幻の月は空に輝く
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学び舎の章――アカデミー入学・1
既に入学しているナルトやネジに遅れる事数年。ついにアカデミー入学の時がやってきた。
母さんは乗り気だけど、如何せん父さんが乗り気じゃないというか。アカデミーなんて通わなくていいじゃないかとかね。一応忍の勉強もしたいって言って訴えていたんだけど、最終的に母さんのスリッパで沈められていたのは記憶に新しすぎる。
格好としては今までのものの改良版。口元まで隠れる大きめの丸首の襟といっていいのかな。当然それだと首筋や鎖骨が見えるから、その下にはもこっとした体型が判りにくい黒のタートルネック。
上着は膝下までの長さで、腰に位置をずらした濃い藍のベルトを二つ程巻いて、そこにポーチや小刀をつけられるようにしてある。下は勿論長いパンツ。ちょっと余裕があってこれも体型のわかり難いもの。靴もデザイン的にはブーツっぽいけど、色はベルトに合わせて濃い藍色。
そしてお父さんが絶対に譲らなかったのがバンダナ。しかも左耳の上辺りから布を垂らして顔を隠すようなデザインのバンダナを特注したというかね。ゴム入りのじゃなくて、長い布になっていてその都度縛るという感じ。ちなみにバンダナも藍色。
それ以外は全て真っ白という目に優しくないというか、逆に目立つんじゃないかなぁっていう格好。上着のボタンも多いし。袖の部分もふんだんにボタンを使ったデザインで袖口が広がっているから、着るのも慣れるまでは面倒そう。
どうしてそこまで性別を隠したいのかと思っていたら、ランは嫁にやらんとか叫んでたからただの親ばかだと思う。
っつーか、よくくのいちクラスに入らなくて良かったよね。サクラたちと同じくのいちのクラスに入って性別ばれんのかなぁ、って思ってたんだけど。
普段は同じだけど、男女で分けての特別授業ってまぁ、このぐらいの年齢にはある事なのかなぁ。数十年前の事だからもう覚えてないんだけどね。
いつものようにテンが左肩にとまり、空いた方の右肩に鞄をかけてくるりと後ろを向く。未だに納得がいっていない父さんと、にこやかな母さん。
家のパワーバランスは母さんに偏りまくってるよねぇ。まぁ、困らないからいいんだけどさ。
「行ってくるね」
「ランッ。やっぱり俺も付いて…」
「かなくていい。両親に付き添われて行くのは普通の学校」
父さんの言葉を遮って切り捨てる。
殺伐とした世界に身を投じるのに、両親に付き添われて入学式なんていうものは何ていうかお断りしたいっていうかね。
泣き崩れる父さんの横で母さんはいつも通りに笑みを浮かべて。
「ラン。気にせずに行ってらっしゃい。ランなら一人で十分でしょうけど、駄目そうなら迷わず蹴散らして帰ってきなさいね。文句を言う人がいたなら、知名度だけはあるお父さんの名前を使うから大丈夫よ」
「……うん? いってくるね」
何が大丈夫なのかまったく分からないけど。
首を傾げつつも、ガラガラと音をたてて扉を開けてみたら…。
「…カカシさん」
顔だけは無駄にいいカカシ登場。久しぶりに見た気がするけど、上忍で暗部なのに何でこんな朝っぱらからいるんだろう。
「久しぶり。元気してた?」
「…カカシさんも元気そうで良かったです。父は中に居ます」
「違う違う。今日はカシュウさんじゃなくて、ランに用事があるんだよ。というわけで」
「――ッ」
突然担ぎ上げられ、視界が一気に高くなる。別に高い場所なんて今更だけど、米俵のように肩に担ぎ上げられる視界っていうのは久しぶりで、吃驚して身体が硬直したような気がした。というか、した。
見事にぴっきーんと固まった私を他所に、珍しく何も言わない父さん。
「カカシ君頼んだよ!! ランに何かあったら君の武器は今後無しだと思え!!!」
「はっはっはっ。相変わらず脅しが上手いですよねカシュウさん」
「………」
