真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
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第二章:空に手を伸ばすこと その弐
「ヘッヘ、おいてめぇら!男は殺しても良いが女は生かせよ!!!」
「さっさと諦めろクソガキ共!!おめえらは終わりなんだよ!」
汚らしい罵詈雑言が四方八方から飛んでくる。四十五十の数で囲んでくる男達はいずれも賊だとすぐに分かる風体であり、さらに面白いことに黄色の頭巾を頭に巻いていた。どうみたって彼らは黄巾賊であり、その中でも略奪を生活の糧としている荒くれ者の集団だ。手に鈍く輝く武器は既に何人か殺めた後であろう、刃こぼれが現れている。
彼らに包囲される中に、二人の人間が二頭の馬から降りて武器を構えている。一つは刃が三尺以上もある双手剣であり、一つは長さ七尺はある戟である。周りを囲む賊から殺意と剥き出しの直接的な飢えた性欲を感じながら、戟を持った女性は嫌悪感を露骨に表情に出している。双手剣を握った男性がうんざりするように溜息を出して女性に話しかける。
「なぁ・・・・・・、なんで渡り鳥なんか追おうとしたんだっけ?」
「・・・・・・」
「なんで山から下りて森を抜けて、こんな平野にいるんだっけ?」
「・・・・・・」
「なんで俺達、賊に囲まれているんだっけ!?」
「・・・・・・てへ」
「笑ってごまかすんじゃねぇ!!!」
賊共に包囲されていることを気にしないかのように漫才を始めている。その姿は賊共の気を逆撫でするかのようであるが、武器を構えるそれは一寸の油断も隙も見当たらない。
男性の名は辰野仁ノ助、大陸には『遊びの仁』として主に市民や一部の商人の間で評判になっている男で、飄々とした性格とは裏腹に完全に任務に全うする冷徹さを持ち合わせており、新人の賊を狩る事には定評がある。不運にも周りの賊は彼を知らないようだが。女性の名は錐琳、真菜を詩花という商家の娘であり、家でのついでという名目で仁ノ助の無頼旅に一緒についてきている気概さを持つ女性だ。戟に関しては心得があるようで、賊共を威圧するように時折戟を振り回す姿は板に付いたものだ。
しかし如何に二人にとっても、五十近くの賊に周囲を包囲されれば突破は容易には出来ない。尚且つ、賊共がこちらを生かす気が無いことが丸分かりのため、憂鬱な気がさらに高まる。
仁ノ助は胃がきりきりと痛むことを覚えて、こうなった原因に思いを巡らせていた。
ーーーーー山肌を薄ら寒い風が撫でている。さほど標高は低くは無いはずであるが冬の真っ只中ではここを登るのが厳しいかもしれない。早くも登頂を後悔し始めた仁ノ助と詩花の上を、一羽の渡り鳥がそ知らぬ顔でゆったりと飛んでいく。
一月以上も旅を一緒にすれば二人の間の気心はよく知るというもの。最初は些細な事に互いで遠慮をしたり気を遣ったりしていたが、それは旅を続けていくうちに無くなっていき、逆に意見の衝突を起こしたり互いの武技を研鑽しあったりする仲とまでなった。
そんな中、洛陽方面から来た商人と道話をした時、面白い情報をもらった。『蒼天已死黄天當立歳在甲子天下大吉』のもと各地で蜂起が始まったらしい。遂に黄巾の乱が始まったと、情報を得た仁ノ助はこのように思った。既に洛陽とそれに通じる関所は厳戒態勢であり、正式な通行許可書を携えていないと近づくこともままならない。宦官達は賊達の蜂起を一瞥してたかが貧民風情がと侮っていたのだが、その蜂起の規模の大きさに驚いて自らの懐を守っているという感じである。
仁ノ助は史実の出来事が正確に起きていることに一先ずの安心をした後、
