少年は勇者達の未来の為に。
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鷲尾須美は勇者である 再臨の章
第二話
前書き
今回から勇者たちが出てきます。
戦闘はまだです。
(転校ってこんなに緊張するんだ・・・)
義母である唯香に滅茶苦茶元気一杯に『行ってらっしゃぁぁぁぁぁぁぁい!!』お見送りされた蓮は今、神樹館小学校5年2組教室の前にいた。
ホームルームを終わらせてから紹介するらしいのだが・・・そこで考える時間が出来てしまった蓮は、色々と考えてしまい、挨拶どころでは無くなっていた。
(まず何を話せばいいんだろう?おかしなこと言っちゃったら友達なんてできないだろうし・・・あっ、後名字も気を付けないと、今は犬吠埼じゃないからね。趣味とか言わなきゃいけないのかな・・・あぁ~もう緊張する緊張する!)
元々、蓮は人見知りや、緊張しやすい子供ではなかった。むしろ子供とは思えない位落ち着いた性格で、両親からは『これ程までに手のかからない子はいない』と言われるほどだったのだが、ここ1週間の出来事がありすぎてさしもの蓮でも心の準備や整理が出来ていなかった。
そんなことを考えていると、誰かが走る音が聞こえてきた。
「ヤバイヤバイヤバイッ!?」
ふと声のする方向を向いている。すると女の子が全力疾走で廊下を駆け抜け、近づいてきた。
「ヤバヤバヤバッ!てっあれっ?君、誰?」
「そういう君は?」
「あたし、三ノ輪銀!5年2組の三ノ輪 銀って言います!」
「ありゃ奇遇だね。僕は5年2組に転校してきた白鳥 蓮って言うんだ。」
階段を駆け上がって来た女の子に素性を聞かれ、思わず聞き返してしまう蓮。すると元気のいい返事が返ってきたので、自分も名乗る。
「あぁ~昨日安芸先生が言ってた転校生って君の事か!よろしくな!蓮!」
「うん、よろしくねぇ」
そう言って二人は握手を交わす。すると。
「蓮君、自己紹介をお願い・・・三ノ輪さん・・・?」
「あ、そうだ遅刻してたんだ、あたし。」
(ヤバいってそういう事だったのか・・・)
その後、銀のお陰で緊張がほぐれた蓮の自己紹介は何事もなく終わり、銀は先生に叱られた。
元気のいい女の子だなぁと蓮は思った。
「さっきはごめんなさい!」
「大丈夫だよ?気にしてないし・・・それよりもありがとう。三ノ輪さんのお陰で自己紹介の時、緊張しないで喋れたよ~」
「うえぇ!?いや感謝されることなんて・・・」
休み時間、銀はすぐさま蓮の所へ向かい、謝罪した。当の蓮はまったく気にしておらず、むしろ銀のお陰で緊張をほぐし、自己紹介を出来たため銀に対して感謝と好感しか抱いていなかった。
転校生に悪い印象を与えてしまったのではないかと、気にしていた銀だったが気にしていないどころか感謝までされるとは思わなかった。
思わず変な声を上げてしまった銀、さっきの事を気にしていない事にホッとしつつ、改めて目の前の男子、蓮を見る。
短髪の黄色い髪、顔は中性的で、遠目からだと女子とも見間違えそうなほど、瞳は薄い赤色をしていた。身長は自分と同じ位・・・何てことを考えながら蓮を観察していると、蓮がきょとんとしながら話しかけた。
「えーっと・・・何か顔についてる?凄い見てるけど・・・」
「んえぇ!?いや何もついてない!あ、いや、なにもじゃなくて目と鼻と口はちゃんとあるぞ!」
「そりゃそこは無いと・・・のっぺらぼうになっちゃうよ~」
「だ、だよな~アハハ・・・」
蓮に声をかけられ、銀は初対面の男子の顔をじっくり見ていたことに気づき、変な声を上げてしまい更に素っ頓狂な事を言ってしまい、それを蓮に突っ込まれたことにより恥ずかしさで顔が赤くなる。このままではイカンと思い自分のペースに引き込もうと思った矢先。
「ねぇねぇ白鳥君って何処から来たのー?」
「白鳥!サッカー出来るか!?一緒にやろうぜ!」
「わぁ~待って待って順番に答えていくから」
転校生特有の一時的な人気者化によってクラスメイト達が押し寄せ、その対応に蓮が回ってしまったことで無駄になり、銀はガックリと項垂れた。
昼休み、蓮が何をしようか考えていると、銀がやって来た。
「朝のお詫びに学校紹介をしたい!」
「有難いけど・・・良いの?何か用事とかない?」
「用事は無いし、せめてこれぐらいさせてくれ。それに学校の事ならあたしに任せんしゃい!」
「そこまで言うなら・・・わかったよ。ありがとう」
そんなこんなで始まった学校探検、ここが図書室、音楽室、職員室、と紹介しながら歩く銀とその少し後ろからついていく蓮。その道中、蓮はやけに多くの視線を感じた。すれ違う男子全員に睨まれている様にも見えた。
