レーヴァティン
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第百六十六話 全て整いその九
「俺は女が好きだ」
「出陣される間もですね」
「女を抱く」
このことも言うのだった。
「そのことはわかってもらう」
「そうしてですね」
「くれぐれもな」
「妬むことはですね」
「しないでもらう、俺は多くの女を妻にしているが」
それでもというのだ。
「お前は正室でだ」
「第一で、ですね」
「最も抱くのもだ」
その相手もいうのだ。
「お前だからな」
「それで、ですね」
「妬む必要はない」
一切というのだ。
「わかっているな」
「そのことは」
「ならいい」
「そう言って頂けますか」
「そうだ、ではな」
「これよりですね」
「今宵は酒を飲まずにな」
そうしてというのだ。
「お前とだけいる」
「そうして下さいますか」
「酒のない生に何の意味があるか」
酒を好む者としての言葉だ。
「そして女のない生もだ」
「意味がないですか」
「そうだ、しかしだ」
それでもというのだ。
「両方を同時に楽しもうと思わない時もある」
「それが今宵ですか」
「今は女だけだ、そしてだ」
「私だけをですか」
「相手にしたい、いいな」
「それでは」
お鈴は微笑んだだった、そうして。
英雄に抱かれた、そして次の日の朝に。
英雄はお鈴と共に朝飯を摂った、その朝食は茶粥とだった。
少量の漬物だった、英雄はその朝飯を食いつつ自分の向かい側の膳で食べているお鈴にこんなことを言った。
「美味いな」
「左様ですね」
お鈴は食べつつ微笑んで応えた。
「このお粥は」
「実にな」
「前から思っていましたが」
「何だ」
「上様はお粥がお好きですね」
「好きだ」
実際にとだ、英雄は答えた。
「こちらもな」
「お粥もですか」
「白米の飯も好きでだ」
それでというのだ。
「麦飯も好きでだ」
「お粥もですか」
「好きだ」
こちらもというのだ。
「無論茶粥もな」
「そうなのですね」
「幕府の棟梁としては質素だと言われるかも知れないが」
粥、それを食うことはというのだ。
「これは馳走だ」
「お粥はですね」
「特に朝のそれはな」
そうだというのだ。
「粥を作るにも手間がかかる、そして俺が粥を食いたいと言えばな」
「食べられるからですね」
「贅沢だ、俺は特に茶粥が好きだが」
今食べているそれがというのだ。
「粥の中でもな」
「それが召し上がられるからですね」
「贅沢だ、俺は満足しているしな」
「満足されているのならですね」
「贅沢だ」
そうなるというのだ。
「まさにな」
「そういうことですね」
「そうだ、それでだが」
英雄は箸を胡瓜の漬物の方にやった、そうしてそれを口の中に入れて咀嚼しつつそのうえで言った。
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