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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第20節「血飛沫の小夜曲(後編)」

 
前書き
二日ぶりですね、こんばんは。
アルケミック・オーダー、マジで尊かったです。今日からXV周回も始めます。
あとツイキャスの伴装者朗読会、ご清聴ありがとうございました。

Twitter歴も今日で4年目になりました。フォローしてくださってる読者の皆さん、本当にありがとうございます。
これからも応援、よろしくお願いします。

ところでエルザの超高難易度クエ、調整したやつ出てこい。何だあの無理ゲー……公式ツイートのリプ欄が荒れてるどころか、廃課金勢からも渋い顔されてるってどういうことだよ……。

さて、今回は遂に訪れてしまった悲劇……ネフィリムによるあのトラウマシーンです。
前回、演出として意図的にカットされていたシーンがまるまる映っております。

もしかしたら、原作より酷くなってるかもしれ……いや、そんなことないよな、多分(汗)

どうぞお楽しみください。 

 
「響けッ! 響けッ! Heartよッ! 熱くッ! 歌うッ! Heartよ──ッ!」
「ルナアタックの英雄よッ! その拳で何を守るッ!」

戦況は、響の方が優勢だった。

ネフィリムは図体こそ巨大ではあるが、その攻撃は力任せで大ぶりなものばかりだ。
動きさえ見切ってしまえば、響の中国拳法による怒涛の連撃を叩きこむ隙は大いにある。

ネフィリムが振り下ろした拳さえ弾き返し、響は両腕のパワージャッキを引き上げる。

「手と手、繋ぐぅぅぅッ!」

繰り出した右拳がネフィリムのどてっ腹に突き刺さり、収縮したジャッキからの衝撃波でネフィリムは後方へと大きく吹き飛ぶ。

ひっくり返ったネフィリムへと、背部のバーニアで加速しながら真っ直ぐに突き進む。

左拳を構えたそこに、召喚されたノイズが壁のように立ち塞がる。

両脚、右拳でそれらを粉砕したその時……ウェル博士は口元を吊り上げながら、予想外の一言を言い放った。



「そうやって君はッ! 誰かを守るための拳で、もっと多くの誰かをぶっ殺してみせるわけだッ!」



「は……ッ!」

その一言が、響の脳裏にライブ会場での調の顔を呼び起こした。

『それこそが偽善ッ!』

「ッえぇいッ!」

迷いのままに放った拳は手元が狂う。それが道理だ。

響が拳を突き出した先にあったのは……あんぐりと開いたネフィリムの大口だった。



 バクッ



「──え…ッ!?」

一瞬の沈黙の末、響の口から洩れたのは、一言だけだった。

そして、次の瞬間──



 ブチュッ! メキャメキャメキャッ……グチャッ! ブッシャァァァァァ……!



