魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第280話「死闘の先を掴むのは」
前書き
なのは達を除いた二つの戦いSideです。
ほとんど優奈達に寄せていますが。
「がぁああああああっ!!?」
叩き落され、理力の奔流に呑み込まれる。
その痛みに帝は絶叫する。
「っづ……ぁああっ!!」
それでも、即座に瞬間移動し、神へと反撃する。
一撃、二撃と叩き込み、防御させ……
「ぉおおおおりゃぁあああああっ!!」
渾身の蹴りと共に気の奔流を足から放出。
防御ごと一気に吹き飛ばす。
「ぐ……なかなかやる……!」
神もノーダメージではない。
渾身の一撃ならば、多少なりとも神に通ってはいる。
「だが……!」
「ッ!」
理力による巨大な刃が、四方八方から帝を襲う。
それらを帝は躱すものの、背後に転移してきた神の攻撃を食らってしまう。
「がはっ……!?」
辛うじて防御は間に合った。
しかし、地面に叩きつけられた衝撃で肺から空気が押し出される。
その怯みを、神は逃さない。
「ッ、あ゛っ!?」
「ふっ!」
「ぁ、がぁああああああああっ!!?」
理力による衝撃波が帝を打ちのめす。
さらに、飛び蹴りが入り、クレーターを作りだす。
「っづ、ぁっ!!」
絶叫を上げた帝だが、歯を食いしばって神を蹴り飛ばす。
即座にそこから飛び退くと、寸前までいた場所を極光が撃ち貫いた。
「このっ……!」
気弾をばら撒き、帝は距離を取る。
その悉くを避けられるが、それでも連続で撃ち続ける。
「(ここだ!!)」
何とか取った距離が、転移によって一瞬で詰められる。
しかし、帝はそれを読み、同時に転移する。
転移先は、自分の後方。
即ち、転移してきた神の背後だ。
「ぉおおっ!!」
「ぐっ……!?」
渾身の回し蹴りを背後から叩き込み、神を大きく吹き飛ばした。
「っ……まだまだ、負けねぇ……!」
既に息を切らしている帝だが、闘志は未だに燃え続けていた。
そして、当然のように反撃しにきた神へと、再び挑みかかっていった。
「ッ……!」
一方で、優奈達の戦いも熾烈を極めていた。
状況に応じて強さが変わる“死闘の性質”と優輝や優奈と同じ“可能性の性質”。
二つの“性質”を以って、物理的戦闘で苦戦を強いられる。
「くっ……!」
神夜が魔力をフル活用して逃げ回る。
優輝が創造魔法で作り出した剣型デバイスを手に、移動魔法を繰り返す。
「ぐぁっ!?」
それでも、相手の“天使”はその上を行く。
いくら加速しても、転移で回り込まれ、蹴りで吹き飛ばされた。
「こ、のっ!!」
吹き飛ばされた先に、別の“天使”。
このままではお手玉にされてしまうだろう。
そこで、吹き飛んだ勢いのままデバイスを“天使”に突き出す。
「っっ……!!」
体を捻って繰り出した一撃は、あっさりと障壁に阻まれる。
尤も、それだけで反撃になるとは思っていない。
「ふッ!!」
神夜に意識が向いた、その一瞬。
別の“天使”を引き連れてまで、葵が無理矢理攻撃に入った。
速度を生かし、霊力を集中させたレイピアの一閃。
その一撃が障壁を割る。
「はぁあああああっ!!」
魔力を集め、至近距離から神夜が砲撃魔法を放つ。
直後の隙など全て度外視だ。
障壁を割った事による一瞬の隙を突いて、攻撃を直撃させる。
「ぁぐっ!?」
「がはっ!?」
案の定、他の“天使”に葵と神夜は撃墜される。
だが、確かに攻撃は決まった。
「ッ、あああああああ!!」
別の“天使”達を相手していた優奈が、防御度外視で創造魔法を繰り出す。
理力を混ぜたその武器群を相手に、“天使”達も無視は出来ない。
回避、または防御をさせる事で、葵と神夜が立ち直る時間を稼ぐ。
「……ありったけの魔力と“意志”を一撃のみにつぎ込んで!」
「何を……!?」
「倒すには、相応の“意志”がいる!でも、それを当てるまで戦闘の流れを整えないといけない……!あたしと優奈ちゃんがそれを担うから……!」
「俺が、トドメか……!」
「そういう事!」