「それでここがあたしたちのクラス5年2組!」
(・・・あぁ~なるほどね。)
「分かりやすく説明してくれてありがとうね。お陰で迷わずに済みそうだよ~」
睨まれる理由を探しながら5年2組へと到着した二人。振り返りながら蓮に笑顔を向ける銀を見て蓮は納得した。
銀は可愛い。それが理由だった。つまるところあの視線は自分に向けられた嫉妬だったのだ。
身内びいきをせずとも美少女な姉と妹と同じ位銀は可愛いかった。それに、すぐに謝ることが出来る性格。初対面の自分の案内を自ら買って出るくらい面倒見も良い。とくれば男子からの人気があるのも当然だった。
「三ノ輪さん」
「ヒエッ・・・安芸先生・・・」
「貴女、昼休みに遅刻した理由を伝えに来てと言ったわよね?」
蓮が感謝を告げ、さあ終わり・・・となった直後、5年2組のドアが開き教室の中から声が掛かる。怯える銀に呆れているのは、眼鏡を掛けて一纏めにした髪を左肩から前に垂らしている女性、蓮と銀のクラス担任である安芸先生だった。
「あーいや、忘れてたわけじゃなくて・・・そう!白鳥くんの案内をしてて・・・」
「ふーん・・・とのことだけど蓮君、本当?」
「本当ですよ。凄いわかりやすく案内してくれました」
噓は言っていない。実際にわかりやすく説明してくれた。だが・・・
「じゃあもう終わったのね。さ、三ノ輪さん?職員室で理由を聞かせて?」
「アッッ(白鳥君助けて!)」
(ゴメン、どうしようもない。)
案内はもう終わった事を指摘され、目で蓮に助けを乞う銀。内心で謝りながらもうどうしようもないと目で伝える蓮。なすすべなく銀は職員室に引きずられて行き、お叱りを受けた。
乃木園子は少し変わった、いやかなりマイペースな小学生だった。
大赦の中でもトップクラスの名家である乃木家の令嬢として産まれた園子は、家の地位の高さから他の人間から疎まれる存在だった。それは幼稚園の時も、小学校でも一緒だった。自分のペースでいることが多い園子は差別され、周りの同級生からは『変人』のレッテルを貼られ、いじめられることもあった。友達なんて、夢のまた夢だった。
小学校に上がってからはいじめは無くなったが、園子にとっては『いじめ』も『無関心』も一緒だった。
神樹館5年生の今でもそれは変わらず、一人でいる事が多く、普段は寝て過ごしている・・・というか、気が付いたら寝ていることが多かった。それは自覚しているのかはわからないが、天然かつのんびりとした性格と、ボーッとするのが好きで気が付けばどんな場所であろうと寝てしまう、という彼女自身の問題でもあったが。
今日もそんな、代わり映えのない一日を過ごすのだろうーーーそう思っていた矢先。
昨日転校してきた男の子。白鳥 蓮が笑顔で『挨拶』をしてきた。
「おはよぉ~」
「・・・!おはようなんよ~」
蓮からすれば何気ない、同級生への挨拶。そこには何かの打算などはもちろん無い。
そんな普通のあいさつが園子にはとても嬉しかった。今までは無かった事だから。
昨日はクラスメイトに質問攻めにされ、昼休みは三ノ輪さんに学校案内を受けていた為、彼との交流は無かった。
自分から行ってもよかったのだが、もしも、彼が周りの人たちと同じだったら。そう考えると動けなかった。
だが、今の挨拶だけで十分だった。園子が彼を信じるには。
まだホームルームまで時間がある・・・園子は蓮の元へと向かった。
「れーくんはいつも朝早いの~?」
「れ、れーくん?うん、まぁそうだね。えっと君は・・・」
「あれ~忘れちゃった~?昨日自己紹介したのに~」
「ゴメンね。人数多いから・・・正直三ノ輪さんぐらいしか覚えてないんだ」
蓮が座る所に向かい、ふと思いついたあだ名で蓮に話しかける。いきなりのあだ名に戸惑いながらもちゃんと返してくれた事を喜び、自身の名前を知らないことに驚いた。
昨日一番接していたのが三ノ輪さんだから覚えているのはわかる。だが、自分はあの『乃木』なのだ。四国に住むもので知らない人はいないと言っていいほどの名字だから、覚えているものだと勝手に思っていた。
視線を感じ、園子は周りをチラ見する。廊下で先生や生徒が青い顔をしていた。ひそひそ話も聞こえる。自分は怪物か何かと思われているのかーーーーーそう思うと悲しくなった。
「それじゃあ改めまして・・・乃木さん家の園子です~」
「これはご丁寧に、犬・・・違う、白鳥さん家の蓮です。こちらこそ~」
「!・・・よ、よろしく~」
自らが名乗っても蓮は周りの大人たちのように態度を変えることなどしなかった。それどころか小芝居混じりの自己紹介に、合わせてくれた。
とても、とても嬉しかった。
