魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第279話「死闘、勝利の可能性」
前書き
優奈達Side。
なお、前々回の閑話のように視点が転々とします。
「ぜぇりゃああっ!!」
超スピードで帝が攻め立てる。
相手は一人の男性神。ただし、“性質”は未だ不明だ。
「は―――はははっ!!」
「ッ……!!」
拳、蹴り、一撃一撃が大地を砕く威力だ。
今の帝ならそれが出来、同時にそれは神界でも容易く通用する。
それほどに、帝の“憧憬”は強い。
……だが。
「ッッ!!」
「いい。実にいいぞ……!」
その全てを、神は受け止めていた。
「………」
「待った甲斐があったというものだ。……これほどの猛者と戦えるとはなッ!!」
「ッ―――!!」
意趣返しとばかりに、今度は神から仕掛ける。
その速度に、帝は僅かに動揺する。
「くっ……!!」
拳を払い、拳を繰り出す。
蹴りを膝で受け、蹴りを返す。
その度に衝撃波が迸り、空気を揺らす。
そう。明らかに神は帝と同等の強さを見せていた。
「(さっきまでより強くなっている……その類の“性質”か……!)」
「こうも序盤から“性質”を使わされると思わなかったぞ。それも、人間相手に」
「(やっぱりか……!)」
“性質”を使った事による身体強化。
それによって神は帝と同等の強さになっていたのだ。
……否、同等ではない。
「ふッ!!」
「っ―――」
辛うじて防御が間に合った。
緩急をつけた動きだったのもあるが、それ以上に速くなっていた。
「ッ……!」
“意志”で何とか吹き飛ぶ体を止める。
しかし、その時点で背後に回られていた。
「ずぇりゃあ!!」
「ッ、いいぞ……!もっと楽しませろ……!!」
背後からの攻撃を振り向きざまに逸らす事で防ぎ、渾身の膝蹴りを放つ。
片腕でそれは防がれ、神は歓喜の笑みを浮かべる。
「(強ぇ……!地球で戦った“蹂躙の性質”とは訳が違う……!)」
地球で戦った“蹂躙の性質”の神は、帝に対しその“性質”を振るっていた。
結果、帝が憧れる存在の力までは干渉出来ずに敗北していた。
だが、目の前の神は違う。
帝の憧れる存在の力すら対応してくる。
「(俺自身じゃなくて、この戦場そのものに働きかけているのか……!)」
帝自身に“性質”を働きかけても、憧れる存在の力は揺るがない。
しかし、その法則性にも穴はある。
例えば事象、または空間などに働きかければ、力を上乗せした帝の強さにも対応する事が可能なのだ。
「(けど……負けねぇ!!)」
気が迸る。
既に何度も回り込まれ、その度に防御の上から吹き飛ばされていた。
防御が出来ているだけマシな状況だった。
だからこそ、挽回のために力を振るう。
「ぉおおおおおおおおおおっ!!!」
「来るか……!!」
衝撃のぶつかり合いが閃光となって迸る。
傍から見れば、帝と神の姿は見えないだろう。
それほどまでの超スピードで動き、互いに有利な位置を取ろうとしている。
「ぜぁっ!!」
「ふんッ!!」
「はぁあっ!!」
「甘い!」
拳を振るう。防がれる。
手刀を弾く。反撃を繰り出す。
蹴りが避けられる。拳を避ける。
攻撃、防御、回避の応酬が繰り返される。
どちらもダメージというダメージが通らない。
それだけ拮抗した力量なのだ。
「がはっ!!?」
「まだまだ粗削りだな!」
だが、そこで経験が差をつけた。
帝もかなり経験を積んだが、目の前の神はそれ以上だった。
単なる実戦経験ならば、優輝や天廻などを上回る。
そんな相手に、真っ向からの勝負だけで勝てる訳がなかった。
「っづ……!!」
カウンターで肘鉄を胴に叩き込まれ、帝は地面に叩きつけられた。
「(こいつは……やばいな……!)」
