戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第3楽章~迫る生命のカウントダウン~
第21節「奇跡──それは残酷な軌跡」
前書き
前回、原作以上となったトラウマでぶん殴っていてなんですが、鬱展開はまだまだ続きます。
だって今回、まだ原作6話Aパートなので……。あと3話くらいはしんどいんじゃないかなぁ……。
その分、後書きで遊んでいくつもりですので、ご安心ください!
皆が信じる錬糖術師を信じろ。書いてるこっちも色々辛いんだ。
ってなわけで第三楽章、開幕!
推奨BGMは特に無し!でも翔ひびの重たい話あるから注意してね!
二課仮説本部。その廊下をストレッチャーに寝かせられ、響と翔が医務室へと運ばれていく。
「響くん……」
「く……ッ」
「翼さん……」
「お前……」
翼は壁を殴りつけ、悔し気に歯噛みしていた。
「二人の暴走を招いたのは、私の不覚だ……」
「それを言うなら……僕だって」
「あたしがあの時体勢を崩されなきゃ──ッ!」
「過ぎたことを悔いてもどうにもならん。敵の狡猾さが我々の一枚上だった……それだけだ」
「司令……」
医務室の扉が閉ざされる。
装者達はただ、二人に何もない事を祈り、それを見つめることしかできなかった。
ff
(あれ……? 響は……? 姉さんや純、雪音も、何処へ……?)
視界に広がるマーブル色の背景。
それはやがて、記憶の中に眠るモノクロの風景を呼び覚ます。
(また……あの夢か……。もう、随分と見ていなかったような気がするんだけどな……)
それは、忘れもしない二年前の光景だ。
当時、千葉の親戚に預けられていた頃に通っていた中学校。
「ライブ会場の惨劇」で、姉と自分を可愛がってくれていた姉貴分を喪った後に出会った、一人の少女がそこに立つ。
机には心無い言葉の数々を油性ペンで書きこまれ、その上にはいずれも惨劇の被災者を批判する記事を大々的に載せた雑誌が何冊も、わざとらしく置かれていた。
『よく生きていられるわね~』
『たくさん人を殺しておいて』
誰かが言った。
『知らないの? ノイズに襲われたら、怪我をしただけでお金貰えるんだよ~。特異災害補償って言ってね……』
『それって、パパやママからの税金でしょ? はぁ~、死んでも元気になるわけだ。マジ税金の無駄遣い~』
『ね~』
『フフフ……』
『クスクス……』
陰口に囲まれながら、少女はキョロキョロと教室を見回している。
謂れのない悪意に彼女は傷付き、独り俯く。
“やめろ、その子には関係ない。”
叫びたかったのに、その一言が言えなくて……。
父さんの息子である以上、本当ならここで特異災害補償の詳細でも諳んじて、馬鹿なクラスメイト達の言葉を取り消させてやりたかった。
たとえ聞き入れられないとしても、俺はあの少女を庇うべきだった。
だけど、あの時の“僕”はまだ弱くて……飛び出していくことすら、ままならなかった。
僕にもその悪意が向けられるのが、怖かった。
僕だけじゃなくて、姉さんや父さん、周りの人達にもその矛先が向くのが恐ろしかった。
僕は臆病者だ……。防人の息子でありながら、卑怯にも彼女を……。
それだけじゃない。
彼女に声をかけようと、後をつけて……でも、結局何もできないまま、彼女は家まで辿り着く。
彼女の自宅を見て、僕は絶句した。
『人殺し』、『金どろぼう』、『お前だけ助かった』、『出ていけ』、『いい気になるな!』、『死ねばよかったのに』、『人殺し』、『人殺し』、『人殺し』……ああああああああッ!!
思い出すだけで吐き気がするッ! なのにどうして、その光景は僕の記憶に焼き付いて離れない……ッ!
人様の家にこんな張り紙を張り付けるなんて……。
ノイズへの不安、マスコミによる煽動、鬱憤晴らしに逆恨みッ!
被災した本人だけに飽き足らず、両親、祖父母、兄弟姉妹……親しい人達まで迫害し、村八分にしては叩いてのめすッ!
どうして人間は、こんなにも醜くなれるッ!
周りに流され、正しさに酔い、偽りの正義を振りかざしては何の罪もない人々を、まるで中世の魔女狩りにも等しいやり口で追い詰めるッ!
主体性を見失い、問題の正体を見失い、残る捻じれた個人的感情でただ弱きを踏み躙るッ!
何故、隣人の生還を喜ばないッ!
何故、自らの不幸を他人にまで押し付けるッ!
