| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十話

 ここに今、仲間を殺した仇が目の前にいる。
そのことに身体中が歓喜し、血液が全身にくまなく張り巡らされているように感じる。

 だが、そのまま激情に身を任せてあいつと戦えば、いともたやすくあの包丁で俺は切り裂かれ、ポリゴン片となってこの世界から消滅するだろう。
……それは困る、いろいろな約束が守れなくなるから。

 冷静になって考えろ。
どうやってこの絶好調の身体で、目の前のあいつを……Pohを殺すか――!

「It`s show time」

 戦闘開始の合図はPohのお決まりのセリフと、俺が牽制に投げた三本のクナイが風を切り裂く音だった。
もはや言葉もいらず、俺とPohは命の削り合いに入る。

 俺の初撃は易々とPohのステップに避けられるが、当然それは読んでいる。

「刺突術《矢張月》!」

 Pohの回避地点を先読みし、位置を予測したうえで放たれた突撃系の技は、またも死神を思わせるPohのステップに避けられ、横に回り込まれてしまう。

 そのまま隙を見せた俺の背中へと友斬包丁が煌めくが、俺の背後に向けての足刀《半月》を伴った蹴りとぶつかり合い、けたたましい金属音が響いた。

「……チッ!」

 小さく発したPohの舌打ちと共に、友斬包丁が引っ込められる。
たかが包丁では、体重がのった俺の足刀《半月》とは斬り結べない。

「でぇぇい!」

 Pohの方へと身体を無理やり反転させて勢いをつけ、少し後退したPohへと一文字切りとばかりに日本刀《銀ノ月》による横なぎで攻撃する。

 ――カスった……!

 風以外を斬る感覚を覚え、Pohに更なる追撃をするために日本刀《銀ノ月》を両手に持ち、振りかぶ――

「――ッ!」

 しかし、小回りならば包丁であるあちらの独壇場。
日本刀の適正距離ではない超々接近戦まで距離をつめつつ、小回りで圧倒してくる。
しかも、あのポンチョのせいで腕が見えず、腕の動き……ひいては包丁の動きが見えにくい……!

「ハッハァ!」

 Pohの笑い声と共に俺の身体に浅くはいる斬撃に顔をしかめながら、反撃の機会をうかがう。
こっちにだって、超々接近戦相手に対応するさくが無いわけじゃない……!

「……《縮地》ッ!」

 一瞬の隙をつき、本日一回目の特別な足の動きによる高速移動法《縮地》を行う。
だが、移動するために使ったのではなく、ましてや逃げるわけでももちろんない。
……いや、そんな隙を目の前の死神は許してくれまい。

「ハアアアッ!」

 《縮地》の、目の前から姿が消える速さの足の動きで蹴りをくりだす。
初速度の為に、速度はいつものに比べるとたいしたことは無いが、それでも存分に足刀《半月》の威力を高めてくれる。

「……Shit!」

 鈍い音が響く。
この戦いにおいて、お互いに始めてのクリーンヒットがPohの腹に直撃する。
たまらず吹き飛ぶPohに対し、俺は未だに勢いを殺していない足で追撃のために踏み込んで、Pohの下へ跳びこむ。

 まだ態勢を整えきれていないPohに袈裟斬りを叩き込んだが、俺の攻撃の直前でPohは態勢を整え、その手に持つ友斬包丁を日本刀《銀ノ月》を防ぎ、鍔迫り合い。

 だが、あの悪名高き友斬包丁であろうとも日本刀《銀ノ月》に、武器の関係上鍔迫り合いで勝てるはずがない。
このまま押しきれる……!

 と、その時。
俺の肩を鋭い痛みが響いた。

「――ッ!?」

 友斬包丁との鍔迫り合いを無理やり押しきることで中断し、全力でバックステップ。

 俺の肩には深々と刀傷が刻まれており、先程の鋭い痛みが気のせいで無いことに気づかされる。

 そして、その痛みの元凶はPohの手に握られている――『もう一本の』包丁。
Pohの手には友斬包丁の他に、もう片手にもう一本の包丁を持っていた。
それはまるで、去年のクリスマスでキリトの姿のようで――

「《二刀流》、だと……?」

 俺の驚愕に包まれた声に、Pohは小さく笑って二本の包丁を振り回す。
あたかも、死神の鎌が二本になったかのように。

「ハッ、そんな大層なskillか何かじゃないさ。ただ剣を二本持ってるだけだぜ?」

 キリトのユニークスキルを除けば、剣を無理やり二本持てばエラーが発生してソードスキルが使えなくなるそうだが、Pohは元々ソードスキルを必要としておらず、攻撃の時のシステムアシストがあれば充分なのだろう。
つまり、単純に手数が倍に増えただけ……!

「さあ、excitingなkillingを再開しようぜ!」

 どう行動するかを思いあぐねている間に、Pohがまず行動を開始する。

「……ええい!」

 二刀流相手に後手に回れば、手数で圧されるだけだ。
とにもかくにも先手をとるため、《縮地》を起動させる。
これで《縮地》の連続使用回数五回のうち、三回まで使い切ってしまったが。

「くらえッ!」

 《縮地》でPohの回りを高速移動しつつ、クナイを投げつける。
ただ投げるだけではあの死神には当たらないだろうが、クナイを投げる力加減を調整し……360°全てから、ほぼ同時にクナイを投げられればどうなるか。

「……!?」

 360°クナイで囲まれた時、人間であるならば避ける場所は一つしかない。
Pohが回避場所に選んだのは、俺の予想通りにクナイが放たれていない空中。
すなわち、避ける術が全くない空中に……!