騎都尉、つまりある程度の兵権を持ち独立軍を動かせる重職として潁川に赴くはずの曹操に目をつけて、先回りをしようと行動をしていたのである。しかし現在位置からは若干歩みを速めないと曹操軍が戦いを始めてしまい、自分が戦う姿を認めてもらえないと危機感を募らせたのか、若干の強行軍を敢行することを決めて、二人は馬に鞭打って山中に足を入れたのであった。
「うぅぅ・・・・・・やっぱり冬の山は無理だったのよ・・・・・・」
「・・・いけると思うんだけどなぁ・・・」
ぶるぶると体を震わせて詩花が弱音を吐く。それもそのはずで彼女はいわば半袖半ズボンの格好をしており、どうみても山中を抜けようとする者のする格好ではないことが明らかである。仁ノ助は外套で身を覆っているために寒さにはある程度の抵抗があるが、彼女はそうではない。ちょっとした風が吹度に風に体をびくりと震わせる。
楽観的な見方をする仁ノ助をじろりと睨んだ彼女は、天を仰ぐように空を見つめて、寒さを気にしないかのように宙を舞う鳥の姿を認めた。その瞬間、彼女の脳裏には画期的な考えが閃く。わなわなとふるえる口元に不敵な微笑をたたえて言葉を紡いだ。
「ねぇ知ってる?わ、渡り鳥は寒さから逃れるために遠くへ飛んでいくって・・・・・・」
「本当かよ?」
彼は頭にわいた疑問を口に出す。
渡り鳥は、食糧・環境・繁殖などの目的に応じて定期的に長い距離を渡る鳥だ。彼女の言うことは確かにその通りではあるが、渡り鳥の性質そのものを指した言葉ではない。彼女が言いたいのは、『凄く寒いから、山から降りない?』ということだ。そんな彼女の心の叫びを体現するかのように、顔、特に唇がわなわなと震えて青くなっていおり、目は今私生死の狭間で泳いでいますと主張するかのように若干血走っている。予想以上に必死な彼女に若干引きながら彼は問う。
「じゃぁ代わりにどうする気なんだ?」
「ふ、ふふふ。渡り鳥は暖かいところに行くのよ。だ、だから、わわ私たちもそれ、それを追いかけるの!!」
山中の寒さを強調するように演技っぽさが滲み出しながら体の震えを大きくする。そこまでするくらい寒くないはずなのだが、一刻も早くここから抜け出したいのかオーバー気味に言葉を出している。仁ノ助は彼女の頼みを受け入れることに慣れきってしまったのか。彼女の当てずっぽうな答えに呆れながらも、
それに異は唱えずに頷いて、空を飛ぶ鳥をみつめた。
本来なら北西に抜ける予定だったが、渡り鳥は北東の方へと向かっている。風はさらに強さと寒さを増していき、冬山の真骨頂を見せ始めている。纏った外套がばたばたと風に揺れて、詩花はついに悲鳴をこぼして寒さに耐え始めた。もう我慢の限界なのだろう、仁ノ助の言葉を待たないうちに北東方面に向かって下山を始めた。金毘も我慢が出来ない彼女の意をよく知っており、なるべく風を受けないように気を使わせながら足を速めている。山中に置いてけぼりにされると身の危険がさらに増すと分かっているのか、仁ノ助も自分が乗る馬を操ってすばやく彼女の後を追い始めたーーーーー。
第二章:空に手を伸ばすこと その弐
山を降りた二人はどういう訳か麓に広がる森林の中を突っ切って平原に出てしまった。途中から寒さを逃れるために走っていたのではなく、どちらが早く走れるか互いに対抗していた気がする。彼女に追いついて文句を言う前に前方の方から土煙が上がった。大地を震わす音も聞こえており、更には命令のような怒号が飛んでくる。何を叫んだのかはわからないが、尋常ではない様子で迫ってくる土煙の中からその正体を突き止めた。
煙を上げているのは三十は数えられそうな群れた男達であり、汚らわしい風体とちらちらとはためく黄色の頭巾、そして手に持ったぼろぼろの刀が、彼が群れで追いはぎをする黄巾賊であることがすぐにわかった。
