魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第274話「その想いは、決して阻めぬ祈り・後」
前書き
司編後半戦です。
「かはっ!?」
紙切れのように、司の体が吹き飛ばされる。
体勢を立て直そうとしても、その度に“妨害”される。
「ッッ……!」
全魔力を防御に回すも、その前に“妨害”され、上手くいかない。
反射的な防御以外、意識している限り何もかもが“妨害”されていた。
「(ここまで厄介なんて……!)」
“妨害の性質”を持つ神とその“天使”がやってきてから、司はこの調子だ。
神単体ならば、もう少しマシだったかもしれない。
しかし、“天使”と“早い性質”の神がいるため、余計に苦戦していた。
「(咄嗟の反撃すら、“妨害”される……!)」
あらゆる行為を“妨害”されるため、ほとんど何も出来ずにいた。
幸いと言うべきか、思考まではそこまで“妨害”されておらず、思考を巡らす事自体は継続出来ていた。
「(意識するあらゆる行動に割り込まれる。……わかってはいたけど、ここまで厄介なんて。それに、“早い性質”で先手を取られるのもかなりまずい……!)」
ただ先手を取る訳ではなく、“妨害”をしてくる。
“攻撃を食らっても行動する”というつもりでも、問答無用で阻まれるのだ。
「(先手を取られるせいで、“妨害”を無視できない……!)」
対抗できるとすれば、“妨害があっても実行する”という“意志”だ。
だが、その“意志”すらも、“早い性質”によって先手を取られてしまう。
二つの“性質”によって、最悪なコンボを決められていた。
「(何より、洗脳されていない神の“性質”……!単純に、強い……!)」
そして、“妨害の性質”の神はイリスの洗脳を食らっていない。
神自身の意志でイリスの勢力に入っているのだ。
そのため、放たれる“性質”の力は本来の強力さを持っている。
それらが全て噛み合った結果、司はこうして蹂躙されていた。
もし、どれか一つでも司に都合が良ければ、既に逆転できていたかもしれない。
「っ……!」
攻撃を受けて“妨害”されるだけじゃない。
単に体を動かせなくなったり、術式が即座に破棄されたりなど、無視できないような“妨害”ばかりなのだ。
今もまた、回避しようとして硬直させられ、“天使”に吹き飛ばされる。
「ッ……!」
そして、吹き飛んだ先に別の“天使”が理力の剣を振り被っていた。
その攻撃に対し体を動かそうとして、やはり止められる。
「ッッ!」
「くっ……!」
……しかし、それでも司は動いた。
無我夢中だったのか、振るわれたシュラインは理力の剣を僅かにずらすに留める。
それでも、攻撃は直撃せずに済んだ。
「なに……?」
その事に、“妨害の性質”の神が僅かに訝しむ。
だが、すぐさまその思考を取りやめ、司へ追撃となる“妨害”を仕掛けた。
「ぁぐっ!?」
さらに“早い性質”の恩恵を受けた“天使”が司を地面に叩き落す。
叩きつけられ、バウンドした所を追撃の極光が襲う。
「っ……!」
司はそれでも耐える。
しかし、事態は一切好転せずに再び理力によって吹き飛ばされる。
「ぁあっ!!」
「くっ……抵抗、するな!!」
“それでも”と、司は敵を睨みつける。
相も変わらず、体の動きは“妨害”される。
しかし、無造作に、そして唐突に魔力弾が敵を襲った。
「(どんなに強くても、完封出来る訳じゃ、ない!!)」
反撃に動く事を“妨害”され、再び理力の砲撃に吹き飛ばされる。
だが、そんな中でも、司はそう確信出来ていた。
「(どこかに突破口が―――)」
思考に割り込まれる形で、理力の槍に貫かれる。
「(―――ううん、それはもう、見えている―――!)」
さらにいくつもの槍に貫かれるも、司の“意志”は決して折れない。
