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少年は勇者達の未来の為に。

作者:幽牙
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鷲尾須美は勇者である 再臨の章
  第三話

 
前書き
初戦闘です。 

 
「よいっしょっ!ほらっしょ!」

蓮は朝起きてすぐ、そして学校から帰った後、唯香と共に畑を耕すのが日課になっていた。
唯香曰くこれがウチの基礎訓練!らしいのだが、どう見ても農作業でありお役目の為の訓練には思えなかった。

学校から帰り、農作業をしていた時のこと。
ずっと疑問に思っていた蓮は木陰で休憩中、唯香に聞いた。

「唯香さん、なんで、畑を耕すと、訓練に、なるんです、か?」

慣れない農作業をしていた為、蓮の息は絶え絶えだった。

「答えはイージーよ。戦闘訓練に移る前に蓮君には基礎体力を上げて貰いたいの」

「それなら走り込みとか、筋トレの方がいいんじゃ・・・」

「ノンノン、それを一つ一つやっていたら時間が足りないわ。そこでこの畑作りなのよ。桑を振れば筋力はつくし、体力もつく、おまけに野菜も作れる。一石三鳥なのよ」

白鳥家特有の不思議な話し方で蓮からの質問に答える唯香。
だが蓮は不安だった。確かにここに来る前より体力と筋力はついた。しかし、蓮は聖剣を使い、戦うのだ。それなら剣術などの方が良いのではないか。

「・・・」

「不安になるのもわかるわ。お役目はいつ始まってもおかしくない。なのに悠長な事してて良いのかって思ってるでしょう」

蓮はどきりとした。今思っていた事を完璧に当てられたのだ。

「でも、そんな時こそ焦っちゃNOよ。基礎体力が無いのに、戦闘訓練をしても身に付かないわ。今やるべき事をしっかりとやるの」

唯香はそう言い、立ち上がる。

「さて、今アナタがやるべき事は?」

「・・・トマトを植える事?」

「YES!」

蓮は少し考えてから答え、唯香は笑顔で肯定した。
そんな事を話したのが、白鳥家に来て一週間も経たない頃だった。


二週間程経ったある日、蓮は唯香に道場へと呼び出された。

「今日から本格的に戦闘訓練を始めるわ。準備は出来てる?」

「はい!」

そして戦闘訓練が始まった。まず、唯香が行った訓練は攻撃を避ける訓練だった。

「まずは、敵の攻撃を避けれなくちゃね。そうすれば死なずに済む確率が上がるわ」

と言い、唯香は鞭を振るった。それを蓮は木刀で防ぎ、躱す。それが出来るまで一週間掛かった。
唯香の鞭は鋭くかった。最初は全く見えず、蓮はミミズ腫れだらけになり、学校で園子や銀、須美に心配されていた。
唯香曰く"回避が一番大事。強力な攻撃でも当たらなければどうという事は無い"らしい。
一応剣術と体術も学んだ。と言っても剣に振り回されない為のものだったが。









そして蓮が白鳥家に来て数ヶ月が経った頃、大赦の用事があると言い唯香は朝早く出かけて行った。
蓮は農作業をした後、朝ご飯の蕎麦を食べていた。白鳥家では野菜も美味しいのだが、蕎麦も格別だった。先祖代々の畑で実から作っている物なのだとか。

「ふう・・・さて、学校に行こうかな」

一段落着いた蓮は学校に行く準備を進めていた。その時

「蓮君!良かった、いた!」

「唯香さん?」

唯香が慌てて部屋に入って来た。ただならぬ様子だ。

「ハァハァ・・・知らせよ。今日か明日、お役目が始まるらしいわ」

「・・・!」

遂に、だった。

「蓮君、お役目が始まったら我が家での訓練を一時中断します。理由は他の勇者と足並みを合わせるためよ。」

「まぁ僕だけで戦うわけじゃありませんからね・・・」

お役目の敵ーーーバーテックスとは自分一人で戦うわけでは無い。恐らく同じクラスの三ノ輪さん、のこちゃん、鷲尾さん、そして僕の四人で戦う事になる。

「・・・そっか・・・遂に・・・」

一人では無い。それだけでも蓮はかなり安心していた。
しかし、いくら覚悟が出来ていても、一歩間違えれば『死ぬ』お役目が始まる。
蓮は身体の震えを止める事が出来なかった。
その時、ふいに唯香から抱きしめられた。