顔を顰めて踵を返し二人で逃げようとするも、森の中からさらに二十人はいようかという数の賊が出てきた。
元々五十人だったその賊は味方を二つに分けて、一つは追い込みの役を徹し、もう一つは逃げる獲物の行く手を阻むやり方で商人らを狩っていたのであろう。何やら組織的にもみえる動きでこちらの周囲を包囲してくる。包囲が完成していない間に突破しようとすれば出来るかもしれないが、弱り目に祟り目というべきか、自分の馬が思ったよりも疲弊しているのが馬の荒げた息よりわかった。先ほどの競争で体力をかなり消耗したのであろう。これから先の戦ではこの馬では使い物にならないと考えながらも、仁ノ助は使い物にならない馬から降りて腰に差したクレイモアを抜いた。
「ちょっとあんた、正気なの!?やるんなら馬上でやりなさいよ!」
「こうも包囲されては馬の機動力が殺されてしまう。それに俺の馬はお前のより利口ではない。乗って戦えば足手まといとなる」
「あああもう!!しょうがないわね!!」
詩花は投げやりな声を出して手に持った戟を一度振るうと、開き直った様子で金毘から降りる。馬上での有利を放棄する気かと驚いた仁ノ助は問いただす。
「お前が降りてどうすんだよ!金毘なら突破できるだろ!?」
「あんな糞ったれな賊なんて、あたしの愛馬諸共狙ってくる手合いに相違ないわよ!!金毘を殺されるよりも、降りた戦った方がましね!!!」
周囲を取り囲む賊共を煽る形で彼女が言葉を出す。それを聞いて当たり前ではあるが野蛮な男共は怒り狂い、不敵に武器を構える二人を大声で罵声した。小娘一匹になめられては俺達の沽券に関わる。そう思ったのか、痺れを切らしたかのように包囲陣から二人の賊が飛び出してきた。いずれも若く、よほど屈辱的だったのか怒りでいきりたった様子で突っ込んでくる。
「なめんなクソゴラァ!!!!」「死ねよやぁぁ!!!!」
三流のする事だな、包囲をするなら一斉に襲えよ。
そういわんばかりに仁ノ助と詩花が、互いに一人の賊を捉えて同時に地を駆ける。
仁ノ助はクレイモアを天に突き刺すように上段に両手で握って構えた。三尺は超える刀身を視界に入れて凝視した賊は、相手の思わぬ獲物に僅かな恐怖を覚えて足取りを遅めてしまった。それが決定的な命取りとは経験少ないこの者は知らなかったであろう。足取りを崩して止まろうとする賊の懐に一気に飛び込んだ仁ノ助は、冷えた目で男を見据えながら地面を強く踏みしめてクレイモアを一気に真下に降ろす。轟音を奏でながら刀身の刃は賊の頭の天辺を捉えて、勢いを全く殺さずに首・胴体・股を縦に真っ二つにするように降ろされ、
次いでその断面をなぞるように血飛沫が仁ノ助に振りかかる。自分の体を何かが両断した、そう思う暇もなく賊は死を迎える。凶刃の殺傷から一瞬遅れて賊の体が崩れ落ちる。膝をつく賊の体が二つとなって地に降ろされた刃を挟むように別れた。綺麗に両断された体からは、男の不健康な血がどばどばと毀れ出ており、傷口からは腸が脂肪にまみれて地面を赤と桃色で彩った。振り下ろされた刃は早くも次の獲物を求めてぎらついている。
一方で詩花は余裕を持った表情で迫り来る賊をみていた。旅の途中で賊に襲われた事が何度かあったために、殺すのも慣れ始めている。今度は武器をちゃんと使って相手を丁寧に封殺しよう。
