、警戒は解いていない。
「君達に何があったのかは知らないが、セントラルタワーの海岸付近で倒れていた君達が見つかった時は驚いた。君達の負っていたダメージは酷い物だった」
「もう1人はエックスだな…」
隣のメンテナンスベッドで横になっているエックスを見て、安堵の息を吐いた。
しかし、ここにいるのは自分とエックスとソニアだけだ。
「1つ聞く…ルインはいないのか?」
ダメージ無しでハイパーモードを発動していた状態でさえダメージを受けていたことを考えるとルインの生存はかなり絶望的だが、聞かずにはいられなかった。
それを聞いたレジスタンスのメンバーは首を振る。
「残念だが、君とエックス以外のレプリロイドはいなかった。エックスの傍にいるサイバーエルフを除けば」
「そうか…それにしても何てザマだ…!」
歯を軋ませながら悔しそうに呻くゼロ。
シャドウの裏切りにより形勢逆転され、ルインは行方不明となってしまい、ゼロとエックスはイプシロンを目の当たりにしながら敵前逃亡。
自らの力に強い誇りを持っていたゼロからすればとんでもない恥だ。
「取り敢えずゼロ。君も今は体を休めておくんだ。ここならリベリオンは襲ってこない。ルインを探すにしても、まずは傷を癒さなくては」
「……そうだな、少し世話になる」
考えていても仕方がない。
今は傷ついた体を治療して万全な状態にしなければならないと考えたゼロは再びメンテナンスベッドに横になった。
しばらくして、ようやく傷が癒えたエックスとゼロが部屋を後にした。
「世話になったな」
「助かったよ、ありがとう…」
[お世話になりました]
それぞれ礼を言うが、レジスタンスのメンバーは苦笑しながら首を横に振った。
「エックス達を見つけられたのは運が良かったからだ。私は大したことはしていないよ」
「それでもありがとう。それじゃあ」
部屋を出て、通路に出ると2人と1匹の間に会話はなく、黙々と先に進んでいく。
[ねえ、お父さん…お母さん大丈夫だよね?]
あれだけの高さをダメージを受けた状態で落下したルイン。
無傷な2人があれだけのダメージを受けたのだからルインはどうなってしまったのだろう。
「大丈夫だ。あいつは殺しても絶対に死なん…今度も無事なはずだ。あいつを信じろ」
「ソニア、心配なのは分かるけど、ルインを信じよう。ルインの強さは君も知ってるだろう?」
[うん…そうだね]
ルインの生存を信じて、先に進むエックス達。
情報を集めるために、近くにあった機器のサイバースペースにソニアにダイブしてもらい、セントラルタワーの情報を集めて貰った。
「どうだ?」
サイバースペースから戻ってきたソニアにゼロが尋ねるが、返ってきた返事はあまり良いものではない。
[えっとね、リベリオンへの抵抗勢力のレジスタンスのリーダーで、ギガンティス総督府の責任者でもあるアル=シフォン長官がリベリオンに捕らえられちゃったらしいの。しかも、総督府であるセントラルタワーが占領されてしまったんだって。]
「…そうか」
何とかレジスタンスの協力は得られないかと思っていたのだが、肝心のレジスタンスのリーダーが捕らえられてはどうしようもないと気落ちするエックス。
「仕方がないだろう。レジスタンスは元々一般レプリロイドだ。苦しい戦いを強いられるのも仕方がない」
「ああ、せめてリディプス大佐と通信が出来れば…」
身を隠していたエックスとゼロの通信機が鳴り、即座に通信を繋げるエックスとゼロ。
通信機のディスプレイにはエックス達の上官であるリディプスが映っていた。
『……エックス…ゼロ。聞こえるか…』
「リディプス大佐…シャドウが裏切りました…」
『何だと!?』
「俺達の作戦はリベリオンに筒抜けだった。ルインも…イプシロン達にやられてしまった」
『…エックス…ゼロ…お前達は……無事……』