視界には、遠くの方に神が映っている。
それ以外にも、優奈や葵、神夜の姿もあった。
先ほどの攻撃で、ここまで吹き飛ばされてきたのだ。
「(ここに来て、強敵か……!)」
優奈達も完全に劣勢だ。
なのは達の姿こそないが、そちらも相応に苦戦しているだろう。
相手は優輝とは違うとはいえ“可能性の性質”だ。
苦戦しないはずがないと、帝は心の中で断じる。
「ぉおおおおおおおっ!!」
ともかく、この窮地を脱しなければならない。
そう思考に結論付け、帝は再び神に挑みかかる。
「ぐっ……!」
しばらくの攻防の後、回避と防御が間に合わずに顔に拳が命中する。
「ずぁっ!」
「ッ……!」
だが、帝も負けじとその腕を掴み、殴り返す。
回避を封じた上でのその一撃を神も食らい、仰け反った。
「―――面白い……!」
「っ……」
戦い方が変わる。
今までは極力ダメージを食らわないような立ち回りだった。
それを、ダメージ前提で当てるように変えた。
当然、帝へのダメージは蓄積するだろう。
それでも神へのダメージは与えられる。
どの道、先ほどの立ち回りでは帝がジリ貧だった。
故に、捨て身の覚悟で攻撃し続けるしかないのだ。
「どこまで死闘が出来るか、試してやろう……!」
「っ、この野郎……!!」
吹き飛び、吹き飛ばす。
殴られれば殴り返し、その度に衝撃が迸る。
残像すらいくつも残す程のスピードで、帝は戦い続ける。
「ッ………!」
一方で、葵は駆けていた。
降り注ぐ理力の弾を避け、レイピアで弾き、身を翻す。
「っ、やぁああっ!!」
「ッ、はは……!!」
同じく理力で構成されたレイピアとぶつかり合い、火花を散らす。
既に、葵の本来の力量を遥かに超えた力を振るっている。
それが出来るのも、平行世界にいる葵と同一存在の力と、“意志”の力だ。
平行世界の力を集約させる事で力を底上げし、“意志”で補強していた。
なのはやフェイト程、平行世界に葵の同一存在はいない。
それでも破格のパワーアップを果たしている。
「っ、そこ!」
「甘い!」
「シッ!!」
「っと……!」
相手にしている“天使”は、帝が戦っている神の“天使”だ。
その“天使”三人の内二人が、葵を狙っている。
残り一人は神夜を相手しており、レイアーの“天使”二人は優奈が相手していた。
「ッッ!!」
故にこそ、葵は他二人の助力を望めない。
優奈はともかく、神夜は戦えているかすら怪しい力量差だ。
“意志”だけでその差を埋めるにしても、支援する余力があるはずない。
「ぐっ……!?」
レイピアを大量に生成し、遠距離からの攻撃を相殺する。
だが、威力と量が多いために相殺しきれず、さらにはもう一人に肉薄される。
“呪黒剣”を利用して遠近両方の攻撃を凌ぐも、蹴りが胴に入った。
「葵!」
吹き飛んだ際に、優奈から声が響く。
その声に応えるように葵は地面に拳を突き立て、その反動で跳躍した。
直後、寸前までいた場所を極光が貫いた。
「させない!」
「ッッ!!」
―――“霊円刃”
さらに葵に対し、“可能性の性質”の“天使”が追撃する。
その一撃を優奈が防ぎ、葵が霊力の刃を円状に放つ。
「ぐっ……!」
それを転移で抜けられ、葵は片手ずつで“天使”二人の攻撃を防ぐ事になる。
優奈ももう一人の“天使”に抑えられ、身動きが取れなくなる。
「っづ……!」
―――“呪黒剣”
霊術の剣を繰り出し、防御ないし回避で状況を切り替える。
同時に優奈が転移で葵ごと移動し、仕切り直す。
「がっ……!?」
そこへ、神夜が吹き飛ばされてきた。
奇しくも、全員追い詰められて一か所に集まってしまった。
「……どう?あの“天使”の“性質”は」
「わからないよ。あたしの実力でギリギリ拮抗出来る強さなのはわかるけど」
「俺もだ。……ん?」