そう思った彼女は賊の動きを強制的に止めるように戟を真っ直ぐに突き出した。突然迫りくる刃にびびった男は足に思いっきり力を入れて走りを止める。しかしそれでも刃は顔を貫くと思ったのか、刃を避けようと顔を背けた。男の勘が冴えていたのか、刃は先ほどまで頭があった場所を素通りした。だがこれはあくまで戟であり、決して相手に刺すだけで終わるものではない。詩花は引き手に思いっきり力を込めて、刃の裏についた鎌の部分を相手の首に寄せる。刃は男の頚動脈があるあたりに吸い寄せられるように持っていかれて男の首を切り裂いた。赤い噴水が男の首から漏れ出し、男が驚愕の表情をたたえて口をぱくぱくと動かす。刀を離して傷口に手をやろうとするも力が入らない様子であり、血がさらに流れ出す。そして力尽きたかのように地面に倒れ付すとぴくぴくと痙攣を始め、男の体は死後硬直の準備を始めた。男の血の噴水の彼女の体を赤く染めるが、嫌悪感に耐えるかのように表情は作られていない。
仁ノ助と詩花は素早く馬の傍に戻って互いに背中を預けた。
あっという間に二人の仲間が殺されたのを見て賊達はどよめく。それでも数的優位が変わらないのか、
獲物が持つ長い武器の餌食にならないように遠巻きから威圧し始めた。
かくして一つの膠着状態が生まれるのである。
膠着状態から半刻が過ぎようとしていた。
あれから数人が襲い掛かってきたがいずれも二人に殺されている。襲い掛かってくる度に刃が煌いて、透き通った空に断末魔を響かせていた。仁ノ助が難なく賊を斬殺するのに比べて、詩花の方は未だ戦いに慣れていないのか、一人ずつ丁寧に攻撃を裁いて相手の隙を捉える戦い方で凌いでいる。そろそろこちらのうちの一人が殺しの初心者だという事がばれているはず。彼の予想は的中しており、賊達は自分達の優位を崩そうとせずに徐々に包囲陣を狭めている。また賊たちの中でもそれなりに腕に覚えがある者達が、一人また一人と刃を交わしては包囲に戻る戦法をしてきている。決して陣を崩さずにこちらを追い詰めている賊達は、追い詰めた猫を絞め殺すかのように余裕を見せはじめている。
それを見て仁ノ助の表情に不敵な笑みが毀れ出る。彼の一人旅でこのような事態に陥ったのは何度となくあり、そのいずれもで自分は機転を利かせて生き抜いてきた。此度のそれはこれらの歴史の中と比べるとちょろいものだ。彼は賊共の余裕を嘲るかのよう体の力を抜くと、刀身に被った血脂を払うように刀を振るい、始めに裁いた賊を殺したやり方を髣髴させるかのように、両手で柄を握り上段に構える。ゆっくりと脇をしめて刃が煌くように刀の角度を調整する。そうすると刃は太陽の光を受けて切っ先を獲物を欲するように輝かせた。その対象が自分達であることを包囲する賊達は悟り、何人かの者は最初に切断された男の遺骸をちらりと見た。あのようになるのかとたじろぎを見せながら包囲陣を狭める行動を一時中断した。
しかし仁ノ助は動けない。詩花が息を切らしているのがわかるからだ。
斬った数は少ないが賊共の攻撃を完全にかわすことが難しいのだろう、頬には小さな掠り傷が出来ており一筋の血が首まで伝っていた。丁寧に狩ろうと意識しすぎたのか攻撃の一つ一つが正確ではあるが遅すぎる。それによってあっさりと殺すことができたのは最初の一人のみであった。後は全て賊自身が隙を晒すのを待ち続けて、晒した瞬間に刃を振るう攻撃手法である。待ちに徹する時間が長いとこのように息を切らすのは当たり前の話である。顔についた賊の返り血を拭いつつしかと前を見据えて武器の構えを崩していないのは褒めるべきではあるが。
互いが探り探り緊張の切れ目を探している。仁ノ助たちが一瞬でもタイミングを間違えれば賊共が一斉に突っ込んできて、賊共が間違えれば仁ノ助が一気に吶喊してくる。どちらとしても、両者は次の攻勢で勝負を決める気であった。攻撃の意図を探らせないように静寂を保ち続けていく。森林に近いこの平原は今、木の葉一つも動かない無風状態であったが、両陣営が放つ殺意に圧されてか徐々に大地が歪むように感じられた。まるで大地を大勢の人間が動いているかのようで・・・・・・大勢?