物理的戦闘力は、今では神夜が一番弱い。
全てを“意志”で補わなければ戦えない程だ。
だからこそ、戦闘のほとんどを優奈と葵で担う必要がある。
……無論、それは相手も理解している。
「させるとでも?」
「ッッ!!」
神夜を狙った一撃を、優奈が転移して防ぐ。
その体は既にボロボロだ。
体の至る所が消失し、または切り裂かれている。
それでも、“天使”達の攻撃を切り抜け、こちらにやって来たのだ。
「葵!」
「わかってる!!」
三人固まった事で、集中砲火が始まる。
その攻撃のどれもが、全力で対処しなければならない威力や数だ。
“死闘の性質”で実力を上回り、“可能性の性質”で確実に当ててくる。
回避は最早不可能と思い、優奈は“意志”を集中させる。
「ッ!」
「はぁっ!」
「ッッ!」
葵が“死闘の性質”の“天使”の攻撃を捌く。
そんな葵をフォローするように、優奈が理力の弾で隙を潰す。
さらに、導王流と“意志”で他の攻撃を受け流し、凌ぐ。
しかし、それでも二人の体に傷が刻まれていく。
「っ……!」
「『織崎神夜!!』」
二人の奮闘によって、余波以外で神夜を傷つける事はない。
だが、二人の死闘ぶりを見て神夜は息を呑み、茫然としていた。
そんな神夜に、優奈が呼びかける。
「『貴方は、何のためにここに来たの!?世界を救うだとか、そんな大義名分じゃない。正真正銘、貴方だけの“意志”は、一体何なの!?』」
「俺の……“意志”……」
手に力が籠る。
自分にとっての正義を成すための力は失った。
それでも、自分は正義の味方でありたいと、善人でありたいと思っていた。
例えそれが偽善だろうと、空回りしていようと、それだけは変わっていない。
「(でも、違う。俺はそんな考えでここに立っていない)」
思い出す。自分が何を考え、最後の戦いに赴いたのかを。
正義のためじゃない。そんな考えを掲げられていられる程、神界は甘くない。
だからこそ、自分なりの“意志”を抱く。
「(―――怒りだ)」
神夜は一流のバッドエンドより三流のハッピーエンドが好きだ。
偽善的ではあるが、善人でありたいと思っていた。
そんな心を利用したのが、イリスだ。
魅了の力を無自覚に与えられ、傀儡のように利用された。
それに対する“怒り”は、未だに燃えている。
「(そうだ。俺はイリスに絶対辿り着く。俺を利用した報いを、受けさせる……!)」
“怒り”を再認識し、それを“意志”として繰り出す。
「ッッ、ぉおおおおおお―――」
「―――ぁあああああああああああッ!?」
だが、攻撃として放つ前に、上空から帝が落下してきた。
神夜どころか、“天使”すら巻き込み、衝撃でクレーターを作りだす。
「ッッ……!?」
それを追撃するように、“死闘の性質”の神が現れる。
優奈達を素通りし、帝へ向かう神だが、同時に置き土産を放っていた。
「(引き離された!?)」
単純な理力の弾でしかないが、その威力と速度が段違いだ。
導王流を以ってしても大きく後退させられてしまう。
葵に至っては、直撃して遠くへ飛んで行ってしまった。
「(まずい……!)」
三人ともバラバラになるのはまずい。
幸い、神夜と葵を追撃しに行った“天使”は“死闘の性質”が一人ずつだ。
だが、優奈は残りの三人を同時に相手にしなければならない。
合流が望めない今、一人でこの状況を切り抜ける必要がある。
「ッ!」
理力の弾と刃が振るわれる。
さらに優奈を上回る速度で“死闘の性質”の“天使”が肉弾戦を仕掛けてくる。
「―――、シッ!」
導王流で物理攻撃を凌ぎ、圧縮した理力の弾で他二人を牽制する。
一瞬のミスも許さず、的確に攻撃を捌く。
特に、援護に徹する“可能性の性質”の“天使”は要注意だ。
“可能性”を操る事で確実に攻撃を当てようとしてくる。
それを、優奈も同じように“可能性”を操って相殺する。
所謂“可能性”の食い合いだ。
「ふっ、はぁっ!」
三人の“天使”に翻弄される。
しかし、完全に無力という訳ではない。
状況を切り抜ける手段を見つけるまで、優奈は攻撃を捌き続ける。