「くっ……!」
吹き飛ばされ、斬り刻まれ、貫かれる。
お手玉のように体は飛び、体勢を立て直す事すら“妨害”される。
何も出来ないまま、だが打開しようと考えながら、司はまた吹き飛ぶ。
「ッッ……ここぉっ!!」
そして、包囲の外に吹き飛ばされた瞬間に、“意志”を爆発させる。
「しまっ……!?」
先手を取られてもそれを無視し、“妨害”を“意志”で突破する。
爆発させた“意志”は一筋の極光となって“妨害の性質”の神へと突き進む。
「無駄だ!!」
だが、その極光は命中しなかった。
司ではなく、極光そのものに“性質”を働きかけた事で、進行を“妨害”したのだ。
結果、極光の軌道は逸れ、そのまま素通りしてしまった。
「っ………!」
攻撃が当たらなかった事に司は歯噛みする。
直後、“天使”による反撃を食らい、横に吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
回避や防御のための一挙一動が“妨害”される。
そうなっては、司に攻撃を凌ぐ術はない。
渾身の反撃も空しく、司は再び攻撃の嵐に晒される事になった。
「(……信じるよ。私……!)」
ただ一つ、自分自身を信じて。
「かふっ……!?」
地面をバウンドし、司は体勢を立て直す事も出来ずに地面に倒れ伏す。
「ぁ……ぅ……」
手足に力を入れても、起き上がるのに時間がかかる。
それほどまでに、司は打ちのめされていた。
「なかなかにしぶとかったが……ここまでだな」
「全く……梃子摺らせられたな」
結局、司は終始圧倒されたままだった。
あらゆる回避及び防御行動は“妨害”され、さらには先手も取られる。
理力も扱えない司では、どうしてもそれらを突破出来なかった。
途中、何度も“意志”での突破を試みたが、攻撃の軌道などを“妨害”されるだけであっさりと反撃を凌がれてしまっていた。
「っ………!」
ゆっくりと、司は起き上がる。
だが、手はだらりと脱力しており、立つので精一杯だ。
それほどまでに物理的にボロボロになっていた。
「終わりだな。トドメはお前がやれ」
「ああ」
“早い性質”の神が瞬時に肉薄する。
理力の剣が司の首を刎ねようと振るわれる。
「ごはっ!?」
刹那、膨れ上がった魔力が神を吹き飛ばした。
「なっ……!?」
「………」
司は相変わらず瀕死だ。
だが、確かに今、司による攻撃で神は吹き飛んでいた。
「(なんだ、今のは……!?)」
ゆらり、と緩慢な動きで司は動き出す。
力尽きる寸前で、それでも戦おうとする。
そんな姿勢にも見える。
「ッ―――!?」
一瞬だった。
一瞬で司は“天使”の一人に肉薄し、シュラインで貫いた。
さらにそこから“祈り”を爆発させ、砲撃で薙ぎ払う。
「ごっ!?」
突き刺さったままの“天使”を掌底で吹き飛ばす。
一挙一動が、強い“祈り”と共に繰り出されていた。
「っ、なぜ“妨害”しない!?」
「……出来ない。“妨害”すべき“点”がわからない……!」
そして、何よりも“早い性質”も“妨害の性質”も無視していた。
どちらの“性質”も、司の思考や動きなどから、ある一点を抑えるように“性質”を働かせる事で、先手を取ったり“妨害”していた。
だが、その“一点”が今の司の動きには存在していなかったのだ。
「は……?」
「来るぞ!」
“天使”の声に、“早い性質”の神がすぐさま司に視線を向ける。
……が、直後に司は転移でそこから消える。
「速……ッ!?」
「(なぜ、なぜ動きが読めない!?)」
転移は一回だけでなく、連続だった。
加え、置き土産に“祈り”の魔力を転移ごとに設置していた。
「くっ……!」
さすがに、その魔力の炸裂は“妨害”される。
魔力の炸裂そのものを“妨害”されたため、魔力はその場に停滞する。
「ぁ……!?」
しかし、その間にも司は動く。