「・・・?」

「そしてこれは私からのお願い・・・無事に、生きて帰って来て・・・!」

唯香は泣いていた。こんな小さな子に、世界の運命を任せてしまう事。何故自分は戦えないのか。自分の不甲斐なさに、そして申し訳なさに涙を流していた。

「大丈夫です・・・皆と一緒に帰ってきます」

「うん・・・うん・・・!」

「・・・じゃあ、行ってきます」

「グスッ、行ってらっしゃい!蓮君!」

蓮は唯香に必ず帰って来る旨を伝え、学校に向かう。
唯香もいつもの笑顔で蓮を送り出す。

僕は幸せ者だ、僕の為に泣いてくれる人がいる。僕の無事を願ってくれる人がいる。
絶対に生きて帰るんだ。誰も、死なせない・・・!










登校中、鷲尾須美は考えていた。
この世界の事を、そして聖剣の事を。

(私達は神樹様と聖剣のお陰で今まで生きてこれた)

神樹様は私達に恵みを与えてくれ、バーテックスから人類を守ってくれているご神木。聖剣はその神樹様と共に人類を守ってくれていた。そして大赦は神樹様と聖剣を守る為に生まれた組織。お役目とはバーテックスから神樹様を守る為のもの。
神樹様が殺されると、私達人類も死に絶える。故にお役目に失敗は許されず、常在戦場の気持ちでいなければならない。

(そのはず、なんだけどなぁ・・・)

教室に入ってまず、目に入るのが教室の中央辺りに居る、机に頭を置いて寝る金糸の髪の少女と、机の主である黄色の髪をした少年が彼女の頭を撫でながら灰色の髪の少女と談笑していた。
あの三人は六年生になった今でも変わらず、ゆる〜い空間を生み出していた。
それを見てついつい自分も緩んでしまう。いけないいけない、常在戦場常在戦場。
気を引き締めるものの持って数秒、すぐにまた緩んでしまう。アレを毎日の様に見せられてるのだからしょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。

気を落ち着かせた後、須美は席に座る。

「ふにゅ〜・・・」

「そんでさ?・・ってヤベ、そろそろチャイム鳴りそう。じゃあ蓮また後でな!」

「うん、わかったよ銀ちゃん。ほら、のこちゃんもそろそろ起きないと。先生に怒られちゃうよ?」

「んおぉ〜・・・んなぁ〜・・・」

「ふふっ凄い鳴き声だねぇ」

園子の呻き声に蓮が小さく笑う。須美もクスリと笑った。こんなやりとりが作り出す雰囲気が須美にはとても心地良かった。
そんなこんなで席に戻る園子と銀。そして、来る担任。今日も変わらない一日が始まるんだろうなぁーーーーそう考えていた矢先。

その平和は突如として終わりを告げた。


「・・・ッ!?みんなッ!?」

ドクンッ・・・と今まで感じた事のない感覚を味わい、須美はクラスメイトに声を掛ける。しかし、誰も応じなかった。
全てが止まっていた。人、物、他の生命ーーー全ての時が。

「・・・遂にお役目が始まったって事かな、これは・・・」

「ッ!白鳥君・・・」

「なぁなぁ、これって敵が来たって事か?」

「三ノ輪さんも・・・動けるのね」

よく見ると園子も目を覚まし、欠伸をしている。
その直後、世界は光に飲み込まれていく。あまりの眩しさに四人は腕で目を隠した。そして次に目の前の光景を見たとき、信じられない光景を見た。
外に見えていた街の景色など面影も無くなり、巨大な樹木で埋め尽くされた空間ーーー樹海。