葵、神夜共に物理的戦闘でギリギリ拮抗出来た。
その事に神夜だけでなく、三人とも違和感を覚える。
「……“性質”で力量を合わせていると見ていいね」
「となると……ッ、下がって!」
優奈が結論を出す前に、理力で障壁を張る。
同時に飛び退き、追撃を躱す。
「もう少し様子を見るわ。……私が相手していた“天使”はお願い!」
「了解!」
「ああ!」
ポジションを入れ替える。
葵と神夜は“可能性の性質”の“天使”を相手し、優奈がそれ以外を相手する。
「ッ……!」
直後、優奈は驚愕する。
転移を含めたスピードに、“天使”が容易く追いついてきたのだ。
優奈は神としての優輝の半身とも言える存在だ。
理力が体に馴染んだ今、単純な強さでもかなりの高さを誇る。
それこそ、“性質”を使わない“天使”には負けない程の。
「(やっぱり、相手に合わせている!)」
故に、目の前の“天使”の“性質”は相手の強さに合わせるものなのだと確信する。
即座に導王流で攻撃を受け流し、カウンターを放った。
「(受け止められる……!加え、三対一……!)」
カウンターは受け止められ、同時に三人に包囲される。
理力の武器を仕舞い、代わりに体に纏う。
「ッ……!」
三人の内一人が遠距離から弾幕を放つ。
残りの二人が優奈へ近接戦を仕掛けてくる。
典型的な前衛後衛の形だ。
「くっ……!」
問題は単純な強さ。
導王流を用いてなおギリギリ対応できるかどうかの速度だ。
遠距離攻撃も相まって、優奈は受け流し切れずに弾き飛ばされる。
「(……やっぱり、おかしい)」
だが、同時に気づく事が出来た。
相手がどんな“性質”なのか。
「(相手の強さに直接対応する“性質”じゃない)」
相手と同等、もしくはそれ以上になる“性質”ならばおかしいのだ。
何せ、僅かな時間とはいえ先ほど一対一で戦っていた。
その時のスピードは、今包囲されている時よりも上だったのだ。
相手の強さに合わせて強くなれる“性質”ならば、それはおかしい。
その場合だと、数が増えれば増える程、優奈は劣勢になるはず。
しかし、一対一と三対一のどちらも同程度の苦戦具合だったのだ。
「(空間、事象……そういった部分から干渉するタイプね)」
ならば、干渉しているのは戦場そのものになる。
そして、“ギリギリ拮抗出来る”と言うのも重要だった。
「(同等でもない、圧倒する訳でもない。単に上回る訳でもない。……飽くまで、“ギリギリ対抗出来る”と言うのがミソ。現に、捨て身のカウンターならほぼ確実に決まる)」
思考の間にも戦闘は続く。
実際、優奈は攻撃の直撃を食らいながらも、カウンターを直撃させていた。
片腕を吹き飛ばされた代わりに、掌底を胸に食らわせ吹き飛ばしたのだ。
「死に物狂いなら、勝ち目がある……そう、そういう事……」
息を整えながら呟いた時、優奈は腑に落ちた。
「気づいたか」
「気づかれたな」
「ええ、気づいたわ」
吹き飛んだ“天使”以外も、“性質”を理解された事に感づく。
「おそらく、“死闘の性質”。どんな形であれ、戦いにおいて死闘を繰り広げる“性質”。だから、誰が相手でもギリギリ戦える力量差になる」
単純な実力では三人の中では優奈が最も強い。
そんな優奈でもギリギリ対抗出来る状態だ。
だが、力を失った神夜でも先ほど戦った際はギリギリ対抗出来た。
それだけ、“天使”の強さはブレるのだ。
「その通りだ」
「だが、どう対処する?」
「………」
タネはわかった。
だが、その対処となれば難しい。
何せ、三人で一斉に掛かってもその分強さが増すからだ。
「(こういった“性質”は、何とかその効果を反転させないと……)」
今は優奈達にとって“死闘”となっている。