肉が喰いちぎられ、骨が噛み砕かれる生々しい音と共に、響の左腕の肘から先から、まるで噴水のように鮮血が飛び散った。



「立花ああああああああああああああああああああッ!?」

翼の絶叫が戦場にこだまし、翔とツェルトの耳をつんざく。

あまりにも凄まじい光景に、純とクリスは目を見開いたまま言葉を失っていた。

「ふ……ッ!」

その光景を、ウェル博士は両目をギラつかせた邪悪な笑みで見つめる。

「……え……?」

左肩を抑える響は、何が起きたか分からない……というような顔でネフィリムを見上げる。

見上げた視線の先で、ネフィリムは……暴食の巨人は、口元から行儀悪く真っ赤な血を滴らせながら、ゆっくり、ムシャムシャとそれを咀嚼していた。

それがようやく、喰いちぎられた自分の左腕だと認識したとき……






「……う、うう、うわああああああああああああああああああああああああああッ!!」






響は、かつてないほどの絶叫を上げた。

ff

「あンのキテレツッ!」

切歌は激情のままに、壁へと拳を叩き付けた。

「どこまで道を外してやがるデスかッ!」
「ネフィリムに、聖遺物の欠片を餌と与えるって……そういう……?」

調もまた、震える声でナスターシャ教授の方を見ている。

「──ッ!」

そしてマリアは、昼間の野球少年達の事を思い出し、思わずエアキャリアを飛び出そうとした。

「何処に行くつもりですか?」

ナスターシャ教授の厳しい声に、マリアの脚が引き留められる。

「あなた達に命じているのは、この場での待機です」
「あいつはッ! 人の命を弄んでいるだけッ! こんなことが私達の為すべき事なのですかッ!?」

両目の端に涙を浮かべながら、マリアは訴える。

その言葉に、ナスターシャ教授は何も答えない。

「アタシたち、正しい事をするんデスよね……?」
「間違ってないとしたら、どうしてこんな気持ちになるの……?」

切歌と調も、モニターから目を逸らしながら呟く。

三人の装者の間に、後ろ暗い迷いが広がり始める。

しかし、ナスターシャ教授の言葉は変わることなく、厳しいものだった。

「その優しさは、今日を限りに棄ててしまいなさい。私達には、微笑みなど必要ないのですから……」
「……ッ」

マリアはゆっくりと操縦室を出ると、自動扉にもたれかかりながら腰を下ろす。

そして罅割れたセレナのペンダントを取り出すと、それを両手で握りながら、消え入りそうな声で呟いた。

「何もかもが崩れていく……。このままじゃ、いつか私も壊れてしまう……。セレナ……どうすればいいの……?」

ff

悲鳴の後、響は左肩を抑えながら膝をつく。

暫く、この静寂の中で聞こえるのは、ネフィリムの口から聞こえる咀嚼音だけであった。

やがてネフィリムは、舌の上で味わい終えた最高の餌食をゴクリと喉を鳴らし飲み込む。
ウェル博士は興奮のあまり身体を反らし、その端正な顔を醜く歪ませながら天へと叫んだ。

「いったあああぁッ! パクついたァ……ッ! シンフォギアをォ──これでえええッ!」

「──ッ! ……ッ!!」

あまりの激痛に声すら出せず、響の顔には額から顎へと汗が滴る。

「立花ッ! ──立花ああああッ!」
「うそ……だろ……!?」
「ウェル博士……てめぇッ、人の心はないのかッ!!」

未だにダチョウノイズの粘液によって身動きの取れない翼とクリスは、ただ目の前で起きた出来事の凄惨さに目を見張る他なく、純はウェル博士を睨みつけることしかできずにいた。

一方、滝のように涎を垂らしていたネフィリムの身体に変化が生じ始める。

頭部や胴体部に存在する黄色い発光体が、突如、赤く輝き始めたのだ。

「完全聖遺物ネフィリムは、いわば自律稼働する増殖炉ッ! 他のエネルギー体を暴食し、取り込むことで更なる出力を可能とするぅぅぅ──さあ、始まるぞッ!」



そこへ、憤怒の雄叫びと共に大地を踏み鳴らし、灰色の流星が突貫する。

両脚のジャッキを最大まで引き延ばして地面を蹴った翔は、その勢いのまま更なる成長を始めたネフィリムへと飛び蹴りを放つ。

ふらつくネフィリムを足場に跳躍すると、アームドギア・生太刀を両手に握り、勢いのままに振り下ろした。

「よくも響をおおおおおおッ! よくも彼女の腕をぉぉぉッ! 許さんぞ貴様らぁぁぁぁぁッ!!」

二振りの刀を何度も何度も叩きつけ、ネフィリムの身体を斬りつける翔。

しかし、その怒りの刃はやがて、ネフィリムの剛腕に受け止められる。

「だったらぁぁぁぁぁッ!!」

だが、刃を止められようと、翔そのものは止められない。

受け止められたアームドギアを手放すと、そのままネフィリムの懐へと潜り込み、渾身の拳を叩きこむ。

これには流石のネフィリムも後退し、その巨体をふらつかせる。

「想定以上だァ……。天羽々斬やイチイバルなんかも全部喰わせて次の段階へと移行する予定でしたが……ウヒヒヒヒヒィッ! しかしこれ一つで足りるとしても、奴らの戦力を削ぎ落すという観点から見れば、やはり……」

それでも……ウェル博士の顔からは気色の悪い笑みが消えない。
彼は翔を見下ろしながら、まるで煽るように言った。

「もう一人の英雄よ、その無力を呪うがいいッ! かつて同族であるネフィルを共喰いすることで生き残り、今の力を手に入れたのがネフィリムだッ! そして君の大事な彼女は、ネフィリムと()()生きた聖遺物ッ! さぞ甘美なる味わいだったろうさッ!」
「貴様あああああああああああああッ!!」
「次は君のお友達の番だッ! 君はお友達も、実の姉も、大事な恋人も、何一つ守れず全部ネフィリムに食べられて、最期は君も仲良く腹の中ってわけだ! ヒャーハハハハハハハッ!」
「黙れ……黙れ黙れ、黙れえええええええええええッ!!」

「翔ッ!」
「乗るな翔ッ! 落ち着けッ!」

翼と純の叫びも、既に翔には届かない。

翔は怒りに身を任せ、ネフィリムの顔に飛び回し蹴りを放つ。
ネフィリムの身体のバランスが、大きく崩れた。

「これでえええええぇぇぇぇぇぇッ!!」

その瞬間だった。ネフィリムの頭部が膨張し、その形を大きく変えたのは。

「ッ! しま──ッ!?」



 バクンッ!