悪いのはノイズだろ? もし被災者と同じ立場だったら、同じ事できんのかよ!
マスコミもマスコミだ!
姉さんを悲劇のヒロインとして、奏さんの訃報を大々的に報じる一方で、被災者に責任を問うような真似ばっかりしやがって……ッ!
結局、事件の真相や被災者の事情を伝えて相互理解へとつなげるより、薪を投下し燃料を増やして、自分達は儲けられりゃそれで良いって事かよッ!
これが人間のやる事かよ……。
こんなものが……風鳴が代々護ってきたものなのかよ!!
……渦巻く感情に身を焦がしながら、僕は鞄の帯を握る。
その時、三人ほどの学生が、彼女の家の窓に石を投げた。
『人殺しーッ! 人殺しーッ!』
『ハハハハ』
割れた窓の向こうから、少女の母親が顔を出す。
『わッ! 逃げろー、殺されるぞーッ!』
途端に蜘蛛の子を散らすように逃げ出す学生達。
制服や体格からして高校生、おそらく帰宅部だろう。
思わず彼女の家の前に立ち、割れた窓からこっそりと中を覗く。
そこには、母親と祖母に抱かれ、泣きじゃくる彼女の姿があった。
『大丈夫だから……。あなたが生きてくれるだけで、お母さんも、おばあちゃんも嬉しいんだから……ね』
『……わああああああ……ッ!』
いつも、唯一傍にいてくれる親友の前では微笑んでいる彼女。
明るく、元気で、あまり絡んでいなかった当時の僕でも、彼女が優しい子なのは知っていた。
でも……そんな彼女も、家では泣いていた。
大きな声で、母親の腕に抱かれながら、ずっと……。
助けたかった。手を伸ばしてあげたかった。
だけど……彼女に声をかけた日から間もなく、俺の転校が決まってしまった。
『気になる人の身辺調査なら任せてください、とは言いましたが……。翔くん、いつの間にそんな子が?』
『別に、そんなんじゃありません。ただ、あの子があの後どうなったのかが、気になってしまって……』
転校した後、僕は緒川さんに彼女の調査を依頼した。
緒川さんは僕の顔を見ると、何も言わずに承諾してくれた。
数日して、緒川さんが持ってきた報告書を見て……僕は思わずそれを、皴になるくらい強く握った。
『逃げ遅れて……姉さんのすぐ近くに?』
『ええ……。心臓付近に達する重症でしたが、奇跡的に助かったようです。リハビリにも積極的だったと、担当医だった人物から聞いています』
つまり、だ。
頑張ってリハビリに励み、元気になって帰ってこれば、きっと家族が喜んでくれる。
きっと元の生活で、また笑い合えると……。そう信じて、彼女はここまでやってきたのだろう。
なのにその夢は、儚くも無残に打ち砕かれてしまった……。
周囲からの迫害に父親の失踪……よもやここまでとは……。
彼女でこれなら、他の被災者達は一体……どんな責め苦を受け続けているんだ……。
『翔くん……』
『ありがとうございます、緒川さん……。ようやく、自分の為すべきが何であるかが、見えました』
だから……この時、“俺”は決めたんだ。
強くならねば、と。
弱い自分に別れを告げて、理不尽に抗う心の強さを磨かなくては……と。
『僕は……いや、俺は……姉さんの弟として、父さんの息子として恥じない漢になるッ! 弱きを護る防人に……隠れて泣いてたあの子に、この手を差し伸ばせる強い漢にッ!!』
これが俺の原点……。
僕が俺になることを決めた日で、一歩を踏み出す勇気を胸に誓った瞬間の──。
ff
「ん…………」
目を覚ました響は、医務室の天井を見上げる。
自分に何があったのかは、何となく覚えている。
ウェル博士の言葉に動揺して、ネフィリムが……そして──。
(わたしのやってることって、本当に正しいのかな? わたしが頑張っても、誰かを傷つけて、悲しませることしかできないのかな……?)