声が途切れ、ディスプレイにノイズが走る。
「…リディプス大佐?」
エックスが声をかけても返事はなく、耳障りなノイズしか聞こえない。
「…やはりギガンティスでの通信はアテに出来ないか…」
陰からホール内を見回すと、巨大なモニターが作動していた。
『ギガンティス国内に、連邦関係者が不法に侵入しました』
アナウンスが流れると同時に映像が映ると、エックス達はそれを見て目を見開いた。
モニターに映し出されたのはラグラノ廃墟での記録だ。
『繰り返します。不法侵入者です。該当するレプリロイドを見かけた者は、速やかに通報、または…』
エックス達はアナウンスを聞き終える前に、駆け出した。
「リベリオンか…」
表情を険しくし、歯軋りするゼロに対してエックスも頷きながら駆け抜ける。
総督府がリベリオンに占領されてしまった今、エックス達を指名手配するのもリベリオンの思うのままに出来る。
エックス達は自分達の指名手配が完全に終わる前にこの場を去った。
逃げている最中にまずは、セントラルタワーを解放すべきだとエックス達は考えた。
今の状況では行動を起こそうにも、思うようには動けないだろう。
長い通路を抜けると広い場所に出て、エックスとゼロは向こうにある扉を発見してそちらに行こうと足を動かした時。
「待ちな」
声に反応して振り返るが、そこにいたのはガラの悪そうなレプリロイドで平凡なエネルギー反応からして、ギガンティスの一般レプリロイドだろう。
「お前ら、エックスとゼロだろう?さっきニュースで言ってた。」
ガラの悪そうなレプリロイドに対してゼロは無視を決め込み、エックスは騒ぎを起こしたくないため、そのまま進もうとしたが。
「悪いが通報させてもらった」
「何?」
「貴様、リベリオンの!?」
エックスはすぐに腕をXバスターに変形出来るように構えた。
「イプシロンの仲間ってわけじゃないが、お前達も同じレプリロイドなら、我々の独立を勝ち取ろうという考えに…」
「ふざけるな!貴様らイレギュラーの理想など斬って捨てるまでだ!!」
リベリオンに協力するイレギュラーを両断せんとばかりにZセイバーを構えたゼロだったが。
[ゼロ、危ない!]
「!?」
「ぎゃあああああ!!?」
ソニアがゼロを咄嗟に引っ張ったことで、ゼロは真上から降ってきた爆発物に巻き込まれないで済んだ。
断末魔を上げたレプリロイドの残骸が辺りに散らばる。
「誰だ!?」
真上を見上げると、高所から1体のレプリロイドがこちらを見下ろしていた。
「助けたなんて考えないでくれよ。」
飛び降り、エックス達から少し離れた場所へ高所からであるにも関わらずに軽やかに着地する。
黒い帽子に燕尾服のようなアーマーを纏った端整な顔の青年。
紫の髪と、僅かに見える真紅の瞳は謎を秘めた綺麗な色を湛えている。
直前までエックスとゼロは彼の気配を感じられなかったこともあり、既にバスターとセイバーを構えていた。
「おっと、俺はリベリオンでもイレギュラーでもないぜ?あんたらの首を持ってけば、リベリオンが高く買ってくれそうだからな。特にサイバーエルフまでいるなんて好都合。希少なサイバーエルフは高値で売れるからな」
「ふざけるな!!」
ふざけたことを言う青年にエックスの表情が険しくなる。
「貴様…賞金稼ぎだな?」
「御名答。お尋ね者のハンターさん達。行くぜ!!」
いつの間にか手に収められていたカードがエックスに向けて放たれ、それをかわすとカードは地面に着弾と同時に爆発した。
「なるほど、爆発物の正体はこれか…」
これはかなり厄介な武器だ。
カードが放たれた時に生じる乱流により、正確な軌道が分からない。
「そうそう、言い忘れてたな。俺は名前はスパイダーだ。よろしくな」
「生憎イレギュラーの名など一々覚えている暇はない!」
スパイダーを斬り捨てんとばかりにセイバーを構えて斬り掛かるゼロ。