円筒形で前後に長かった頭部は、人間に近いガマ口へと形を変え……翔の右脚に喰らいつく。



 バキッ! ガキゴキゴキ……メキャッ! 



生々しい音の直後、ドサッという落下音と共に、右脚を失った翔が地面を転がった。

「しょー……く、ん…………ッ!?」

目を見開く響の目の前で、翔は脚から血を噴き出しながら絶叫した。



「……うッ、ぐうッ……があああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」



苦痛に藻掻き、悶える翔の声が戦場にこだました。

翔の冷静さを欠かせ、ネフィリムが喰らいつく隙を与えるために、ウェル博士は翔を挑発してみせたのだ。
融合症例の響とネフィリムを同列視し、囚われた姉や仲間達を思う心をなじることで……。

そして、ネフィリムの変態が加速していく。
四肢はより太く強靭に、胴体はより筋肉質に。

喩えるのなら、二足歩行できるカエル人間。そう比喩するのが一番、この異形なる巨人の外見を伝えるのに適切だろうか。

「聞こえるか? 覚醒の鼓動ッ! この力が、フロンティアを浮上させるのだッ! フハハハハハハァハハァッ!」

ウェル博士の高笑いが、更なる成長を遂げたネフィリムへと向けられる祝福のファンファーレが如く響き渡る。

もはや誰も、この男を止めることは出来ないのか……。
誰もがそう思い始めた、その時だった。



(……許さナイ……)



響の全身を、黒い衝動が駆け巡る。



(……許セなイ……)



翔の全身を、激しい憎悪が這い回る。



((オ前だケハ……許すモノカぁぁァ……ッ!!))



「ハハァハハハッ、ヒィハハハッ──ハハ……ハ…………ッ!?」

ウェル博士の顔が、一瞬真顔になる。

「「……~~……~~……~~」」

見ればネフィリムに齧られた二人の融合症例、その胸に何かが輝いているではないか。

それは、二人の胸に残る傷跡。お揃いだと笑った、フォルテの形をしたそれであった。

輝く傷跡から、二人の身体を塗り潰すように黒い影が広がっていく。
低く唸り、それぞれの声を二重にダブらせながら、翔と響の全身は黒に染まった。

「そんな……まさか……ッ!」
「あれは……ルナアタックの時の……ッ!?」
「マジ……かよ……!?」
「な、に……ッ!?」

思わず息を呑むウェル博士。

そこには牙を剥き、双眸を爛々と光らせた……二匹の獣が立っていた。

「……~~……~~……~~ッ!!」
「……~~……~~ッ! ……~~ッ!」



「これが、フィーネの記録にもあった、立花響と風鳴翔の……」

ヘリキャリアの操縦室では、切歌と調が口を閉ざす中でナスターシャ教授が。

「暴走、だとぉ……ッ!?」

そして二課仮説本部、ネオ・ノーチラスの発令所では、弦十郎を始めとした職員一同が、その姿を確認していた。

ff

「「……~~……~~ッ! ……~~……~~ッ!!」」

咆哮の直後、響の左腕の断面、そして翔の右脚の断面から、螺旋状にエネルギーが放出される。

そして次の瞬間、それらはそれぞれ腕と脚の形となり、二人の欠損部位を再生させた。

「ギアのエネルギーを、腕や脚の形に固定しやがったッ!?」
「まるで、アームドギアを形成するかのように……ッ!?」
「力技じゃねぇか……ッ!?」

欠損した腕と脚を取り戻し、二人は四つん這いになると……

「「……~~ッ! ……~~……~~ッ!」」
「──ま、まさか……ッ!?」
「「~~ッ! ッ!」」

怒りの咆哮と共にネフィリムへと飛びかかった。

理性の枷を解き放たれた、野獣の如き凶暴性。

赤黒く染まった響の拳がネフィリムに叩きこまれ、翔の凶刃が斬り裂く。
これを見たウェル博士は、慌てふためきながら悲鳴を上げる。

「やめろぉッ! やめるんだぁぁぁッ! 成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠なものだッ! それを……それをおおおおッ!」