それを上手く反転させれば、“天使”にとっての“死闘”となり、優奈達がかなり有利になるように“性質”が働くはずなのだ。
その状態に持っていけば勝てる確率は高くなる……が。
「っつ……!」
「がぁっ!?」
葵が片腕を吹き飛ばされ、神夜が地面に叩きつけられる。
「(もう二人の“天使”が厄介ね……)」
“死闘の性質”の三人だけではない。
“可能性の性質”の二人もいるのだ。
計五人を相手に、“死闘の性質”を反転させるのは至難の業だ。
しかも、“可能性の性質”で例え反転させても逆転される可能性もある。
「ふッ!!」
理力を放出し、障壁を展開する。
それによって、葵と神夜が体勢を立て直す時間を稼ぐ。
さらに、転移で再び仕切り直した。
「『“死闘の性質”……状況を“死闘”という形に持っていく事で、どんな強さでもギリギリ抵抗出来る力量差になるみたいよ』」
「『っ……なるほど……』」
「『ここで重要なのは、数を揃えてもその数を加味した上での力量差になる事よ。だから、私達三人で一人を狙った所で、その力量差は埋められない』」
再び転移で躱し、念話で情報を共有する。
即座に極光や理力の矢が襲うが、散開してそれを躱す。
「『でも、裏を返せばギリギリ対抗出来るのならば、一瞬の隙で逆転も可能よ』」
「『問題は、それをどうやって成し遂げるか、だね?』」
「『ええ。そこがネックね』」
狙い撃ちにしてもその優奈達の総合力に対抗してくる。
結局は、ほんの僅かの生じるかも分からない隙を狙うしかないのだ。
「『……どうするつもりなんだ?』」
「『結局は、“意志”次第よ。“可能性”も“天使”にほとんど相殺されるから、貴方達の“意志”次第でどうなるか決まる。……絶対に勝てない訳じゃない。それだけは忘れないでね』」
「『……ああ』」
「『……了解』」
それはつまり、“意志”以外で勝ち目はないという事。
物理的な戦闘では、ずっと劣勢を強いられる事を意味していた。
「(勝利の“可能性”を掴むのがどちらか。……勝負と行きましょうか)」
優奈達は覚悟を決め、再び戦いに身を投じた。
「っ、ぁあっ!?」
一方。神界の法則で分断されたなのは達。
そちらも善戦しているとは言い難い状況だった。
理力の刃に翻弄されたアリサが、防御の上から吹き飛ばされる。
「ッ、フェイトちゃん!アリサちゃんを連れて離脱して!」
「うん……!」
なのはの言葉にフェイトは前衛から抜け、アリサを抱えて移動する。
同時に、なのはに前衛を一人で担当させる事になるが、躊躇はしない。
躊躇すれば一瞬で打ちのめされるのがわかっていたからだ。
「ッ、くっ……!」
だが、当然ながらなのは一人では抑えきれない。
後方からアリシアとすずか、はやての援護があるが、それでも攻撃は抜けてくる。
数手先で回避も防御も出来なくなると悟り、即座に退く。
「判断が上手い……それだけ、経験を積んだのね」
攻撃が一旦止み、相手のレイアーはそう呟いた。
対し、なのは達は既にダメージを負っていた。
「でも、その程度で私に勝てると思わないで」
「っ……!」
明らかに優勢だからか、レイアーはなのは達を見下ろしながらそういう。
完全に下に見られている。それがわからないはずもない。
「舐められちゃ、困るね!!」
―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”
朱雀を模した炎の矢を、アリシアが放つ。
“意志”も込めたその一撃は、神でも直撃すればダメージは免れない。
「事実だもの。貴女達が勝つ“可能性”は既に摘んだわ」
だが、その一撃が“外れる”。
「やっぱり……そう簡単には当たらない、か」
アリシアとて、何も絶対に命中させる程の腕前はない。
だが、それでもほとんどの確率で命中させる事は可能だ。