導王流という“天使”達にはないアドバンテージで、最小限のダメージに抑える。
さらには、攻撃を受け流すそのタイミングで、相手に反撃もしていた。
カウンターとも呼べない微々たるものでしかないが、それでも“詰め”にならない程度には、相手の行動を阻害出来ている。
「ッッ!」
「ちぃ……!」
導王流は、何も攻撃を導く事だけではない。
戦闘そのものの流れをも導く事が出来る。
それは今この場でも同じだ。
理力の弾を攻撃の阻害に使う事で、的確に相手の流れを断つ。
マルチタスクを使う事で、攻撃を捌きながらコントロールを成しているのだ。
「ふッ……!」
僅かに大振りになった一撃を、導王流で受け流す。
さらに、その一撃を別の攻撃に当てる事で、相殺と防御を同時にこなす。
これで、優奈を追い詰める三つの攻撃の内、二つを対処した。
「(ここッ!)」
そして、最後の一つは理力越しに直接受け止める。
狙いは攻撃の勢いを利用した間合いの確保だ。
「シッ!!」
創造魔法の剣、理力の弾幕で牽制し、その間に構えた理力の矢を射る。
「ッ、らぁっ!!」
転移で即座に肉薄してきた所を、導王流で迎え撃つ。
カウンターを再びの転移で躱されるが、転移でその反撃を回避する。
その後も転移の応酬を繰り返し、最後に優奈のカウンターが直撃した。
「(本当、戦闘においては強すぎる……!)」
導王流を生かし、転移先を誘導する。
さらに、転移で僅かに位置をずらす事で惑わしていた。
それらの要素が上手く噛み合った事で、優奈のカウンターは命中したのだ。
「ぐっ……!?」
だが、それは他の“天使”への警戒を緩める事に繋がっていた。
気が付けば回避不可能な位置まで極光が迫っていたのだ。
身を捻り、直撃は避けたが、片腕を丸ごと持っていかれてしまう。
「まずっ……!?」
さらに、“受け流せない可能性”を手繰り寄せられる。
それを認識した時には一足遅く、“死闘の性質”の“天使”に反撃を貰っていた。
辛うじて、防御自体は間に合ったものの、大きく吹き飛ばされる。
「っ……!」
地面を転がりながらも、次の行動を考える。
腕を地面に突き立てて跳躍し、連続転移で間合いを取る。
「(やっぱり、一人では無理があるわね)」
やはり合流しなければと考えを纏め、優奈は逃げに徹する。
転移を繰り返す事で攻撃を掻い潜り、葵と神夜を探す。
合流さえすれば、反撃の目はある。
そう信じて、優奈は駆け続けた。
「かはっ……!?」
一方、帝の戦いに巻き込まれた神夜は、クレーターの中で倒れこんでいた。
帝を追撃した神は、巻き込む形で神夜を吹き飛ばしていた。
そのダメージが大きく、神夜は明滅する視界の中、状況を分析する。
「(分断……“天使”一人と、神本人……!こっちは、俺と帝だけか……!)」
幸いと言うべきか、“天使”も巻き込まれた際にダメージを負っていた。
おかげで、容赦のない追撃だけは避けられていた。
「ぉ、おおっ!!」
「まだ足掻くか!」
帝は既に復帰して神に食らいついている。
神も帝にしか興味ないのか、手出ししない限り神夜への攻撃は消極的だった。
……尤も、消極的な攻撃でも三人を分断する威力を持っているのだが。
「(速過ぎる……!)」
帝と神の戦いは、神夜には最早残像しか見えない。
見ようと“意志”を固めればまだ見えるだろうが、肉眼では不可能だ。
そして、そんな戦いの中で、神夜は“天使”と対峙する。
「(“意志”のリソースは余裕がない。戦闘に割けばトドメのための“意志”が、トドメに割けば戦闘のための“意志”が足りなくなる。なら、俺が出来る事は……)」
基礎スペックが下がっているために、神夜は常に余裕がない。
“意志”次第でどうとでもなるが、その“意志”も無尽蔵ではない。
むしろ、今の神夜で戦える状態に持っていく“意志”があるだけでも凄まじい。
「(より強靭な“意志”を持つか、合流まで戦い続けるか、だ!!)」
自分を利用したイリスに一発は叩き込む。
そんな単純な怒りと復讐心による“意志”でここまで来た。
