剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ
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042話 タカミチの相談。士郎、ウェールズへ
前書き
更新します。
「うっ……ここは?」
「やっと目を覚ましたのね、シロウ」
「姉さん?」
「まだ意識が覚醒していないようね…」
《それは当然だ。俺のゲイボルクを防ぐほどの膨大な魔力を消費したんだからよ》
どこかで聞いた声が聞こえてきた気がして俺はそこで声の主が判明した途端、意識は完全に覚醒した。
そうだった。昨晩は悪魔となった言峰とランサーに再会してランサーを解放することに成功して言峰はランサーに滅ぼされたのだったな。
「あー、思い出したよ。どうやら相当疲労が出ていたようだ。ところでここは昨日の場所か」
「そうよ。私達あのままここで眠りについてしまったようなの」
「しかし…ではこの布は一体…?」
「それはコノカ達がかけてくれたのよ」
「そうだったのか…ところでそのみんなは今どこに?」
「今は昨日ネギ達のほうも詳しく聞いていないけどなにかあったらしくてここよりもっと上の大階段のところにいるネギを見守っているわ」
「そうか…」
俺はそれを聞くとまだ魔力不足で力があまり入らない体を無理に起こした。
「大丈夫、シロウ? まだふらつき気味よ」
「この程度の体のだるさは慣れているから大丈夫だ。それより少し俺も見てくる」
「わかったわ。それじゃ私はちょっと違う場所にいっているわ」
「どこに…?」
「もちろんランサーの服を買いに行くのよ。いつまでもあの学園長に隠せないと思うしなにより格好が物騒だからマスターの私がしっかりと面倒を見てあげないとね」
《マジでか!?》
「当然よ。私の従者なんだからみだりはしっかりさせないといけないから。
格好についてはあなたの希望で構わないわ。幾分の自由も戦いや非常時以外は認めるわ。
食事に関してもシロウが面倒見てくれるから安心してね」
《それはありがてぇ…ここ数年まともなもん食ってなかったからアレ以外なら俺は構わないぜ》
「ランサー…アレというのはやはり、アレなのか?」
《そうだ。悪魔になってもあいつはマーボーしか食いはしなかったからな…》
それを聞いた途端、俺はとてもランサーを同情してしまった。
前に遠坂に言峰が三色すべて食べていたという中華料理店『泰山』のマーボーを食わされた事があったが…あれは口では言い表せないほど衝撃的だったと記憶し、同時に俺はマーボーだけは食に関してはトラウマを持ってしまったものだ。
「ランサー、安心しろ! あんな冒涜中華料理など食わせはしない! というかマーボー自体作らないから!」
《まさかおめぇも、アレを食ったのか…?》
「覚えているかは知らないが遠坂に無理やり…それで俺もマーボーだけはトラウマになってしまった」
《あの嬢ちゃんにか…それは、災難だったな》
「なにか共感できるところがあるのかもしれないな…」
《そうだな…》
二人でしみじみと感傷に浸っていたがそこに姉さんの叱咤の声が聞こえてきたのでそれで俺たちは会話をやめた。
それから姉さんはランサーを引き連れて買い物にしに行った。
だから俺も皆の方へと向かった。
向かってみるとネギ君は大階段のテラスに座ってなにか思いに耽っていた。
その場に残っていたアスナ、このか、刹那、カモミール達は俺の気配に気づくとすぐに近寄ってきた。
「士郎さん! 昨日は大丈夫やったの!?」
「そうよ、士郎さん! なんかわからないけどぐったりしていて一向に起きる気配がなかったから心配したんだよ!」
「そうっすよ! 旦那ほどの強者が気絶しちまうなんてなにが起こったのか!」
「…お体は平気ですか?」
三人+一匹は一気に話しかけてきたので少し驚いたがすぐに落ち着きを取り戻して、
「ああ、大丈夫だ。昨日はただの魔力枯渇で俺と姉さんは倒れてしまっただけだからな」
「二人ともですか!? 一体なにが…!」
「それは後で説明する。それよりネギ君は大丈夫なのか?」
「あ、そうだった。ネギの奴、昨日に村の人達を石化したヘルマンっていう悪魔と戦っていたのよ」
「なに…?」
詳しく聞いてみるとヘルマンという悪魔はネギ君の過去の傷を開いてしまい、それに伴い魔力暴走を起こしてなぜか一緒にいた小太郎に助けてもらわなければ自滅していたかもしれないということ。