「抜刀術《十六夜》!」

 ならばこそ当然ここは追い討ちをかけるため、俺もPohを追うために同時に空中へと飛び上がっていた。
空中にてPohの側面から放たれた抜刀術《十六夜》が、Pohの脇腹を深々と抉る。

「fack……!」

「まだだッ!」

 抜刀術《十六夜》の勢いを殺さず、空中で一回転を始める。
そのまま回転し、前回の勢いを足した日本刀《銀ノ月》の横斬りがPohを襲――

「That sucks.」

 ――わなかった。
いや、正確に言うと襲ったが失敗したのだ。
身動きがとれない筈の空中で、Pohは日本刀《銀ノ月》の上に乗るという、予想もつかない方法で避けたのだから――!

 Pohのニヤリと笑う顔と、その両手に持つ双刃が煌めくのが見える。
しかし、未だ空中にいる俺には攻撃を避けることは出来ず、Pohが乗る日本刀《銀ノ月》を手放せば、俺の敗北は決定する。

「Ya-Ha-!」

 ずいぶんエキサイトしたPohの声と共に、俺を二本の包丁が襲った。
すでに右肩がやられており、これ以上やらせてたまるものか……!

 即座にクナイを投げるものの、Pohは日本刀《銀ノ月》を足場にして更にジャンプした。
これで俺は日本刀《銀ノ月》を自由に扱えるが……遅い。

 Pohによる、俺の頭を狙った友斬包丁の一撃はなんとか頭をずらして避けたものの肩に当たり、もう一本の包丁は寸分違わず俺の腹に刺さった。

「ぐあッ……!」

 またも鋭い痛みについ悲鳴が出るが、Pohが何か行動に出る前に腹に刺さった包丁をPohに向かって投げた。

 しかし友斬包丁でPohに斬られてしまい、そのまま着地して二人同時に距離をとる。

 HPゲージを確認すると、もはや当然レッドゾーンに突入している……現実世界ではもう死んでいてもおかしくない怪我なのだから、これは少しアインクラッドのシステムに感謝すべきなのだろうか。
……いや、ゴメンだな。

 ポケットにポーションは入っているが、飲んでも即座に全て回復するわけではないし、回復結晶では使っている隙をPohに殺されるだろう。

 だが、その条件はあちらも同じの筈。ならば、次の一撃を相手に叩き込んだ方が勝つ。

 Pohもそれは分かっているようで、自分で斬ったもう一本の包丁の代わりに、いつの間にか新しい包丁を片手に持っていた。
友斬包丁ともう一本の包丁で待ち構えている。

 次の一撃を決めた方が勝つ……単純で分かりやすい勝敗条件だな。
さあ行くか――!

「ナイスな展開じゃないか……!」

「It`s show time」

 二回目ずつの自らを鼓舞する最高の言葉。
まず俺は《縮地》によってPohの目の前から消え、空中へと飛び上がった。

 この状況で俺が選ぶ技は、いつかのゴーレムやドラゴンを倒した空中からの勢いが乗ったもっとも重い一撃、斬撃術《弓張月》。

 二刀流とは手数が二倍に増えるぶん、一刀の威力が減少することになる。
Pohがその二刀で斬撃術《弓張月》を防ごうとすれば、そのまま防御を貫き通して、Pohを先日の雪山のドラゴンのように一刀両断に出来る。
一刀で防ぎ、もう一刀で攻撃しようとするのがもっとも凡策であり、攻撃はリーチの関係上俺に届かず、防御は易々と突破されるだろう。

 つまり、この斬撃術《弓張月》はベストの戦術――!

「斬撃術……《弓張月》ッ!」

 《縮地》の勢いで天井まで飛び、くるりと一回転して天井を蹴る。
最大加速で最大威力の斬撃がPohに迫る。

 その俺の行動に対してPohがとった行動は……新しく片手に持った包丁を落とすことだった。
ニヤリと笑って友斬包丁を構え、俺を地上で待ち構える。

 その行動から、Pohの次の行動を悟ってしまう。
つまりあいつは、最初っから二刀による防御なんて考えてなかった……!

 友斬包丁が眩い光が帯びだしたことから、Pohのソードスキルの準備が整ったことが分かる。
……まさか二刀流を使ったのも、Pohがソードスキルを使わないという、俺のミスリードを誘ったものだったのだろうか……

 ……いや、今はそんなことはどうでも良い。
後はただ、俺とPoh、どちらの攻撃が先に当たるかというだけだ――!

「オオォォォォォッ!」

「Ya-Haaaa-!」

 そして、俺の空中からの斬撃術《弓張月》による日本刀《銀ノ月》はPohの肩に深々と突き刺さり――

 ――Pohの友斬包丁は俺の心臓を貫いていた。

「くっ……そ、が……」

 貫通継続ダメージなんぞ無くても友斬包丁の一撃は、俺のHPゲージを0にするのに、充分過ぎるほどの一撃だった――
 
 

 
後書き
メリークリスマスイブ&記念の第三十話!

クリスマス企画なんて考える頭は無いけれど、普通に更新させていただきました。
……なのに、えーっと、まあ、そういうことで。
ドンマイ、ショウキ。
感想・アドバイス待ってます、良きクリスマスを。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