ふと、顔を横に向けると、そこには見慣れた愛しい横顔が眠っている。
暴走して、頭の中が真っ黒に塗り潰されても分かる、大好きな人。
見つめていたら、彼は口を開いて……小さな寝言を言っていた。
「……ぜったい……まもるから……ひびき……」
「ッ! ……ありがと、翔くん」
体を起こすと、響は寝ている翔の手を優しく、そっと握った。
「え──?」
そこで、響は胸に違和感を感じる。
患者衣の胸元を開くと、胸の傷跡の真ん中に、黒い塊がくっついていた。
なんだろうか、と疑問に思いながら触れると、それはポロっと取れてシーツに落ちる。
「……かさぶた……?」
それが、彼女の身体に起きていた変化の証だと、彼女はまだ知らない。
それはまた、想い人たる彼にも言えることで……
ff
「月の落下です!ルナアタックに関する事案です!」
「シエルジェ自治領への照会をお願いします!」
「だから、アポロ計画そのものまでが──」
「城南大学の久住教授に協力を取り付けました!」
「──権限は……ペンタゴン!?」
「誰だって!? どう考えてたっておかしいじゃないですかッ!?」
「『帰ってきたライカ犬』と名乗る匿名有志からの内部告発を受信。発信の出処は……キューバ、ソビエト連邦宇宙局ですって!?」
発令所内は喧騒で満ちていた。
各国政府への問い合わせ、並びに国内の有識者達に協力を仰いで、ウェル博士の語った月の落下が真実かどうかを解明するべく、職員らが奔走しているのだ。
弦十郎は各国首脳に回線を繋ぎ、真相究明に乗り出すよう呼び掛けていた。
『米国の協力を仰ぐべきではないか?』
「米国からの情報の信頼性が低い今、それは考えられませんッ! 状況は一刻を争います。まずは月軌道の算出をすることが先決ですッ!」
『独断は困ると言っているだろう』
『まずは関係省庁に根回しをしてから、それから本題に入っても遅くはない』
何度呼び掛けても、首脳達は中々首を縦に振らない。
頭が固いだけなのか、それともウェル博士の言う通り、シラを切っているだけなのか。
どちらにせよ、他国政府からの協力は絶望的であった。
会議の後、弦十郎は艦内の空き部屋に翼を呼び出すと、医療班から受け取ったシャーレを渡した。
「……これは?」
「メディカルチェックの際に採取された、翔と響くんの体組織の一部だ」
シャーレにはそれぞれ、琥珀色の結晶を含む黒い鉱物のようなもの、そして色は灰色だが同様の特徴を持つ物体が乗せられていた。
更に弦十郎は、二人のレントゲン写真を窓からの夜景にかざして見せた。
そこには心臓付近から全身へ、まるで癌細胞のように広く侵食した、生弓矢とガングニールの欠片があった。
「胸の聖遺物がッ!?」
「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の侵食深度が進んだのだ」
「生体と聖遺物がひとつに融け合って……」
「適合者を超越した、二人の爆発的な力の源だ」
それぞれの聖遺物より発せられる膨大なエネルギーは、二人の代謝機能をも爆発的に加速させ、失った左腕や右脚を再生させた。
だがその一方、その離れ業は代償が大きく、更なる融合深度の促進を招くことになってしまったのだ。
翼はこのレントゲン結果に不穏を覚え、不吉な予感と共に弦十郎の顔を見る。
「この融合が二人に与える影響は──?」
「……遠からず、死に至るだろう」
弦十郎からもたらされた最悪の答えに、翼の全身が震えた。
「──二人の、死……死ぬ……? 馬鹿な……」
震える声でやっと、その言葉を絞り出す。
「そうでなくても、これ以上融合状態が進行してしまうと、それは果たして、人として生きていると言えるのか……」
弦十郎もまた、辛さを抑えているのが顔を見て察せられる。
甥っ子と一番弟子が死ぬかもしれないのだ。無理もない。
「皮肉なことだが、先の暴走時に観測されたデータによって、我々では知り得なかった危険が明るみに出たというわけだ」
「……壊れる二人……壊れた月……」
「F.I.S.は、月の落下に伴う世界の救済などと立派な題目を掲げてはいるが、その実、ノイズを操り人命を損なうような輩だ。このまま放っておくわけにはいくまい……。だが、月の軌道に関する情報さえ掴めない現在、翔と響くんを欠いた状態で、我々はどこまで対抗できるのか……」
窓から覗く、欠けた月。
いつ落下するとも知れぬそれを見上げながら、弦十郎は拳を握り締める。
「……それでも、弟と立花をこれ以上戦わせるわけにはいきませんッ! ──かかる危難は、全て防人の剣で払ってみせますッ!」
月を見上げながら、翼は毅然とそう返した。
だが……その心には、不安が影を落としていた。
(でも……本当に、私は二人を守れるの……? 立花や翔がネフィリムに喰われる瞬間にも、私は何もできなかった……。実の弟も、奏が命懸けで守ったあの子も守れなかった私が……本当に、これから先の危難に立ち向かえるのだろうか……)
翼の脳裏に浮かぶ、奏の背中。
いつでも頼もしくて、まっすぐで、強かったその背中を……翼は今、求めていた。
(あの夏の日、奏が死なずに済んだ並行世界があると知った……。別の世界には、今でも奏と二人、肩を並べて戦う私がいることも。……今の叔父様の話さえなければ、いつか翔の生弓矢で──)
翼は慌てて首をもたげかけたその願望を否定する。
(いや、そんな事、あってはならない! あれは奇蹟なのだッ! 死人が蘇るなど、あってはならない……!)
