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もう一つの"木ノ葉崩し"

作者:ぬんすち
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第十三話―雲間

ゾクッ……!

「……!うっ……!」

突然,ミトは寒気に襲われて立ち止まった。動悸が起こり,思わず胸を抑える。近くの壁に手をつき,ふらつく体を何とか支えた。そんな状態であるにもかかわらず,ミトは振り返って他人の心配などをしていた。

「このチャクラは……。扉間さん……猿飛さん,志村さん……。」

サスケ,サイゾウと交代して戦場を離れたミトはあてもなく歩き,気づけば木ノ葉病院へ向かっていた。夫・柱間が今なお眠っている場所である。

「今のは……」

悪寒の正体には,容易に察しがついた。それは,並の人間では到底太刀打ちすることのできない,あまりにも強大な"力"である。そして,それと同じ"力"を有する者として,ある意味ミト自身こそ対抗し得る数少ない存在の一人であった。

(戻った方がいいかしら……。)

身を危険にさらすことに躊躇いはない。迷いが生じるのは,ただ足手まといになるのではないかという心配だけだ。いかに人外の"力"を宿していても,自分は決して強くはないとミトは自覚していた。同時に,先ほどのサスケの言葉が頭をよぎる。

「とうとう解放したな。」

胸の内から,禍々しい声がした。

「九尾……,やはりあなたのチャクラね。……このチャクラ性質の禍々しさ,意図的に解放したんじゃないわ。明らかに制御できていない……。」

「千手の弟に,猿飛,志村……アイツら死ぬぜ。助けに行かねえのか?」

九尾は唆すかのようにミトに語りかける。

「戦場に戻るという選択肢は否定しないわ。けれど,あなたの目的は暴走したチャクラに呼応して自らの封印を解くことでしょう。そのために,私を彼らのもとに近づけようとしているだけよ。」

「そうだとしたら何だ?アイツらを見殺しにするのか?」

「……。」

ミトはつい,返す言葉を失う。その時,

ズゥン……

「うっ……!」

またしても,背筋に悪寒が走った。重苦しいチャクラの気配がますます強くなり,まるでミトの周囲を厚く包み込んでいるように感じられた。ミトの体調が不安定になる反面,中に封印されている九尾は少しばかり力を増す。今にも封印を破ってしまいそうだ。

「チャクラの解放がどんどん進んでやがる。アイツらを助けたいだろう?力を貸してやる,そこの札をはがせ。急がねえと手遅れになるぞ。」

精神世界の中で,九尾は閉じ込められている檻の隙間から鋭い爪を突き出し,ミトに催促する。

しかし……,

「九尾,あなた……,」

ザッ!

ふらつきかけた足を力強く踏みしめ,ミトは体を支え直す。

「分かってないわね。」

「……!?」

「私があなたのチャクラに負けないように,扉間さんたちも決して負けたりはしない!」

ミトは精神世界で印を結ぶ。

「私は彼らを信じてる。今の私の役目は,胸の内であなたの暴走を抑え里を守ること!」

ガララララララッ!

弱まりかけていた封印を,自ら組み直すミト。九尾を封じていた檻に,更に重厚な鎖が掛けられる。

「……!!おのれ……っ!」

「しばらくじっとしていなさい……事が済んだら,また少しは動きやすい状態に戻してあげるわ。」

九尾を抑え込んだあと,ミトは小さい声で続けた。

「……ごめんなさいね,今の私にはこういう答えしか出せない。けれどいつか,きっともっと良い答えを見つけてくれる人が現れるわ。あなたを救ってくれる人が……。」



するとその時,突然あどけない声が聞こえた。



「おばーさま?」


~~~~~


「くたばれ!」

「くっ……!」

もはや抵抗する力がほとんど残っていないサスケとサイゾウに,角都は猛攻を続けている。

ボン!ガッ!

「……!」

その攻撃を,かろうじて受け止めたのは棍棒から元の姿に戻った猿魔である。

「猿魔!」

「時間を稼ぐ!少しでもチャクラを練り直せ!」

猿魔は必死に主人に向かって叫ぶ。

「邪魔をするな!」

ドカッ!

「ぐあっ……!」

猿魔は角都から強烈な蹴りを受けるが飛ばされずに踏みとどまり,なおも角都を食い止め続ける。

「サイゾウ!」

「ああ……!もう一度だ……もう一発,さっきの技を当てさえすれば必ず勝てる……!」

極限まで疲弊しながらも,サスケとサイゾウは最後の希望をもってもう一度印を結び始めた。