転移と共にシュラインで薙ぎ払い、“天使”の一人を執拗に狙う。
一撃で障壁を切り裂き、二撃目から何度も斬り刻む。
「このっ……!」
別の“天使”が理力を炸裂させる。
避ける素振りを見せない司だったが、その代わりに“祈り”で薙ぎ払った。
理力と“祈り”がぶつかり合い、相殺される。
「ごっ……!?」
腕を、シュラインを振るう。
その度に“祈り”が衝撃波となって“天使”を打ちのめす。
一撃一撃が強烈で、さらに魔力弾もそこに追加されていた。
“妨害”不可の怒涛の連撃を、その“天使”はまともに食らってしまう。
「―――討ち滅ぼせ」
―――“Supernova Explosion”
掠れるような声が、司から放たれる。
直後、“天使”が極光に呑まれた。
「ッッ……!?」
極光の爆発はその“天使”だけの被害に収まらない。
司自身すら巻き込み、爆風が周囲の“天使”を吹き飛ばす。
「ッ、そこか!」
転移で“早い性質”の神に肉薄する。
神も“早く”動きに気づき、そこへ理力を振るう。
「それ以上は……させん!!」
さらに、“妨害の性質”の神が全力で“妨害”する。
動きの一点を抑える事で行動を阻害する“妨害”だが、今回は違う。
司のあらゆる動きを“妨害”とする事で、動きの起点に関わらず動きを止めた。
「っ……!」
尤も、消耗は凄まじい上に効果は今までよりも薄い。
司の動きは完全には抑えられず、神の攻撃はシュラインで逸らされる。
「ぁあっ!!」
「ぐっ……!」
“祈り”の一突きが繰り出される。
“妨害”を突破しての一撃なため、追撃はない。
だが、神の障壁を容易く突破し、左肩を貫いていた。
「はぁっ!」
神が理力を放ち、司を吹き飛ばす。
しかし、司にはダメージがほとんどなかった。
瞬時に障壁を多重展開し、クッションのように受け止めたのだ。
「させるか!」
「………」
「ッ……!?」
吹き飛んだついでに転移でさらに間合いを離した司は、魔法陣を多数展開する。
それを、神と“天使”で“妨害”するが、追い付かない。
起点がわからないがために、展開速度に追いつけずに、数えるのも億劫な程の魔法陣が展開、そして“祈り”が装填される。
「―――諸人の祈りよ、降り注げ」
―――“Prière éclairer Reflet”
人々の“祈り”を攻撃として敵へと放つ。
その弾幕は全て躱すには余程の機動力がなければ不可能な程だ。
当然、神達も躱せずに防御に入った。
「ッ―――!!」
それが、“早い性質”の神にとって、運命の分かれ目だった。
「は、ぇ……?」
「―――討ち滅ぼせ」
―――“Supernova Explosion”
気が付けば、シュラインによって貫かれていた。
弾幕に紛れるように司が転移で肉薄していたのだ。
そして、超圧縮された“祈り”が叩き込まれ、爆発した。
「やられた……!」
まずは連携を潰す。
それを実行された事に、“妨害の性質”の神は歯噛みする。
「は……ふ、ぅ………」
その時、司はその場でふらつき、倒れかける。
「ぁ、ぅ……上手く、行った……?」
〈はい。それはもう、完璧に〉
まるで、今まで意識がなかったかのように、司はシュラインに尋ねた。
事実、司は先ほど意識を失っていたも同然だ。
極限までボロボロになり、全てを本能及び無意識下に置く。
そうする事で、自らの意思を悟らせないようにしたのだ。
「……そっか」
無論、それだけでは神界の存在は倒せない。
“意志”がなければ、到底倒せるはずもない。
だからこそ、もう一つ仕込みがあった。
「確信は持ってたけど、上手くいってよかった」
漂うプリエール・グレーヌを見ながら、司はそういった。
本能や無意識下での司は、そこまで強くはない。
優輝のように導王流の極致に目覚める程、武術に優れている訳でもない。
