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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga22-E最終侵攻~Battle of the central 1~

†††Sideすずか†††

ミッド中央区ダームシァンの研究所の防衛を任された私たちとシスターズ。周囲2㎞圏内は無人になるように規制されていて、研究施設内には武装隊、屋上には監視班や結界魔導師隊が待機しているだけに留まってる。

「みんな。襲撃予定時間まであと少しだから、今のうちに魔力を付加しておくね」

“スノーホワイト”をフルドライブのブリザードクロウで起動させる。右腕には熊手のような巨大な冷気を帯びた4本爪が付いた籠手を。左腕には神秘カートリッジを使用するために新しく改造し直した、上面に六角形の盾、下面に6連シリンダーを組み込んだ籠手を装着。ブリザードクロウは私の魔法効果を増大させてくれる形態だから、これから行う魔法も強化してくれる。

「スノーホワイト。神秘カートリッジ、ロード」

≪ロードしますわ≫

セレスちゃんの氷結属性の神秘魔力を2発とロードして、「トーレ、クアットロ、チンク、セッテ、ディエチ、ウェンディ。私の前に並んで」って、固有武装を持ってる6人に言う。それぞれ返事をして私の前に並んだ6人に両手をかざした。

「アディション」

神秘カートリッジをロードしたことで一時的に魔術師化している私は、神秘を有した私の魔力をトーレ達の武装に付加する。シスターズは魔導師じゃないから、魔力じゃなくて別種のエネルギーを運用する。そのエネルギーに私の魔力をコーティングすることで、私たちのような疑似魔術師になれる。さらに、みんなが着用してる戦闘服にも同じように神秘魔力を付加しておく。

「あとは、クアットロのフォートレスもだね」

「お願いしますぅ~」

クアットロはかく乱要員だけど、自分の身を護られるように“フォートレス”を装備させてある。盾にもなるし砲台にもなるから、最悪クアットロが視認されて攻撃されることになってもすぐ撃墜にはならないはずだ。クアットロの“フォートレス”にも神秘魔力を付加して、さぁ準備万端だ。

「ウェンディ、ごめんね。ティアナの補佐官なのにこっちに回ってもらって」

「あー、全然問題ないっスよ♪ ティアナんところにはアリサとミヤビ(ミャー)、それにスバルが居るっスから。確かにあたしはティアナの補佐官だしナカジマ家でもあるっスけど、シスターズの一員でもあるっスからね。シスターズが集まってバトルって言うんスから、あたしもこっちでやり合いたいっス。それにティアナからも、アンタはこっちで戦って姉妹の手助けになりなさい、って言われたっス」

4年くらい前までは局の仕事に就くことなく、いろんなお店などでアルバイトをして過ごしていたウェンディ。だけどティアナのスカウトで局入りを果たして、勉強を頑張ってそのまま執務管補佐にまで上り詰めた、すごい努力家さんだ。

『月村技術主任。当施設の正門に接近している正体不明、2名を確認しました。臨戦体制に移行してください』

「了解しました。結界の展開のタイミングはお任せします。・・・みんな、聞いた? トーレとセッテは前衛。チンク、ウェンディは中衛。私とクアットロとディエチは後衛でみんなをサポート」

「「「了解」」」「了解っス!」「了解ですぅ~」

みんなに指示を出したところで、私も“フォートレス”を起動させた。“フォートレス”は魔力を別エネルギーに変換して動かす機構だけど、今回の事件に合わせて私やはやてちゃんの使う“フォートレス”を完全魔力運用機へと改造した。シスターズの武装への神秘付加なんてちょっと面倒なことをしなくても、ダイレクトに神秘魔力を扱えるようになってる。

「クアットロは屋上で姿を隠してみんなのサポートを。私は姿を見せてる状態でサポートするから」

頷き返してくれたクアットロは、ISのシルバーカーテンの効果でステルス状態になった。クアットロ自身だけじゃなくて“フォートレス”も見えなくなったから、よっぽどの索敵能力持ちじゃないなら奇襲攻撃も可能だ。
さぁ準備万端。あとは接近している2人を捕まえるだけ。私たちの意識が正門に向いていたところで、私はフッと空に何かを感じた。直後、『直上! 3人目を確認!』って監視班からの報告が入った。