目がまったく笑ってない父さんとカカシ。というか、カカシまで駆り出したのか父さん。どんだけ親馬鹿なんだこの人は。
けれど私が呆れた眼差しを向けるより先に、カカシが私を抱えたまま一気に駆け出す。
自分じゃまだ出せないスピード。目まぐるしく変わる景色がとっても目に優しくない気がするんだけど、カカシはそんな私には気づかない。
「か…」
「喋らない方がいーよ。舌噛むから」
「……」
確信犯かコイツは。
話す機会を与えたら絶対に一人で行くって思われてるんだろうね。カカシは私に話す隙も与えず、瞬身で場所を移動していく。
「……」
上忍に付き添われていくアカデミーってどうなんだろう。
これだと本末転倒じゃないかな。と、私は肩に担がれてる事を利用して、そのまま前転をするようにカカシの肩から転げ落ちる。
まさか私がそんな事をするとも思っていなかったのか、珍しく本当に吃驚した表情を浮かべて助けようと腕を伸ばそうとしたんだけど、それよりも先に私は絃を伸ばして枝にぶら下がった。
「ランッ。怪我は? 足は? 身体は大丈夫か??」
「カカシさん。俺の身体はもう大丈夫ですよ」
どうやら、昔のイメージが抜けないらしく、本当に心配してくるカカシに私は改めて大丈夫という事を伝えてみる。
けれど不安を隠せないカカシに、私はそっと右手を差し出してみた。
「…カカシさん、手」
うん。かーなーり、恥ずかしいんだけどね。中身はいい年した大人ですから。寧ろカカシよりも年上だから。
「……?」
意味がわからなくて眼を瞬くんだけど、私は自分の手よりも遥かに大きいカカシの手を取ると。
「折角だから歩いていこう」
素っ気無く言い切ってみる。ちょっと早口だったかもしれないけど仕方ない。照れくさいし、恥ずかしいからね。
「……うん」
そんな私の言葉に、素直にコクン、と頷くカカシ。素直なカカシは未だに慣れないけど、ミルクとかをあげて病弱に見えた私の子育てに参加してたカカシは、私に対してはこんな風になる事が多い。
親馬鹿二号…。まぁ…嬉しいんだけどね。
カシュウさんに殺されそうだなぁ、なんて呟いているんだけどさ。それって結構洒落にならなんじゃないかなぁ。
パッと見は仲の良い親子。手を繋いで歩いちゃってるしね。
そして父さんの策略にはまって性別は勘違いしてるけど、父さんにとってみたら娘に寄り付く害虫だからね。
こうなったのって父さんが自慢しまくって、一緒に子育てした結果だと思うんだけど。
ちなみに父さんは職業柄顔が広い。カカシとか、イタチとか、その他の上忍中忍たちからもね。その人たち全員に親馬鹿を発揮しつつ、その人たちが来る度に私を抱っこさせたり面倒を見させたりしてたから、結果私の顔も広くなっていったという…。
ひょっとして、家の外に行動範囲を広げるって事は、昔のイメージが抜けない親馬鹿二号なカカシみたいなパターンが増えるのかなぁ。
まぁ…大丈夫だよね。割と皆常識的だったと思うし。
「うんうん。健康的な手になったよねー」
本当に嬉しそうに言うカカシ。
「…寝たきりじゃないから」
最近じゃ食べる量も増えてきたしね。
「カシュウさんと手合わせしてる所を見ると、ランはもう特別上忍でいいんじゃないかなーって思うけど、ランは下忍からやるんだよね??」
突然のカカシの言葉に、少しだけど頬が引き攣った。
というか、一体何を言い出すんだか。
まだ下忍にもなってないんだけど…。
「俺にそんな実力はないし、これからアカデミーに通い出す所」
「うーん。勿体無いと思うんだけどなぁ」
本気で首を傾げるカカシに、私は迷わずに頷く。
だってさ。ナルトやテンからはもっと強くならないとナルトと修行出来ないって言われたし。アカデミーに毛が生えた程度の実力で特別上忍とかはホント有り得ない。それにまだ怖いしね。色々と。
カカシと手を繋いで歩いてたんだけど思いの外近かったらしく、あっという間にアカデミーが見えてきた。カカシが容赦なく走ったからだろうね。自宅は里の外れのはずなのに。