ウェル博士は髪を掻きむしり、その手で眼鏡が斜めにズレる。

しかし、暴れまわる二匹には、言葉など届かない。
ただ目の前に立つ敵を……恋人の腕を、脚を喰らって成長しようとする暴食の化身を殺すためだけに飛びかかるのみだ。

「ガアアアアアアアッ!」

ネフィリムの剛腕が、二匹を薙ぎ払って吹き飛ばすも、即座に着地した二匹は示し合わせたかのように息の合った動きで地面を蹴り、それぞれネフィリムのどてっ腹に両足蹴りをくらわせ、アッパーカットを決めた。

「「……~~ッ!!」」
「やぁめろおおおお……ッ!」

先程までの余裕は何処へやら、恐怖に顔を歪めたウェル博士は、ソロモンの杖で大量のノイズを召喚する。
現れたノイズは博士のコマンドのままに寄り集まり、巨大な口だけの強襲型ノイズへと姿を変えた。

だが……。

「……~~……~~ッ!」
「──ひいッ!」

暴走響は強襲型ノイズの口の中へ自ら突っ込むと、その体内で暴れまわり、一瞬にして炭素の塵へと変えてみせた。

その一方、暴走翔はノイズを響に任せ、咆哮と共にネフィリムへと迫る。

圧倒的な力の差に恐怖したのか、ネフィリムは慌てて逃げようとする。

「……~~……~~……~~ッ!」

次の瞬間、暴走翔は勢いよく跳躍すると、ネフィリムの背中を踏みつけて着地する。

「ガアアアアアアアッ!」

悲鳴を上げるネフィリム。馬乗りになった暴走翔の手が、刃の形に変化する。

暴走翔はそれを、力任せにネフィリムへと突き立てた。

「……~~ッ! ……~~ッ! ……~~ッ!」

刃は何度も、何度もネフィリムの背中に突き刺される。

両目を真っ赤に染めた翔がネフィリムを滅多刺しにする姿は、まるで響の痛みを思い知れとでも言うようで……彼が抱いたありったけの怒りと憎悪が込められていた。

「翔……立花……ッ!」
「クソッ! こいつ、外れねぇのかよッ!」
「ダメだ……もしここから抜け出して、二人の方に割り込んだとしても、狙いが僕らに向くだけだ……ッ!」
「じゃあどうすりゃいいんだよッ!」

やがて暴走翔は刺すのを止めると、変形していない方の手で、ネフィリムの背中のど真ん中へと貫手を放った。



 グチャグチャグチャ……ブチッ……ブチブチブチャブチィッ!



生々しい音と共にねじ込まれ、引き抜かれた手。

緑色の体液が飛び散り、血管を引き千切りながら翔が引っこ抜いたのは……赤く点滅しながら胎動する、ネフィリムの心臓だった。

「……~~……~~ッ!」

そこへ、暴走響が跳躍し、右腕を巨大な槍状に変形させて迫る。

〈狂装咆哮〉

引っこ抜いた心臓を無造作に投げ捨て、暴走翔がネフィリムの身体から飛び退いたその直後、響の槍がネフィリムの身体を貫通し、跡形も残らずに爆散させる。

その余波はその場一体を包み込み、翼達を捕らえていたダチョウノイズを、まとめて消滅させた。

「……なんだよ……これ……」

そして……ツェルトは暴走する融合症例二人がネフィリムを蹂躙する姿を、ただ茫然と見つめていた……。

ff

「生命力の低下が、胸の聖遺物の制御不全を引き起こしましたか? いずれにしても──ごほッ、ごほ……ッ!」
「──マムッ?」

調と切歌が慌てて駆け寄る。
ナスターシャ教授が口元を抑えていた手を見ると、そこには吐き出された血が滴っていた。

「こんな時に……ッ! ごほッ、ごほッ……ごほッ!」

切歌は慌てて、機内通信でマリアを呼んだ。

「マリアッ! ねえマリアッ! 聞こえてるッ!?」
「マムの具合が……ッ!」
「マムッ! しっかりして、マムッ!」

操縦室の前で、耳を塞いでうずくまっていたマリアはすぐさま立ち上がると、操縦席に座るナスターシャ教授の元へと駆け寄った。

ナスターシャ教授はぐったりしており、服の胸元には吐き出された血が染みついていた。

「至急、ドクターの回収をお願いッ!」
「あの人を……」

調は心底嫌そうに眉を顰め、切歌も不満が顔に出てしまっている。
先程、あんなものを見せられたばかりだ。正直言って、ウェル博士とはここで手を切ってしまいたいというのが、彼女達の本音でもあった。

「応急処置は私でもできるけれど、やっぱりドクターに診てもらう必要があるッ! だからッ!」
「……わかったデスッ!」

しかし、この組織に医者はウェル博士しかいない。背に腹は代えられないのだ。
切歌は調を連れ、戦場から離脱したドクターを連れ帰りに向かった。

(すべては、私が“フィーネ”を背負いきれていないからだ……)