ようやく『普通の友達』が出来た。そんな気がしたから。
自己紹介を終え、席に戻る園子。ああ、今日は、きっといい日になる。そんなことを思った。
その日、園子はずっと蓮の事を見てしまっていた。意識していた訳ではないのだが、気がつくと彼に目が行ってしまっていた。授業中だったので安芸先生に注意されてしまった。
休み時間、蓮は銀と話をしていた。と言っても銀がイネスの魅力について熱く語り、蓮は返事をするのが殆どだったが、蓮は凄く楽しんでいるように見えた。一通り語り終わった銀は”今度は一緒に行こうな!案内するからさ!”と元気に言い、蓮もそれに応じた。
友達とのお出かけ・・・園子には心躍る言葉だった。
昼休み、園子は蓮に声を掛けた。
「れーく~ん」
「乃木さん?どしたの」
「一緒にどっか行かな~い?後、私のことはノギ―やそのちゃんとか、好きなように呼んでいいよ~」
「ふむん?・・・じゃあ”のこちゃん”って呼んでも良い?」
「ふおぉ~のこちゃん。いいね~」
あだ名呼びにもちゃんと答えてくれる。園子はもっと嬉しくなった。
「じゃあ・・・どこ行こうか?出来たらのんびり過ごしたいなって思ってて・・・」
「いいよいいよぉ~お任せあれ~」
「では、のこちゃんにお任せしました~」
「了解了解~」
こんな寸劇にも付き合ってくれる。話のテンポも語尾を伸ばすところもなんとなく似ている。そんな共通点に嬉しくなった園子は蓮の手を取り、案内する。少し恥ずかしかったがそれを上回るほどに嬉しかった。蓮もそんな彼女に付いていく。
彼女が案内したのは中庭であり、2人は草の上に寝っ転がりボーッとして過ごした。
「・・・ふふ♪」
その日、帰った後園子は自宅のベッドの上で今日の出来事を思い出していた。思い出すだけでも思わず笑みがこぼれる。
「ねぇねぇ~聞いてサンチョ~」
園子は自身のお気に入りの抱き枕、サンチョに話しかける。小さい頃からの声無き友人だった。
「今日ね~わたし~」
「友達が、できたんよ~」
鷲尾須美は護国思想の持ち主で、『お役目』という使命に燃えている少女だった。
そして、同じお役目を担い、自分と似た境遇にいる蓮に興味が湧いていた。
須美は蓮が乃木、上里、高嶋、土居、伊予島、鷲尾、三ノ輪、白鳥、赤嶺、藤森、郡。大赦の中でも高い地位に存在する名家から、勇者や巫女が排出されるという掟に従って別の家から養子に出された。という事を義父から説明されていた。そして、彼が聖剣を抜いたことも。
どんな人なのだろうか。おとぎ話や英雄譚に出てくる様な人物なのか。それとも自分と同じくお役目に燃える人物なのか。
そんな事を考えていた。
彼。白鳥 蓮が転校してきて一ヶ月が経つ。
「おはよう、鷲尾さん」
「白鳥君、おはよう」
挨拶を交わす。そして、須美は自分の席に着く。
未だに須美は蓮とまともに会話できずにいた。
(白鳥君・・・またあの二人と居る・・・)
須美の視線の先には、自分の椅子を蓮の机の近くに持って行き、頭を置き眠っている園子と、園子の頭を撫でながら銀とおしゃべりを楽しんでいる蓮、蓮とイネスや学校の事について話している銀の姿があった。
今日、銀は遅刻せずに来れたらしい。
そんな三人を見ながら須美は考える。
(本当に私と同じ勇者・・・なのよね?)
似た境遇・・・と言っても蓮と須美はまるで月とすっぽんだった。
生真面目で責任感が強く、護国思想と名家・鷲尾の名にかけて、お役目を全うしようと励むお堅い性格の須美。
かたやいつも自然体でいて、ゆったりしている蓮。そこには思想や名家の誇りだとかそんなものは感じられなかった。
不真面目では無いのは理解している・・・のだが観察すればするほど、何故彼が聖剣に選ばれたのか、お役目の重要性をちゃんと理解しているのか。わからなかった。
(私が意識し過ぎてる・・・だけなのかな・・・?)
まだ”お役目”は始まっていない。だからこそ油断してはいけないはずなのだが。
(あの3人を見てると、ね)
楽しそうに団欒する三人を見ているとこちらの気も抜けてきた。
また、変わらない一日が始まるのだろう。須美はそう思った。
だが、そんな平和な時間は終わりを告げることになるのを今はまだ、誰も知らなかった。
後書き
いかがでしたでしょうか。
勇者の紹介で終わってしまった第2話。次回は戦闘します。
次の話からモリモリオリジナル入れていくつもりなのでお楽しみに。
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
感想、質問お待ちしております。
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