それでも動けたのは、偏に“祈り”の力によるものだ。
司は、事前にプリエール・グレーヌに“祈り”を込めていた。
本能だけでも、無意識下だったとしても勝てるようにと、そんな“祈り”を。
当然、その“祈り”には“意志”も込められており、その力で倒していたのだ。
「……天巫女は、世界中の人々の“祈り”を背負っているんだから」
いわばドーピングと本能と無意識によるごり押し。
それを司は行っていた。
加えて、プリエール・グレーヌを通じてあらゆる世界の生命から“祈り”の後押しを受けていた事で、その効果は絶大なモノへと変わっていた。
「っ……」
“妨害の性質”の神とその“天使”は、そんな司に警戒して間合いを取っていた。
“早い性質”の神が倒れた事で、先手を確実に取れなくなっている。
さらに、先ほどの動きをまたしてくる可能性もあるため、迂闊に動けないのだ。
「体に染み込ませた技術って、本当便利だよね。私の場合、“祈り”で無理矢理昇華させないと使い物にならなかったけど……」
そこで言葉を区切り、司はシュラインを構え直す。
「……こと、ここに至ってはこれ以上なく役立ったみたい」
そして、挑発するかのように笑った。
その挑発は、本来なら神に効かなかっただろう。
だが、先ほどまで圧倒された事、そして何より“性質”を無効化された事で、神はいとも簡単に挑発に乗ってしまった。
「ほざけ!!」
圧力として“妨害”を掛け、司の動きを封じようとする。
同時に、“天使”達が司に向けて理力の極光を放つ。
「反射的行動。それは本人すら意図しない行動」
それに対し、司は杖を立て、ただ“祈った”。
だが、その動作に反し、司は分析するかのように言葉を紡ぐ。
「だからこそ、局所的な干渉を行う“性質”すら、無視できる」
“祈り”が放出され、“妨害”を相殺する。
同時に、言葉を言い終わった司が転移魔法を発動し、その場から消え去る。
「あれだけ一方的にやられたのは、ただ本能に任せるだけじゃないんだよ」
「ッ……!」
転移からの一突きを、神は躱す。
さらに槍の動きを“妨害”するが……次の瞬間には魔法陣が展開されていた。
「ちぃっ……!」
魔法陣からの極光は障壁で防がれる。
だが、明らかに“性質”からの解放が早い。
その事に神も気づく。
「“性質”、分析させてもらったよ。あそこまで何度も受ければ、さすがに対策のための“祈り”も使える」
「………くそっ!」
そう。“祈り”の力とはいえ、司は“妨害”に対して耐性を得ていた。
理論では測り切れない“性質”だが、実際に受け続ければ理解は出来る。
それを利用し、司は一方的にやられつつもその感覚を分析していたのだ。
結果、“妨害”を相殺できる“祈り”を扱えるようになった。
「っ……!」
横合いからの“天使”の攻撃を障壁で防ぎ、司は防いだ体勢で横に滑る。
その勢いを利用し跳躍。瞬時に大量の魔法陣を展開する。
内、半分以上が“妨害”されるが、それを想定した量を展開していた。
「諸人の祈りよ、降り注げ!!」
―――“Prière éclairer Reflet”
展開された魔法陣から、魔力弾と砲撃が放たれる。
当然、“祈り”も込められているため、直撃すればダメージは必至だろう。
全方位に放たれたためか、先ほどよりも弾幕密度は薄い。
しかし、それでも回避は難しいと言える程だった。
「ッ!!」
全方位への攻撃。その“妨害”となる極光が司へと放たれる。
“性質”を相殺しているとはいえ、相手が弱くなった訳ではない。
そのため、敵も回避や防御をしながら反撃してきた。
「はぁっ!」
それらの攻撃を、司もシュラインで迎撃し、時には障壁で防ぐ。
大体は回避もするが、防戦一方となる。
だが、それでも弾幕は終わらない。
「(戦っているのは、私だけじゃない……“皆”がいる……!)」