それと調子を取り戻したネギ君達を尻目に捕らえられていたこのか達は脱出に成功しそれでネギ君達の勝利に貢献したという。
だが俺がひどく注目した点といえばアスナの『魔法無効化』能力にひどく関心が向いていた。
このかと同室だという点でおかしいとは思っていたがまさかそのような力を秘めていたとは…。
今までのエヴァの魔力障壁突破や石化の魔法を受けても石化しないという光景を見てきた俺は納得という感じで頷いていた。
「そんなことがあったのか」
だが、今は特に気にしない振りをして無言でネギ君の方へと振り向くといつの間にか小太郎がいてネギ君と言い争いをしていた。
それとなにやらネギ君はこれからのスタイルは『魔法剣士』…ではなく『魔法拳士』になることに決めたそうだ。
目標が決まったことでよきかなと思っていると二人は俺がいることに気づいたらしく近寄ってきた。
特に小太郎は、
「士郎の兄ちゃん! こっちの学園長が長さんにかけ合ってくれて謹慎が解けたんや! だから前の約束守ってもらうで!」
「ふむ、鍛えてやるという件か。いいだろう、俺もこちらではなにかと忙しい身だが手伝ってやる。
それと今はもう仲間であるランサーもきっとお前のことは気に入るだろうから俺ができない場合は相手をしてもらえ。あいつは、俺よりも強いからな」
“俺よりも”を強調して言ってやった。当然だ。相手はアイルランドの英雄『クー・フーリン』なのだから。
それに反応したのかこのかと刹那もうんうんと微笑を浮かべながら頷いている。
アスナとカモミールはなんのことかわかっていなかったが、まぁいいだろう。
「やったで! 士郎の兄ちゃんだけでなくあの槍を持った兄ちゃんとも相手できるんか!?」
「俺が仲介に入ってやろう。あいつは普段から戦闘意欲を持て余しているからきっと大丈夫だろう。
ちなみに俺とランサーはお前になにも教えてやれることはない。言っている意味がわかるな…?」
「わかるで! ようは戦い方を盗めとか後は経験を積めとかやろ?」
「そうだ。ちなみにあいつは俺と違い初動から縮地のようなものだから舐めないでいけ」
「わかったで!」
「えー、小太郎君ずるいよ!」
「なにいってるんや! お前かて師匠がいるんやろ!?」
「うっ…それを言われると確かにそうだけど」
「ならグタグタいうなや!」
「そんなー!」
ネギ君も元気を取り戻したようだからよかったなとみんなに目配せをした。
それにアスナ達は笑顔を作って頷いていた。
◆◇―――――――――◇◆
それから数日後、俺と姉さんはやっと魔力が全快したのでランサーを連れて学園長室に向かっていたのだが…
「ランサー…さすがにお前、それはないだろう?」
「ええ、まったくね」
そう。ランサーの今現在の格好はアロハシャツにジーンズという派手なものだった。
まだ朝だということもあり生徒の数は少ないがそれでもここでは奇異の目で見られていた。
俺と姉さんが同伴していなければ今頃は警察に通報されていたことだろう。
「しかたねーだろ? 俺は堅苦しい格好は好かねぇんだよ。どうせ一度ここに戸籍を作ってもらいに「普通に問題発言はしない!」…わかったよ、マスター…に、してもお前のほうも相当おかしい格好だぜ?」
「む? そんなに俺のスーツ姿は変だろうか?」
「まぁ変じゃねぇが俺としてはやっぱアーチャー姿の方がしっくりと来るんだわ」
「それはさすがに心外だ。俺とて好きであの格好をしているわけではない。
確かに俺の魔術特性上外界に対して対魔力が弱いから今も外套だけは携帯しているがどうしてもアーチャーと一緒にされるのだけは我慢できない」
「そーいうもんか。ま、同一人物だからしかたねぇといえばそうだな」
「ほら、そんなことより学園長室に着いたからしっかりと挨拶をするのよ?」
「へいへい…」
ランサーはいい加減に対応しているがそれも中に入ったら目を点にしていた。
そうだろう。中には仙人がいるのだからな。
中には学園長と一緒にこちらの事情を知っているタカミチも一緒にいた。
「学園長、彼が話しておいた人物ですよ」
「おお、そなたが…会えてまことに光栄じゃの。アイルランドの光の御子殿」
「え!?」
「な!?」
俺と姉さんはいきなりの学園長の反応に驚いたがそれよりも今はゲイボルクを学園長の前に突きつけているランサーを止めなければ!