……つまり、それは裏を返せば外す“可能性”があるという事。
レイアーはその“可能性”を手繰り寄せ、攻撃が命中しないようにしたのだ。
「いざ敵に回ると、嫌って程思い知らされるね」
アリシアの呟きに、なのは達も無言で同意する。
今の所、レイアーは本気で倒しに来ていない。
余裕だからこそ、その余裕を保つように圧倒しているだけだ。
「でも……」
「まぁ……」
あらゆる攻撃の“外す可能性”を引き寄せる。
逆を言えばレイアーの攻撃は“命中する可能性”を引き寄せる。
確かに“性質”によるこれらは厄介だろう。
「「導王流がないだけマシだね」」
だが、それだけなら絶望には程遠い。
優輝の場合、“性質”に加えて導王流がある。
ただでさえ当たりにくい“性質”に加え、命中しても受け流されるのだ。
それに比べれば、当たらないだけなのは大した事はない。
「ッ……!」
それ故のなのはとアリシアの言葉だった。
レイアーは、それを聞いて“ギリ”と歯を鳴らす。
「どこまでも、あの男は!!」
「来るで!」
はやての言葉と共に、散開する。
直後、理力の嵐が降り注ぐ。
フェイトは速さを以ってそれを避け、なのはは防御魔法と小太刀で斬り進む。
すずかとはやてはアリサとアリシアが守る形で対処し、障壁で防御する。
「あの男よりも!私の方が上なのよ!自らの“可能性”から外れた、ユウキ・デュナミスよりも!絶対に!」
「……見苦しいわね」
「ッ!!」
アリサの呟きに、レイアーが目敏く反応する。
直後、閃光がアリサを貫いていた。
「アリサちゃん!」
「……大丈夫。はやて!」
「わかってる!……ここや!!」
はやてが魔法陣を大量に展開し、レイアーの弾幕を出来る限り相殺する。
すずかとアリサ、アリシアも霊術で援護し、隙を作る。
「はぁっ!」
「甘い!」
同時に、フェイトが仕掛けた。
しかし、渾身の一閃は避けられた。
“意志”によって外す事は避けたが、単純に回避されてしまったのだ。
「ふッ!」
「っ……!」
間髪入れずになのはも肉薄する。
魔力弾を至近距離で炸裂させ、同時に小太刀二刀を振るう。
一閃躱され、二閃目も当たらない。
「……二度は通じひんな」
「………」
だが、掠りはした。
頬に僅かな切り傷を付け、なのはとフェイトは一度撤退する。
「挑発して隙を作るのは良かったけど……単純にはいかんか」
「フェイトとなのはのコンビでもギリギリ当たるかどうかだものね」
そう。この一連の流れははやてが組み立てた作戦だった。
レイアーが優輝に執着しているのはすぐわかったので、それを利用したのだ。
だが、挑発しても結局攻撃自体は掠るに止まった。
「舐めた真似を!」
当然、レイアーもタダでは済まさない。
閃光が幾重にも分かれ、なのは達を追尾する。
一発一発がなのはのディバインバスターと同規模だ。
武器で切り裂くにしても、全てを凌ぎきれない。
さらに、追尾してくるため回避し続けるのも一苦労だ。
「くっ……!」
「きゃぁあっ!?」
そして、“確実に命中する”という“可能性”が手繰り寄せられた。
障壁を張っても防ぎきれずに、全員が被弾する。
「っ……!?」
「一つ一つ、“可能性”を潰してあげるわ」
「はやて!」
まずは指揮を執るはやてが狙われる。
被弾した直後で体勢を立て直せていないため、誰もが庇いに行けない。
「ッ、負けへん!!」
理力を叩き込み、はやての“領域”を削ろうとする。
それに対し、はやては“意志”で受け止める。
理力の刃に、閃光に身を傷つけられようと、決して倒れないように踏ん張る。
「こ、のっ!!」
近くにいたすずかがそこへ割り込む。
しかし、繰り出した槍の一撃は躱され、反撃として繰り出された理力の奔流によって、咄嗟に張った障壁の上から吹き飛ばされた。