その“意志”をより強く燃やせば確かに通用するだろう。
だが、それが簡単に出来るなら、もっと苦戦せずに済んだだろう。
「ッッ!!」
「遅い」
帝と神のぶつかり合いで生じた衝撃波を合図に、神夜が駆ける。
無論、速さは“天使”が上だ。
そこを“意志”で食らいつく。
「っづ、ぉおおおおおおっ!!」
振るわれた理力の刃を真剣白刃取りで受け止める。
雄叫びを上げ、そのまま押し上げていく。
「ふっ!」
「ッッ!?……ぅ、ぐ!!」
展開していた刃を引っ込め、“天使”は神夜を蹴り飛ばす。
吹き飛んだ神夜だが、地面に触れた瞬間に“意志”で踏ん張る。
「がッ―――!?」
「神夜!!」
直後、神の辻斬りが帝に入り、吹き飛んだ。
「ぐ、ッ!!」
“天使”が追撃に掛かる。ここで帝が動いた。
神の攻撃を防御し、敢えて吹き飛ぶ。
その勢いを利用し、防御態勢のまま“天使”の追撃へとぶつかったのだ。
「はぁっ!!」
“天使”を弾き飛ばし、帝の体が跳ねる。
そこへ神が襲い掛かるが、帝は気を放出して攻撃を相殺する。
攻撃と気がぶつかり合った事で爆発が引き起こされ、神夜は爆風に煽られる。
「(……ダメだ。帝の戦いを気にしていては)」
あまりにも速く、あまりにも強い。
そんな戦闘に気遣っていては、神夜は絶対に勝てない。
「(そもそも、俺が貫く“意志”は一つだけだ)」
視線を“天使”へ向ける。
そのまま、一歩踏み込む。
「(行きつく先はイリスだが、それを阻むのなら須らく押し通って見せる)」
神夜のすぐ横、頭上と周囲で帝と神が何度もぶつかり合う。
だが、先ほどと違い、その衝撃に体勢を崩す事はなかった。
「……そこを、退け」
イリスに対する“怒り”を滾らせ、神夜は拳を握る。
たった一言に“意志”を乗せ、“天使”へと襲い掛かった。
「っ……!」
“天使”が目を見開く。
単純な戦闘では神夜に勝ち目はない。
その差を、至極当然のように“意志”で埋めてきたのだ。
さらに、咄嗟に張った障壁に神夜の拳が食い込んでいた。
覚悟を決め、“意志”を定めたが故に、拳がここまで強化されていた。
「ふッッ!!」
連続転移で攪乱し、背後から“天使”が理力の剣を振るう。
「ぉおっ!!」
それを、神夜が振り返りざまにデバイスの剣で相殺する。
否、明らかに神夜の方が押されている。
だが、決して押し負けはしない。
「っっ、っ……ぜぁっ!!」
剣の連撃を直撃だけ避ける形で逸らし、正面からの一閃を上に弾く。
“意志”を込めた攻撃で相殺し、隙を作り出したのだ。
「ちぃっ!」
「はぁああっ!!」
上へ振り抜いたデバイスを戻し、振り下ろす。
そして、空いた手から放とうとしていた理力の塊にぶつけ、またもや相殺する。
「ぉおおおおおっ!!」
気合と共に何度もデバイスを振るう。
その度に、“天使”の攻撃を相殺する。
例え勝てなくとも、こうして攻撃を捌き続ける事は可能だ。
それだけの“意志”を神夜は……否、人間は秘めている。
「(神夜……!)」
「余所見している暇はあるか!?」
「ぐぁっ!?」
奮起した神夜を帝も見ていた。
だが、そこを隙と見た神の攻撃をまともに食らい、吹き飛ばされる。
「ッッ!!」
タダではやられず、吹き飛ばされながらも気弾をいくつも飛ばし、牽制する。
それによって僅かに追撃のタイミングが遅れ、その間に帝が体勢を立て直す。
「シッ!!」
「ふッ!!」
躱し、躱され、殴り、防ぐ。
瞬間移動を繰り返し、回避と相殺の応酬を繰り広げる。
被弾は帝の方も多いが、神も無傷ではない。
「(俺だって、やってやらぁ……!)」
現在、帝が使っている力は、ドラゴンボール超という作品におけるスーパーサイヤ人ゴッドという形態の力だ。
もう一段階上にスーパーサイヤ人ブルーというのがあるが、燃費と安定性に加え、どの道“性質”で上回れる事からこっちを使用している。
「(いくらこっちの力を上回ると言っても、捉えきれない訳じゃ、ないッ!!)」
真正面から神とぶつかり合う。
その瞬間に、帝は気を練った。
―――“ゴッドバインド”
「ッ……!!」
