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子供の言うこと

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第四章

「何かありまして?」
「わたくし達に」
「十年前のこと覚えているか」
 こう言うのだった、その二人に。
「小学生だった時にな」
「小学生?」
「十年前に」
「その頃わたくし達六歳ですわね」
「そうですわね」
「ええと、その頃お兄様とですか」
「何かあったか」
 二人で顔を見合わせて話した。
「お兄様にはその頃からよくして頂きましたが」
「まずで実の妹の様に」
 岳に兄弟姉妹がいないがだ。
「今も感謝していますわ」
「何かと可愛がって頂いて」
「その時だ、何があったかな」
 岳は二人にビールを飲みながら話す、二人は上品さを意識してミルクティーをホットでゆっくりと飲んでいる。
「覚えているか」
「ええと、何でしょうか」
「どうも思い出せませんわ」
「その時のことは」
「子供の頃のことですし」
「そうか、ならいい」
 二人共本当に覚えていないことはわかった、それでだった。
 笑ってだ、それはいいとして述べた、
「覚えていないならな」
「そうですの」
「それならですの」
「ああ、ならな」
 こう言ってビールを飲む、これで話は終わりだと思った。
 だが二人はこのことは覚えていなかった。だがあることは覚えていてそれでこんなことを言ったのだった。
「お兄様って女性の水着がお好きで」
「アイドルの方の写真集一杯持ってましたわね」
 このことは覚えていて言うのだった。
「お部屋にかなりの数がありましたわね」
「今もそうでしょうか」
「色々なアイドルの方の写真集があって」
「どの方も水着になってましたわね」
「下着もありましたわね」
「今は有名な女優の方もおられましたわ」
 十年のうちにアイドルから女優になったのだ、芸能界ではよくある話だ。
「そして体操服姿もでしたわね」
「ブルマ姿も」
「お兄様そういうのお好きで」
「子供心ながら何かと思いましたわ」
「おい、何でそのことは覚えてるんだよ」 
 岳は二人に抗議した。
「何でだよ」
「えっ、よくお兄様のお部屋にお邪魔していましたので」
「あの頃は」
「だからですわ」
「覚えていますの」
 このことはというのだ。
「お兄様のお本も覚えていますわ」
「漫画も小説も」
「谷崎潤一郎お好きでしたわね」
「永井荷風も」
「何でそういうのは覚えているんだ」
 そこがわからない岳だった、折角身内や親しい面々そして自分の新妻までいるのにと心から恥ずかしいと思いつつ言った。
「全く」
「いえ、まあ」
「覚えていましたので」
「昔のことですし」
「お話してもいいですわね」
 二人は岳に言われて逆にキョトンとなった。
「親しい方々ばかりですし」
「お身内の方も多いですし」
「これ位はいいかと思いまして」
「お話させて頂きましたけれど」
「まあな、実際十年も前の話だしな」
 それも犯罪ではない、言うなら笑い話だからだ。
「別にな」
「ですわね」
「これ位なら」
「いいな、別にな」
 言いつつまたビールを飲んだ。 
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