了子の時は、生弓矢がエクスドライブモードだったことに加え、翔の融合症例もまた、奇蹟を引き起こした要因の一つだろう。
だが、分かっていたとしても……今の彼女は、願わずにはいられないかった。
(……でも……やっぱり──奏がいたら、どれだけ頼もしい事だろうか……)
別れも言えずに喪ってしまった戦友と、再び言葉を交わすことを……。
ff
「はひぃ……はぁ、はぁ……ッ!」
翌朝、カディンギル址地。
一晩中逃げ回っていたウェル博士は、息も絶え絶えになりながら歩いていた。
疲れきり、ソロモンの杖を支えに立つのがやっとな状態だった博士は、いつの間にかカ・ディンギルを一周し、元の場所まで来ている。
と、その時、足元を見ていなかったウェル博士は、斜面になっていた場所で脚を滑らせる。
「はッ!? わあああああああッ!?」
間抜けな悲鳴を上げながら、ウェル博士は斜面を転げ落ちた。
よろよろと立ち上がり、落としたソロモンの杖に手を伸ばしたその時……彼の視界に、思いもしなかったものが飛び込んできた。
「ああ……ッ! これは……ッ!」
それは、身体から引き抜かれてなお、不気味に赤く点滅していた。
ウェル博士は立ち上がるとそれを拾い上げ、その顔に狂気の笑みを取り戻す。
「ひひ、きひひひ……こんなところにあったのかぁ……ッ! ネフィリムの、心臓……ッ! ひひ、これさえあれば、英雄だぁ……ッ!」
ネフィリムの心臓を左手に抱えると、空いた右手でソロモンの杖を握り直し、ウェル博士は再び何処かへと立ち去っていく。
暴食の巨人はまだ、滅びてなどいなかった……。
後書き
発令所のシーン、実はG6話のガヤの声を何回も聞きなおして、その上でようやく聞き取れたものを書き起こしています。
聞き取れなかったとこメッチャ気になるんだけど!?なんでどこのブログも掲示板もまとめてないの!?←
魔女狩り……。風……水……土……はちみつ……火……うっ、頭が……(はえーよホセ)
それから翼さん。本作では弟が可愛くて仕方がないブラコン、最近では義妹に対しても若干シスコンじみてきている彼女ですが、原作Gでは抱くことのなかった弱さに直面します。
血を分けた弟と、原作とは違った感情を向けている響。二人が目の前でネフィリムに食べられてしまう瞬間、何もできなかったことで自分を責める翼さん。
そんな彼女の心は、再び奏さんへの依存を見せ始めています。
そこに拍車をかけているのが、コラボ企画『響き翔たく天の道』での物語。
並行世界の存在知ったのが、諸々乗り越えたGXより前だったらこうなるのでは?という解釈が自分にはあって、それも込みで構成を練っています。
今後の展開、この感情が何を引き起こすのか……お楽しみに。
空想特撮シリーズ:弦十郎の元で修行を始めた頃から翔が見ている特撮作品。日本では2043年となった現在でも根強い人気を誇る巨大ヒーロー物である。
宇宙の彼方よりやってきた星の戦士が、地球人の青年の身体に宿り、神秘の力を駆使して地球を狙う侵略者や巨大怪獣の魔の手から人々を守る王道展開でありながら、異なる生命、異なる惑星の存在と共存していこうとする姿、ヒーローに頼るのではなく、自分たちの手でこの星の未来を切り拓かなくてはならないという強いメッセージ性の込められた深みのあるストーリーは、いつの時代も変わることなく人々の心を掴んで離さない。
人間の暗部を嫌と言うほど見せつけられてなお、翔が響のように誰かを信じることができるのは、遠い星からやってきた彼らが地球人に見出した「光」を知っているからである。
地球を愛した兄弟が残した言葉は、空に輝く一番星のように、翔の中で輝きを放っている。
ちなみに翔が特に愛好しているのが、歴代ヒーローの客演が特に熱い40周年記念作品。響に勧めた末に見事にハマらせたのが「怪獣との共存、敵との和解」をテーマとした、強さとやさしさを兼ねそなえたヒーローが登場する作品とのこと。
なお、一部の星の戦士の姿がRN式ギアに酷似しているという声があるが、その実態は定かではない。
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