帝が繰り出した気が、神を覆い拘束する。
生命のエネルギーたる“気”にも種類がある。
ほとんどの生物が持っている気は原則通常の気だ。
だが、神という生命の持つ気は、とりわけクリアなものとなっている。
そのため、同じ神の気を持たない限り、その気を感じ取るのは不可能に近い。
そんな特徴を持つだけあり、神の気は通常の気より遥かに質が高い。
「ぬ、ぐっ……!?」
「捕らえた、ぞ……!」
常人には感知出来ないだけあり、その性質は理力に近い。
故に、神の気を利用した拘束は十全に効果を発揮した。
「ずぇりゃあっ!!」
動きを拘束したとはいえ、そこから攻撃するには足りない。
拘束で手一杯となっているため、投げ飛ばすぐらいしか出来なかった。
尤も、今はそれで十分だ。
気合と共に帝は神を遠くへと投げ飛ばした。
「神夜ぁ!!」
「ッ!」
大声で神夜の名前を呼び、一発の巨大な気弾を放つ。
そして、間髪入れずに瞬間移動で神を追いかけていった。
「ぐ、ぉおおっ!!」
神夜の方は相変わらず相殺が続いていた。
“意志”で何とか拮抗しているため、それ以上がなかなか踏み込めなかったのだ。
だが、ここで神夜の援護射撃があった。
鍔迫り合いからさらに一歩踏み込み、“天使”を気弾の射線上に押しやった。
「何ッ!?」
「食らっとけ……!!」
押し込んだ直後、神夜は抱き着く形で“天使”を抑え込んだ。
「お、お前……!?」
「外的要因までは、“性質”の適用外みたいだなぁッ!!」
気弾が命中し、爆発する。
神夜も“天使”もダメージを食らうが、倒れるとまではいかない。
「隙あり、だぁッッ!!」
―――“Rebellion Longinus”
だからこそ、神夜は次の攻撃を用意していた。
外的要因である攻撃を食らった事で、“天使”は大きく体勢を崩していた。
そこへ神夜が抑え込み、マウントを取った上で“意志”を放った。
放たれた“意志”は槍となり、“天使”を貫く。
「こ、こんな事、が……!?」
「“死闘”っていうのなら、こっちにも僅かな勝機はある。……それだけだ……!」
優輝を見倣うかのように、神夜はそう言い放つ。
その言葉に、驚愕していた“天使”もどこか納得した笑みを浮かべた。
「……なるほど、満足、だ……」
神夜の“意志”を見たからか、“天使”は満足そうに笑って消えていった。
「これで……一人減らした……!」
数の有利不利は相手の“性質”上あまり関係ない。
それでも、一人減らす事は出来たのだ。
「ッ……!」
離れた所から、ぶつかり合う音と衝撃が響いてくる。
帝と神がそこで戦っているのだ。
「……行こう。俺たちは、俺たちの相手をまず倒さないと……」
向かう先は優奈か葵のいる場所。
相手していた“天使”を倒した事で、神夜はマークから外れている。
そのアドバンテージを生かさない手はない。
だからこそ、合流を急いで駆けだした。
「ッ、シッ!」
そして、葵はと言うと。
「くっ……!」
速さと力に翻弄され、徐々にダメージを蓄積させていた。
相手は転移も併用しており、葵のレイピア捌きでも捉えきれない程だ。
直撃だけは何とか逸らして避けているが、それが結果的に足を止める原因となり、さらにダメージを蓄積させていた。
「(このままだとダメ!あたしの手札で、何か状況を変えるモノは……)」
考えを巡らせ……“ない”と結論付ける。
葵は吸血鬼の特性以外はサーラと同じく正道な強さしかない。
司や緋雪のような特殊な能力はなく、故に手札は少ない。
「(なら!)」
それでも、この神界ならば出来る事はある。
「(ここで、切り開く!!)」
一歩踏み込み、“意志”をレイピアに込める。
直後、何十もの斬撃を繰り出し、“天使”の攻撃を相殺する。
「これは……!」
「あたしは、ここに来れないかやちゃんの分の“意志”も背負ってるんだ。……そこを開けなよ、“呪黒閃”!!」
“意志”によって繰り出した斬撃はその場に残る。
そして、“天使”の攻撃は全方位からだったため、それを相殺した斬撃も全方位に残っており、葵を囲うように存在していた。
