幻の月は空に輝く
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新たな決意は修行を頑張ろう
「オツカレサマ」
と、闇夜に響くのはいつもよりも声のトーンを落としたナルトの声。将来的にはナルトの親友を自負する予定の私が聞いた印象としては、不機嫌さを隠しもしていない音程。
先日の、日向本家でのテンを思い出すようなナルトの冷ややかな眼差し。何か怒らせる事をしただろうかと頭を悩ませてみるが、ナルトの逆鱗に触れそうな事をやった覚えはまったくなかった。
ので、聞いてみようかなと真正面から見つめてみれば、いつもよりも威圧的なナルトの態度。
「どうした?」
震えそうになる声を抑えて聞いてみたけど、ナルトはそのままふいっと視線を逸らして何故かテンと遊びだしてしまう。
「テン? ナルト??」
私の肩からナルトの肩へと移動したテンも珍しいけど、こんなナルトも珍しい。大体、本来のナルトは挑発的な笑み。しかも自信満々なアルカイックスマイルというヤツを浮かべているんだけどね。今日のはそれに眉間の皺というオプションが追加されてたりする。
しかし、答えそうにないなぁ。
なんかテンと同盟を組んでるような雰囲気だし。
とりあえずだけど、怖い二人組みを視界から外すようにして、私は一息ついたように適当な岩の上へと腰を下ろした。
何にせよ、テンとナルトが仲良くなるのは微笑ましい。テンの話し相手は私か家族ぐらいしかいないし、ナルトの本当の意味での話し相手は私ぐらいだ。本当は、最近デレが増えてきたネジとナルトが仲良くなると安心したりするんだけど、止めておこうと思っていた原作破壊をした後だとそれはどうなんだろうと不安が過ぎる。
ネジは、ナルトと戦って真実を受け入れた。
でもなぁ、ナルトの性格がなぁ……。
チラリ、と横目で確認して見れば、不自然に逸らされるナルトとテンからの視線。
「ナルト。テン」
「……」
《……》
二人揃って口を噤むなと突っ込みたいが、気が合うようで何よりと思っておこう。
しかし、この沈黙は気まずいから先に今日の目的を果たしてしまおうと、私は背負っていたリュックから風呂敷に包まれたお弁当を取り出した。
「不機嫌そうな顔をしてるぐらいならこれを食べておけ」
それをナルトとテンに押し付けるように渡す。お腹が空いてると機嫌も悪くなるし、苛々もしてくるだろうし。
多少は肉付きが良くなったような気がしないでもないナルトだけど、まだまだまだまだまったく全然といっていい程足りない。
鍛えているといっても五歳児の腕。ふに、と柔らかな感触を維持するのは子供の務めだろう。それなのにナルトは骨の感触に眉を顰めたくなるぐらいだ。
さも当然とばかりに押し付けられたお弁当を、ナルトはまたか、と呟きながらも受け取ってくれた。
今日のお弁当は、お子様ランチ木ノ葉の里バージョンだったりする。結構な力作で、旗は日の丸じゃなくて木ノ葉とうずまきのマークだったりする。
慣れた手つきで風呂敷を解き、テンと二人で取り皿と箸の用意をしながら、私から手渡された手ぬぐいで手の汚れをしっかりと拭き取る。この辺りは私が口うるさく言っていた成果なのか、何も言わなくても拭くようになった。
「無駄に手の込んだ弁当だな」
冷めた眼差しのおまけ付き。
とは言っても、ナルトだと然程珍しくもない対応。
「ナルトに食べさせるからな」
私だけが食べるんだったら、こんなに手間なんかかけないよ。
そう思って言ってみれば、ナルトは唖然としたように口をポカンと開いた後、何でか風呂敷を広げるようにして私に投げつけた。
チャクラを練りこんでないから、空気の壁に阻まれてふわりと私の顔を覆い隠すように頭上から降ってくる。これにチャクラを練りこまれようものなら、顔面直撃だっただろうなぁ……。
まぁ、やらないだけナルトとの距離は縮まったんだと思っておこう。
色鮮やかな風呂敷を右手で払いのけるように持ち上げ、視界を確保する。んだけど、何故か見えるのはナルトとテンの後姿。
何だ。
今日はツンの日か?
ナルトの場合はデレが判りにくいというか殆ど無いけど、今日のツンは言葉じゃなくて顔すら見せないツンか??