『私が出る! 残りは正門に注意しろ!』

『お願いトーレ! 援護が必要ならまた連絡を!』

『了解だ! ライドインパルス!』

ISを発動したトーレが目にも止まらない速さで空へと上がっていったのを最後まで見届けることなく、私も続いて空に上がったところで・・・

――サウザンドブレス――

「「「「うぐっ・・・!」」」」

とんでもない暴風が吹いて、普通の人より体重が重いチンク、ディエチ、セッテ、ウェンディが吹っ飛んだ。4人の身体能力なら研究所の外壁に叩き付けられるようなことにはならないだろうけど、念のために魔力の網、「キャプチャーネット!」を発動して、4人を受け止めさせる。

「すまない、すずか。助かった」

「ありがとうっスよ!」

「感謝」

「ありがとうございます」

――強装結界――

チンク達を受け止めてる魔力ネットを解除して、地面に降り立った4人と一緒に残る2人の敵と会敵した。それと同時に複数の魔導師が協力して効果をグッと上昇させた強装結界が展開された。メンバーの結界担当班の中には近代ベルカの騎士も居て、神秘カートリッジを扱える人も居るから結界は魔術と化している。

(あの服装と扇。信じたくないけど・・・)

2人ともフード付きのローブを羽織っているけど、胸の辺りの膨らみや立ち方などで女の子だっていうのは判るし、1人は無手だけど、もう1人の両手には見慣れた扇が。それに何よりローブの隙間から女子生徒の制服のようなものがチラチラと見える。

――ライドインパルス――

――ショックブレイカー――

さらに上空から大きな金属音、そして爆発がした。そんな空から地上に向かって落下していく人物の顔を、持ってる武器を見て、私は「やっぱり・・・」って確信した。遅れて降下してきたトーレに「今回の敵の正体は・・・」って声を掛ける。

「ああ。考えたくはないが、連中のスペア機体だろう。まだ残っていたとはな。今度こそ徹底的に潰すぞ」

地面にクレーターを作りながらも着地したあの子は、「やっぱり速いな~」って手にしている武器――ハンマーを肩に担いだ。チンク達も相手が誰なのかを察しているみたいで、チンクが「また、お前たちと戦わなければならないのか」って悲しげに零した。
プライソンの味方だったサイボーグ姉妹“スキュラ”の死は、シスターズにも辛いものだった。味方・敵と別れていたけど元はプライソンの手によって生み出されたサイボーグで、シスターズもスキュラも一纏めで姉妹のようなものだから。

「デルタ、ゼータ。それに・・・その身長から言ってアルファ・・・?」

私がそう言うと、「ま、バレちゃうよね!」ってハンマーを持つ子がローブを脱ぎ捨てた。オレンジ色をしたロングヘアはポニーテール、瞳は銀。間違いなくデルタだった。続けて扇を持つ子もローブを脱いで、ストレートの艶やかな黒髪と銀色の瞳をあらわにした。そして最後にローブを脱いだのは、ウェーブのかかった金色のロングヘアのアルファ。

「久しぶりね、月村すずか」

「どうして、あなたが、あなた達が・・・」

「スペアなのだろうお前たちは。プライソン戦役後に奴の研究施設はすべて潰したはずだが、まだ残っていたようだな」

「ベーダとガンマ、それにイプシロンの姿が見えないようだが? 別行動中か?」

“スキュラ”は6人姉妹で、目の前に居るのは3人だけ。残りの3人はどこに居るのかっていう話だけど、これはひょっとして・・・。私の視線が研究所に向いた瞬間、アルファが「メタルダイナスト!」って叫んだ。私たちと研究所を隔てるように鋼鉄の壁がせり上がった。アルファのスキルは鋼鉄を操るというもので、元の形を保たせたままだったり、再構成したりと汎用性が高い。

「(地下にも研究施設が広がってるから、その建材の鉄を壁状に変形させたんだ・・・!)トーレ、ウェンディ、クアットロ! 研究所の方をお願い!」

私たちの居る結界内と研究所内はすでに隔絶されていて、一度結界を抜けないといけない。少し手間だけど、アルファ達が足止役としてここに居るんだとしたら、研究所は危険にさらされることになる。所内の武装隊や騎士を信じてないわけじゃないけど、少しでも防衛戦力を増やした方がいい。