「これが・・・樹海・・・」

「町がぜ~んぶ木になっちゃったよ・・・」

「スゴイ・・・」

「あ、でも木になってない所もあるよ~」

各々の感想をつぶやく勇者たち。

「なぁ、向こうに見えるのが神樹様だよな?」

「そうだね~・・・久々に見たな。僕も」

「白鳥君神樹様に御会いしたことあるの!?いつ!?」

「モナド引き抜いた時だよ~・・・ってあれは・・・」

4人の眼前に広がる樹木の海。その遠くに見える、唯一他の建物のように樹木と化していない瀬戸大橋。これが私たちの戦う場所だ。
白鳥君がさらりと衝撃的なことを呟いた。神樹様に会うなんてそうそうできる事ではない。更に追求しようとしたその時。

「あれが・・・私たちの、敵」

「"バーテックス"・・・」

結界の向こうと四国を繋ぐ大橋、その上を進む・・・顆粒を束ねたような姿で大量の水に覆われており、二つの巨大な水球を備えている、全長10メートルを超えるであろう化け物。それこそが“バーテックス”。後に水瓶座、アクエリアス・バーテックスと呼称される存在。このバーテックスが大橋を渡りきり、神樹様へと到達した時、人類は滅びる。敵が現れた以上、こうして呑気に喋っている場合ではない。

4人はスマホを取り出し、お役目に選ばれた勇者だけが使用できるアプリ、神樹様の力を使い製造した『勇者システム』をタップする。
すると、瞬く間に四人の体が光に包まれて行く。光が消えると4人の姿は、それぞれ別の色合いの服に変わっていた。

須美は薄紫、園子は濃い紫、銀は赤を基調とした服装に。蓮は全身を黒いインナーと、黒装束に包まれ、所々には赤い鎧が装着された。

「お~・・・カッコいいな!」

「ほえ~スゴイ、あっと言う間に着替えちゃった・・・」

「みんな似合ってるんよ~♪」

「ほら、皆敵が来てるんだから後にしましょう」

四人の感想が飛び交う中、須美はバーテックスに注意を向けていた。

「まずは、牽制で私が攻撃してみるわ。皆はその後に・・・」

「行くぞぉぉぉぉぉぉ!!」

「銀ちゃん待って!速い速い!」

「あっちょ二人共!」

「わ~!置いてかないで~!」

「乃木さんも!?」

いの一番に飛び出す銀。それを追いかける蓮と園子。須美は呆れながらも三人に付いていった。



勇者となったことで身体能力が大きく向上したのか、数分と掛からずに大橋に辿り着く4人。

その手には武器を手にしており、銀は双斧、園子は槍、須美は弓、そして蓮はモナドを手にしていた。

「一番槍はこの銀様が」

「悪いけど、まずは僕から行かせてね~」

「あっ!蓮!ズルい!」

「白鳥君!?」

「おぉ~」

先に飛び出していた銀よりも速く、蓮はバーテックスへと接近する。モナドの試運転や無策で銀を危険にさらせないようになど理由はあるが、やはり蓮も男の子、カッコいい所を皆に見せたかった。

「さぁ、行くよ。モナド」

蓮はモナドに語り掛ける。

「まずは一気に近づいてぇ!」

蓮は走りながら跳躍し、モナドでバーテックスを切りつける。表面が切り裂かれ、確かにダメージは与えられたようだ。

「・・・あれ?」

だがしかし、蓮が思っていたような成果は出せなかった。蓮が切りつけた部分はすぐに修復されてしまいーーー

「痛ったぁ!?」

バーテックスは水弾を蓮に飛ばし、吹き飛ばした。

「れー君!」

「蓮!こなくそぉ!」

「三ノ輪さん!待って一人じゃ危険よ!」

吹き飛ばされる蓮。銀は怒りをあらわにし、須美の制止も聞かずバーテックスに向かっていった。

「せりゃあっ!」

向かってくる銀にバーテックスは水流と水弾で迎撃する。銀は水弾を切り裂き、水流をジグザグに飛びながら近づき、斧を振るう。だが、バーテックスは周囲に水弾を作り出し、連続で浴びせる。咄嗟に銀は斧で身を守るも、吹き飛ばされてしまう。彼女が着地する頃にはバーテックスは修復を完了させていた。