~~~~~


(やはりまともにやってもダメだな……いくら飛雷神でスキをついても,あのチャクラの衣を破れるだけの威力がなければ意味がない……。)

扉間もまた,どれだけ攻撃しようともダメージを入れられる気配のない敵に,苦戦を強いられていた。

(銀角が倒されたことで,内に秘めていた九尾チャクラが暴走したのだ。やはりまずは,ヤツを正気に戻すことが先決だな。)

ビュン!シュン!

攻略法を考えつつ,繰り出された攻撃を飛雷神でかわす扉間。

(何より,このまま戦い続ければ里への被害がどんどん大きくなっていく。……銀角は……,)

暴走してなお,ほんのわずかに残る理性がそうさせるか,金角は気を失った銀角を片腕に抱えたままでいた。扉間はその銀角の様子をうかがう。

(……まだ辛うじて息があるようだな。ここは銀角だけ回収して一旦この場を離れ,とどめを刺してから穢土転生……金角の元へ送り返し,正気が戻ったところを穢土転生体に仕込んである互乗起爆札でもう一度……。)

扉間は,金角に接近するスキを作るべく,飛雷神の術式が刻まれたクナイを手にした。


~~~~~


「ツナ!?あなた,どうして……一人であちこち動き回ってはいけないと,いつも言ってるでしょう。」

「おじーさまが,このはびょういんにいるって。」

綱手は,無垢な顔で祖母を見上げている。

「誰がそれを……」

言いかけたミトであったが,すぐに詮索を諦める。この無邪気な表情を前にして,隠し事ができる人間がどれほどいるというのか。

「お祖父様に会いに来たのね……でも,今は少しゆっくり寝ているところなの。会うのはまた目が覚めてからにしましょう。」

「あいたい。」

その言葉に,ミトもまた小さくため息をついた。

「仕方ないわね……良いわ,すぐそこだから着いて来て。その代わり,静かにしてるのよ。お祖父様を起こしちゃだめ。」

ミトが歩き出すと,綱手はぴったりとその後ろに着く。

「あなた,こっちの方向から来たんでしょ?途中で通り過ぎてるわ。」

「じがよめなかった。」

やがて"木ノ葉病院"と大きく書かれた看板が見えてきた。中に入り,柱間の病室を目指す。

「ミト様!綱手様!」

途中で幾人かの医療忍者が,この火影の二人の親族の来訪に気付く。

「柱間の容態はどうです?」

「相変わらずです……。どうぞ,お入りください。今はもう必要最小限の処置のみ行い,あとは安静にしてただ回復を待つだけですので……。」

ベッドに柱間が横たわっていた。術式の書かれた包帯や,体に繋がれたチューブは最初の頃に比べると随分と少なくなっているようだ。

「おじーさま。」

祖父の姿を見た綱手は,ミトの言いつけを守るように小さくそう発してからしばらく沈黙した。やがて,柱間の片手が布団から少し出ているのを見つけ,綱手は静かにその手を握る。

「おじーさま……。」

すると……

ポゥ……

握った綱手の手から,柔らかい光が発せられた。ミトはそれを見て驚く。

「ツナ……?あなた……」

周囲に居た医療忍者たちも,あまりの驚きに言葉を発することが出来ずにいた。

(……!?これは……医療忍術……?まさか,無意識に……)

(いや,これは……医療忍術とは少し違うような……)

――どこかの国には,生命そのものを吹き込む医術が存在する……

「……!ツナっ,やめなさいっ!」

突然,ミトはハッと思い当たって,慌てて綱手の手を柱間から引きはがした。

「……?おばーさま?」

自分がやっていることに全く自覚のない綱手は,不思議そうな表情でミトを見上げる。

「ダメよ,それ以上やったら……あなたの命が危ないわ……。」

ミトは綱手の手を包むように握って言う。



その時である。



ピクッ……



柱間の指が,かすかに,動いた。 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます!

とどめを刺してから穢土転生体で金角の正気を戻させるくだりは,我ながら卑劣様の思考回路にほんの少し歩み寄れたのではないかなと満足しています。 
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