「了解だ。チンク、セッテ、ディエチ。すずかを任せたぞ」

「了解だ」「了解です」「了解!」

――ランブルデトネイター・マルチロックオン――

「私は盾なのよ、チンク」

――メタルダイナスト――

チンクは周囲に展開した投げナイフ24本をアルファ、デルタ、ゼータへ一斉射出。アルファがジャケットのポケットから取り出して、放り投げたいくつかの鉄片が巨大化すると、アルファとデルタとゼータを護る盾となって投げナイフを防御。

「ならば私は盾すらも断つ剣だ」

――スローターアームズ・セクステットダンス――

セッテが間髪入れずに“ブーメランブレード”を6本と展開して、次々とアルファ達の盾に投擲。”ブーメランブレード“はただでさえ切断力の高い武器で、しかも今は神秘が付加されている。どういうわけか“スキュラ”も神秘を扱ってるみたいだけど、“ブーメランブレード”の切断力とこちらの神秘の方が上回っているようで、盾が甲高い金属音を立てて切断された。

「ヘヴィバレル。バレットイメージ・スタンシェル!」

防御が崩れたアルファ達に向かって放たれたのは、ディエチの持つ大砲“イノーメスカノン”からのエネルギー砲。バレットイメージは砲撃の種類を変更するスキルで、〇〇シェルが変更された種類のエネルギーの名前になる。今回ディエチが放ったのは、スタン効果のエネルギー砲だ。ダメージを与えつつ対象の筋肉を麻痺させるというもの。相手はサイボーグでも人工筋肉を用いているから効果はあるはず。
着弾時に発生した放電が治まると、片膝を付いているアルファ達の姿が目に入った。その間にトーレ達は外の結界担当班と連絡を取り合って、結界の外へと出ていく。

「アルファ、デルタ、ゼータ。お前たちを逮捕する」

チンクが手錠を手にアルファ達に近付こうとした時、「なんちゃってー!」ってデルタがバッと立ち上がって、手にしているハンマー・“ケラウノス”を振り上げようとした。私はそれより早く「アイシクルアイヴィ!」を発動。氷と冷気の茨状バインドを遠隔発生させて、デルタの両腕を拘束した。

「あー! やったな!」

“ケラウノス”を振り上げることが出来なくなってデルタは悔し気にそう言うけど、すでに腕を拘束する茨にはヒビが入り始めてる。それより早くチンクは“ケラウノス”を片手で上から押さえ付けた。

「フローティングアイス!」

アルファとゼータも立ち上がったから、私は3人の頭上に氷塊を生成。巨大な氷塊を支える魔法陣を消失させて、氷塊を落下させる。“スキュラ”の鋼骨格はシスターズのものより強固だというのはデータから知っている。それはスペアでも変わらないのも戦役時に回収したスペアのスペックからも知っているから、氷塊の重量に押し潰されても破壊されることはない。

「サウザンドブレス!」

立ち上がることより迎撃を優先したゼータは中腰の体勢のまま、扇を頭上に向かって大きく振るった。起こした突風で氷塊を砕き、破片を遠くに吹き飛ばした。その間にチンクがアルファ達から距離を取ったから、私は“フォートレス”を構成する3つの盾の2番機、S2シールドの砲門を向ける。

(本来は中距離戦用プラズマ砲を搭載しているS2だけど、今は純粋な魔力砲、しかも神秘保有だから確実なダメージが入る・・・!)

「バレットイメージ・エクスプロードシェル!」

「「シューット!」」

私とディエチは同時に砲撃を発射。アルファ達が回避行動に入ると同時、チンクが指をパチンと鳴らした。それを合図としてデルタの持つ“ケラウノス”が爆発した。チンクのスキル、ランブルデトネイターは、一定時間触れた金属を爆発物に変化させるというものだ。あんまり大きな物は難しいけど“ケラウノス”くらいのサイズなら、全体を爆発物に変更するのも容易い。

「デルタのケラウノスがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「馬鹿! 立ち止まってないで回避しなさい!」