「クソっ!再生とかズルいぞ!こっちはできないのに!」

「ミノさん危ない!」

「園子! 助かっ」

「あっごめん、これ無」

せっかくの攻撃がすぐに修復されてしまい、悪態と文句を言う銀に向けて、バーテックスが水流を放つ。咄嗟に園子は銀の前に出て槍を突き出し、複数の穂先を傘のように展開、水流を受け止める。が、小学生の体では受け止めきることが出来ず、二人共吹っ飛ばされた。

「三ノ輪さん!乃木さん!これ以上は・・・!」

須美が弓を構え、連続で矢を射る。バーテックスは自身の周囲に薄い水の膜を張り、矢の威力を下げる。突き抜けるころには矢は力を失い、虚しくも落ちていく。

「噓!?」

数十本は射ったのに・・・一発も・・・
その直後、バーテックスは水を圧縮させ、カッターの様にし須美を狙った。

咄嗟に飛んだ須美は回避に成功するが、頬を掠め、真っ赤な血が飛び散る。
当たったら、死ぬ。その事実に。

(あきらめちゃ・・・ダメなのに・・・)

須美の心は

(怖い・・・こわい・・・!)

ぽっきりとへし折れそうになっていた。その時。

「させるかぁぁぁぁ!!」

蓮が須美の前に躍り出て、モナドを横にし、水流を受けきった。

「あ・・・しら、とり君・・・」

「鷲尾さん、大丈夫!?」

「う、うん、平気・・・あっ危ない!」

蓮の背後から水弾が襲い掛かる。蓮はモナドで弾き飛ばす。
何故回避しないのか・・・疑問に思った須美だったが、答えは簡単だった。
私だった。白鳥君は私を守るために動かない、いや動けないのだ。
不甲斐なかった。あんな偉そうに指揮を執って置いて、自分だけ何もできていない。
そんな自分が情けなくなり涙が溢れてくる。

「白鳥君・・・逃げ」

「鷲尾さん、怖い?」

「え・・・?」

「僕はね、正直、滅茶苦茶怖い。でも、さ」

「・・・!?不味い!蓮!須美!そこから離れろ!」

須美に対し、己の心情を語る蓮に、バーテックスは水流のカッターを放つ準備を完了させていた。それに気づいた銀が叫ぶ。

「皆が、笑顔で、いられるのなら・・・!」

蓮はモナドを構える。

「皆が、怖い思いをするのなら・・・!」

「逃げろ!蓮!須美ぃぃぃぃ!」

「二人共、逃げてぇぇぇ!!」

銀と園子の叫びも虚しく、二人に向けて水流が発射される。

「僕が、戦うんだ!!」

そう告げた。その直後。
二人の居た場所を水流が破壊した。










「なんだ・・・これ・・・?」

自分でも分からなかった。モナドを構えた瞬間、モナドの剣の部分が開き自分の周りにこのバリアが展開されていた。
バリアは水流から二人を完璧に守り抜き、されど展開されていた。
そしてモナドの鍔の部分の穴にはーーーーー



『盾』という紋章が浮かび上がっていた。
 
 

 
後書き
いかがでしたでしょうか。戦闘描写が難しすぎる・・・

今回から唯香にルー語を喋ってもらいました。
そして、初戦闘並びにモナド覚醒回です。

ここ、こうしたら良いんじゃない?などのアドバイスありましたらドシドシ下さい。(心はガラスなのでなるたけ優しい言葉でお願いします。)

誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
感想、質問お待ちしております。 
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