ひょっとして、はぐはぐと食べてる姿を時々微笑ましげに見てたんだけど、それに気づかれたかなぁ…。
それなら、今日の態度は納得なんだけどね。
まぁ…食べてくれてるなら良しとしておこう。そんなわけで、私もお弁当を取り出して食べ始める。一応私もちょっとしたお子様ランチっぽくはなってるんだけどね。ナルトやテンのお弁当ほど気合は入ってない。
寧ろ、自分が食べるお弁当に旗はたてたくはないんだけど、旗を立てておかないとナルトからの突込みが入りそうだからという理由で、狐マークの旗を控えめに立てたりしてたりとかね。
味付けは大丈夫。
最近は慣れてきたからなのか、お母さんの手を借りなくても大体作れるようになってきた。お父さんのお弁当も作ってるのが功を奏したのか、私専用の小さなフライパンや鍋やおたまやフライ返しや色々作ってくれたのも大きいのかもしれない。
大人用のフライパンだと、この小さな体じゃ結構辛いしね。
ぱくぱくと然程大きくも無いお弁当を食べ終わり、用意してあったデザートをナルトとテンに手渡す。今日はトマトのデザート。
ちょっと興味があって作り出したんだけどね。好き嫌いがはっきり分かれるんだよね。なのでいつもは手渡したら自分のを食べだしちゃうんだけど、今日は嫌いだったら困るから一口味見で食べてもらう。
「何これ?」
「トマトのデザート」
「トマトってデザートになんの?」
「なる場合もある。無理そうか?」
「……無理っつーか…無理そうっつーか……トマトはサラダの方が好きっつーか」
「じゃ、こっち。俺はそれ平気だから」
もう一つはイチゴのデザート。始めからイチゴを三つ作れと言われそうだけど、ちょっと興味があったから仕方ない。
今度は野菜のケーキシリーズをやってみるかなぁ。ゼリーだと生野菜が直にのってるし。それでダメな人もいるしね。
「……野菜をデザートにする意味は?」
私がまた作る気なのを見抜いたのか、ナルトがぼそりと呟く。
「低カロリーで身体に優しい味だからだろ」
トマトの酸味と、生クリームの組み合わせが好きって女性もいるだろうし。私の言葉に、ナルトは低カロリーねぇ、とか。味覚的に凶器だったけどなぁ。とか呟いてるけどね。
あー……合わなかったのか。
それでも一口食べて吐き出さないのは、やっぱり私に慣れてくれたんだという事にしておこう。
「所で、今日は二人揃って不自然だが、何かあったか?」
会話の流れで不自然にならないように。
答えてくれそうなタイミングを見計らって突撃してみたんだけどね。
「ぶっっ」
瞬間、ナルトが噴出しましたとも。
お茶を飲んでいたというタイミングが悪かったのかどうなのかわからないけど、そんなに見事に噴出さなくても。
「別に。相変わらずランセイはオカシイっていう話しをしてただけだ」
私から渡されたタオルで顔を拭きながら、ナルトがそっぽを向きながら素っ気無く答える。そんな噴出すような内容かなぁ。
「ごちそうさまっ。テンカ。修行に付き合えよ」
《わかった。今日は我が鍛えてやろう》
「修行なら俺が…」
付き合うよ?
と、いつものように言おうとしたんだけどね。
「……もう少し強くなってからだろ。今の状態じゃ俺の修行になんねーし」
《ランはチャクラの扱いをもう少し学んだ後の方がが良かろう》
同時に二人から言われて、見事にへこんだ私がいたりとかねっ。
そりゃナルトには及ばないしテンには守ってもらってばっかだけどさ。
「…………」
じぃ、と恨めしげに見る私なんて既に眼中に入っていないのか、食べ終わったお弁当やデザートを風呂敷で包んで私に押し付けるように私に渡すと、二人揃ってさっさと走り出してあっという間に姿も気配も消えてしまう。
「……へこむなぁ…」
弱いのは事実だしなぁ。
事実だけど、ついつい頭を垂れ下げてへこむ事数秒。けれど次の瞬間にはがばっと顔をあげて、パパッと手際よく片付けを済ます。
「よし。修行しよう!」
そして、ナルトとテンと一緒に修行という名のコミュニケーションをとるんだ!!
風呂敷を背負いながら決意を新たにするという何処か間抜けな姿で握り拳を作りながら、私も地面を勢い良く蹴って駆け出した。
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