「イレギュラーじゃないって言ったばかりじゃねえかよ」
苦笑しながらゼロのセイバーによる斬撃を尽く回避しながら言うスパイダー。
「リベリオンに協力しておいてよく言う!零式烈斬!!」
セイバーによる連擊を繰り出し、スパイダーを細切れにしようとするが、スパイダーに光刃が当たる前に弾かれてしまう。
「残念だったな!カウンターカード!!」
カード型のバリアがセイバーのエネルギーを吸収して逆にスパイダーのエネルギーに変換される。
「何!?」
「ありがたく使わせてもらうぜ、あんたのエネルギー。フォーチュンカード…ストレートフラッシュ!!」
両腕からカードボムが広範囲に連続で放たれる。
「ぐあっ!?」
「ぐっ!!」
ゼロのラーニングシステムによる解析でも今は完全な回避が出来ないのでは、自分では回避出来ない。
「回避を捨てるか…ハイパーモード・Xファイア!!」
ハイパーモードを発動してXファイア状態となる。
変化したコレダーを構えるエックスに、スパイダーはリベリオンから得た情報を整理する。
「なるほど、そいつがあんたの切り札か。でもよ、付け焼き刃の格闘武器で俺を倒せると思ってんのかい?」
エックスが得意とするのはバスターによる遠距離攻撃なのは、賞金稼ぎとして調べ尽くしている。
故にいくらパワーアップしようと付け焼き刃の格闘武器など恐れるに足らないはずであった。
「Xコレダー!!」
「カウンターカード!!…何だと!?」
コレダーの爪がバリアを砕き、そのままスパイダーに直撃して吹き飛ばす。
「どうやらお前のバリアは光学兵器に対しては強いが、実体武器には弱いようだな」
最近のレプリロイドの武器はほとんどが光学兵器だ。
実体武器はあるにはあるが、弾切れや壊れた際の補充などを考えると光学兵器の方が遥かに使い勝手がいい。
光学兵器には強くても実体武器には弱い物もそれなり増えてきている。
「なるほど、思ったよりやるみたいだな。あんたらの賞金はかなりの高値になりそうだ。」
表情から余裕を消したスパイダーが再びフォーチュンカードを繰り出そうとした時、警報がけたたましく鳴り響いた。
「ああ、さっきの奴の通報か。邪魔が入ったな、勝負は預けておこう。精々捕まらずに賞金を上げてくれよイレギュラーハンターのお2人さん!」
「逃がすと思うかイレギュラー?」
ダメージから立ち直ったゼロがセイバーを構えてスパイダーを睨みながら立ち上がる。
「確かに普通なら逃げるのは難しいな。普通なら…そらっ!!」
スパイダーがゼロにカードボムを放つが、セイバーを構えて防いだ。
「目眩ましのつもりか?その程度で…なっ!?」
防御を解いた時点でスパイダーの姿は影も形もなかった。
「これが俺のハイパーモード・トリックスターさ。電磁迷彩で姿を消せる。というわけでシーユーアゲインってね♪」
完全に気配も消えた。
いくらゼロでも気配を消し、姿も見えない相手を追うことは不可能であり、スパイダーには完全に逃げられてしまった。
「くそ…」
忌々しげにセイバーを握り締めるゼロ。
イプシロンに続いて二度も辛酸を舐めさせられるとは。
「ゼロ、早くこの場を離脱しよう。いつリベリオン兵が来るか分からない。」
「ああ…」
今の状態で強力なブレオンを相手にするのは無謀だと判断し、すぐさま向こうの扉に入った。
扉を潜った先にあるのはパイプが敷き詰められたような場所で、恐らくセントラルタワーの重要な場所のはずだ。
ここでなら敵も迂闊な攻撃は出来ないはず。
少しだけ進むペースを落とすと、エックスが口を開いた。
「ゼロ」
「何だ?」
「今の俺達で…イプシロンに勝てる可能性は…」
「無い」
ハッキリと言い切ったゼロに目を見開くが、エックス自身分かっていた事でもあるので反論しない。