「ッッ!!」
間髪入れずに、アリサが仕掛ける。
さらに後方からアリシアが弓矢で狙う。
だが、アリシアの矢は当たらず、放った五本ともレイアーの周りに刺さるに終わる。
「くっ!」
アリサの攻撃も躱されるが、何とか反撃を逸らす。
しかし追撃は躱し切れずに命中するが……
「うちのバックアップを嘗めないでよね……!」
吹き飛んだすずかが霊術を飛ばし、アリサを守る事で防いでいた。
さらに刺さった五本の矢が五芒星を描く。
「範囲攻撃なら、命中するでしょ?」
元々、このつもりだったのだ。
矢を用いて五芒星を描き、そこから霊術を発動させる。
点や線の攻撃が外れるのなら、面による攻撃をする。
それによって、“外れる可能性”を根本から排除した。
「逃がさない……!」
「ギリ、間に合ったなぁ」
さらに、なのはとフェイトでバインドを繰り出し、拘束する。
ダメ押しにはやてが結界と“意志”で転移を封じた。
これで、全ての回避は出来ないようにした。
「無駄よ!」
「ッ、ぁ……!?」
……だが、レイアーはその上を行った。
攻撃回避の“可能性”はまだ残っていたのだ。
術者を攻撃する事による、攻撃そのものの阻止という形で。
“性質”によってそれを手繰り寄せたレイアーは、閃光でアリシアを撃ち抜いた。
さらに、矢も焼き尽くされ、五芒星が消える。
「ッ……!」
即座になのはとフェイトが仕掛け、フォローに入る。
最高速度を超えて斬りかかり、展開しておいた魔力弾を繰り出す。
「ぅ、あっ!?」
だが、攻撃は障壁で防がれ、直後にフェイトが吹き飛ばされた。
“性質”を使ってフェイトの軌道を予測して攻撃を当てたのだ。
「っ、“明けの明星”!!」
唯一、ルフィナの経験を引き継いだ事でなのはが単騎で渡り合う。
小太刀二刀で攻撃を逸らし、相打ち覚悟でカウンターを放った。
「っつ……!」
障壁でダメージがほとんど殺されたが、確かに命中した。
しかし、なのははそれ以上にダメージを受け、吹き飛ばされていた。
「“デアボリック・エミッション”!!」
目を離した隙を生かし、はやてが魔法を放つ。
さらに、アリサ、すずか、アリシアが霊術で包囲する。
「っ、あ……!?」
「しまっ……!?」
だが、転移を封じていないがために、四人とも次々と理力の奔流に吹き飛ばされた。
「僅かな“可能性”に賭けて食らいつく。良い心がけね。でも、その“可能性”は悉く潰させてもらうわ」
レイアーも、最初の油断はしなくなっていた。
僅かな隙を突いてくるのならば、“可能性の性質”の神として、僅かな“可能性”をも潰すつもりで攻撃するようになっていた。
「結局、人間は人間なのよ。人の身のままで、そう簡単に神に勝てると思わない事ね」
レイアーの発言に、誰も言い返さない。
代わりに、立ち上がって構え直す事で返答とする。
「それでも……私達は、負けない!!」
ここが正念場。そう思ってなのはは叫ぶ。
同時に、他の皆も立ち上がり、再びレイアーに挑みかかった。
後書き
霊円刃…文字通り、霊力の刃を円のように薙ぐ技。片手で刃を放てるため、片手ずつで二重の刃を放つ事も可能。
“死闘の性質”…どんな戦いの形であれ、それが“戦い”ならば死闘になる“性質”。基本、相手にとって死闘となるが、条件が揃えばこの“性質”を持っている側も死闘になる事もある。なお、この“性質”の持ち主は基本的にバトルジャンキー。
これまで敵の“性質”をドンピシャで当ててばかりですが、何度もその“性質”を見に受けているので何となくわかってしまうのが理由です。相手を騙そうとしない限り、その内“性質”はバレてしまうようになっています。
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