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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十一話

 走馬灯。
大多数の人が具体的に意味を聞かれると知らないが、だいたいは知っているだろう。

 おそらく、俺は今それを体験しているのだろう。
アインクラッドで、思いだしたくない思い出を――



 アインクラッド第十六層、洞穴型のサブダンジョン内の安全地帯で、俺は座り込んでいた。

 現在の最前線の層は第二十四層であるために、今の俺は正真正銘の中層プレイヤーだった。

 ……あの日、》始まりの町》を一人で出て、キリトと共に《ホルンカ》の町にたどり着いた時には、自分も今で言う《攻略組》の一員になるつもりであった。
だが、俺のナーヴギアに仕込まれた謎の仕様は未だに解明されておらず、そもそもネットゲーム・VRMMOゲームというものに不慣れだった俺は、まずはこのデスゲームとなってしまったアインクラッドに慣れるところから始めなくてはならなかった。

《ホルンカ》でキリトとは別れ、無駄に広い第一層の中で出来るだけ人の少ないところを選んでモンスターとの戦いをしていた。
何故そんな人里離れたところでやっているかというと、俺が持っている日本刀――アインクラッドではカタナと呼ぶらしいが――は、レアスキルとしてプレイヤーの入手条件は不明で、日夜プレイヤーが俺を追いかけてくるだろうから、というキリトの助言からだった。

 だがそれが災いして、俺が攻略組のプレイヤーから大幅に出遅れてしまっていた。
それも当然であり、そもそもスタート地点からして違うし、人が少ないということは、その分情報が入ってこないということなのだから。

 寂れた田舎町で第一層が攻略された、第二層が攻略された……という情報がまばらに入ってくるにつれて、早く合流したいと思ってモンスターとの戦いに励んだのだが、俺が攻略組に合流することは、ついぞなかった。

 情報量の差、戦闘経験の差、ナーヴギアの差……いくらでも理由付けをすることは出来る。
だけど、そんなことが言い訳にしか過ぎないことは解っていた。

 そう、言い訳せずに言えば、怖いのだ。
この田舎町から出ることが、最前線のモンスターと戦うことが、ボスモンスターと戦うことが、……死ぬことが。

 最前線が第二十層にさしかかったころ、カタナスキルの取得条件である『曲刀を使い続ける』ということが発覚したことを聞いたので、俺はようやく田舎町から出て行った。
上げていた鍛冶スキルで作り上げた日本刀と、その田舎町最大のクエストによって入手した黒い和服を着て。

 自分にはレベルなど関係ないのだから、攻略組に入りたければいつでも入ることが出来るだろう。
それこそ一番の近道は《軍》にでも入隊することなんだろうが……俺がいるのは、未だに中層だった。

「……くそッ!」

 中層のサブダンジョンにいるしかない自分が嫌になって、腕を壁に叩きつけた……だが、不死属性の表示が出るだけなのは知っているが。

 俺の剣術がモンスターに対してとても有効なのは証明済みで、ソードスキルでないのにソードスキル以上のスピードであるからか、モンスターの思考ルーチンに少し異常をきたしている……の、だろうか。
だから、今攻略に行かずにサブダンジョンに潜っているのは、八つ当たり以外には金稼ぎぐらいの目的しかないことが、更に俺を苛立たせる。

「ナイスな展開じゃ、ないな……」

 誰にも向けていない――強いて言えば自分自身に言ったか――独り言が空中に溶け込んでいった……その時。

「……ッ!」

 どこからかアラームトラップの音がけたたましく鳴り響いた。
ダンジョン内のモンスターを呼び寄せる最悪のトラップを、この安全地帯近くの誰かが鳴らしてしまったらしい。
アラームの音は途切れたため、すぐさま発信源は壊したようだったが、タイミングとしてはもう遅く、モンスターが集まってくるだろう。

 アラームの音は比較的近かった。
放っておける筈もなく、俺はアラームの鳴った方へ走りだした。



 俺がいた安全地帯の隣の部屋の入り口に、このサブダンジョンの主力モンスターである《モスブリン》――外見は、まんま棍棒を持った人型の猪――がたむろしていた。
アラームトラップが近いとは思っていたが、まさか隣の部屋だったとは、不幸中の幸いだ。

「抜刀術《立待月》!」

 走った勢いのままに抜刀術を繰り出し、入り口を塞いでいる《モスブリン》を背後から切り裂き、部屋の中へ入る。
部屋の中には、20匹ほど……正確には23匹のモスブリンが、恐らくはアラームトラップを鳴らした四人のプレイヤーたちを囲んでいた。