流石に同じぐらいの子供たちの姿がちらほらと見え出した所で、カカシから手を離して一人でさっさと歩き出してみるんだけど、空気をまったく読む気のないカカシが私の後ろをぴったりと付いてくる。
「……カカシさん」
「諦めた方がいーぞ」
あの胡散臭い笑みで言い切るカカシ。うん。これは本当に引く気のない表情だ。
「………」
誰か知り合いいないかな。
知り合いがいたら、一緒に行くからとか言ってカカシを振り切る理由になるんだけど。キョロキョロと辺りを見回すんだけど、居るのは知らない顔ばかり。
無理かなぁ、と肩を落としかけた所で、ランセイって私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の方に視線を向けてみれば、見覚えのある姿。
「サスケ」
あれから何度か手合わせとかをしている効果があったのか、最近では漸くまともに名前を呼んでくれるようになったサスケ。
名前を呼ぶ前は、おい、とか。お前、とか。どっかの熟年夫婦かと突っ込みたくなるような呼び方しかされなかったからね。
のんびりに見せかけて、何となく急ぎ足で近づいてくるサスケを待つ為に足を止めてみる。それに倣う様にカカシも足を止めて、じっくりとサスケを観察する視線を向けてた。
ちょっと露骨な視線に、ただでさえ眉間に寄っている皺を更に濃くするサスケは、隠す事無くカカシを睨み付けながら不機嫌そうに言葉を吐き出す。
「そいつ、誰だよ?」
「このひ…」
「俺の名前はなーいしょだよ。それよりうちはサスケかぁ。ランの友達としてはちょっと実力不足かなぁ」
私の言葉を遮って、カカシが突然サスケに喧嘩を売り始める。
「何だとっ」
ソレを迷わず買うサスケ。
「ラーン。アカデミーが退屈だったら俺に言えばいーよ」
「ランセイは俺と一緒にアカデミーに通うに決まってるだろ。おっさんは引っ込んでろよ」
「おっさ……ランセイねぇ。仲の良い奴はランって呼ぶんだけどねー」
「おっさんには関係ないだろ」
「若けりゃいいって問題でもないんじゃない?」
「年とってりゃいいって問題でもないよな?」
あー……収集不可能な状態に突入したような気がしないでもないんだけど。
けれど嫌な感じに周りの視線を集めだしてて、こんな形で目立つのはまったく本意じゃない私としては、他人の振りをして立ち去りたかったりもするんだけど、そういう時に限って二人揃って同時に名前を呼びそうな予感もしてね。
隠す事無く、気が重いと言わんばかりのため息をこれ見よがしに吐き出した後。
「カカシさん。サスケ。他人の振りをされて俺に無視されるのと喧嘩を止めるのどっちがいい?」
少し不機嫌そうに、眼を細めながら言い切ってみる。
有言実行を貫いてきた甲斐があったのか、カカシとサスケが同時に顔を引きつらせながら私の方を見る。
「カカシさん。サスケは俺と同じ子供です。サスケ。カカシさんは俺では足元にも及ばない実力者だ」
カカシには、サスケは子供なんだから剥きになるなと。これだけだとサスケが怒るから、私と同じって事を強調しておく。
サスケには、カカシは私よりも遥かに実力者だという事を伝えておく。これでサスケよりもって言ったら喧嘩になる所が難しいよね。流石男の子っていう感じもするけれど。
「カカシさん……付き添いありがとう。嬉しかったです。サスケ、一緒に行こう」
とりあえずこの二人を一緒に居させるのはまずいと判断して、さっさとお礼を言って引き離す事にした。将来的にはサスケはカカシの教え子になるわけだし。
今から仲が悪くなっても困るしね。
そんなわけでさっさとカカシを放置して、サスケと一緒に歩き出す。やっぱ人が多くなってきたから、足を止めておくだけで目立ちそうだし。
まぁ…サスケと一緒にいると、カカシとは別の意味で目立つという事をすっかりと忘れていたんだけどね。
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