「…おい。なんで俺の真名を知ってやがる? マスターも士郎も話していないはずだぞ?」
「ふぉふぉふぉ…さすが偉大な英雄じゃな。一瞬でワシの前に現れるとは…安心せい、このことは士郎君達同様話すつもりはないからの」
「………」
しばらく沈黙が続いたが、それもすぐに終わり、
「じーさん、中々やるな。俺の威圧をものともしねーとはな。で、どこで知ったんだ?」
「エヴァから聞いたんじゃよ。なんでも数日前の事件で見学していたらしいんじゃ」
「…やっぱり見ていたか」
「油断も隙もないわね…」
「なぁマスター。そのエヴァっていうのは誰だ?」
「まぁ…こちらでいう真祖よ」
「はぁ!? 真祖だと! そんな奴までこの学園にいやがるのか!?」
「星の守護者のあなたからしたら驚きでしょうけど安心して。私達の世界の真祖と違って魔王に堕ちたりはしないから」
「そうだ。だから落ち着け。あいつには後で会わすから」
「…わかったぜ」
ランサーは渋々といった感じだがゲイボルクを消して姉さんの後ろに下がった。
「ごめんねコノエモン。いきなり私の従者が手荒い真似しちゃって…」
「いいんじゃよ。英霊とは真名を知られたら弱点を突かれるという話は聞いておるからの。当然の反応じゃ」
「それにしても士郎。君達はすごいね。今ならもうこの学園では君達が最強の部類に位置するだろうね」
「いや、タカミチ。俺なんてまだまだ未熟もいいところだ。だから最強の座は譲り受ける気はないぞ」
「そうか。残念だよ…ま、それは置いといて今日は彼の証明書を作ってほしいという話だったね」
「ああ、そうだ。ランサーもここで生活をする以上俺たちと同じでなにかしら証明できるものがなければやっていけないからな」
「ちなみに偽名は『セタンタ・フーリン』で仕事名が『ランサー』に決めたからそれで通してくれないかしら?」
「セタンタ…それは、余計ばれるんじゃないかの…?」
「安心しな、じーさん。たとえばれたとしても負ける気はさらさらねぇからな」
「さすが英雄じゃの。器が伊達ではない…あい、わかった。では早速じゃがそなたほどの実力じゃ…そこで士郎君達と同様、ここで夜の警備を担当してくれんかの?」
「戦いごとなら一向に構わないぜ? 俺は戦えればそれでいいからな。ちなみに士郎達みたいになにか役職につくのはかんべんな。昼間は自由気ままにくつろぎてぇんでな」
「了解じゃよ」
ランサーは事前に俺達がはめられた事を聞いていたのでそこは釘を刺しておいた。
それに小太郎の件も話したら快く了承していたのでそちらに力も注ぎたいのだろう。二人は思考が似たもの同士だからな。
「あっと、そうだランサー」
「なんだ?」
「いや、お前の槍は見る人には目立つし効果も治癒が難しいとこれからやっていくのはなにかと面倒だろ。
真名開放も姉さんの魔力を頼っている以上そう何度もできるものではない。だから非常時以外は俺の投影したゲイボルクを使ってくれ。
それなら魔力消費も少ないし真名を開放しても姉さんの負担は軽いだろうからな」
俺は投影したゲイボルクをランサーに渡した。
それを受け取ったランサーは「確かにそうだな…」と一人納得しながら俺から受け取ったゲイボルクも一緒に自分の中にしまった。
「感謝するぜ、士郎。それじゃじーさん、後のことは任せたぜ」
「うむ、近いうちに書類などは作っておこう」
「お願いします」
「お願いね、コノエモン」
「お、そうじゃ。士郎君だけはもう少し残ってくれんかの。例の件で商談を進めたいんじゃよ」
「わかりました。それじゃ姉さん、ランサー。先に帰っていてくれ」
「わかったわ」
「おうよ」
そして姉さん達は先に部屋を退出していった。
そこでもういいだろうと思い、
「さて、学園長…やせ我慢もそこまでにしておきませんと本当に寿命が減りますよ?」
「う、うむ。そうじゃの。さすがのワシも彼の眼光は堪えた…」
「僕もだよ。真正面からではないけど彼の殺気は肌をおおいに刺激させてくれた。やっぱり本物は違うねー」
「その気持ちはわかるぞ、タカミチ。俺もあの事件ではさすがに死ぬかとも思ったからな。ま、実際過去に一度殺されているわけだが…」
「なんじゃと?」
「いつか話しましたよね? 俺が裏の世界に入った切欠を…まぁ、話すと長くなりますからそろそろ本題に移りましょう」
「そうじゃの。それで出来具合はどうなんじゃ?」