世界中の生命。そして、歴代天巫女の“意志”。
それらがプリエール・グレーヌを動かし、魔法陣を操っていた。
「ぉおおっ!!」
「ッ、くっ……!!」
そこへ、弾幕を抜けてきた神が司に鋭い蹴りを放つ。
シュラインと障壁で防いだ司だが、一気に押される。
「お前の力を増幅するモノも、あれらで最後だ!ならば、この上から押し切る!」
「ぐっ、ぅ……!」
一点集中させたのか、その力は凄まじい。
今の司でさえ、その一撃から逃れられず、防御態勢を解けない。
「所詮は人間!寄せ集めの“意志”だけで、全て解決すると思うてか!」
「……それが、人間だよ!!」
一際強い“意志”で、司はシュラインを振りぬいた。
“ギィン”と一際大きな音が響き、何とか攻撃を受け切った。
「どうしようもない事態に陥った時、人は祈る!そして、乗り越えようと意志を貫く!一人では出来なくても、皆で力を集めれば、きっと成し得る!」
「ッ……!」
弾幕を避けながら“天使”達が援護射撃をしてくる。
さらに、神本人も鋭い一撃を何度も放ってくる。
それらを、司は障壁とシュラインで逸らし、または躱す。
「皆が、抗ってる。その想いは、決して阻めはしないよ!!」
「ほざけぇ!!」
「ぁぐっ!?」
防御を掻い潜り、理力を纏った手刀が司に直撃する。
“妨害”を相殺した際の一瞬の硬直を狙った攻撃だった。
「どれほど粘ろうと、これ以上の力は出せまい」
「………だとしても、この祈りは阻めないよ……!」
起き上がり、シュラインを支えにしながらも司はそう言いきる。
一度肉体的に満身創痍になった後だ。このまま押され続ければ司も危うい。
「ならば、妄想を抱いたまま倒れるがいい!」
……尤も、“このまま”であればの話だが。
「―――なっ!?」
トドメとばかりに振るわれた理力が、強固な障壁に阻まれる。
「……言い忘れていたけど、いつこれが限界だって言ったかな?」
その障壁の中心には、いくつかのプリエール・グレーヌを合わせた結晶体があった。
「ジュエルシード……ううん、プリエール・グレーヌは遥か昔の天巫女が生み出した存在。……なら、今の天巫女が生み出せてもおかしくはないよね?」
「ッ……!」
そう。これが司のもう一つの切り札だった。
司が、祈梨と共に生み出した新たなプリエール・グレーヌ。
否、祈梨が協力した事で、最早種とは呼べない代物だった。
「名付けて、祈りの花……!これが、“祈り”の究極系だよ……!」
「ぐ、ぁあっ!?」
強い“祈り”の光が放たれ、神は思わず吹き飛ばされる。
すぐに体勢を立て直し着地するが、既に司が肉薄していた。
「もう、貴方の“性質”は効かない……!」
元々のプリエール・グレーヌに加え、プリエール・フルールが加わった。
そして、何度も受けた事により感覚で理解した。
そこまで来れば、完全な相殺は容易かった。
「お前らぁっ!」
一人では勝てない。
そう悟った……悟ってしまった神は、“天使”達に呼びかける。
だが、その返事は吹き飛ばされてきた事で返ってきた。
「……は……?」
「今ここで戦っているのも、私だけじゃないよ。シュラインが、祈梨さんが、そして……遥か昔の天巫女達が戦っている……!」
見れば、プリエール・グレーヌから放たれる“祈り”が人の形を取っていた。
それらは全て、そのプリエール・グレーヌを作った天巫女の“祈り”と“意志”だ。
司と祈梨による過去の英雄を呼び出した影響で、天巫女達も召喚されていた。
本人はここにいないが、その“意志”がプリエール・グレーヌに込められた“祈り”を呼び覚ましたのだ。
「“世界よ平穏であれ”。天巫女としての力を全て賭して作られたプリエール・グレーヌ……例え時を経て本当の名を失おうと、その“祈り”は健在だよ」
祈梨が天巫女として生まれるよりも昔。