いや、ハッキリ言って自分やゼロ、ルイン、アクセルのS級ハンターが揃ってようやく戦えるかもしれないと思わせる程の力がイプシロンにはあった。
「今の俺達ではイプシロンには勝てん。ルインと合流し、イプシロンと戦える力を手に入れるまでは奴との戦いは避けるべきだ」
「うん…」
今の自分達で勝てるような相手ではない。
イプシロンを倒すには今は力を蓄える時だ。
考えているうちに扉の前に辿り着き、扉を潜って更に奥へと突き進む。
しばらく進むと暗い通路の突き当たりで見つけた扉の向こうに誰かの気配を感じ、エックスとゼロはそれぞれ警戒しながら中に入る。
そこに居たのは1人のレプリロイドだった。
下半身が失く、代わりにメカニロイドのホバーユニットを装備しており、青年は落ち着いた表情でエックスとゼロを見据え、ゆっくりと口を開いた。
「あなた方は、イレギュラーハンターのエックスとゼロですね。私はエール、レジスタンスの一員です」
敵意も戦意も無い声に、警戒を解くと武装解除した。
「話を聞かせてくれるかな?」
自分達に必要な情報をエールは持っているかもしれないと思い、エックスはエールに次の言葉を促す。
「はい。ここまで来られたらもう御存知かもしれませんが、我々レジスタンスの中心人物、アル長官はリベリオンに捕らえられています」
「それで、君はアル長官を助けに?」
「…はい。そう思って総督府へ…行こうとしたのですが………私1人の力では……とても……」
よく見ると、エールの体には無数の傷があり、不自由な体であるにも関わらずに何度も1人でアル長官を救い出そうとリベリオン兵と戦い続けていたのだろう。
エックスとゼロは目の前の青年に感銘を受け、2人の心は決まった。
「俺達もリベリオンを倒すために動いている。まずはレジスタンスのリーダーであるアル長官とやらを助け出して、話を聞いてみるのが良さそうだな…」
「ああ、アル長官を救い出して、総督府を取り戻そう」
ゼロとエックスの言葉にエールは顔を上げた。
「ありがとうゼロ、エックス…!力を貸してくれるというのですね」
次の瞬間、エックスとゼロはエールの行動に目を見開いた。
エールが、自らの胸に取りつけられている青い球体を、無理矢理外したのだ。
「何を…」
「こ、このIDを…」
エールは痛みに顔を歪めながら青白く光る球体をエックスに差し出す。
「これがあれば、総督府への出入りが…可能になります」
彼の言動に躊躇いを覚えながらエックスは近付き、そっと手を伸ばした直後に背後に感じた気配。
振り返れば、エックスとゼロが通ってきた扉が開き、そこにはリベリオンのマークが刻まれたプレオン・チェイサーが数体が現れた。
エックスとゼロが武器を構えようとした瞬間、エールが2人の腕を掴んで背後の扉に向かって投げ飛ばすと、扉の向こうに入ったのを確認し、ロックをかけた。
「エール!何をしている!?早く開けろ!」
ゼロが慌てて扉を叩き、エールにロックを解除するように言うが、エールの叫びが扉の向こうから響いてきた。
「時間がありません…ここは私に任せて、先に!」
「エール!1人でどうする気だ!?」
エールの言葉に嫌な予感を覚えたエックス。
「どうか…どうかアル長官を…お願いします!…ここから先は通さん!!」
「「エール!!」」
エールのエネルギー反応が増大していき、何をする気なのかを悟ったエックスとゼロが同時に叫んだ直後、凄まじい衝撃が扉越しに響いてきた。
「…………」
「エール…」
しばらく立ち尽くしていた2人だったが、表情を引き締めたゼロが先に進もうとする。
「行くぞ、エックス。エールの犠牲を無駄にしないためにもな」
「ああ、必ずアル長官を救い出そう」
自分達を助けてくれたエールの魂に応えるためにエックスとゼロは先に進んだのだった。
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