緊張の糸が途切れたかのように賊たちがあらぬ方向を指して喚いている。官軍であると。
その声がさした方向へちらりと目をやると、大地の先から大きな土煙が迫っているのが見えた。それに呼応してか六町|《≒660メートル》ほど離れたこの場所でも大地が震えるのが分かる。普通なら勘を研ぎ澄ませれば感づけるのかもしれないが、互いの武器に意識を向けすぎたのかこの距離になるまで気づかなかったらしい。
驚き焦る賊たちの間隙を一気に突くのならばこの好機を利用しない筈が無い。仁ノ助はクレイモアを袈裟懸けを狙うように刀を構え直しながら目の前で狼狽する賊に突っ込んだ。こちらに対する意識が途切れていたのか、賊は体を深く斬られ夥しい血を撒き散らすときに至って初めて仁ノ助の攻撃を悟ったようだった。斜めに振り下ろされたクレイモアの動きを止めずに、左に一回転しながら隣に立つ賊の胸部を切り裂き、さらに回転の反動を利用するように剣を右斜め上に向かって薙ぐ。胸部を切り裂かれた男は不運にも頚部を切断されて、間抜けな表情をした頭部が赤黒い血を切断面から出しながら遠くへ飛んでいく。
賊達は突然自分達に振りかかる事になった災禍に鋭く悪態をつきながら、森林から出てきた者達は森林の方へと悪運が尽きぬことを願いながら逃走し、運悪くそちらの方へ逃れられない者達は一目散に東に向かって逃走した。それを易々と逃がす気は無いのか仁ノ助が逃走する者達を後ろから追っていこうとする。一方で詩花は緊張感と疲労でいっぱいになったのか、戟の石突を地に立てながら肩を荒げてで息を整えている。
(やはり追撃は出来ないな、これはあの軍隊の仕事だ)
彼の思いを応えるかのように賊共が指差した方向からたくさんの馬蹄が大地を駆ける音がする。先行してきた部隊なのであろう、騎兵で固めたそれは徐々に姿を明らかにしていった。機動力と突破力をいかすためには馬の足、そして装備が軽いことが必須。この時代の騎兵ははっきりいってしまえば、重装騎兵を除いて歩兵よりも軽装なのである。密集隊形で固まった歩兵に突っ込めば動きが止められてすぐに戟や剣の餌食となる。
また馬上からの攻撃は止めを刺すことが困難であることから掃討戦にも向いていない。馬上槍が得意なものは別だが。
今回の場合は敵兵を追討することではなく、敵が逃げ込む先を知るために、そして自分達の安全のを確保するために騎兵を先行させたのであろう。この軍の頭は随分と賢いらしい。
やがて騎兵を先導する、恐ろしい見た目の大剣を片手で背負う女性、指揮官と思われる、が隣に馬を寄せて話しかけてきた。
「無事のようだな、旅人達よ。後に我々に任せておけ」
「ご助力、感謝申し上げます。これに乗じる形となって恐縮ではありますが、どうか私の連れを・・・」
「あぁ、そのために来たのでもあるからな。」
女性は部下に仁ノ助と詩花を保護するように命を事前に受け取っていたのであろう、命を出すまでもなくすばやく彼女の部下が駆け寄ってくる。
「こちらです、馬の方も面倒を見ましょう」
「ありがとうございます...」
彼らの厚意はこの状態ではとてもありがたい。肩で息をする詩花は武器を騎兵の指揮官の部下に預けて、
肩を支えながら金毘に乗せられている。金毘が心配するように鼻を鳴らすと彼女は疲労を抑えながら首を撫でる。
それを見ようともせずに指揮官は一刻も早く戦果を挙げんと馬上にて命令を下す。
「賊共を一人残らず逃がすな!!!!我に続けえええ!!!!」
「殺すのが目的ではありませんよ、将軍!!!!」
副官と思われる双剣の女性が指揮官を諌めるもそんなの知らんといわんばかりに女性は馬に鞭を入れた。逃走した黄巾賊の後を追撃して討ち取らんとする闘気が暑苦しくなるほどに伝わってきており、彼女が騎兵と共に去って行くとなぜか妙に空気が冷えて感じてしまう。
それを半ば呆れた視線で見送っていると、残った親切な部下が仁ノ助の方をみて言葉を紡ぐ。
「我が軍の大将があなたに会いたいとの仰せであります。どうかご足労願いたい」
「それは大いに喜ばしいことではありますが、一つお伺いしたい。あなた方は『誰の軍』ですか?」
彼の質問が意外なものだったであろうか、部下の人は一瞬目を瞬かせてしまう。しかし直ぐに気を取り直して誇りに満ちた表情を出して応えた。
「我らの主にして騎都尉、そして大陸に覇を唱える真の統治者であらせられる、曹猛徳様の軍隊です」
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