天巫女一族の全盛期とも言える時代にプリエール・グレーヌは生み出された。
当時、天巫女となる存在は25人おり、全員が天巫女としての司より才能があった。
次代の天巫女が自分達より才能がない事を悟り、後世に力を残そうとした。
それによって生まれたのが、プリエール・グレーヌだった。
世界が平和であるように願われたからこそ、強い力を持つ。
その事実が、今目の前で繰り広げられていた。
「貴方は私に敗北するんじゃない。……人々が紡いできた“意志”に……積み重ねた“祈り”に敗北するんだよ!!」
「ッッ………!?」
“天使”達が、天巫女達の“祈り”によって倒されていく。
同時に、シュラインとプリエール・フルールが光り輝く。
「人から天へ!天から神へ!我らの祈りは無限に続き、夢幻に届く!!」
「(……あぁ―――)」
“逃がさない”という“祈り”が鎖となり、神は串刺しのまま拘束される。
そこまで来て、神は力を抜いた。
「想いを束ね、祈りを束ねる!撃ち貫け!!」
「(如何なる“妨害”を以ってしても乗り越える。―――それこそ、我々が見てきた生命達の“意志”ではないか……)」
「“夢幻に届け、超克の祈り”!!」
「(……ならば、こうなるのも道理、か―――)」
眩いばかりの輝きが、辺り一帯を覆った。
収まった時には、既に司しかいなかった。
“妨害の性質”の神が、ついに倒れたのだ。
「はぁ……ふぅ……!」
司も、さすがに疲弊を隠せずにいた。
先ほどの技は、祈梨が神になってから習得した技だ。
様々な補助を受けた状態とはいえ、今の司が放てば大きく消耗するのも当然だった。
「……あ……」
そんな司の目の前で、プリエール・フルールが砕け散った。
ガラス細工が砕けるような音で、あっさりと割れてしまった。
「……元々、一度きりだったもんね……」
司と祈梨の共同で作ったとはいえ、急遽作ったモノだ。
本来ならば天巫女の力を失う事を覚悟して作る代物であるため、いくら共同で作ったとしても他のプリエール・グレーヌと同じように使えるはずがなかった。
「おかげで、勝てたけどね……」
共同だったのもあるが、祈梨は歴代最強の天巫女且つ、神界の神だ。
その“祈り”の力は他のプリエール・グレーヌを合わせたモノにも劣らない。
だからこそ、戦いの最後で圧倒出来た。
「……よしっ」
両手で頬を叩き、司は気合を入れ直す。
「優輝君の援護に行くよ!」
拳を突きあげ、司は走り出す。
天敵を倒し、“意志”は持ち直した。
消耗が皆無という訳ではないが、司は優輝を助けるためにその足を進めた。
後書き
Supernova Explosion…“超新星爆発”。圧縮した“祈り”を叩き込み、文字通りの爆発を引き起こす。規模の調節が可能で、規模を小さくする程に威力が増す。ただし、規模次第では自身も巻き込む。
Prière éclairer Reflet…“輝き照らす祈り”。大量に展開した魔法陣から魔力弾や砲撃を放つ。フェイトのフォトンランサー・ファランクスシフトの上位互換のような魔法。
プリエール・フルール…司と祈梨が協力して生み出した、新たなジュエルシード(プリエール・グレーヌ)。一つしか生成出来なかったが、その力は25個のプリエール・グレーヌに匹敵する。
司がしたのはDB超における身勝手の極意に似た事を疑似的に再現した感じです。本能と無意識下の動きに任せ、事前の仕込みでそれらの動きを超絶強化した、という訳です。
本来、プリエール・グレーヌを作るのは天巫女の力を失うのと同義です。そのため、今回は一回きりに抑える事で力を失わずに済むという裏技を使っていました。
……そうでないと、司や祈梨がパワーバランスを崩してしまいます。
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