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天才少女と元プロのおじさん

作者:碧河 蒼空
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夏大会直前
  12話 息吹ちゃんお持ち帰りしちゃ駄目?

 
前書き
 感想でご指摘を受けました“息吹”が“伊吹”になっていた件について、修正しましたので報告いたします。

 伊吹だと某ヒトデガールになってしまいますね(^_^;) 

 
 対梁幽館の練習ばかりをしてはいられない。梁幽館と戦うには一回戦の相手、影森高校を倒さなければならないのだ。

 

 影森高校に偵察へ出掛けていた川口姉妹が持ち帰った情報を元に1回戦へ備える練習が始まった。

 

 現在、マウンドでは息吹がアンダースローで投げている。影森高校の投手を再現しているらしい。

 

 息吹は昔から芳乃の要望に答え、プロ野球選手のモノマネをしていたとの事。その甲斐あって、一見して初心者と思えないほど野球をする姿は様になっており、今も影森のピッチャーのモノマネは完璧らしい。

 

「なにそれ凄い。データとられても次の試合には全く別人になってる訳じゃん。試合中攻略されてもフォルムチェンジ出来るんでしょ?息吹ちゃんを倒しても第二第三の息吹ちゃんが現れるの?」

 

 ここまで一息で突っ込む正美であった。

 

「まぁ、身体能力まではコピー出来ないからご覧の通りなんだよなー」

 

 稜の言う通り、息吹の投げるボールを怜は次々とジャストミートしていく。いくら見た目は様になっていても、彼女は初心者なのだ。

 

「うー······勿体ないなー」

 

 正美と記憶を共有しているおじさんは死亡当時、プロチームのコーチをしていた。人格は全く別物とはいえ、多少なりとも彼の記憶に引っ張られる所はあるのだ。

 

「芳乃ちゃん、息吹ちゃんお持ち帰りしちゃ駄目?」

 

 正美は芳乃の元で、身長差から自然と上目遣いになり懇願する。

 

「駄目だよ」

 

 しかし、草野球のおじさん達にはクリーンヒットするあざとさも、芳乃には全く効果がない。

 

「だよねー······」

 

 芳乃の返事を聞き、肩を落とす正美だったが、そんな正美の手を芳乃は握った。

 

「でも~、息吹ちゃんの練習メニューを一緒に考えてくれるのは大歓迎だよ~」

「芳乃ちゃん!」

 

 正美は握られた手を胸元に上げる。感激しながら笑顔の芳乃と見つめ合う。

 

「よーし。パーフェクト息吹ちゃん育成計画“エースナンバーは君だ!”始動だー!」

「お~!」

 

 正美がプロジェクト始動の宣言をすると、芳乃も鬨の声を上げた。

 

「それは困るー」

 

 現エースの詠深は慌てて叫ぶ。

 

「あはっ。ヨミちゃんも息吹ちゃんに抜かれないように頑張ってね」

 

「うっ······タマちゃーん」

 

 詠深は珠姫に泣き付くのだった。

 

「でもそれは夏大会が終わってからだよ」

 

 大会中は選手のコンディションも考え、激しい練習は出来ないし、練習時間も短くなる。必然的に強化練習は大会が終わってからになるのだ。

 

「そうだねー。楽しみだなー」

 

 正美の視線の先にいる息吹は一瞬、寒気の様なものを感じるのだった。 
 

 
後書き
~没ネタ~(読まなくても大丈夫なやつ)


 休憩時間となりベンチに戻ると、正美は伊吹に声を掛ける。

「息吹ちゃん。私の投球フォーム真似できる?」

 正美は息吹に自分のモノマネが出来るか尋ねた。

「え?······うん。多分できると思うよ」

「じゃあさー······」




「希ちゃん。1打席だけ勝負しよー」

 いつもの居残り練習で正美は希に勝負を申し込んだ。

「······良かばってん、いきなりどげんしたと?」

 希は疑惑の試験を正美に向ける。

「良いから良いからー」

 そんな希に構わず、正美は希の背中を押してバッターボックスに立たせた。

 正美はマウンドへ駆けるが、そこには既に息吹が立っている。

 二人でコソコソと話し込む様子に希は疑問符を浮かべた。

「ねえ、本当にやるのか?」

 息吹は再度、正美に確認を取る。

「勿論!希ちゃんをビシッと抑えるよー」

 そんな息吹に正美はにへら顔を浮かべ、悪戯を仕掛ける子供のように話す。

「てな訳で、最初は息吹ちゃんに任せた!」

 相談が終わったのか二人は希の立つバッターボックスに向き直った。

「お待たせー。それじゃあ行くよー」

 希が構えたことを確認すると、正美と息吹が同時にセットポジションをとる。

 希の疑問を余所に、二人は同時に投球動作に入ると、また二人同時に腕を振り抜いた。息吹の投げたボールが放たれストライクゾーンへ吸い込まれていったが、正美の手からは何も放たれない。

 再び希に背を向け、すくに打ち合わせを済ますと、また二人でセットポジションに入った。

「次行くよー」

 困惑する希を尻目に再び二人で投球動作に移る。今度は正美からボールが放たれ、息吹の腕は空を切る。二球目も見逃し、B0ーS2。

「······ねぇ、これ何と?」

 ジト目で正美を睨み、希は正美に問う。

「ふっふっふー。球が分身せずピッチャーが分身する魔球。その名も逆分身魔球!」

 胸を張って宣言する正美に希は呆れた視線を向けた。

「さあ、希ちゃん。この魔球に沈めーっ!」

 二人同時に振られた手のうち、正美からボールが放たれる。

 そのボールを希は完璧にコンタクトするとライトへ弾き返した。

「そんな······私達の魔球が······」

 正美はマウンドで崩れ落ちる。

「ほら、下らん事やっとらんで練習するよ」

 そんな正美を気にもとめず、希は居残り練習の準備を始めた。 
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