「間に合いません! デルタ姉様!」

「あ」

私たちの砲撃がデルタの至近に着弾。着弾時に発生した私の魔力爆発に続いて、ディエチの火炎爆破に呑まれたデルタ。ゼータが「サウザンドブレス!」って扇を振るって爆風を起こし、炎を吹き飛ばした。その僅かな間に私は“スノーホワイト”のカートリッジを2発とロードして神秘を補充。そして「バインドバレット!」を30発とアルファ達の周囲に展開。

「シュート!」

「うぐっ・・・! 月村・・・すずかぁぁぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁぁん!」

それぞれに10発ずつを着弾させて十重のロープバインドでアルファ達を拘束。直接ダメージは無い魔法だけど、着弾時の衝撃は魔術化していることもあって強いみたいで、拘束されながら呻いてるアルファとゼータが私を睨んできていた。

「デルタは戦闘不能のようだな。アルファとゼータの意識も刈り取っておくか?」

チンクは真っ裸で目を回してるデルタを見た後、もがくアルファとゼータを一瞥。ただのバインドだからスキル発動は止められない。ゼータのように扇を振るうっていう手間が無いアルファの鉄操作なら、今すぐにでもバインド破壊くらいしそう。

「ううん。待って、チンク。・・・アルファ、投降してくれないかな? あんまり傷つけたくないし」

「もう勝利宣言? 相変わらずムカつく女ね」

「うん。ごめんね。でもアルファ達とは戦いたくないんだ。あなた達のオリジナルの死が、私たちに少なからず心の傷を負わせたの」

アルファ達のオリジナルがもう亡くなっているのは、プライソン戦役後に回収された身体に脳が搭載されていたことで確定している。脳死判定は本局医務局が出したし、死亡は確かなものだ。だから今目の前に居るのは人格データを積まれたAI搭載のスペアということになる。でも、だからって破壊してもいいわけじゃない。

「・・・だから、ね? お願い!」

手を合わせてお願いしてみる。アルファは目を瞑って何か考える仕草をした後、「いやよ。もう少し遊んでもらうわ」って微笑みを浮かべた。

「退くんだ、すずか! ディエチ、撃て!」

――メタルダイナスト――

――ヘヴィバレル・バレットイメージ・ペネトレイトシェル――

チンクの言葉に従って一足飛びで後退しつつS1とS2を前面に置いて、エネルギーシールドを展開。そこに地面から勢いよく突き出てきた1本の鉄柱がシールドと激突した。シールド2機が空に打ち上げられる中で私はさらに後退して、S3シールドを前面に持ってきてエネルギーシールドを展開。直後に鉄柱に着弾したエネルギー砲弾の爆発から身を護る。

(うーん。やっぱり投降は受け入れてくれないか。凍結させても意識が残っていたらスキルを使われちゃうし・・・)

とりあえずゼータから墜とそう。空中のS1とS2を手元に呼び戻して、多少の損傷はあるけど使用には問題ないことを確認。

「セッテ、ディエチは、アルファの足止めをお願い。ディエチはイノーメスカノンから高速攻撃砲(リレントスカノン)に兵装変更で、チンクは私と一緒にゼータを墜とすよ」

「「「了解!」」」

気を失ったままのデルタを肩に担いだアルファと、扇を振るう動作に入ったゼータがバインドから逃れて散開。ディエチは指示通りに、長身の6連装砲身が三角形に並んだガトリング砲・“リレントスカノン”を装備。

「アディション!」

“スノーホワイト”のカートリッジをロードして、“リレントスカノン”に神秘魔力を付加。そしてすぐにディエチはゼータへ向けて何百発っていうエネルギー弾、「ロールバレル・バレットイメージ・インパルスバレット!」を発射開始。

「これは・・・! 受けては一気に墜とされてしまいますね・・・!」

――サウザンドブレス――

対するゼータは足元に突風を打ち付けて、砂煙を巻き起こして煙幕とした。だけどシスターズには熱源感知システムが標準装備されているから、砂煙での目くらましは通用しない。

「(たぶん・・・この辺り!)フローティングアイス!」

熱源感知なんて真似は出来ない私はゼータの行く手を予想して、その先に氷塊の壁を作り出した。行き止まり作戦は上手くいって、ゼータは氷塊を飛び越えるべく砂煙から飛び出してきた。そこにディエチのエネルギー弾幕が襲い掛かるけど、扇を真下に振るって起こした風によってゼータは急上昇。