二人が退室するのを見送ったマリアは俯く。
役割を全うできていない、自らの甘さを責めながら……。

ff

「……~~……~~ッ!」

荒い息を吐きながら、ネフィリムを斃した二匹が、今度はウェル博士へとその目を向ける。

「ひいいいいいぃぃぃぃッ!」

腰を抜かし、後退るウェル博士。

響と翔は唸り声と共に飛びかかろうとするが……身体の自由を取り戻した翼達は、その両腕を背後から掴み、抑え込んだ。

「よせ、立花ッ! もういいんだッ!」
「お前、黒いの似合わないんだよッ!」
「翔、ダメだッ! こんなの、お前らしくもないッ!」
「ひゃッ、ひぃぃッ、ひッ、ひいいいいッ!」

羽交い絞めにされる目の前で、憎き仇が逃げていく。

翼とクリスの二人掛かりで抑えている響はともかく、翔を一人で羽交い絞めにしている純は、体勢を崩しかけていた。

「行かせねぇッ! お前を、人殺しなんかにして……たまるかぁぁぁぁぁッ!」

「“エンキドゥ”ッ!」

声の直後、翔の身体を黒鉄の鎖が縛り付ける。

「ッ! お前……?」

純が振り返ると、そこにはツェルトが立っていた。

「借りっぱなしじゃ気が済まないんでねッ! 延滞料金は取られる前に返さねぇとなッ!」

ツェルトは鎖を引っ張りながら、両足を踏ん張った。

二匹は動きを抑えられたまましばらく足掻き続け、そして、何度も転びながら走るウェル博士が見えなくなった頃……。

「バオオオオオオオオオオオッ!」
「ヴァアアアアアアアアアアッ!」

絶叫と共に、凄まじい量の高エネルギーが響と翔の身体から放出される。

「──ぐうッ!」
「こんの、バカ……ッ!」
「──くッ!」
「翔……立花さん……ッ!」

眩い光が消えた時、そこにはギアを解除された二人が気を失っていた。

「おい、大丈夫かッ!」
「立花ッ! 立花、しっかりしろッ! 立花ッ!」

地面に崩れ落ちそうな響の肩を支え、翼はふと気が付く。

(左腕は……無事なのか……? 翔の脚も……? これは……)

一方、純の方は鎖が解かれた翔に肩を貸しながら、ツェルトの方を振り返っていた。

「何処へ行くつもりだ?」
「家に帰るのに、お前の許可がいるのか?」

ツェルトはワイヤーで高所へと登ると、純に抱えられた翔の方を見ながら呟く。

「風鳴翔、か……。覚えておくぜ」

そうしてツェルトは、エアキャリアの方角へと去って行った。

残された装者達は、翔と響が発した高エネルギーにより沈下したクレーターの真ん中で、二課からの救急ヘリの到着を待つ。

静寂を取り戻したカ・ディンギル址地には、冷たい夜風が吹き抜けていた……。 
 

 
後書き
第二楽章、完ッ!

翔ひび、揃って暴走しましたね……。

G編始まってから度々、「いつか翔くんがF.I.S.への怒りを爆発させてブチギレるのでは?」と囁かれてきましたが、それが今回です。
なお、その怒りを利用して痛い目を見たウェル博士である。
暴走装者二人によるネフィリムへのレッドファイッ!とかもはや怪獣大決戦どころじゃねぇぞ……。

暗い回でしたので、皆さんお待ちかねの後書きパートです。

NGシーン

純「クソッ! 身体が……身動きが取れねぇッ!」
クリス「なんだよこれッ! ネバネバで気持ち悪ぃッ!」
翼「この光景、既視感を禁じ得んぞ……。なあ、雪音?」
クリス「なんでそこであたしに振るんだよッ! ……って、そういやこのノイズ、前にあたしが響を捕らえるために召喚した奴じゃねぇかッ!?」
ピンポーン!
純「第22節から実に62話(番外編やコラボ除く)越しの因果応報かよ……」
クリス「ふざけんな! その事にジュンくんは関係ねーだろ!」
ダチョウノイズ(クイッ)
クリス「おッ、おい、バカッ! 糸引っ張ってんじゃねぇッ!」
純「うわぁバランスがッ!?」
(純の顔がお姫様抱っこしたままのクリスに急接近)
翼「あの時『家でやれ』と叫んだ雪音は何処へ……」

今回はNGないのか、というコメントにお応えさせていただきました。いかがでしたか?

次回からは第三楽章。あの“天才”も戻ってきますので、お楽しみにッ! 
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