「こっちに安全地帯がある! 転移結晶持ってないならこっちに来い!」

 近くにいた手頃なモスブリンを斬りながら、四人のプレイヤーたちに叫ぶ。
見るからに四人は消耗しており、このままではヤバそうだった。

「なっ……いきなり出て来てなんなんだテメェは!」

 全身の服装を真紅の色で固めた、大剣を持った少年が俺に向かって叫んでくる。
この限界の状況で出て来たイレギュラーに対しては、当然の問いだった。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ《クラウド》! ……オッケー、みんな、あっちに向かって全速前進ー!」

 その場にそぐわぬ明るい声が、何故か武器を持たない小柄な少女から響いた。
見た感じ、四人の中でもっとも年下のようだが……武器を持たない彼女がリーダー格のようだった。


「……しんがりは、任せろ」

「お言葉に甘えるわぁ」

 しんがりを引き受けた両手矛に眼帯をつけた青年が、他の入り口から湧いて出るモスブリンに自らの武器を突き刺し、言葉に甘えるといいつつ、それをチャクラムで支援しているのが、一番年長に見える女性だった。 

「オラオラどけよこの猪どもッ!」

 先程叫んできた真紅の少年が大剣を力任せに振り回し、俺がいる出口への退路を確保する。

「ナイスクラウド! リディアから脱出して、部屋の通路からチャクラムよろしく!」

 クラウドという名前らしい少年が切り裂いた穴を、指示通りにリディアと呼ばれた女性がまずは脱出し、出口付近で戦う俺の側面に付いた。

「ふふん……それ!」

 手の中で四つのチャクラムが煌めき、縦横無尽にダンジョン内を舞ってモスブリンを切り裂き続ける。
チャクラムというのは始めて見たが、かなり強力な武器なんだな……俺も、負けてはいられない。

「せやあッ!」

 出口付近のモスブリンの7匹目をポリゴン片とし、これで出口付近のモスブリンは新たに現れない限り全滅した。

「出口付近の奴は全員倒し……危ない!」

 未だに少し囲まれている方を見ると、声を張り上げて全員に指示を出しているリーダー格の少女の背後に、棍棒を振り上げようとしているモスブリンの姿。

 ……俺にだって、今からあの少女を助けることぐらい――!

「こっちは任せた……《縮地》ッ!」

 次に包囲網を離脱した真紅の少年、クラウドに出口付近を任せ、連続で使用出来る回数はたかが二回ぐらいだが、ほぼ瞬間移動を可能とする技で、リーダー格の少女の元へ駆けつける。

 当然、少女の代わりにモスブリンの棍棒に直撃することになるものの、力を込めてなんとか吹っ飛ばされないようにこらえた。

「キャッ!」

 いきなり現れた俺に庇われる、ということに驚いたものの、少女は驚くほど即座に状況を理解し、自分は足手まといだと思ったのだろう、走って包囲網を突破し、出口付近までたどり着いた。

 胸をなで下ろしたのもつかの間、背後のモスブリンが第二撃の為に棍棒を俺に向けて振り下ろさ……なかった。
攻撃するその前に、両手矛に貫かれてポリゴン片となってしまっていたから。

「……《アリシャ》を助けてくれて、感謝する」

 しんがりを務めていた眼帯の青年が、両手矛を他のモスブリンに向けて牽制しつつ、俺に対して礼を言ってくる。
アリシャというのは、恐らくあのリーダー格の少女のことだろう。

「こっちこそ助かった……俺たちが最後だな」

 もはやこの部屋にいるのは、未だ絶えないモスブリンと、それを邪魔するように駆けるチャクラム、そして俺と眼帯の青年だった。

「黒い和服の人! 《ヘルマン》! 早く!」

 アリシャという名前らしいリーダー格の少女の呼びかけに応え、俺たちは揃って部屋を飛び出した。
 
 

 
後書き
いきなり走馬灯という名の過去編に突入。

ショウキは最初から攻略組プレイヤーではないどころか、第一層にいたプレイヤーでした。
アスナみたいな感じですね(彼女の場合、プログレッシブのせいで随分早く攻略に参加しましたが……)


まあ、ショウキにとっては始めてやったジャンルのゲームがデスゲームだったわけなので、こうなるのも仕方ないかと存じます。

では、感想・アドバイスお待ちしております。 
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