「逃がさないよ!」

――アイシクルアイヴィ・ケージ――

氷の茨を球状に編んでゼータを閉じ込める檻とする。ハッとしたゼータだったけどもう手遅れで、茨に触れたところから体を凍結され始めた。扇でどうにかしようとしているけど、両腕が真っ先に凍っていてもう動かせない。・・・勝った。

「ランブルデトネイター・リピーティングレイン!」

チラリとチンクとセッテとアルファの戦闘に視線を移す。チンクはアルファから一定距離を保ちながら空に投げナイフを10本と展開して、アルファに向けて射出。そしてすぐに新しく10本と展開。リピーティングの名前の通り解除するまでは設定した本数を自動展開できる。ロックオンも事前設定だから、チンクは爆破のタイミングを考えるだけ。

――メタルダイナスト――

アルファは足元から鉄壁を次々に生やしてチンクの攻撃を防御。そこにセッテが「スローターアームズ・カルテットダンス」って、4つの“ブーメランブレード”を投擲して鉄壁を斬り飛ばして、さらに両手に持つ“ブーメランブレード”で直接アルファに攻撃を加えようとした。

「もう! 馬鹿デルタ! 重いし邪魔!」

――メタルダイナスト――

デルタを空に放り投げたアルファは、ジャケットの左右のポケットから鉄の剣を生やして、セッテの斬撃を僅かに防いだ。その間にアルファはさらに後退しつつ、ポケットから小さな鉄片をばら撒いた。セッテは追撃は危険だって判断したみたいで、後退じゃなくて空に上がった。その判断は正しかった。鉄片はウニのように放射状に針を生やした。

「ディエチ! 私たちも援護に入るよ!」

「うん!」

ゼータが全身を凍結されて封印状態になったのを確認したし、宙に放り投げられたデルタは私の「キャプチャーネット!」で受け止めた。アルファは元から私にそうさせるつもりだったようで、悔しむような表情を見せることなく私に一瞥だけした。4対1になったことでアルファには勝算はもう無い。そう思っていたらアルファは「これはもう交代ね」って嘆息して立ち止まった。

「デルタとゼータが・・・!」

2人の姿がなんの兆候もなく一瞬で消えた。転移スキルでもなく転移魔法でもない、まったく未知の技術・・・って普通は考えるだろうけど、“スキュラ”の中でこんなことが出来る女の子がいるのは知っている。驚いているチンク達に「熱源感知! たぶんガンマのスキルで隠されてるから!」って指示を出す。

「・・・いやダメだ! ステルスではないぞ、すずか!」

「あたしの探知でも引っ掛からない!」

「こちらでも探知できません」

「そんな・・・」

予想が外れた。それならどうやってデルタとゼータはこの場から離れたって言うんだろう。その答えを知っているアルファはニヤニヤと満足気で、そこら中にある鉄壁や鉄柱などの破片を大剣状に変化させ始めた。

「第2ラウンドよ!」

――マグネティックドミニオン――

いくつもの大剣が宙に浮いた。アルファのスキルじゃ出来ないことだ。居る。鉄を浮かせられることの出来る子、「イプシロンが近くに居る・・・!」のは間違いない。

「気付かれているようなのでイプシロンは姿を見せようと思います」

「そう? なら私も出よう」

アルファの両隣からイプシロンとベータがスッと出てきた。やっぱりスキルでも魔法でもない、ステルスでもないなら一体どうやって・・・。

「アルファ、ベータ、イプシロン」

「3人とも、止まりなさい」

「「「「っ!!?」」」」

聞き間違えるはずがない、とても懐かしい声が聞こえた。声のした方へゆっくりと目をやれば、もう二度と逢えないと思っていた人がそこに佇んでいた。あのいつも着ていた白衣を風で揺らし、蛇のようにちょっと怖いけど優しい金色の瞳。

「「「ドクター・・・」」」

「アイル・・・!?」

ドクターことジェイル・スカリエッティ、それに最後にお別れした頃より大人に成長した、私の色違いの女性、アイルが居た。
 
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