「ええ。数分はすでに打ち終わりました。後は悪用されないように呪印を施せばすべて完成しますよ」
「そうか! しかしエヴァの別荘を使っていたとはいえ早かったの」
「ええ、まぁ資材もたくさんありましたし、なにより一度作ったものは自動で俺の中に登録されますから比較的最初の時より早いスペースで出来て改善点も見つけては潰していきましたから今では試作以上の出来のものでしょうね」
そのことを話したら二人は黙りこくってしまった。
「…なんですか、急に黙ってしまって」
「いや、士郎。今からでも遅くはないから本職を鍛冶師に移さないかい?」
「うむ。士郎君の力は将来最高の鍛冶師の実力を秘めておるからの…」
「なんでさ…いや、俺は今だけで満足していますからいいですよ。それにそれだと俺の理想が遠のいてしまいますから…」
「残念じゃの…」
「まったくだね…」
「なぜ本当にそこまで落胆されなければいけないんですか…とりあえず物騒なものなのでエヴァの家から搬送できる魔法陣を再度作ってくれませんか? エヴァにもそのことは話しておきますので…その時はいつも以上に血を吸われそうですが」
そこで男三人苦笑いを浮かべることしか出来ないでいた。
だが他にもタカミチから話があるらしい。
「なぁ、士郎。そろそろいい頃合だと思うんだけどいいかな? 君の新しい技法も完成しつつあるんだろう?」
「ええ、まぁ…」
「それでものは相談なんだけど一度魔法世界にいってみないかい? 君を紹介したいんだよ」
「魔法世界ですか…その予定はいつごろ?」
「実は急なんだけど今日の夜中の便に学園長にも話を通しておいて行って往復で五日で帰ってこれるよ。士郎の作ったものの搬送もこめて学園祭の準備開始の前には帰ってきておきたいからね」
「そうですか、わかりました。あ、それと半日だけネギ君の故郷に寄っていっても構いませんか?」
「ん? どうしてだい?」
「実はネギ君の過去を見せてもらいまして一度石化された人達を見ておきたいんですよ」
「「!?」」
その言葉に二人は驚愕の表情をした。
だがすぐに体裁を建て直し真剣な顔つきになった。
「それは、どうしてだい?」
「一度、試してみたいんですよ…成功するかは定かではありませんがもしかしたら俺の力なら助けられるかもしれないから…」
「どんな治癒術師でも治すことができない彼らを…かい?」
「ええ。エヴァにも条件付きで今は使いませんが、その条件ですが今もなお行方不明のナギさんが見つからなかったり、ネギ君でも無理だと判断した場合…俺はエヴァの呪いを解いてあげたいと思っていますから」
「登校地獄をかの!? しかし、どうやって…そのような宝具も持っておるのかの!?」
「ええ。――投影開始。是、破戒すべき全ての符」
今まで話していなかったがもういいだろう。これは一種の賭けだ。
「この歪な短剣は神代の裏切りの魔女、コルキスの皇女メディアを象徴するもの。効果はあちらではすべての魔術それらを完全に否定して破戒しリセットする宝具です。
これで一度ネギ君の腕だけですが石化の魔法も解いた事がありますからこちらの魔法にも適用されることが実証された以上、もしかしたら悪魔が使った石化の効果も解けるかもしれません…これはもう一種の賭けです。俺の魔力でどこまで解呪できるかの…」
「士郎君…ぜひ、お願いしてもらっても構わんかの…! あちらのメルディアナの校長、ネギ君の祖父に当たる人物なんじゃ。そのことを伝えときたい…」
「僕からも頼むよ。それが本物ならこれほど嬉しい事はない…」
「任せてください…!」
その後、寮に戻って姉さんにそのことを伝えたらひどく怒られたがでも最後に「気をつけてね…」といって送り出された。
ランサーにはその間、姉さんを頼むといったら「マスターを守るのは従者の役目だ」といってまた快く了解してくれた。
ネギ君達にも伝えたかったがもし失敗したら申し訳ないので話さないことにして、ネギ君には絶対に伝えないことを条件に俺の従者である刹那とこのかだけには事情を話しみんなには伝えないでほしいと伝えた。
そして一応、タカミチとともにエヴァのところにおもむきその旨を伝えて俺とタカミチはネギ君の故郷…ウェールズへと旅立った。
後書き
次回、ウェールズ編。
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