迎撃と防御の展開を同時に行った事で、攻撃の準備時間を稼いだのだ。
その事に気づいた事による隙を逃さず、霊力の閃光を解き放った。
「っっ……!」
「ぁあああああっ!!」
線のように伸びた一撃が、“天使”を貫く。
それだけでは決して倒れはしないが、防戦一方の状況を変えた。
間髪入れずに葵は“意志”と共に踏み込み、レイピアで追撃を放つ。
「っ……!?」
しかし、何撃かを掠らせはしたが、他は障壁で防がれ、転移されてしまった。
空ぶった事で、葵は体勢を崩し―――
「(読み通り……!)」
否、それを想定していた事で、そのまま前に踏み込んだ。
今葵が目的としているのは、“天使”の打倒ではない。
他二人との合流だ。
「逃がすか!」
「ふッ……!」
一直線に駆けだした葵を阻むように、“天使”が転移で追う。
だが、さすがに転移にも見慣れたのか、即座に葵はレイピアを生成して牽制した。
「(勝つには、一歩踏み込む“意志”が必要。ただ合流を目指すような“逃げ”では、勝てない。だから……!!)」
戦闘に関する“性質”なだけあり、“天使”も戦闘経験は豊富だ。
それでも、転移先を予測する事ぐらいは出来る。
「ここッ!!」
振り返り、レイピアを生成する。
そのレイピアで牽制し、転移直後の攻撃を僅かに逸らす。
それによって生じた隙を突き、渾身の一撃を叩き込んだ。
「ッッ……!?」
「十分な“意志”があれば、ダメージを与えられる……なら!」
葵はそこからさらに体を蝙蝠に変える。
その蝙蝠をレイピアを刺した箇所から無理矢理“天使”に押し込む。
「あたしと“意志”の削り合い……やろうよ……!」
「貴様……ッ!?」
無理矢理一体化する事によって、直接“領域”を削りに行く。
ここまで“領域”に肉薄されれば、“死闘の性質”は“天使”にも働く。
……つまり、ここに来て純粋な根競べとなった。
「ぐッ……!」
「一応吸血鬼だからね……!“領域”ごと血を吸ってあげる……!」
「させるか……ッ!」
互いに一気に動きが鈍る。
その上で、攻防を繰り広げる。
「あはは!“死闘”らしくなってきたじゃん!」
「くっ……!」
互いに“死闘”となるため、実力は拮抗する。
レイピアと理力の剣が何度もぶつかり合い、火花を散らす。
「っ……!」
葵が無理矢理“天使”と同化させたため、お互いに全力が出せない。
その状態でも戦い続け……状況が変わる。
「葵ッ!」
「ッ!!」
剣が降り注ぎ、同時に優奈が現れる。
直後に理力による砲撃の雨が降り注ぎ、優奈がそれを逸らして防ぎきる。
「……なかなか追い詰めてるじゃない……!」
「そっちこそ、よく三人相手に戦えるね……!」
お互いにすぐ状況を理解し、背中合わせになる。
一人では勝つのが難しくとも、二人以上になれば話は別だ。
「後は……」
「彼もこっちに来てるわ。……驚く事に、“天使”を倒した上でね」
「えっ……!?」
優奈の言葉に、葵だけでなく“天使”も驚いていた。
まさか、単純な力では最弱の神夜が“天使”を倒しているとは思わなかったのだ。
「さぁ、反撃よ……!起死回生を見せてあげるわ……!」
合流した事で、二人の“意志”が再燃する。
神夜も近づいてきており、戦いはこれからだと言わんばかりに力を滾らせた。
後書き
ゴッドバインド…ドラゴンボール超系列のゲーム及び、劇場版ドラゴンボール超より。神の気によって対象を覆い、動きを封じる技。なお、相手の潜在能力が強すぎると気が逆流して逆に拘束される場合がある(by劇場版)。
呪黒閃…霊術の呪黒剣を改造した技。霊力を圧縮し、切れ味と貫通力を上げて繰り出す事が可能。刺突や斬撃など、汎用性も大きい。
まさかの神夜のみ“天使”撃破。
なまじっか単純な力が劣っている分、ダイレクトに“意志”でダメージを与える事ができ、帝の援護があった事で撃破出来たという訳です。
次回は帝に焦点を当てた話になります。
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