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木の葉詰め合わせ

作者:半月
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本編番外編
日常番外
  火影様の災難な一日


 私は相手の手を掴んだまま、冷や汗をだらだらと垂らしていた。
 不味い、不味すぎる……。この状況は非常に不味い。
 もう絶対に、どこをとっても誤解しか生まないだろうと断言出来る。
 出て来るのは冷や汗と脂汗ばかりだ。あまりにも不味すぎて気分まで悪くなって来てしまう。

 ああもう、どうしてこんな事態に陥ってしまったのだろう。
 そう考えた私は、半ば現実逃避気味に今朝の出来事を脳裏で再生する事にした。



「姉者……、少々参った事になりました」

 そう、この弟の一言が発端だったのだ。今の状況全ての。

 思い返せばこの日は朝からついていなかった。
 手が触れた愛用の湯のみには皹が入り、出かけようとすれば草履の鼻緒が切れる。
 他にも躱しはしたものの頭上から植木鉢が落ちてきたりと……とにかく運の無い日だった。

「以前、姉者が護衛を務めました……火の国の重臣の一人娘が……姉者に面会を申し込んで来たんです」
「え……?」

 それで、そう……。
 何でも既に木の葉の外に家来と共に待っているという事で、取り敢えず身なりを整えてお出迎えに行ったんだよね。

「お会いしたかったです、柱間様!」
「お久しぶりです、姫君」

 茜色の衣を纏ったお姫様は私を見つめて、朗らかに宣言した。
 ……多分、この次の言葉が決定打だったと思う。

「柱間様、妾と結婚して下さいな!!」
「――え?」

 まず間違いなく、私とミトと扉間と……出迎えた私達の間に激震が走った。
 まさか、直接言いに来るとは……! あなどりがたし、この姫君! とか思っていたのが運の尽き。
 あれよあれよと言う間に、私は断れない状況へと追いつめられてしまっていたのだ。

 内緒にしている訳でもないが、世間一般では男として認識されている私である。
 当然この天真爛漫な姫君相手に結婚なんて出来る筈はない。
 ミトの事を一時的な恋人として扱うのも無理だったので、私は最後の賭けに出た。

 非常に心苦しいのだが、今回ばかりは仕方ない。
 もうじき書類の追加を桃華が持ってくる時間だ。其処を捕まえて彼女の事を自分の恋人として振る舞うしか無い! もうこれしか無い!!

 ……この時点で冷静な私がいなかったせいで、今の惨劇に繋がってしまったのだが。

 扉の外に気配を感じた瞬間、私の混乱状態に陥った脳みそは早合点してそれを桃華だと思い込んでしまったのだ。
 ――――それで。

「姫君! あなたの想いは嬉しいのですが、オレはこの人と結婚するつもりなので……この話は断らせていただけないでしょうか!?」
「は?」
「え?」
「ちょ、あね……!」

 扉を素早く開けて、相手が抵抗する前にその手首を掴んで自分の方へと引き寄せる。
 ここで姫君だけでなく、ミトや扉間の様子が可笑しい事にさっさと気付けば良かった……!
 思い返すだけで、頭を抱えてのたうち回りたい。

「柱間様……。そのお話は本当なのですか?」
「ええ! ――って、あれ?」

 なんだか桃華にしては背が高いし、同じ黒髪でも長さが違う。
 変だな、と思って姫君に向けていた視線を戻せば…………。

「――◯△×◎!?」

 ……とんでもない目付きで私を睨んでいるマダラでした。

「そ、そんな……っ! は、柱間様が……!!」

 涙ながらに部屋を飛び出していってしまった姫君。
 従者の方が慌てて追いかけていく中……私は引き攣った表情を浮かべて、マダラへと微笑みかけた。

 どうしよう。滅茶苦茶居心地悪いし、なんか羞恥で死ねそう。

「あら? どうしたのですか、柱間様。先程見覚えのある方が部屋から出て来たのですが……何をなさっているのです?」

 今頃になって書類と共に現れた桃華。せめて数分前に来て下されば嬉しかったのに。

「その……マダラごめん。多分明日には里中で恐ろしい噂が立っていると思うから……」
「…………」

 気のせいである事を祈るが、里のあちこちから若い女性の悲鳴が上がっている。

 どうしよう、大変な事に成った。冷静さを失った自分ってマジでやばい。
 マダラの手首に添えていた指先が滅茶苦茶強張ってる。
 この距離といい、位置といい、さっきの台詞といい……絶対勘違いされてしまったのは間違いない。

 怒りで耳が赤くなっているマダラ。
 分かるよ、その気持ち。男だと思っている相手にこんな事されてみろ――誰だって気持ち悪いし、腹立てるよね……。

 だから、私は笑顔で言ってやりました。

「――でも大丈夫! 妙な噂を聞いてもマダラと結婚したいと思ってくれる奇特な娘さんを、オレが責任もって絶対に見つけて来るから!」
「――――殺す!!」

 どこからとも無く取り出したクナイで襲いかかって来るマダラと、それから逃げる私。
 その光景を見た里の人々の間で、暫くの間世にも恐ろしい噂が囁かれる事になったのだが、それはまた別の話とさせて頂こう。
 
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